第70話石牢の迷宮

 自称神様を取り逃がした俺とポレルは、自称神様が作ったダンジョンコアもどきを持って王都に帰ってきた。


 念のため俺は一旦ポレルと別れ王都に潜入した時に使っていた誰もいない古屋の床下に、貴重品を入れたアイテムボックスを隠した。


 俺の装備は黒い革鎧、普通の片手剣、封魔の腕輪×ニ、後は短剣など。


少し迷ったがリースフィア王国と聖教国がダンジョンコアでごたついている事を考えて、五式の指輪や魔力剣などのEランク冒険者が普通持っていない物は全てアイテムボックスに入れておいた。


 五式の指輪がないとヴェリアス・レイは使えないのが不安材料の一つだが、今の俺には魔法剣が使えるので何とかなるだろう。


 冒険者ギルドでポレルと待ち合わせをすると、一緒に王城に歩いていく。


「ナインが来てくれて助かったにゃ。証人がいた方が説明も楽にゃ」


 ポレルはニコニコしながら歩いていく。


「俺はなるべくなら行きたくないんですけどね」


「ナインなら大丈夫にゃ、最悪な時は一緒にみんなを助け出して逃げればいいにゃ」


 いやそれは俺は巻き込まれてるだけで関係ないんだけどな・・・発端は俺かもしれないけど。


 俺達は王城につくと王の謁見の準備ができるまで、待機させられる。


 客として見られていないので客間に通されるわけではなく、そこら辺に立たされているがすぐに準備が整い謁見の間に呼ばれる。


 謁見の間に通された俺達はぐるりと周囲を囲むたくさんの兵士や騎士に見られながら赤い絨毯の上を歩いて行く。


 たぶんちょうどいい位置に来たのだろう、ポレルが立ち止まり前方の少し高い位置にある椅子に座っているリースフィア王に声をかける。


「ダンジョンコアは奪い返してきたにゃ、すぐにみんなを開放してほしいにゃ」


 ポレルはアイテムボックスからダンジョンコアもどきを出すと、近づいてきた白髪のおっさんに手渡す。


 たぶん宰相とかなんだろうな、おっさんはダンジョンコアを台の上に置くと数人がかりで検分を始める。


 若干ポレルがバレないかドキドキしているのが伝わってくるが、俺も冷静を装い検分をじっと眺める。


 どれぐらい続いただろうか、検分していた人達が何か話し始める。


「王よ、これはダンジョンコアで相違ありませぬ」


 宰相がそう言うと王は頷き、近くの扉が開かれ装備を外されたメリッサとフーリースが入ってくる、一瞬、フーリースが俺を見て不思議そうな顔をするが・・・まあバレてはいないんじゃないかと思う。


 ハイライトはいないなまだ復活していないのかもしれない。


「みんなっ!にゃ〜!」


 ポレルが二人の元に駆けよって飛びつく。


「ありがとうポレル、難しい仕事だったけどよく達成してくれた、感謝する」


「ありがとう、私はあなたができる子だって信じていました」


 三人は微笑みあって仲良くワイワイしている。


「してポレルよ、詳細を話すがいい、そしてその子供は誰であるか?」


 一通りポレルたちが再会を喜び合っていると王が口を開き俺を指さした。


「そうにゃ、彼はナインだにゃ。ダンジョンコアを追っている途中で知りあって協力してもらったにゃ、もう友達にゃ」


 にっこにこしながらポレルは俺の方に来ると頭を撫で始める。


「そうか、して主犯の男はどうした?捕まえてはいないようだが・・・」


 そこら辺はポレルとは口裏を合わせている。


 神官の男が強力な魔法を使って抵抗してきたこと、一度は捕まえる寸前まで行ったがダンジョンコアを奪うのが精一杯で逃走されたこと。


「そんな・・・彼にポレルと戦えるような力があるとは知りませんでした・・・」


 聖女メリッサも顔を曇らせて考え込んでいる、そうだろうな、ポレルはBランク冒険者、それに倒しきれないような強さのただの神官なんているわけない、しかも逃げ切るなんてね。


 まあ嘘なんですけどね。


「協力者ナインよ。口を開くことを許す、見たままのことを答えよ」


 王が俺の方を向くと知っていることをしゃべれと言ってくる。


「私はEランク冒険者のナインと申します。私が冒険者ギルドの依頼で薬草採取で森にいると、神官服の男が急いで森の奥に入っていくのが見えたのです」


 俺はポレルと口裏を合わせたことをつらつらと話していく。


「証拠になるかはわかりませんが・・・戦闘があった一帯は木々が倒れ更地になってしまっています。たまたま持っていた効果の高いポーションがなければ私もポレルも生きては戻れなかったかもしれません」


 まあ危険だったのはポレルだけで、俺は何とか無事だったんだけど。


「何と・・・それほど強力な魔法を使う神官であったか・・・聖女メリッサ、これをどう見る?」


 王は聖教国の内情に詳しいメリッサに訪ねる、メリッサは少し考えた後。


「もしかしたら、悪魔崇拝『永劫の扉』の人間が紛れ込んでいたのかもしれません・・・それ以外考えられません」


 メリッサの言葉にポレルがちょっと焦っている、ポレルは自称神がいたことを知っているからな、後で真実を仲間には話す予定だったのだろう。


 悪魔崇拝『永劫の扉』、確か聖教国の英霊教の勇者と神に敵対するように作られている邪教ということだったな。


 よくある悪魔を崇拝して、滅びることが幸せだと願っている変な人達だ、勝手に滅びてればいいのにって思う。


 でも『永劫の扉』じゃないんだよな、ダンジョンコアを壊す時に神がどうとか言ってたから、単なる行き過ぎた信仰心で神を復活させようとしたのだろう。


 問題はなぜ彼があの場所を知っていたのか、そしてそれは聖教国が関与しているのかどうかだ。


 王とメリッサの『永劫の扉』に対する見解でどんどん話が変な方向に行くとポレルが冷や汗をかき始める、まあそれでも邪教徒が入りこんでいたってことにすれば国同士の争いにはならないからいいんじゃないかな。


