第72話石牢の迷宮3
ここは俺の望みをチートという形で叶えてくれる素敵空間じゃないのかよ。
「じゃあ何をしてくれるのさ、神様なんでしょ?俺試練クリアしたのにできませんて、それって神様的にどうなの?」
「まあまあ焦らないでくれ。僕にも出来ることとできないことがあるのさ。そこでだ、ナインにはこれをあげようと思って来たんだよ」
自称神様は手を前に出すとそこに不思議な光が集まり、キラキラ輝くペンダントになる。
見た目は銀色でシルバーネックレスに近く形は羽で真ん中に小さい宝石がついている。
「これは『道標の守』、ナインのこれから歩く道を温かく照らしてくれるはずさ。まあラッキーアイテムだと思ってくれればいいよ」
そう言うと『道標の守』はふわふわと俺の方に飛んできて手に納まる・・・めちゃくちゃ怪しい・・・これを持っていることでこの自称神の良いように誘導されたりするものなんじゃないだろうか?
それに、何でこの自称神が封印みたいになっていたのかもわかっていない。
「めちゃくちゃ疑っているようだね・・・でも安心してほしい、それはただの昔存在した魔道具を再現したもので僕が何かしたものではないんだ。ナインの思っているようなことはないよ」
自称神さまは手をパタパタ振りながら否定してくる。
「じゃあ、何で神様は封印されていたんですか?悪いことしたんじゃないの?」
俺の言葉に自称神様は少し考える風に目をつぶると、真剣な表情で語りだす。
「僕が・・・いや僕たちが封印されていたのは、魔物を呼んでしまうからさ。」
魔物を呼ぶ・・・いやな神様だな、しかもまだいるのか。
「勘違いしないで欲しい。確かに召喚はできるが、わざわざ魔物であふれさせようとは思っていない、僕たちは人族が好きだからね」
神様は語る、この世界の歴史を。
この世界には三柱の神がいる。
神達は人族や獣人族、魔族を作りみんなで楽しく暮らせるように願っていた。
だがいつになっても人類の争いは終わらず、困った神達は世界にあふれている魔素で魔物を作った。
魔物たちは人類の敵となり、人類がみんなで協力して倒すことを考えたのだ。
だが魔物はどんどん増え人類の生存圏すら脅かすようになり、それを助長しているのが神達からあふれ出る魔素であることに気がついた。
そこで考えられたのが勇者だ、異世界から死んだ魂を肉体と共に呼び寄せ、召喚し魔物に対抗する戦力の旗頭となるようにしたのだ。
一つの国に勇者召喚魔法陣を与え、魔物が多く、強力になった時に世界の魔素を自動で吸収、勇者召喚が行われるように設定した。
それは成功し、強力な魔物たちはこの世界の理に縛られない力を持つ勇者によって次々と倒され、世界の魔素も消費され魔物もおとなしくなり、争いもなくなり平和な世界がずっと続いていた。
そこで神達は自分たちの手を離れた世界として管理を手放した。
だがそこに稀代の天才魔法使いが現れた。
彼は神が与えた勇者召喚魔法陣に固執し研究を始めたのだ。
彼は長年の研究の末に魔法陣の一部を解読し、書き変えてしまった。
勇者召喚魔法陣から英雄召喚魔法陣と名を変え、魔族の王に対抗する戦力として魔法陣が起動するように変えてしまったのだ。
そこから世界は徐々に変わっていく、世界に魔素があふれても勇者は召喚されず、魔物はどんどん強くなる。
人類が絶望した時に一人の魔王と、英雄召喚魔法陣が起動して魔王と対となる勇者が召喚された。
破滅の魔眼を持つ当時の魔王と神剣を持つ勇者だ。
彼ら二人は世界にあふれる魔物を次々と倒していき、最終的に当時傍観することしかできなかった神達の元までたどり着いた。
神にも届く破滅の魔眼と神剣の前に神達は封印という名の休眠を余儀なくされた。
それがこの世界の歴史であると。
語り終えた自称神は悲しそうな顔をする。
「じゃあお前が復活しちゃダメじゃん」
自称神が復活したらまた魔素があふれて魔物が強くなっちゃうでしょ、存在するだけで人類に害悪な神ってどんなんだよ。
魔力剣は今手元にないしこれで斬れるかな?
