第63話ダンジョンコア4
次の日の朝一番で俺は広場に向かう。
とりあえず時限発火装置は使わないことにした。
たしかに魔王様のお使いも大事だが、何かそこまでやってしまうのは違う気がしたからだ。
リースフィア王国は別に俺と敵対してるわけじゃないし、何か裏でやってるかもしれんが、そんなのどこの国でも同じだろう。
まずはダンジョンコアをこの目でしっかり見て、タイミングが合えば城に侵入ってことで良いのではないだろうか。
との結論に達した、平和に行こう、俺はテロリストになりたいわけじゃないのだ。
なのでまずは場所取りだ、なるべく前の方でダンジョンコアを見てみたい。
ダンジョンコアのなり損ないは前に見た、というかアイテムボックスに入れたまま持っているが、ちゃんとした物は見たことないからな。
広場に着くとすでに人で溢れかえっている。
完全に出遅れた、いやでもまだ何時間も先なのに・・・それだけ関心を集めているってことだろうな。
まあ台は結構高いし、広場に来れば見えるっちゃ見えるんだけど・・・。
諦めムードで広場の隅の方に行くと俺はしゃがみ込み、目を瞑る。
ここで時間まで待機するか。
大きなファンファーレで俺は目を開ける、時間だ。
台を中心に外側は兵士が槍を構えて円になるようにみっちり配置されてる、アイドルのコンサートみたいになっている、行ったことないから知らんけど。
少しすると城門が開き、豪華な馬車が城と広場をつなぐ橋を渡って向かってくる。
その後ろには少し小さめの馬車がついてくる。
豪華な方が王様、小さな馬車に自由の翼ってところだろう。
馬車が到着すると、音楽が鳴り響き、馬車の中からリースフィア王が出てくる。
白髪ではあるが、精悍な顔つきをした男性だ。
一斉に周りの観衆が首を垂れる、一呼吸遅れて慌てて俺も周りに合わせて首を垂れる。
あぶねぇ、そんな習慣が前世にも今世にもなかったからノーマークだった、無意味に目立ってしまうのは良くない。
ゆっくりと台の上に立ったリースフィア王は民衆に呼びかける。
「面を上げよ。今日は大変良き日だ。許す。」
それを聞いた民衆は戸惑いながらもゆっくりと顔を上げる、そして、王の演説が始まる。
「この国は昔、国がなくなりかけるという滅亡の危機に立たされた、田は荒れ水は濁り・・・」
ヤバい、これ長くなるやつだ、校長先生の朝礼の挨拶と同じやつだ。
校長先生、じゃなくてリースフィア王の演説を聞き流しながら、小さい方の馬車を見る。
これがあるから自由の翼は一緒に出てこなかったのか・・・。
リースフィア王の演説が始まってしばらくたち、そろそろ貧血で誰か倒れるんじゃないのかと思い始めたときに、こっそりと小さな馬車から自由の翼が降りてきた。
もう演説が終盤だと思って待機しているのだろう。
降りてきたのは四人。
茶髪茶目、髪の毛は主人公カットの男性が魔法剣使いのリーダーのハイライト、Aランク。
青髪青目、長い髪を結ばずに流している聖教国の聖女メリッサ、Bランク。
赤みがかった茶髪と同じような眼の色、頭からぴょこんと見える獣耳の猫獣人の少女ポレル、Bランク。
そしてあまり集落から出ないとされている緑髪緑目のエルフのフーリース、Aランク。
この四人が聖教国最強と言われるハーレムパーティー自由の翼だ。
もうメンバーだけ見ても異世界物で主人公パーティーって感じ、何だろう・・・やつらを見ていると格差を感じてイライラしてくるな。
これがモブが主人公にイチャモンつけたくなる気持ちだろうか・・・主人公に最初にボコられる冒険者のみなさん本当にごめん、俺も今まで町中で絡むなんてプライドがないとか強盗まがいだとか言ってすいませんでした、気持ち的には俺もそっち側だわ。
俺が異世界物のモブたちに真理を気がつかせてもらっているうちにリースフィア王の演説が終わり、やっと自由の翼が壇上に上がってくる。
リーダーのハイライトがアイテムボックスから布に包んだ白い珠を取りだす。
あれがダンジョンコアか!
見た感じは普通の白くて拳二つ分ぐらいの大きさの珠だけど、なんと索敵に引っかかる。
魔物とも人族や魔族なんかとも違う変な気配だ。
「リースフィア王。これが献上するダンジョンコアでございます。お納めください」
ハイライトがリースフィア王にダンジョンコアを直接手渡すと盛大な拍手と歓声が民衆から湧き上がる。
拍手が終わるとリースフィア王は広場の台座にダンジョンコアを飾る。
そこにエルフのフーリースがいくつかの魔石を出して何かを発動させる・・・あれは時空魔法を彫り込んだ紋章魔術かな。
その時、轟音とともに広場の周囲にある露店や店がいくつも吹き飛び崩れだした!
