第71話石牢の迷宮2
「そ、そうか、俺は冒険者ギルド、リースフィア王都の試験官でバッツだ。元Cランク冒険者だ。」
Cランクってことはツリーベルにいたアンジェさんと同じランクか。
「よろしくお願いします。どんな試験を受ければいいですか?」
「ほ、本当に坊主が受けるのか?Dランクだぞ、Dランクっていうと結構なベテランがなるランクなんだが・・・」
バッツさんは困惑したように俺を見ている。
「大丈夫だと思います。」
バッツさんはそれでも何かあるのか推薦状を上から下まで眺めている。
「自由の翼のポレルの推薦もあるのか・・・なあ、坊主は何かあるのか?こんな推薦状見たことないが」
「特に何もないです。実力と推薦があれば冒険者ランクは上げられるって事なので、後は実力を見てほしい」
少し考えた後、バッツさんは頷くと訓練場に来るように促した。
俺とバッツさんは訓練場に着くと、お互い模擬剣を持って向かい合う。
「坊主、いやナイン。魔法は使えるのか?もし使えるなら使っても良い。全力で来い!」
バッツさんは真剣な表情になり大剣を構える。
「俺が使えるのは初級魔法だけですが、全力で行かせてもらいます。」
俺が片手剣を構えた瞬間、バッツさんは動き出す。
俺が待ち構えていると大剣の横腹で薙ぎ払ってくる、たぶんこれは俺に怪我させないように気を使ってくれているな。
俺は一瞬でバッツさんの懐に入ると胴体に片手剣を軽く当てる。
「手加減は不要ですよ」
これで勝ってもDランクには上がらせてもらえないだろうからな、本気でやってもらわないと困る。
「・・・どうやらそうみたいだな、すまん、侮っていた。俺も本気で行かせてもらう」
瞬殺されてバッツさんは俺の強さがわかったのか、顔つきが変わった。
俺達はすぐに離れると、バッツさんが先程とは別物の斬撃を放ってくる。
俺はそれを一歩引いて紙一重で避ける、だがバッツさんの斬撃は止まらない。
俺が引いて避けるたびにすぐさま切り返し、威力よりも振りをコンパクトにして隙を無くす攻撃を繰り返してくる。
さすが元Cランクといったところか、だがそれでも俺には当たらない。
俺は一瞬片手剣で斬撃を逸らすとバッツさんの空いた腹に魔法を放つ。
「エアロ・ボム」
空気の塊がバッツさんの腹に直撃すると破裂する。
「ぐっ・・・ぐうぅ!」
魔法の直撃を受けて完全に体勢を崩すも力技で元に戻そうとするがもう遅い、間合いを詰めた俺の一撃がバッツさんに当たる瞬間。
「うおおぉぉっ!」
バッツさんの身体が変則的な動きでバックステップする・・・俺の一撃は空を切り、少し離れたところでバッツさんが肩で息をしている。
何だあの変な動きは、何かのスキルで強引に回避したとしか思えない。
「何ですか今の?絶対回避の勇者みたいな動きでしたね」
「ぜぇ・・・ぜぇ・・・勇者みたいか、それは光栄だね・・・だがそんなすごいもんじゃねぇ・・・引退したとはいえ、まだまだEランクのお子様に負けるわけにはいかないのさ」
Cランク冒険者は一流だ、高ランクと言っていいぐらいでCとDには壁があると言われているぐらいだからな、壁を超えたCランクがEランクに負けるのはプライドが許さないんだろう。
なら実力はわかっただろうから合格にしてくれないかな、今がその時だと思うんだよ。
「俺の実力は把握できたと思いますが、俺は勝たないと合格できないんですか?」
少し考えるバッツさん、Cランク相手に追い詰めたんだから普通は合格でいいんじゃないかな。
「ああ、合格だ。文句無しのな、だがもう少し戦ってみてぇ、つき合ってくれ」
そう言うと、さっきの変態軌道でバッツさんが突っ込んでくる。
そのままの変態軌道で大剣が振りかぶられ変態軌道で振り降ろされる、これはどんなスキルなんだ?