「ディム・ブレード」
俺は時空魔法の属性剣を作り出す、これならギリ斬れる気がするんだよね。
これは実態の無いものにも効果が期待できる属性剣だ。
「ちょっと待って!ナイン、キミは物騒な物を軽々と作るけど、それがどんな物か理解してる?」
自称神さまが焦ってると言うことはこれは効果ありか。
「話を聞いた限り斬れそうなのがこれしか思い浮かばなくて、たぶん空間とか斬れると思うけど」
時空魔法はよくわかんないんだよな、変化させてるからさらに使ってみないと効果が実感できないし。
「待って!説明するから少しだけ待って。それはそこそこやばい物だからすぐ閉まって!」
仕方ないので解除する。
「納得いかなかったら、人類のために斬られてくださいね、神様」
自称神はほっと息を吐きだすと木を取りなおす。
「それがさ、人族の身体に入って復活したものだからこの世界の理に取りこまれてるみたいで、ほとんど魔素を出してないんだよね。これなら何の問題も無いわけさ。それにこの世界にはダンジョンコアってのができたみたいだし。」
自称神は嬉しそうにダンジョンコアについて語りだす。
「僕たちがいたころはなかったんだけど、世界が必要に応じて作りだしたんだろうね。ダンジョンコアが余分な魔素を吸い上げているから魔物がこれ以上凶暴化や増えることはないよ。だからあまりダンジョンコアを壊しちゃダメだからね。」
ダンジョンコアにはそんな効果もあったのか・・・冒険者は魔物を殺して生活の糧にする、ダンジョンコアは魔物を作りだして魔素を消費させる、綺麗なルーチンが作られているってわけか・・・。
だとしたら最古のダンジョンコアと言われている古城迷宮のコアが破壊されたことの影響はあるのか?
「神様を復活させたコアの影響はあるのか?最古のダンジョンコアって言われているけど」
「全く無いとは言えないね、コアに溜まってたものは僕が吸収したけど、これから吸収するはずの魔素が吸収できなくなったから、ほんの少し魔物は増えるかもしれない」
ほんの少しか、それなら許容範囲か?現状だと魔物被害はほとんどないから、冒険者がちょっと頑張れば問題ない程度なのだろう。
「で、神様はこれからどうするの?あまり試練とかやってると迷惑なんだけど。」
できることならこのまま大人しくしてて欲しいんだけどな。
「僕はこのまま久し振りに世界を見て回るよ。それと・・・できたらでいいんだけど、聖教国にある英雄召喚魔法陣を破壊してほしい。今のナインならそれができると思うから。」
少しだけ真面目な顔をして自称神がお願いしてくる。
「英雄召喚魔法陣を?」
「ああ、今の時代には必要ないものだ。僕たちが作ったものとは根本的に変わっているし、それが争いの火種になるのならないほうがいい。」
英雄召喚魔法陣の破壊か・・・確かに必要はないものかもしれない、あれで勇者なんてものが召喚されるから先の戦争が起こったわけだし。
だが、聖教国の最高レベルの機密だし、そんなのどこにあるかも、破壊したのを見られたらアース大陸の人類から敵認定されるんだが・・・。
「まあほぼ無理だと思うけど、気が向いたらってことでいい?」
俺は約束はしない。
「うん、気が向いたらでいいよ。簡単にどうにかなるものではないけど、もしまた魔法陣を書き変えられるような人族が現れたら、今度こそ大変なことになるかもしれないしね」
そういうフラグ的なものは言わないで欲しいな、神様なんだから、俺が不安になるでしょうに。
「じゃあそろそろ僕は行くよ。そのペンダント大事にしてね。」
そう言うと自称神さまは逃げるように消える・・・。
わかったことは、馬鹿が魔法陣書き換えたから魔王が生まれると勇者が召喚されると言うことか。
そしてできれば壊してほしいと、尻拭いみたいなもんだな。
聞き忘れてたが、じゃあリルは何なんだ?ただのイレギュラーってだけのことなんだろうか。
しばらく考えていたが、いつの間にか元のギルド前に戻ってきていた。
時間もほとんど経っていないのだろう、俺は囲んでいる人達の合間をすり抜けて、とりあえずアイテムボックスを隠している古屋に向かう。
そういえばこのペンダントどうするかな。
魔道具だって言ってたけど、ペンダントだけで紐がない、仕方ないのでギルドプレートの紐に通して一つにしておくか。
一つにしたペンダントに魔道具だということでなんとなく魔力を通してみる、中央に嵌まっている宝石がキラキラ輝きとても綺麗だ。
だからと言って何が起こるわけでもなく、ただキラキラしているだけだな。
何かこう、ここに行けばお金が落ちているだとか、大金が稼げるだとかのお告げ的なのは来ないんだな。
RPGでいうところの運のステータスを上げるものなのかな、運のステータスってぶっちゃけ何がどれだけ影響してるのかシステム解析しないとわからない上に、ほんとに微増って感じでほぼ死にステータスになっているんだよな。
そんな感じで小屋につくと、床下からアイテムボックスを取りだして、何か盗まれていないかチェックする。
本当にここにいても何もすることがない上に、盗まれたダンジョンコアは見つからないからそろそろ魔王城に帰ろう。
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