第60話ダンジョンコア

 その日、世界中に衝撃が走った。


 ダンジョン王国と言われているリースフィア王国で、最古のダンジョンの一つと言われている『古城迷宮』が攻略されたという情報が入ってきたのだ。


 『古城迷宮』とは、入り口は多くの一般的なダンジョンと同じく洞窟になっているのだが、洞窟に入ると大きなボロボロの古城がある。


 実際のダンジョンの入り口はその古城の城門となっていて、迷宮の中は古い城の場内を模した風景が延々と続いている。


 ダンジョンとしては珍しく、一つの階層が極端に広くなっており、一つの階層にも上下に行くことのできる階段が設置されている迷路のようなダンジョンだ。


 横に広く迷路のようになっているので全体の階層は低階層だと言われているが、本気で攻略しようとしたものは少なく、古城迷宮の俺が知っている最大攻略階層は九階程度だったと思う。


 ダンジョンの攻略には意味がある。


 リースフィア王国は昔、唯一ダンジョン攻略に成功した国であり、その時のダンジョンコアを使って国を栄えさせたという伝承が残っている。


 リースフィア王国は元々豊かな国ではなく、自然災害が重なったこともあり他国の援助を受けても国の崩壊は止まらなかった。


 土地が豊かなわけではないので他国も率先して領土を広げるうま味もなく、そのまま空白地帯になってなくなってしまうかに思われた。


 国の崩壊を防ぐ最後の手段として当時の王が賭けに出た。


 どうせ滅びるのがわかっているのならと、国の全財産をダンジョン攻略につぎ込んだのだ。


 ダンジョンには最奥にダンジョンコアがあるとされ、莫大な魔素を貯めこんでいてそれがダンジョンを構成していると考えられている。


 ダンジョンコアは手に入れたものには絶大な力が手に入るとも考えられていた、それに賭けたのだ。


 そのダンジョンコアを手に入れて国を立て直すという何の根拠も証拠もない、他国から、いや王以外の者には乱心したのかと思われていた。


 だが、ダンジョン攻略には国に残った莫大な予算がつぎ込まれたため、冒険者や他国に出て行こうとする騎士や兵士は飛びついた。


 出ていく前に少しでも多く金が欲しかったのだ。


 そして、ダンジョン攻略は多大な犠牲を払いながらも成功したのだ。


 ダンジョンコアを手に入れた当時の王は、それを使ってリースフィア王国を豊かな土地にすることに成功したのだ。


 ただ、どうやってそれを行ったのかは全くの不明で詳細な記録は一つも残っていない。


 現実として、リースフィア王国の土地は改善され実り豊かな土地に変化したのだ。


 その後、各国ではそれに便乗するようにダンジョン攻略を始める国や、ダンジョンコアの秘密を探ろうとする国がでたがどれも成功した記録は残っていない。


 だが、ダンジョン攻略にはデメリットもある。


 ダンジョンを攻略すると、ダンジョン内の魔素がなくなるのでどんどんダンジョンは小さくなって消滅するのだが、ダンジョンは異空間と考えられていて、地上には直接影響がない。


 しかし、ダンジョン内の魔物は別だ。


 通常はダンジョンから魔物は出てくることはないのだが、ダンジョンコアがなくなるとダンジョンの崩壊を察知した魔物が出てくるのだ。


 なのでダンジョンの攻略には魔物の対処も含まれる。


 そして今回、またリースフィア王国がダンジョン攻略に成功したことが世界に周知された。


 成功したのはリースフィア王国の騎士団と、聖教国をホームとするAランク冒険者パーティー『自由の翼』、その他いくつかの冒険者パーティーの混成部隊だ。


 リースフィア王国に潜入していたサキュバスさんによると、各階層を騎士団と冒険者パーティーで制圧し、最高戦力である自由の翼が階層主、ボスといわれるモンスターを撃破していったそうだ。


 なので魔物の氾濫はほぼなし、最高の状態で二つ目のダンジョンコアがリースフィア王国にもたらされたことになる。


 ダンジョンコアは個人が所持することは各国で禁止されていて、必ずダンジョンがあった国が買いとるというルールが存在する。


 攻略者が他国に売りに行かないように莫大な金額が一律で決められており、さらには国の発展に最高レベルで貢献したとみなされ貴族位も望むなら与えられる。


 俺がそれを聞いたのは、カース大陸、魔王城でおやつをリルとセリスと一緒にむさぼっているときだった。


 今の俺は自由ではある、魔王城でお世話になっているというかちゃんと帰って来いよって感じ。


 説明が難しいのだが・・・魔王様と敵対したことにより魔王軍の捕虜?的な位置づけになっているのだが、特に自由が奪われるわけでもなく、監禁軟禁されるわけでもなく・・・まあほぼ今までと変わらないのだ。


