04 『S・N・S』2

 その日の夜。

 保健室の先生から、電話があった。


「デート、楽しかったですか?」


『楽しかったけど、最後まではいけなかったわ。彼に急用が入っちゃって』


「先生せっかく午後休取ったのに」


『しかたないわ。彼、正義の味方だから』


「正義の味方」


 愛よりも重要な、正義なんて。

 滅びて消え去ればいいのに。


『で、わたしがいないうちに。人が来たでしょ』


「ええ。ときどき耳が聞こえなくなる、不思議な男子がひとり」


『明日の朝も、迎えに行ってくれるかしら』


 住所と名前。とりあえずメモした。


「わかりました。でも、今日も普通に学校来ていたし、無理に付き添わなくてもいいんじゃないですか?」


『狙われているらしいのよ。あの子』


「狙われている?」


『うん。わたしは正義の味方じゃないから、分からないけれど。今日学校には、わたしの恋人の車で来たのよ』


 だから、先生と入れ違いに入ってきたのか。


『あなたに任せたいって、わたしの恋人が言っていたんだけど』


「そうですか」


『いやなら、やめてもいいのよ。あなたは正義の味方ではないし』


「いえ。やります。しばらく、付き添いを。どうせやることもないですし」


 それから、彼に付き添う日々が始まった。


 彼といると。

 心が、どこまでも安らいだ。

 喋って、それが聞こえなくても。彼の隣にいるだけで、なんとなく、心が落ち着いた。


 彼の笑顔のせいかも、しれない。彼の笑顔は、とにかくやさしくて、軟らかい。


 彼のことが、好きになった。


 そして、彼がわたしの近くにいる間。面倒だった正義の味方の勧誘も、姿を現さなくなった。


 彼のことを考える。

 普通に授業を受ける彼の隣にいて、分からなそうなところを教えてあげる。お昼には、一緒にごはんを食べる。彼は、お弁当を2つ作ってきてくれて。わたしに、くれた。美味しかった。


 ある日、ちょっとだけ気になって。ときどき耳が聴こえなくなるのに、料理をするのは危なくないのかと、訊いた。

 彼はにこっと笑って。この街に来てから、料理を教えてくれるひとが周りにたくさんいてくれたのだと、小さな声で囁いた。


 でも、彼はひとり暮らしのはずだった。わたしもひとり暮らしだから、なんとなく、分かる。住んでいる場所が近いのも、ひとり暮らしの人間が好んで住むマンションがたくさんある地帯だからのはず。


 彼の笑顔。

 それを見て、なんとなく。

 不安が、よぎった。

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