第58話マリンの薬草採取
俺は魔王城での謹慎期間やらなんやらを終えて久しぶりにヘプナムの町にやってきた。
リルもセリスも魔王城で勉強に魔力制御にと頑張っているのに、俺だけ日向ぼっこに明け暮れているのはとても気まずかったのだ。
休日のお父さんの様な居た堪れなさを心から感じていた。
という事で何か依頼でもと思ったのだが気が乗らない、それは、天気が良すぎて昼寝日和だったからだ。
ちなみにペプナムの町の元魔窟調査は暗礁に乗り上げた、デカゴブリンがいたところから先がほとんど崩れていて進むことができなかったそうだ。
今は入口自体が封鎖されて誰も入れないようになっている。
「あれ、ナイン久しぶりだね!」
掲示板の前であーでもないこーでもないと依頼を選り好みしていると後ろから声がかけられる。
後ろを振り向くとマリンがいた。
マリン、 魔窟のゴブリン討伐で臨時パーティーを組んだ水魔法と短剣が得意な女の子だ。
年齢は俺より少し上の十三歳、黒髪黒目で黒いコート、青い髪留めで髪を纏めている人族で後衛として頑張ってくれた。
ゴブリン討伐で俺、サイモンと共にEランクに上がっている。
確か何かしらの都合でユリゲールの勧誘を断りソロで仕事をしていたはずだ。
「久しぶりだねマリン。元気にしてた?」
俺達は久々という事でギルドに隣接している酒場に行ってゴブリン討伐以降の話をする。
俺の方は王都での事情については話せないから観光に行って次いでに剣を作ってもらった話をした。
マリンは相変わらずEランクの討伐依頼と採取をしているそうだ、たまにユリゲールとサイモンのパーティー『二つの剣』に臨時で入ったりと冒険者している。
聞いているうちに自分が全然冒険者していないことに嫌でも気がついてちょっと落ち込む・・・。
「マリンは今日は依頼を受けにきたの?」
俺が何となく聞くとマリンは顔を曇らせて教えてくれた、マリンがパーティーを組まない理由を。
マリンはヘプナムの町の生まれでここに住んでいるそうだ、そして病気の母親の薬代を稼ぐ為に冒険者になったそう。
母親は珍しい病気で治療薬が中々売っていなく、冒険者でお金を稼ぎ、そのお金で依頼を出し冒険者に治療薬の原料となる薬草を取ってきてもらう、というのを繰り返している。
そんな理由があったのか・・・そりゃパーティー組みにくいよな、時間が限られすぎている。
「だから今日は依頼を出して、私も何か受けようと思ったの。」
最近お母さんの調子があまり良くないらしく、ちょっと無理してでも依頼を受けないと生活が厳しいそうだ。
それならちょうど暇を持て余している俺がその依頼受けれないかな?困っている女の子を助けるって異世界じゃある意味義務的な展開だし。
俺とマリンはある程度近況報告が終わるとマリンは依頼を出すために受け付けに、俺はその後はテクテクついていく。
「マリン、ナイン君こんにちは。二人が一緒なんて珍しいわね。ナイン君が珍しいだけかな」
そう言って俺たちをほほえましく見ているのはエンレンさんだ、マリンとはよく会うのかサクサクと処理をして依頼書の受付を完了させる。
俺がたまにしか依頼を受けないサボり魔みたいに言わないで欲しい、否定できないけど事情があるんですよ。
机に置いてある依頼表を横から背伸びして確認してみる。
『月光草』の採取依頼、難易度D・・・俺がEランクだから一つ上まで受けられるから俺でも行けるな。
「エンレンさん、この依頼俺が受けます。」
依頼表を掲示板に張られる前に俺が宣言しておく。
「えっ?いくらナインでも危険だよ。月光草は夜の東の森の奥じゃないと採取できないんだよ。ナインが強いのは知っているけど無理だよ」
慌ててマリンが注意してくれるけど俺はこの依頼をすると決めたのだ、パッと依頼表を机から取ると改めてエンレンさんに差し出す。
「いくらナイン君でもソロでは危険じゃないかしら・・・止める権利は私にはないけれど」
エンレンさんもちょっと心配そうに言ってくるが、俺はそれを無視して依頼書に勝手に名前を書く。
「冒険者は自己責任なので大丈夫です。」
俺が引かないのをわかったのかエンレンさんもマリンも苦笑しながら、そしてマリンは依頼書になぜか自分の名前も書いていく。
「じゃあ私も一緒に行く。一人だけじゃ行かせられないよ、私だってあれからさらに強くなったんだからね」
ここで俺とマリンの薬草採取の臨時パーティーができあがった、さあ仕事をしに行こう。
今はちょうど昼に差し掛かる時間帯、ヘプナムの町を出発した俺とマリンは東の森の入り口に到着していた。
「ナイン、東の森に来たことはある?」
