第57話セリスの魔眼
謹慎という言葉を誰かご存じであろうか?
牢屋の中からこんにちは、ナインです。
俺は牢屋の中で反省中だ、いや、今までも牢屋が居住スペースだったんだけど、今は鍵がかかっている。
そう今は鍵がかかっている、今までは鍵なんてかかってなくて自由に出入りできる牢屋だったんだ、意味がわからないとは思うが・・・。
魔王の娘誘拐事件・・・あれは痛ましい事故だった、俺は連帯責任という形でそろそろ一週間ほどになるだろうか、牢屋に閉じ込められている。
とても暇だということで、石壁に丸く円と数字を書いてそこに魔力操作で作った短剣を投げつけるという所謂ダーツ的な遊びをして暇を潰している。
だんだん壁がボロボロになってきている事に気がついてしまったが、見なかったことにしようと思っている。
コンコンコン
「どうぞ、開いてないですけど。」
「失礼します」
俺が次の遊びを考えているとガチャリと音がなりセリスが入ってきた。
セリス・ツリーベル、銀髪銀目のツリーベル国王の実子で十二歳。
魔眼を持っているがなぜか制御ができず、暴走しないように俺と同じ封魔の腕輪で封印している。
そこら辺の理由で命を狙われることになり俺が牢屋に住んでいる理由、魔王様と敵対した理由の少女だ。
今は魔王様の保護というかたちで魔王城に住んでいて、リルと一緒に勉強をしながら魔眼を制御できるように頑張っている。
「ナイン、謹慎は終わりということです。なので少し訓練につき合ってもらうことはできるでしょうか?」
訓練か、セリスの訓練て魔眼の制御だと思うけど俺にできることなんかあるのかな?
「良いけど、俺にできることなんてあるのかな?」
「わかりませんが、魔王様がナインを連れて行けと言われましたので・・・」
魔王様が・・・という事はもしかして俺のユニークスキルのことバレてる?完全に理解はしてないだろうけど何かあるとは思われているのかな。
「わかった、じゃあ訓練に付き合うよ。」
「よろしくお願いしますね」
セリスは俺に近づいてくるとニコリと笑って手を繋いで一緒に牢屋を出ていく。
何でセリスは俺と手を繋ぎたがるんだろう、保護者的な、姉的なものだろうか?
セリスの服装は今日は青いピッタリとしたドレス、俺は薄緑色の村人みたいな服だから二人で手を繋いでいると俺がとても見窄らしく見える気がする・・・。
俺とセリスは牢屋を抜けると訓練場の方に歩いていく、たどり着いたのは前に俺が結界を壁ごと吹き飛ばした魔法用の訓練場だ。
円形に修復してある壁が痛々しい。
「ではナイン、お願いします」
「・・・」
俺とセリスは見つめ合う、そして同時に首をかしげる。
・・・何を?俺は何をすればいいの?なんか俺が悪いみたいな雰囲気になっているけど呼ばれただけで何していいかわからないんだけど。
よく考えろ、魔眼の制御がしたいわけだから封魔の腕輪を外せばいいんじゃないか?いや待てよ、ちょっと前に俺は結界ごと壁をぶち破っている、ここで魔眼が暴走したらまた同じことになるんじゃないか・・・罠だ・・・これは魔王様の罠なのではないか?
まずいな・・・疑心暗鬼に陥ってきた、セリスが俺をここに連れてきたのも何かしらの罠なんじゃないかとすら思えてきた。
「ファイア・ランス」
俺は壁に向かって魔法を放つ、壁に当たる直前に結界に触れるとファイア・ランスは弾けずに掻き消える。
俺は全力で魔力を込める。
「フレイム・ブレード」
俺の右手に煌々と光を放ち燃える炎の剣がゆっくり出来上がる、これは魔力操作で作れるようになった火属性魔法を変化させた剣だ。
俺は壁に近づくと全力で結界に炎の剣を叩きつける。
結界はフレイム・ブレードの魔力を吸いこんで拡散させるが炎の剣は勢いが弱くなったがまだ消えていない。
・・・結界に異常はないな、普通に作用しているからここで魔法を使っても問題はないと判断する・・・罠じゃないのか?
