Episode:19 Rapsodia

『明日、九重くんとお話ししたいことがあります。明日のお昼頃、時間は大丈夫ですか?』


 RINEを通じての美姫からのメッセージが、蓮のスマートフォンに届いた。

 美姫からのメッセージだ、とすぐにアプリを開いた蓮は、その内容を目にして数十秒ほど固まっていた。


「……拒否、するわけにはいかないよな」


 RINE越しでは出来ないようなお話だ。

 しかし一体何を話すのだろう?

 もしかしたら、今まで抱えていた悩みを明かすのかもしれない。

 とりあえず、『分かりました。待ち合わせ場所はいつもの駅前広場でいいですか?』と返信しておく。

 送信ボタンを押し込み、トーク画面に表示されるのを確認してから、アプリを閉じようとして、同じRINE関連の通知が届く。


 それは、蓮、駿河、鞍馬の三人のグループによる、無料通話の着信。


「あ、グループ通話するぞって言ってたか……」


 そうだったそうだった、と蓮はグループのトーク画面を開き、グループ通話に参加する。


「えー、もしもし?参加したぞー」


 駿河がグループ通話を開始し、すぐに鞍馬が参加、その後で蓮も続く。


『おぅ、二人ともこんばんは。感度良好だ』


『こちらも感度よろし。問題なく繋がってるな』


 駿河、鞍馬がそれぞれ蓮の参加に応じてくれた。

 三人揃ったところで、通話開始だ。


『ほんじゃぁ、今宵の議題は『最近の蓮と朝霧さんについて』だ』


「お、俺が議題の主役なのか……?」


 それは聞いてないぞ、と蓮は狼狽えるが、彼の心境など無視して駿河は議題を進行させていく。


『なぁ蓮。最近、朝霧さんの様子がおかしいのは、お前も分かってるよな?』


 しかも、いきなり核心に触れるような内容だ。


「それは、分かってる。多分きっと、誕生日プレゼントのことも関係してるんだろうな……」


 蓮としては、美姫が悩みを抱え始めたと感じたのは学園祭前の時からだと読んでいる。


「でも、一体何に悩んでいるのか、それが分からないんだ……」


『それ、蓮は朝霧さんから言ってくれるのを待ってるんだよな』


「あぁ、言いにくいことだと思うし、それは無理に聞き出す必要もないかと思ってる……」


 受け答えをしている蓮だが、意識の半分は先程の美姫のメッセージに向いている。


「(前に朝霧さんが「話がある」って言われたのは、告白される前日だったよな……)」


 それと同じくらいか、或いはそれ以上に重大なことを話すのだろう、とは想像できる。

 告白よりも重要で、なおかつ悩みに発展するようなこと……


 そこまで考えついたところで、蓮は戦慄した。




「まさか……フラれ、る……っ?」




『はぁっ!?』


 思わずそれを口にしていたため駿河(と鞍馬)にもそれを聞かれてしまった。


『ちょちょっ待てよおいっ、今お前ん中で何が起きた?なんでいきなりフラれることになってんだ?』


 フラれるかもしれない、と蓮が言ったせいで駿河も慌てふためく。

 しまった、と思ってももう遅い、今の発言は確実に二人にも聞かれているだろう。


「……その、グループ通話が始まる直前に、朝霧さんからメッセージがあったんだ」


 もはや隠す必要もない、蓮は先程のメッセージのことを素直に話した。


『それはいくらなんぼでも早とちりじゃねぇか?もしかしたら、蓮にとって嬉しいことかもしれねぇぞ?』


 話があるってだけだろ、と駿河は前向きに解釈する。


「でも、俺にとって嬉しいことが、朝霧さんにとっては悩みの原因ってのも、おかしな話じゃないか?」


『む、それもそうか』


 すると、グループ通話開始からここまで聞いているだけだった鞍馬が加わってきた。


『……良きにしろ悪しにしろ、朝霧さんの中で何か変化があったんだろうさ』


