05 『傷負う背中』2
いつものように、彼と帰ったあと。彼が部屋に入るのを見届けてから。
「いるんでしょ?」
道端で止まって、声を出す。
「まさか、ねえちゃんと仲良くなるとは思わなかったな」
男。彼が袖を掴んで助けてくれたときに勧誘してきたやつ。
「勘のいいねえちゃんのことだ。もう薄々気付いてるんだろ?」
彼の笑顔。
「人を軟らかい気分にさせる、笑顔」
「そう。あの男の子の笑顔は、人を懐柔し、ありとあらゆる命令を可能にさせる。要するに、完璧なヒューマンエラーを起こすことができる」
「わたしは、操られてないわ」
「そうだな。俺も操られてない」
「ねえ。なんで男の変装なわけ?」
勧誘してくる男は。女だった。
「完璧なヒューマンエラーに対処するためだな。あの子の警護も、それなりに面倒なんだ。自我を保つのがな。ぼうっとしてると、あの笑顔ですり抜けられちまう」
「それほどまでに」
気付かなかった。
「ねえちゃん。あんたは、ヒューマンエラーを起こさない。分かってるんだろ」
「やめて」
それだけは、言われたくなかった。
「あの男の子は、ある国に狙われている。条約改正とか戦争の仲裁とかに、あの子を同席させて無理矢理笑わせて有利な交渉をしようって話だ」
「なによ、それ」
肚の底から。怒りが少しだけ顔をもたげた。
「官邸と街の意向が珍しく一致してな。あの男の子は、この街で普通に暮らさせたい。笑顔だけが特殊で、それ以外は普通の男の子だからな」
「でも、彼を狙う国が存在し続ける限り、彼は。安全にならない」
「だから今官邸が攻撃チームを組んでるんだけど、残念なことに人が足りない。いま、街は立て込んでてな。知ってんだろ?」
「知ってるわ」
街は、電子機器の異常と空母の失踪、そしてミサイルの危機の渦中にいる。
「だから、しばらくでいい。あの子を、守ってほしい」
「違う」
「なにが?」
「違うわ。守っていても
怒りがもたげるままに、覚悟を、決めた。
「わたしがその国を滅ぼしてくる。攻撃のための情報をよこして」
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