大剣が鞭のように襲い掛かってくるように見える、俺は片手剣で受け流そうとするが軌道に対応できずガッツリと受けてしまい体重差で後退させられる。
トラ○ザムかと思えるほどバッツさんの動きが急制動を繰り返し俺をジリジリと後退させていく、だがだんだん慣れてきた。
バッツさんの逆袈裟を片手剣の一瞬の接触で大きく弾くとバッツさんの懐に滑り込み、変態起動で避けようとするバッツさんにさらに踏み込んで片手剣を振るう。
バッツさんの胴体に片手剣が減り込み、バキッと音が鳴ると同時に俺の持っている模擬剣は折れ、バッツさんは崩れ落ちる。
倒れ込んだバッツさんはぜぇぜぇと息を切らしながら呼吸を整えている、かなり負担の大きいスキルなのかな。
俺もバッツさんの横に座り込むとバッツさんが回復するまで待つことにする。
最後の一撃は模擬剣が折れたことでほとんどダメージは入っていないみたいだ。
バッツさんが落ち着くまで暇を持て余した俺は訓練場をボケっと見回すと一人だけポツンと俺たちを見ている人がいた。
灰色のターバンで顔を隠していて目だけしか出ていない、身長も低く身体もマントで隠している。
暗殺者みたいな冒険者だな、その人はすぐに訓練場を出て行った。
「ナイン、お前めちゃくちゃ強いな。全然本気出してないだろ」
復活したのかバッツさんが起き上がり手を差し出してくる。
「ありがとうございます。とても良い勉強になりました」
俺は質問に答えずバッツさんの手を握り返す。
「これでナインはDランクに昇格だ。ここからは討伐対象の魔物もかなり強いものが依頼に出されている。油断せず慎重に行動することだ」
俺達は立ち上がると訓練場を出て受付に戻る。
「見事合格したみたいですね。ではこちらが新しいナイン様のギルドプレートになります。」
受付のおねぇさんから銀色に光るギルドプレートを受け取り、今までの物を返却する。
これで俺もDランク冒険者だ。
Dランクだと冒険者の中でも一流と言われる部類になる、Cが超一流、Bが種族の限界、Aが規格外、Sはネジが外れてる、と言われている。
と言っても強さだけでポコポコ上がれるわけではないのでC以上は結構バラつきがあるそうだ。
例えばAのハイライトはバランスが良く戦える。
Aのエルフのフーリースは主に攻撃魔法やたぶん精霊魔法に特化している。
Bの猫獣人ポレルは近接特化だし、Bの聖女は俺はよく知らないが、まあ聖女とか言うぐらいだし回復や防御の魔法が得意なのか何か特殊なスキル持ちだろう。
何かに特化したりでも自分に見合った高難度の依頼を受けていれば上げることができる。
まあ国の面子的にゴリ押しってのも一部はあるそうだけどね。
よし、国境はまだ封鎖されているけど、もう魔王城に帰るか、イベントもお使いもこなしたしもうお腹いっぱいだ。
帰ってリルにダンジョンコア見せてあげよう、でも失敗したな、リルにマスターの権利あげればよかった。
冒険者ギルドを出ると四人の騎士に囲まれる、何だコイツら・・・まさかダンジョンコア盗んだのバレたか。
まずい、このままだと国際指名手配で人生詰んでしまう。
俺がちょっと本気でこの国どうにかしようと思った時に、そいつはガシャガシャ音を立てながら前に出てくる。
「見つけたぞ!冒険者ナイン!ヒデーブ様、しいては筆頭騎士アベンシに対し無礼を働いたその罪、許されるとはよもや思っては・・・いないですよね・・・?」
さっき会ったギラギラデブと一緒にいた金属鎧か、俺の本気の殺気を感じとったのかアベンシが引き攣った顔で声がだんだん小さくなっていった。
何だ、ちょっと焦ったがダンジョンコア関係じゃないのか、コイツら国のこの一大事に何遊んでんだよ。
「お前らの言うヒデーブ様は何を考えているんだ?ダンジョンコアが盗まれて国の一大事だって時に騎士を遊ばせているのか?」
俺が声高らかに周りに聞こえるように言うと、周りからは非難の声が聞こえる。
「ヒデーブ最低だな」
「ダンジョンコアが盗まれるなんて一大事なのに」
「本当に騎士なのかしら、子供相手に」
「騎士はみんな探索に行ってるぞ、偽物じゃないか?」
俺を囲む騎士を囲む輪が大きくなり、それと共に非難の声も高まる。
「あ〜、我々も今は非常時で忙しい、これから探索に行くところだからな。今回は見逃してやるが次はないぞ」
周囲の視線に負けたのかアベンシ達は人を掻き分けて逃げて行った・・・何だったんだあいつらは。
今度ポレルに会ったらヒデーブが怪しいって言ってみようかな、俺が悪い事を考えていると、周りの風景が変わる。
俺達を囲んでいた人々が一人、また一人と消えていく、視界は歪み、いや周りの空間が歪んで、元に戻った時には、そこは何もない真っ白な空間だった。
ここは?何だ?
俺は町の中にいたはずだ、これは・・・まさかの異世界もの定番のプロローグ的な神様にチート能力もらう空間か?
まさか今頃やってくるとはな、お寝坊さんな神様みたいだ。
俺が周囲を観察していると、ふっと人が現れる。
「やあ、さっきぶりだね、ナイン」
声を掛けてきたのは、自称神だと言う神官服の男だった。
いや自称神様お前かよ・・・
「まさかこんなに早く会うなんて思ってもみなかったけど、自首する準備ができたって事で良いのか?」
俺の言葉に自称神は首をすくめると、首を振る。
「違う違う、僕は試練と報酬の神なんだ。だからさ、試練をクリアした君にも報酬をあげないと駄目みたいなんだ」
そういえばそんなこと言ってたな、コアもどきを作って力使い切ったから報酬無しとか、神も自分ルールは曲げられないって感じなのか。
「じゃあパソコンと一通り家電製品のある家をください。理想は結婚しても住めるように贅沢は言わないけど三LDKぐらいで。あっもちろん周囲の魔素を吸収して家電が動く素敵仕様ですね。他には頭のおかしい人に絡まれた時用の絶対そいつ殺せる的な兵器と貴族に絡まれると厄介なので一族郎党皆殺しにできる呪いの呪具とか。もちろん何度でも使えて反動無しが理想ですね・・・」
俺が欲しい物をつらつら並べ立ててあらかた言い終わると。
「僕にはナインが何を言っているか理解できないよ」
自称神は困ったように首を振って、最後に無理だと言い放った。
まあ予想はしてたけど無理なのか・・・本当に神なの?
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