は?何これ、違う違う!俺じゃないよ。
集まっていた民衆は爆発とともにパニック状態になりそこかしこと逃げ惑う。
ただ集まっているので逃げるスペースなんてなく倒れるわ、踏みつけられるはの大混乱に陥る。
俺もぼけっとしていたのが災いしてめちゃくちゃに押して押されてもう自分がどこにいるんだかもわからない。
「落ち着け!落ち着くんだ!今結界を張るからそこから動かないようにしろ!」
ハイライトが声を上げるが一度パニックになった群衆は止まらない。
「落ち着いてください、ここ一帯に結界を張るので動かずに落ち着いてください」
聖女様も声を張り上げて群衆に呼びかけているが効果はない。
俺も何とかもみくちゃにされているところから抜け出すと、急いで周りを確認する。
ダンジョンコアが飾ってある台座を中心に王がいて、その周りに兵士が囲んで、その外側に自由の翼が周囲に守るように配置している。
囲まれているな。
ガチのテロリスト集団だと思われる黒ずくめが台座の下や周囲の建物の上から魔法で攻撃をしている。
群衆がまだ逃げきれていないし、後ろには王とダンジョンコアがあるから自由の翼は動けず、防御に専念している。
ほとんどはフーリースとメリッサの防御魔法で相殺されているが数が多く、結界を抜けてくるものをハイライトとポレルが叩き落としている。
これはどこかの国のテロ組織か、もしくは国家ぐるみの何かかわからんが、ダンジョンコアを狙っている?
加勢するか・・・どっちに?
いやいやいや、まさかのちょっとテロに加担すればダンジョンコア触れるのでは、なんて思ってしまった。
危ない、冷静になれ、そんなことしたら国際指名手配になるし、自由の翼四人にボッコボコにされるわ。
見たところ自由の翼は正直余裕だろう。
今は民衆がいるから防御に専念しているが、民衆が逃げれば直ぐにでもあの四人なら鎮圧するだろう。
ならば俺のできることは、テロリストに便乗する形で気は進まないが、そっちに気を取られているうちに王城に侵入することだ。
俺はフードを被ると、混乱する群衆の合間を縫って城の正面から離れ、誰も見ていない場所から城壁に張り付く。
索敵を使うが、広場の騒ぎに気を取られているのかどんどん警備の兵士が城門の方向に集まっていく。
まあダンジョンコアと王がいるから当然か。
俺はらくらく城壁をよじ登ると城の潜入に成功する。
後は、どこか隠れられるところで機会を待つだけだ。
急いで城の裏側に回り込んだ俺は、勝手口らしきところから内部に侵入する。
侵入した場所は倉庫になっていて、食料や物資が大量に保管されていた。
「ここで夜までゴロゴロしてればいいか」
俺は物資が積んである一番高いところまで登ると、フードを被ったまま横になる。
まさかテロみたいなのが本当に来るとは思わなかった。
手間が省けた、とは思うがそれに便乗したのは気分がいいものじゃないな。
ダンジョンコアの展示なんて正気の沙汰じゃないとは思っていたが、まさか本当に襲撃があるとは。
ダンジョンコア、伝承にあるリースフィア王国が手に入れたとされている一つ目は何処にあるのか不明。
王が手にしたとされているが、そこからは歴史の表舞台にダンジョンコアの話が出てきたことはない。
当時の王がデカゴブリンみたいに吸収したのかとも考えたが、リースフィア王もハイライトも素手で触っていたし、人が飲み込めるような大きさじゃない。
他に考えられるのは、土地を潤したってことは何処かに設置した?
誰もが一番最初に考えることだろう。
でも誰も設置してあるのを見たという記述はないし・・・。
あっ、そうだ!
俺の索敵にダンジョンコアは引っかかった、それも生き物とは異なる変な気配で。
一つ目が城のどこかにあるなら、もしかしたら索敵に引っかかるかもしれない!
天才か!?俺の索敵ヤバいな。
そうだよ、魔王様のお使いはダンジョンコアとの接触、指定はなかった。
だったら一つ目だろうが古城迷宮のだろうがどっちでもいいと解釈できる。
でもリースフィア王やハイライトも触ってたけど、なんかあるのかね。
リースフィア王はダンジョンコアを手に入れた旧王の子孫、ハイライトはまあ見た目がそれっぽいから何かあるならあの二人か、英雄召喚された勇者ぐらいなんじゃないかな。
前世の記憶があると言っても、区別で言うと俺はただの平民と変わらない生まれだし。
まさかここに来て昔の勇者の子孫とかそんな設定出てくるわけないよな。
夜になったら、色々探索してみよう。
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