 何にせよ、と鞍馬は蓮へ向けて続ける。


『まずは明日、ちゃんと朝霧さんの話を聞くことだ。彼女が言いたいことを全部言い終えて、それからだ。……腹、据えて行けよ』


 最後、鞍馬の声のトーンがひとつ下がったように聞こえた蓮は、またも戦慄する。


「腹を据えるって……な、殴られるのか!?」


『違うそうじゃない』


「いや、前に腕を絞め上げられたことあるし……俺、明日生きて帰れるんだろうか……?」


 本気でそんなことを考え始める蓮は、腹の底が締め付けられるような感覚に襲われる。

 そこへ駿河が追い打ちをかける。


『大丈夫だ蓮、骨は拾ってやるからな』


「勝手に殺さないでくれっ!?」




 もう二言三言会話を交わしてから、グループ通話は終了した。

『グループ通話が終了しました』と言う表示を見つめながら、鞍馬は小さく溜息をついてから、独り言を呟いた。


「とうとう、この時が来たか…………蓮、負けるなよ」






 翌日の、午後13時。

 今日は朝から空を鈍色の雲が覆い尽くし、今にも泣き出しそうに湿気の匂いが漂う。


 蓮はと言えば、明らかに寝不足な状態で駅前広場へ歩みを向けていた。


 昨夜はグループ通話を終えてから、いつもの時間帯で床に付いたのだが、明日に美姫に何を言われるのか、やはりフラれてしまうのか、もしかしたら鉄拳制裁も……骨の一本や二本は覚悟しないとならないか、などと考えてしまい、眠れるものも眠れるはずもなく、ようやく意識が眠りについた時には既に明け方、今朝は珍しく母に起こされてしまったくらいだ。

 睡眠時間は、多く見積もっても四時間くらいだろうか。


「(もし朝霧さんがフってくるようなら、それは俺に非があるわけで……うん、まずは謝ろう。理由が分からなくても、俺に原因があるのは間違いないはずだ)」


 蓮は、美姫と会ったらどうするかをシミュレートしてみて、まずは謝るべきだと断ずる。

 それは強ち間違いでもないのだが、だとしても駿河の言うような"早とちり"だろう。


 駅前広場が見えてきた。

 蓮の中で「ダメだ行きたくない」と二の足を踏ませる臆病心が生まれかけるが、すぐに「全てを受け入れる覚悟ならとうに出来ている」と、文字通り腹を据える。


 踏み込んで行けば、既に美姫が待ってくれていた。

 軽く手を振って会釈してくれているが、その表情は強張り、必死に何かを抑え込んでいるようにしか見えない。


「……こんにちは、朝霧さん」


「う、うん……こんにちは」


 まずは挨拶から。


「「…………………………」」


 蓮は美姫の話を聞きに来た。

 美姫は蓮に話を伝えに来た。


 しかしいざ面と向かってとなると、どこから話を切り出せば良いものかと二人して固まってしまう。

 数巡の思考の後、蓮は「とりあえず、公園に行こうか?」と提案し、美姫はそれに頷いた。




 天候が良くないためか、日曜日にも関わらず公園内は閑散としている。

 ゴールデンウィーク前に、初めてちゃんと手を繋いだ時と同じベンチに座る。


「「………………」」


 それでもなお、沈黙は続く。

 だが、どちらかが動かなければ、このまま日が暮れるまでこうしているかもしれない。

 意を決して、蓮は美姫と向き合い――


「ごめんっ!!」


 思いきり頭を下げた。


「えっ!?な、なんで九重くんが謝るの……?」


 何故自分が謝られているのか、と美姫は困惑する。


「その、俺が気が付かない内に、何か朝霧さんに失礼なことをしたんじゃないかって……俺じゃそれが分からないけど、多分原因は俺にあると思うし、だから……」


 仮にもし自分に非があったとしても、何が悪いのかが理解出来ていなければかえって怒りを買う可能性もあったが、どちらにせよとにかく謝るべきだ、と蓮は真摯に美姫に頭を下げ続ける。


