第61話ダンジョンコア2

 ダンジョンコアに接触?


 このタイミングだからリースフィア王国にあるダンジョンコアの事だよな。


 ダンジョンの奥にあるダンジョンコアを触ってこいと言われるよりは若干マシだが・・・いや待て、言わないよな。


 どっちにしろ俺がそんなことして何の意味があるのかがわからない。


 まだ盗んでこいと言われた方が納得できる、いや盗もうとは思わないけど、難易度的にはほとんど変わらないレベルだと思う。


「それって・・・何か意味があるんでしょうか?かなり難易度高いと思うんですけど・・・」


 魔王様は思案顔になる。


「意味か・・・あるかもしれんし、ないかもしれん。無理はする必要はないが、ナインなら何か起こるかもしれん」


 俺なら?俺がイレギュラーだということに何かあるのかな?


 正直なところ、俺はそこら辺のことに関しては全く興味がない。


 魂なんてものがあるなら、俺のこともあるし、たぶん使いまわしなんだろうって程度しか思ってない、たまたま何かしらの要因が重なって、俺の前世の記憶が消えなかったとか出てきちゃったとかそのぐらいにしか思っていない。


「無理ですよ魔王様。いくらなんでもリースフィア王国に行ってダンジョンコアに触ってくるなんて、罰ゲームだとしても難易度高すぎますって。」


 考え直してもらえるように俺は必死ならないように冗談ぽく説得する。


「まあどうしても無理ならそれはそれでかまわん。だが、そうなると困ったことがあってな・・・」


 困ったことって何だ?そんなのないだろう、俺が触ってくるだけなんだから。


「ちょっと前に何故か、何故か訓練場の壁が破壊されるという事件があってな、まだ犯人は見つかっていないのだが・・・幹部の間では不穏分子が紛れ込んでいるんじゃないかと・・・」


「魔王様、俺はリースフィア王国に行ってきます!できるかどうかわかりませんが、男ならできるできないじゃなくてチャレンジすることが大切だと俺は常々思っていたんです」


 まずい・・・魔王様が脅してきた。


 俺がやったのが広まったら、ロータス辺りにボコボコにされる未来しか見えない・・・。


「ほう、さすが勇者すら討ち滅ぼした魔王と互角に渡り合っただけの男ではあるな。流石はナインといったところか、お前なら二つ返事で引き受けてくれると思っていた。」


 そういうと魔王様はそっと俺の腕に触れる。


 俺の腕には封魔の腕輪が嵌まっていて、魔王様の封印で外れないようになっていたのだが、それが解除される。


「まずは一つ、報酬の先払いだ。出先で死なれたら今まで目をかけてきた意味がなくなってしまうからな、では頼んだぞ」


 出先で死なれたらって・・・魔王様が言うと今のリースフィアって危険地帯だって言っているようなものなんだけど・・・。


 俺が顔を引きつらせているのを横目に魔王様は部屋を出ていった。


「いいな~ナインは出かけられて、私も行ってみたいな、ダンジョンコア見てみたい」


 リルは行ってみたいそうだがそれは絶対に今じゃない、もっと平和になった時に行けばいいんだよ、本当は。


「リル様は角が隠せるようになってからですね。それまではしっかり勉強です」


 エヴァさんの言葉にリルはガックリと項垂れる。


「角が隠せるようになって、魔王様の許可が下りたら一緒にどこか遊びに行こうな」


 俺もそう言ってリルを励ます、でもリルってとんでもない魔法とか平気で使ってるのに角は隠せないのか?


「リースフィア王国は冒険者が集まるところですし、警備もかなり強化されているはずです。気をつけてくださいね、ナイン」


 セリスは心配そうに俺を見つめてくる。


 確かにそうだな、まあぶっちゃけ無理だろって思ってるんだけどね。


「でもどうやってリースフィアに行けばいいんだろ?俺の転移魔法陣はツリーベル王国にしか行けないし、そこから行ったら時間がかかりすぎてとっくにダンジョンコアのお披露目なんて終わってるんじゃないかな」