マリンが短剣や魔法の威力、精度を上げる杖を準備をしながら俺に聞いてくる。
「いや、初めてきた。なんだかんだでここにくる用事がなかったから」
「それでよく依頼を受けようと思ったね・・・でもとても嬉しかったよ、ありがとう」
マリンが嬉しそうにそう言って頭を下げてきた。
「時間はあり余っているからさ、せっかく依頼を受けるなら知り合いの役に立つ依頼を優先したほうがいいでしょ」
俺もワンゴさんに作ってもらった魔力剣、その他には投げナイフ、短剣一本を腰につけて準備を整える。
「さて、突入しようか」
俺とマリンは東の森の奥、月光草を求めて森に突入した。
東の森は西の森と違ってそこかしこに魔物の気配がある、ここにも人型の魔物はほとんどいないそうで動物型の魔物が至る所に巣を作っているということだ。
「エア・ブレード」
俺は魔力剣を右手に持ち、ユニークスキルの魔力操作で作った風の剣を左手に持った二刀流で俺たちに襲い掛かってくる蝙蝠型の魔物ビッグバットを無双していた。
剣舞のように剣を振るだけで一匹、また一匹とビッグパットの群れがぽとぽと斬り裂かれて落ちていくのだ、とても気持ちいい、本来異世界転生ものはこうあってしかるべきだと俺は考える。
「バブル・クラウド」
「ウォーター・カッター」
バブル・クラウドは高圧縮した水の塊を複数作り自分の周りに浮遊させる中級魔法だ、浮遊している水に触れると斬り裂かれる
マリンはバブル・クラウドを使って自分の周りに寄ってくるビックバットを牽制し、ウォーター・カッターや短剣でビックバットを仕留めていく。
・・・あれ?マリンてこんな強かったっけ?戦い方がものすごくカッコいいんだけど、この戦い方ができるならEランクじゃトップレベルの強さじゃないかな。
「マリン、いつの間にそんな強くなったの?強すぎだと思うけど」
俺が気軽に話しかけると制御をミスったのか途端にバブル・クラウドの動きが鈍くなる。
「ダメ!今話しかけられると無理・・・きゃ!」
制御がギリギリだったみたいで俺が話しかけたせいで集中力が途切れて途端にグダグダになる、悪いことしたな・・・。
俺はすぐにマリンの傍にいるビッグバットを斬り捨てると戦闘をおえる。
「ごめんごめん、いやゴブリン討伐の時よりも格段に制御や動きが良くなっているからビックリしちゃったよ」
俺は尻餅をついているマリンに手を貸して起こしてあげる。
「ありがとう。結構頑張っているんだよ、でもナインだって前は風の剣?みたいなの使わなかったよね?自由の翼のハイライトさんみたい。」
俺たちは手を握ったまま恥ずかしそうに、でも誇らしそうにお互いを褒め合う。
「俺だって多少の修羅場はくぐってきたからね、結構頑張っているよ」
二人でお互いの成長を喜んでニコニコしながら森を進んでいく、マリンがこの調子ならある程度魔力に余裕ができてくれば薬草採取の依頼を出すんじゃなくてサイモンとユリゲールに頼んで一緒に採取するってこともできるのではないだろうか。
その後何度かの戦闘を繰り返したのち、おおよその月光草が生えている場所に到着した、ここからは周囲を探索して月光草を探さなきゃいけない。
ただ月光草は夜になると薄っすらと月の光を吸いこむように光るということなので魔法の光で辺りを明るくすることはできない。
日が落ちて周囲が暗くなり森の中とあってなかなか探索は難しい。
流石に夜の森の中は怖いのかマリンはずっと俺の傍から離れようとしない。
俺は索敵で周囲の気配を探ってみるが、魔物はほとんどいないし歩きながら周囲を見回せばそのうち発見できるだろう。
「ここから移動しながら月光草を探そう。俺が索敵が索敵しながら進むから魔物はある程度心配はいらない、マリンは月光草を探すのに集中してもらって大丈夫だよ」
マリンはコクリと頷くと先導している俺の手を握って周囲を見回しながら無言でついてくる。
「あそこが光っているような感じがする」
しばらく歩いたのち自信なさげにマリンが指をさして場所を教えてくれる。
「確かに光っている気がするな、行ってみよう」
周囲に魔物の気配はなし、俺とマリンはゆっくりと光る場所に近づいていくと淡く光る植物が生えている。
「鑑定」
月光草・・・月の光を魔力に変えて育っていく薬草、昼に余剰分の魔力を放出する。
「間違いない、月光草だ。」
俺が鑑定で確認してマリンにそう言うとマリンはすぐにその月光草を根を抜かずに茎の部分から折りとる。
「ありがとうナイン。一つあれば少しの間は薬が作れるよ。」
嬉しそうに言いながらマリンはアイテムボックスに丁寧に月光草を仕舞いこむ。
ふむ、一つで少しの間ってことはあればあるだけ良いのではないだろうか?