「ち、違うのっ……!九重くんは何も、悪くないから!……悪いのは、全部私、だから……」


 だが美姫は、悪いのは蓮ではなく自分であると、弱々しく主張する。


「……これじゃぁ、どっちも「自分が悪いんだ」って謝るばっかりになるな」


 どうやら自分に何か非があるわけでもないらしい。

 だが美姫に非があるにしても、蓮でもそれは分からない。


 今日の目的は謝罪合戦じゃない、話があるからだ、と蓮は努めて冷静に意識を切り替え、少しでも話しやすい雰囲気を作ろうとする。


「いくら俺達二人が付き合い始めて二ヶ月経ったからって、謝るばかりじゃ何も分からないしさ……」


「違うの」


 不意に、美姫は蓮の言葉を遮った。




「私達は、、の」




 彼女の発するものとは思えないほど、冷たい声色だった。


 何も始まってなんかない?

 それは一体どう言うことだと、蓮は問い掛けようとして、頭に何かが落ちた。

 

 一滴だけのそれは、二滴、三滴四滴五滴六七八九十滴……とわずか数秒でひっくり返したような勢いで降り頻る。

 今にも降り出しそうだった雨が、今ここで降ってきたのだ。


「っと、雨か……!」


 ここじゃまずい、と蓮は美姫の手を取って、雨を凌げる場所へ連れて行こうとするが、彼女は手を引かれた状態で、その場から動かなかった。


「九重くん、このままでいいから聞いて……っ」


「このままでって……いや、良くないだろ?」


「いいからッ!!」


 どうやら、何が何でもここから動くつもりはないらしい。

 蓮は引こうとした手を離して、美姫に向き直り――




「私ね、本当はあなたに告白するつもりじゃなかったの」




「…………………………ぇ?」


 一瞬、何を言われたのか分からなかった。


 否、言葉の意味は分かる。

 それが何を指しているのかが分からないだけだ。


「知ってるとは思うけど、私は男子が苦手で、恋愛なんて自分には縁もゆかりもないって思ってたの。……でも、九重くんはいい人で、とっても優しい人で、「この人となら友達になれる、なってくれる」って。そしたら、静香ちゃんが提案してくれたの……「そんなに気になるなら、ここは思い切って告白しちゃえば?」って」


「…………」


「その時に、私は「告白したってどうせフラれるだけ」って思って。それで九重くんに告白したら、OKされちゃって……でも、最初は付き合うつもりじゃなかったけど、付き合っていく内に、本当に……、……」


 視界が滲む。

 それは果たして雨のせいだろうか。


「(違う、「本当に好きになった」なんて、今の私に言う資格なんてない……)」


 雨のせいだと言うのなら、何故こんなにも熱くて、辛いのか。


「……ごめん、なさぃ」


「……本当は、付き合うつもりじゃ、なかっ、た……?」


 蓮の声が震える。

 それは怒りか、困惑か、悲しみか。


「悪い、のは、全部、私なのっ……静香ちゃんは、何も悪くないのっ……告白しちゃえばって、言葉を真に受けて、それで、告白しようって最後に決めたのはっ、私、で……わた、し、が、わ、る……ぃ、の……」