 どうしたもんかな・・・魔王様はどっか行っちゃったから魔王様の転移魔法で連れてってくれるわけじゃなさそうだし・・・まあいいか、ダメならダメで観光して帰ってこよう。


「安心してくださいナイン様。各国には魔王軍が緊急時に使う転移魔法陣が設置されています。それを使う許可は出ていますので十分間に合いますよ」


 エヴァさんがにっこり笑って教えてくれる。


 あるんじゃないかとは薄々思っていたけど・・・使用許可が下りてるってもう行かせる前提ですね・・・。


「あ、ありがとうございます。じゃあ準備して行ってこようかな。」


「ナインお土産買ってきてね」


「ナイン気をつけてくださいね」


 リルとセリスが言葉をかけてくれるが・・・行きたくないな~。


 俺はとぼとぼとリルの部屋を出ると自室にあるアイテムボックスを取りに行く、牢屋から出されるのと同時に全ての持ち物が返ってきた。


 持っていくものはワンゴさんに作ってもらった魔力剣、アイテムボックス、暗殺者の衣。


 アイテムボックスの中にはお金や野営で使うものは入れたまんまになっているのでこれだけあれば問題なく活動できるだろう。


 ちなみに雷鳴の剣、いや元雷鳴の剣と言ったほうがいいか、あれはバチバチしなくなった上に鑑定しても特に何も表示されなくなってしまった。


 神剣だってことだし、何か特殊なものがあるのだろう。


 バチバチする封印はなくなったが、刀身を覆う封印は完全に解けたわけではなかったみたいで、また銀色の刀身に戻っている。


 これもアイテムボックスの中に入っているが、こんな危険なもの俺に持たせておいていいのだろうか?


 準備が終わると、部屋の外でエヴァさんが待っていてくれた。


「こちらがリースフィア王国の地図になります。ではご案内しますね」


 俺はエヴァさんに続いて地下に入っていく、ここは俺が何時も魔王城に来るときに使っている魔法陣があるところだな。


 扉がいくつかありリースフィアと書いてある扉をあけて中に入っていく。


 マジで各国に行く転移魔法陣があるんだな、他にもいくつかの国の名前が書いてある。


「五式の指輪の機能で転移魔法陣が使えるそうです」


 俺は頷くと、部屋の中央にある転移魔法陣の上に乗って魔力を流す。


「では行ってきます」


「いってらっしゃいませ、あっ・・・」


 エヴァさんが何か言いきる前に俺は転移してしまう、何を言おうとしていたんだろう?


 光が納まった時には、俺はどこかの地下にある転移魔法陣の上にいた。


 さて、まずはここからリースフィアの王都に行かないといけないのか・・・。


 転移魔法陣を降りて地上に向かう。


 エヴァさんの話ではここも深羅の森と同じように隠蔽結界を張られている森の隠れ家、ということみたいだ。


 地下から出ると、深羅の森の別荘ほどではないが大人数で暮らせるような木造建築の家だった。


 何かあったらここに逃げてこよう。


 大体徒歩一日程度で近くの街に行けるそうなので、俺は隠蔽結界を抜けて走り出す。


 森を抜けるまでは道という道はないから、途中途中で地図と方向を確認しながら一直線に町に向かっていく。


 森の中にはそこそこ魔物の気配がある。


 ダンジョン王国と言われるだけあって、森などの魔物を狩るというのは他国よりも少ないらしい。


 ダンジョンが多くある国なので冒険者もダンジョンをメインに活動しているせいだ。


 森を抜けたところで日が完全に落ちて辺りは真っ暗になる。


 ここからは走るのをやめて歩きに切り替える。


「ライティング」


 魔法で明かりをつけて街道を探す。


 地図によると・・・まっすぐ行ったところに街道がある。


 街道を見つけると街道に沿って歩いていく。


 このまま進んでいくと世界唯一の町中にダンジョンがあるリンドルの町があるはずだ。


 リースフィア王国ではこの街が一番大きく栄えていて、そこから一日程度の距離に王都がある。


 リンドルの町は元はただのダンジョンだったが、王都から近く周りに何もなくて、そこにダンジョンに潜るための拠点を作ったのが始まりだそうだ。


 真夜中にリンドルの町に俺はたどり着く、まだまだ夜は明けることはない。


 リンドルの町によらず、このままリースフィアの王都に直接行ってもいいのだが・・・流石にこのまま歩き続けるのは厳しい。


 町の門周辺には沢山のテントがあり、野宿している人がいる。


 何だこれは?まさか入れないのか?


 俺は門までたどり着き、警備の人に聞いてみる。


「すみません。今この町に着いたんですけど、この周りにあるテントは何ですか?」


「こんな時間についたのかボウズ。知っているとは思うが王都でダンジョンコアのお披露目があるからな、色々なところから人が集まってきていて、この町の宿も一杯で泊まれない人が野営してるんだよ。」


 兵士さんも疲れているのだろう、ちょっとウンザリした表情で教えてくれる。


「ありがとうございます。じゃあ俺も近くで野営しますね」


「一人で大丈夫か?手伝ってやるぞ」


 この人良い人だな。


 俺はそれを断って、アイテムボックスからテントを取り出す。


 適当に干し肉を食べながらテントの中でゴロゴロする。


 そうか、リンドルの町でも宿が取れないって事は・・・王都も野営確定だよな。


 リンドルの町は町中にダンジョンの入り口があるので大量の冒険者が集まってくる、だから宿は尋常じゃないほどあるはずなのに、それが満室って。


 ヤバい・・・めっちゃ帰りたくなってきた。

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