 一時期は部屋が牢屋だったのだが、今は普通の魔王城にあるゲストルームとでも言うような前に使っていた部屋に戻されている。


 なぜ牢に入れているやつにこちらから食事を持っていく必要があるのか、食事が欲しければ自分からくるのが筋だろう、という意味の分からん魔王様の一言でそうなった。


 お菓子をパクつきながら、エヴァさんに話しかける。


「確かに一国がダンジョンコアを所有、しかも二個目ですから魔族側としては危機感はあると思いますが、リースフィア王国なら他国に譲渡なんてしないと思いますし、さらに国を繁栄させるために使うのではないですか?」


「それはそうなんですが、私たちが懸念しているのは自由の翼がそこに絡んでいることなのです」


 自由の翼か・・・ゴブリン殲滅戦にもリーダーのハイライトと聖女様が何故かいたのは不思議だったけど、リースフィア王国に向かう途中だったのかな。


 自由の翼は魔族と完全に敵対している聖教国を中心に活動しているパーティーだが、あくまでも冒険者であって国に仕えているわけではない。


 それにゴブリン殲滅戦の時は二人だった、俺の記憶が正しければ魔族との戦争のときの大怪我で活動を休止していたはずだ。


 本来は男一人と女三人のハーレムパーティーで、それに対するやっかみはあっても周りからの信頼は厚いパーティーであると聞いている。


「自由の翼が聖教国の思惑で動いているってことですか?」


「その可能性は否定できないと考えています。リースフィア王国にもホームとして活動している高ランクの冒険者がいるはずで、調査した者の報告によると何故か自由の翼を軸としてそれに従うというのが国の攻略方針でした」


 自国にも高ランクの冒険者がいるのに、何故か自由の翼を軸として国として攻略を行う・・・それだけ聞くと確かに違和感を感じる、だが単純に戦力的な問題という見方もできなくもないか・・・。


 いやそうか、戦力的な問題で自由の翼に任せるとしても、建前上は自国の冒険者やらを全面に押し出すのが国としては普通か、もしくは並べるように宣伝するだろう。


 それをしないことに引っかかりがあるのか。


 ダンジョンコアね・・・そういえばゴブリン殲滅戦の時のデカゴブリンから出てきたコアのなり損ないをアイテムボックスに入れたままだったな。


「ナイン様はこれからどうなさいますか?」


 エヴァさんが唐突に聞いてくる。


「俺?俺は・・・特に考えてませんでしたけど、今まで通りですかね。」


 特にこれと言ってやりたい事があるわけではなく、とりあえずはヘプナムの町と魔王城を行き来して、依頼と日向ぼっこの繰り返しだな。


「ではリースフィア王国に行ってみるのはどうでしょう?ダンジョンコアのお披露目など、お祭り騒ぎみたいですよ」


 にっこり笑ってエヴァさんが言ってくる。


 何それ?今、リアルタイムで何か国同士の思惑があるんじゃねーかみたいな話をしてたのに、そこに行けと?


「いや、流石にリースフィアは遠いですよ。今から行っても着く頃にはお祭り終わっちゃってると思いますし・・・」


 嫌な予感しかしないので、俺は断る。


 ダンジョン王国と言われるぐらいだし、豊穣を約束されている土地と言われてて一度は行ってみたいと思ってたけど、決して今じゃないと思うんだよ。


 コンコンコン


 部屋の扉がノックされ、エヴァさんが開けると魔王様が入ってきた。


 さらに嫌な予感が膨れ上がる。


「ナイン、体の調子はどうだ?」


「おかげさまで、もうどこも問題はないと思います。」


 魔王様はうんうん頷きながら空いている俺の隣のソファーに座る。


「それは良かった。ところでナインに少々お使いを頼みたいのだが」


「お使いですか?何か買ってくればいいのでしょうか?」


 俺にお使いか、それは別に構わないが・・・各地に散っている密偵に買ってきて貰えばいいんじゃないのかな?


 てか、自分で行けばいいのに。


 このタイミングでお使いって絶対ダンジョンコア関係のことでしょう?そうでしょう?


 俺がものすごく嫌そうな顔をしているのに魔王様は気がついているが、お願いをやめようとはしなかった。


「そう嫌そうな顔をするな。ちゃんと報酬だってあるのだぞ」


「報酬が出るお使いって時点で、お使いの度を超えているんじゃないかって思いますが・・・」


 魔王様は構わずこう続けた。


「ナインには、ダンジョンコアに接触してほしい」


 ダンジョンコアに接触?言ってる意味がわからないし、そもそもダンジョンコアに近づくことなんてできないでしょ。


 俺の頭は???で埋め尽くされていた。

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