 一通り話が終わると、王が俺の方に向き直る。


「Eランク冒険者ナインよ。そなたには褒美を取らそう。望むものを言うが良い」


 ポレルの方を見ると、頷いてくれる、言ってもいいんだな。


「では、冒険者ランクの上昇ができるように推薦状を書いていただけないでしょうか?」


「そんなものでいいのか?ポレルよ、ナインの実力はどうだった?」


 いくら王でも知らないヤツに簡単に推薦状を出せないのだろう、ポレルに聞いてくれた。


「ナインの実力なら私が保証するにゃ。実力的にはCランクでもおかしくないほどナインは強いにゃ」


 ポレルの言葉に謁見の間の全員が驚く、あまり大げさには言わないで欲しいのだが。


 冒険者のCランクというと一流だ、王都の騎士団でもトップレベルの隊長格がそのぐらいの強さだからな。


「何とそれほどか、では推薦状を書くとしよう」


 王はすぐに書類を持ってこさせると推薦状を書いてくれた。


「にゃ〜も推薦状に名前を書いてあげるにゃ」


 ポレルも勝手に推薦状に名前を書き始める、自由の翼関係者の署名はいらないんだけどな、めんどくさいことになりそうだし。


 推薦状を貰うと、俺には退出の許可が降りた。


 そそくさと謁見の間から俺は退出して、そのまま王城を出ようとすると声がかかる。


「そこの冒険者、ちょっと待て。」


 振り向くとモリモリと肥え太ったギラギラする装飾を身に纏う貴族らしき男がいた、何だこいつは、妙に宝石がギラギラしてるが、自分から出た油で磨いてでもいるのだろうか?


「俺に何か用でしょうか?」


 俺の質問には答えず、ジロジロと俺の全身を眺めるように見ている、何なんだこいつは。


「まだ子供だが・・・本当にこいつがCランクレベルの実力があるのか?」


 ポレルの話を聞いていた貴族か・・・


「はい!ポレルさんの話ではかなりの実力者であると」


 肥満の隣の金属鎧を着た男がそう答える。


「まあ良い。お前、俺の配下にしてやるからついて来い。少し実力を見てやる」


 肥満と金属鎧は俺の方を見ずにスタスタと歩いていく、俺は逆方向にスタスタ歩いて王城を出かかった時にまた呼び止められる。


 何だめんどくさいな、まだ何かあるのか。


 俺が振り向くと肥満と一緒にいた金属鎧の男が息を切らしながら俺を睨んでいた。


「貴様っ!ヒデーブ様のお言葉を無視するとは、ただで済むと思っているのか!?」


 ヒデーブ?なんか爆発しそうな名前だな。


「何か御用でしょうか?俺は冒険者ギルドに行かないといけないんで忙しいんですよ」


 俺は気にせず王城を出ると橋を渡りだす、金属鎧が追いかけてくる音がガシャガシャと聞こえてくるがガン無視して歩き続ける。


「貴様!無視していくとは許せんっ!」


 背後に来た金属鎧が俺をつかもうとするが回転するように回避して無視して進む、金属鎧が転んでいる音が聞こえるが相手にせず俺は橋を渡りきった。


 ここまで来ればわざわざ追っては来ないだろう。


 俺はそのまま歩き続けると冒険者ギルドにたどり着いた。


 ダンジョンコアの捜索部隊に志願している人が多いからほとんど冒険者がいないな。


 冒険者ギルドにたどり着いた俺はすぐに受け付けにリースフィア王から貰った推薦書を出す。


「推薦書をもらったのでお願いします」


「いらっしゃいませ、推薦書ですか?拝見します」


 受け付けのお姉さんは推薦書を読んでいき、最後のリースフィア王の署名で顔色を変える。


「し、少々お待ちくださいませ」


 受け付けのお姉さんは急いで立ち上がると奥の方へ行ってしまった、何か声が聞こえてくるが何を言っているかまではわからない。


 そして奥から出てきたのは、歴戦の戦士とも言える顔つきの厳ついおじさんだった。


「ん?・・・坊主、ここに冒険者がいなかったか?」


「俺以外の冒険者はいなかったけど・・・」


 俺が答えると首をひねりながら奥に戻っていく、まだかな。


 少しするとお姉さんが戻ってくる。


「あれ?いるじゃないですか、ここに怖い顔のおじさん来なかった?」


 お姉さんが俺に聞いてくる。


「誰かを探しているおじさんは来たよ。でも見つからなかったのか奥に戻ったよ」


 お姉さんは、ああ、と言いながらまた奥に戻っていった・・・何なんだ?するとまた厳ついおじさんがやってきて俺をまじまじと見つめている。


「冗談だろ?この坊主が王様から推薦受けたEランク冒険者のナインなのか?」


 ああ、そうか俺を探していたけど、こんな子供だと思わなくてスルーしてしまったということか。


 リースフィア王国じゃ薬草採取しかしてないから誰も俺のことなんか知らないもんな、まあ仕方ないか。


「俺がEランク冒険者ナインです。王の推薦をもらったのでDランクの試験を受けに来ました」

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