 明かしてしまった。

 ずっと嘘をついていたことを。

 もう、言い訳も言い逃れも出来ない。


「ごめ、ん、な、さい……ほん、とに、ごめんな、さ……」


 ただただ、美姫の謝罪だけが続く。


 雨音すらも耳鳴りの一部になった時、蓮は口を開く。


「朝霧、さ……」


 水溜りになった足元を浮かせ、一歩歩み寄ろうとして、




「ごめんなさいッ……!!」




 悲鳴のような「ごめんなさい」を最後にして、美姫は踵を返して、駆け出して行ってしまった。


「っ、ま、待って……!」


 呼び止めたが、それでは美姫の足を止められなかった。

 慌てて追いかけようとして、がくりと右膝が折れた。

 膝が水飛沫を上げて、一歩遅れて右手も水溜りをぶちまける。

 足に、力が入らない。

 と言うより、感覚が無くなっている。

 さっきまで、急いで雨を凌げる場所へ行こうとしていたくらいの力はあったのに。


 頭も足も覚束ない。


 はて、前にもこんなことがあったような。

 そうだ、彼女に告白された時もこんな感じだった。


 思考も足取りも……何も分からない。


 辛うじて、雨が体温を奪っていることを感じ取り、蓮は身体を引き摺るようにして木陰に移動する。


「なに、やって、んだ、俺……」


 雨は降り頻る。

 ざぁざぁと、誰かの心の代弁者となるように。






 走る。

 ただ、ひたすら走る。

 怖い。

 怖かった。

 彼から怒りを、憎悪を向けられるのが、ただ怖かった。

 逃げた。

 逃げたのだ。

 彼が何を思っているのか、何を考えているのか、何を言おうとしたのか、何も見聞きしないままに、


 逃 げ た 。


 怖い悲しい悔しい寂しい惨めだできないなれない彼を彼が無理だよだって私にはやめてよ見ないで怖い無理だよ嫌だよ怖いよ行けない聞けない話せない喋れないいっそ死んでしまいたい……