「せっかく来たんだから採れるだけ採って帰ろう、まだまだ時間はあるしどっちにしろすぐに森を抜けることはできないからね」
「ありがとうナイン。普通は一つ採ってきてもらうだけでもお金が結構かかるから助かるよ」
嬉しそうにマリンが微笑んでくれる、そんなに喜んでくれるとちょっとやる気が出てくるな。
俺たちはその後も魔物をなるべく回避して月光草を探し回り、時には何か珍しい薬草なども採取して森を歩き回った。
採取した月光草が三十を超えたときに俺たちは休憩をとり、焚火を作って休んでいるとだんだん周囲が明るくなってくる。
日が昇り始めたのだ、少しづつ明るくなってきたときにそれは近づいてきた。
俺の索敵にこっちにゆっくり近づいてくる魔物の気配を感知したのだ。
「マリン、こっちに近づいてくる魔物の気配を感知した、たぶんもうここにいることは把握されているはずだから戦闘になる、魔物の数は二匹。」
俺の声にすぐさまマリンは立ち上がると杖と短剣を準備する。
二十メートル・・・十五メートル・・・十メートルまで近づいてきたときに俺とマリンは頷き合ってまだ草木に隠れている魔物に同時に魔法を放つ。
「「ウォーター・カッター」」
俺とマリンの魔法は生い茂っている草を切り裂き二体いる魔物の一体に突き刺さる。
「ギャオオオォォ・・・!」
しっかり当たったのか魔物の一体の気配は叫び声とともにそこで止まり、もう一体は素早く俺に襲い掛かってくる。
俺は片手剣で襲い掛かってきた魔物の爪を受け流すと腹に蹴りを入れて引きはがす。
ガルム・・・狼型の魔物でありながらほとんど群れを作らず一匹か番で行動する、魔物のランクはDランクで特殊能力はないが動きが素早く目が二対ついているので視野も広く、奇襲が効きにくく逆に奇襲されて命を落とす冒険者がいる危険な魔物だ。
蹴りを入れられたガルムは空中で体勢を立て直すと俺とマリンと睨みあう。
そしてすぐにもう一頭のガルムが傷だらけの姿で歩いてくる、さっきのウォーター・カッターは当たって入るが見た目ほど深くはダメージが入ってないな・・・。
「こんなところにガルムがいるなんて初めて知りました・・・ナイン!動きが速いので気をつけてください」
マリンの言葉に二匹のガルムは唸るような声を出す。
「マリン!何とか一匹を引きつけてくれ、その間に俺が一匹仕留める」
「わかりました、気をつけて!」
俺たちは頷くとマリンはすぐさまバブル・クラウドとウォーター・カッターを使って傷のある一匹に牽制を仕掛ける。
注意がマリンに向いた隙に俺はもう一匹のガルムに斬り込んでいく、右手の片手剣をガルムが避けた瞬間に俺は左手にエア・ブレードを出現させる。
エア・ブレードの直撃をガルムは避けたが避けきれず前足の一本を斬り飛ばす、ちっ、避けられたか。
「ギャアアァァー!」
ガルムはバランスを崩して倒れ込むと苦痛の雄たけびを上げながら転げまわる。
「アイシクル・ランス」
すぐさま転げまわっているガルムに氷属性の放ち地面と胴体を氷漬けにして繋ぎ止める。
ちなみにリルの指導のおかげで俺も氷属性の魔法が少しだけ使えるようになったのだ。
一瞬動けなくなった隙を見逃さず俺はこっちを睨み付けている二対の目を無視するように首を斬り飛ばす。
血を吹きだす様子を無視してマリンの方を見ると互角の戦いが繰り広げられている。
マリンのバブル・クラウドでガルムは近づくとダメージ、離れるとウォーター・カッターが飛んでくるというマリン優勢な戦いだ。
マリンも俺がくると信用しているのか無理をせず持久戦の構えだ。
俺は見ててもいいかなって一瞬思ったが、マリンの制御がギリギリであるのを思い出し、マリンの魔法を避けたガルムの隙を突いて一撃で両断する。
「ありがとうナイン。何とか引きつけることができたよ」
さすがに一晩中歩き回ってガルムとの戦闘はキツかったか・・・ちょっと疲れたような表情をしている。
「いや、あのままでも行けそうかなって思ったけど、さすがに疲れるからね・・・よし、とっとと森を出よう」
俺はそう言うと二匹のガルムをアイテムボックスにしまい東の森を抜けるために二人で歩きだした。
町に帰った俺たちはマリンと二人で採取に行ったということで依頼料の半分だけを俺がもらい、そして東の森で狩った魔物を売却して大金をもらった。
特にガルムはDランクの魔物ではあるが内臓などが薬の原料になるため高額で売れたのだ、それを知っていればもっと丁寧に狩ったのに・・・。
それも二人で半分にしてお互いにっこりしながらマリンとは別れた。
久々に仕事したって感じだな。
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