 片足の浮遊感――の一瞬、べちゃりと冷たい感触と、鈍い痛みが身体を襲った。


「…………………………」


 足が滑って転んだと分かったのは、鈍い痛みが収まってからだった。

 転んだ拍子に鞄の中身もぶちまけて、水溜りと泥の上に散乱しているが、そんなことを意識を向けられるほど、心に余裕は無かった。


「―――――もう、いいよね……」


 明日の授業も、もうすぐの誕生日も、どうでも良くなった。


 もう、何も考えたくない―――――。






 昼過ぎから降り始めた雨は、土砂降りになって既に数時間。

 夕焼けの茜色も見えないほどの曇天は、今が何時かもよく分からない。


「もう五時間か……」


 自室にいた静香はスマートフォンの時刻を見て、十八時を過ぎたのを確認する。

 今日は、美姫が蓮に本当のことを伝える日だと聞いている。

 待ち合わせ時間は十三時。それから五時間が経過している。


 きっと、もう伝え終えて、……結果は出ただろう。

 美姫は、蓮に嫌われてはいないだろうか。

 どうか、昨日のマスターが言っていたような、『本当のことを話したからと言ってそれで別れるかはまた別』であってほしい。


「あぁ〜〜〜〜〜もぅっ、自己嫌悪ッ」


 ここで自分が心配したところで何になる……そんなことは分かり切っていても、理解と感情は別だ。

 前髪をくしゃくしゃと掻きむしり、スマートフォンをベッドの上に放った。

 ベッドの上でスマートフォンがバウンドすると、不意に通話の着信を告げた。

 通話の相手は、『朝霧家』

 美姫の自宅の固定電話からだ。


「……?」


 こちらから掛けたことはあるが、向こうから掛かってくるのは初めてだ。

 加えて、その相手は美姫ではないだろう。彼女なら自分のスマートフォンで掛けるはずだから。

 何かと思い、静香は通話に応じた。


「もしもし、松前です」


 通話相手は、美姫の母だ。


『あ、静香ちゃん?突然で申し訳ないけど、ウチの美姫、そっちに遊びに来てる?』


「美姫ですか?いや、ウチには来てませんよ。って言うか、今日の美姫は彼氏の九重くんと一緒のはずじゃ……?」


『あら、そうなの?暗くなってきたから、そろそろ帰ってきなさいって電話したんだけど、『繋がらない』のよ』


 電話が繋がらない、と聞いて静香の腹の底がざわめく。


「……間違って着信拒否してるとか、じゃなくて?」


『えぇ、そうなの。何度掛けても、電話サービスセンターに繋がっちゃってねぇ……』


「(美姫……もしかして……ッ!?)」


 ざわめきは言い知れない不安に、不安は胸騒ぎに変わった。

『そうであってほしい』と願っていた思考は、ありとあらゆる『最悪のパターン』へ切り替わる。


「あたし美姫を探してきます!ヒナにも連絡するんで!切りますよ!」


『え?ちょっ、静香ちゃ……』


 一方的に通話を切り、立ち上げた画面からRINEのアプリを開き、無料通話を選択しながら外出の準備を整えていく。

 幸い、バイトを終えた時間に近いおかげで、雛菊はすぐに通話に出てくれた。


『もしもし、静香?』


「ヒナっ、緊急事態!九重くんと一緒のはずの美姫が行方不明!ケータイも繋がらないって!」


『……は、えっ、美姫が、行方不明!?』


「嫌な想像はしたくないけどっ、とにかくあたしは美姫を探しに行くからっ、ヒナも手伝って!」


『わ、分かった……一旦、駅前広場で落ち合いましょう』


「駅前広場ねっ、オッケ切るよ!」


 通話を切りながらスニーカーを履き、傘を引っ掴んで、土砂降りの外へ飛び出す。


「(九重くんがそんなひどいことをするとは思いたくないけど……お願い美姫っ、無事でいて!)」




 雛菊の提案通り、ひとまずは駅前広場へ。

 静香がそこへたどり着いた時には、良い意味で予想外な状況になっていた。


 広場に設置されているベンチに、人が三人。


 ベンチに座っているのは美姫、その近くにいるのは雛菊と、駅前の交番にいる警官が一人。


「ヒナ!美姫!」


 静香の声に反応してくれたのは雛菊だけで、美姫は俯いたまま微動だにしない。

 息を切らしながらも、静香は二人の元へ駆け寄る。


「はぁっ、はぁっ……良かった、とりあえず、見つかって、良かっ、たぁ……」


 状態の如何はともかく、行方不明だった姿が見つかったと言うのは安心出来る。

 静香の呼吸が落ち着くのを見計らってから、雛菊は状況を説明する。


「私がここに来た時には、このベンチに座ってたみたいなの」


「正確には分からないけど、二時間はここにいたようでね……もう少し早く気付いてあげるべきだったよ」


 その雛菊の説明に補足を付け足す警官。


 ここのベンチは屋根が無いため、雨が降れば当然濡れる。


 その美姫はと言えば、服を着たままシャワーでも浴びていたのかと思うほど濡れていて、それでいながら泥だらけだ。

 鞄にまでその被害は及んでおり、恐らくは中も同じようなことになっているだろう。スマートフォンが繋がらないのも、雨水に曝されて壊れていたからかもしれない。


「……」


 虚ろで生気の無い瞳は、静香が来たことに気を向けてすらいないだろう。

 雛菊は警官に向き直り「あとは私達が連れて帰るから大丈夫です」と伝え、警官の方もそれに頷いて交番へ戻って行く。


「美姫……」


 彼女がこんな心ここにあらずな状態で、一緒にいるはずの蓮がいない。

 暴力を振るわれたような痕跡は見られないが、何があったのかはありありと想像出来た。

 だが、それを訊くべきではない。

 とにかく今は、と静香はスマートフォンを取り出して、美姫の自宅へ掛ける。


「もしもし、おばさん?美姫が見つかりました。……はい。でも、ちょっと普通じゃない状態で……あ、怪我はしてないんです。ただ、全身ずぶ濡れの泥だらけで……」


 静香が美姫の母に事態を説明している間に、雛菊は美姫に声を掛ける。


「美姫。もう暗いし、おばさんも心配しているし、今日のところは帰りましょう」


「…………ぅん」


 この雨音にすら掻き消されるほどの音量しか無かったが、頷いてくれた。


「……とにかく連れて帰りますね。それと、お風呂も用意してあげてください。……はい、またあとで。失礼します」


 通話を終える。

 美姫に何があったのかは気になるし、良くない結果で終わっただろうと言うのは予想出来なくもない。


 それでも、今は落ち着くための場所と時間が必要だろう。




 土砂降りの雨は、未だ止みそうにない――。

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