「ナイン・・・何をしているの?」
困ったような顔でセリスが困惑しているが、これはしょうがないことなんだ。
「うん、準備はできた、じゃあセリスの封魔の腕輪を外してみようか」
俺の言葉にセリスの顔が真剣になる。
「では、ナインは私の後ろに下がっていてください。絶対に私の視界に入らないようにしてくださいね」
俺はセリスの言葉に従い後ろに下がりセリスの真後ろに避難する。
セリスはゆっくりと深呼吸をすると目を閉じ、腕輪を外す・・・
これは凄いな、腕輪を外した途端セリスから大量の魔力がうねる様に飛び出してくる。
この量だと超級魔法とか使う時に制御する魔力量に匹敵するんじゃないかな、こんなのが勝手に出てくるんじゃそりゃ特殊な訓練受けた人じゃないと無理だわな。
「くっ・・・落ち着いて、ゆっくり一つ一つ制御する」
セリスの、背後からだと横顔が少し見えるだけだけどびっしょりと汗をかいている。
ギリギリのところで制御しているのか渦を巻くようにセリスから流れ出る魔力がだんだん荒々しくなってくる。
やってみるか・・・俺の魔力操作でセリスの暴れだそうとしている魔力を何とかする。
「セリス、そのまま制御しててくれ、肩に触れるぞ」
びっくりさせて制御が乱れないように一声かけると俺はセリスの肩に方手を置き、そこから魔力に干渉する。
これはかなりの魔力量だ・・・俺でも簡単には制御できない。
俺が必死に押さえて大体半分程度の魔力の制御を奪うことに成功する。
「ありがとうナイン、これなら制御できます。行きます。」
セリスからは汗が引いている、セリスは目を開くとこっちを向いてにっこり笑いかけてくる、セリスの目は魔眼が発動した影響か銀色の目が綺麗な金色に輝いている。
セリスは訓練場に置いてある的に目を向けると一瞬で的を破壊する、どうやら制御できているみたいだな、俺の方は結構キツいが魔力操作のいい訓練になりそうだ。
それから俺の限界が来るまで魔力の出力を上げたり下げたり抑え込んだりと暴走しないギリギリの線で訓練をした。
ただ、訓練後は封魔の腕輪をつけて強制的に魔力が封じられる反動でセリスが動けなくなってしまったが・・・。
それから二日程度でセリスは俺が協力しなくてもギリギリで魔力を暴走させなくなった、とは言っても汗びっしょりで魔力はそこら辺に広がった状態でキープできるってだけだが、だが最初のだんだん魔力の強さに負けていたときから考えるとかなりの進歩だと思う。
セリスは俺とこの訓練をする前は毎日他人の魔力を制御する訓練をリルとしていたということなので、努力が実ったということだろう、このまま続けていけば自由に魔眼を使うことができるようになるかもしれない。
俺の方もユニークスキルの魔力操作の熟練度が上がってきたのか一瞬で魔力で作った属性剣を出すことができるようになっている、この訓練はお互いにかなり有効だということでそれから数日は一緒に訓練していた。
それからしばらくして俺は魔王様に呼び出された、執務室ではなく私室にこいということだ。
コンコンコン
「入れ」
俺が魔王様の私室をノックするとすぐに返事があり、俺は魔王様の私室に入っていく。
私室には魔王様だけでお付きのメイドが一人もいない、このパターンはちょっと真面目な話な気がする。
俺は何を話されても良いように気を引き締めて魔王様が座っているソファーの向かい側に座る。
「呼び出してすまんな、訓練に忙しかったか?」
魔王様はリラックスした感じで肘掛けに体重をかけてゆっくたりとお茶を飲んでいる。
「いえ、大丈夫です。ここのところ毎日訓練してましたからね。封魔の腕輪の付け外しは身体に負担がかかるので休みの日を入れたほうがいいと思ってたんで、ちょうど良かったです」
「そうか・・・用というのはな、セリスの魔眼のことだ。なぜ魔眼ごときを魔族が追っていたか、という話をナインにも知っておいてもらおうと思ってな」
それか、確かにおかしいとは思っていた、セリスの魔眼の力を俺はここに来て初めて見たが確かに驚愕する力ではあった、だが魔族が追うほどの物とは思えなかった。
だが現実的に魔族はセリスを狙ってきた、はぐれ魔族さえも。
「何かあるのでしょうか?俺も見ましたが、魔王様が追う必要のあるものとは思えません、それなら最上位の冒険者のほうが厄介だと思いますが・・・」
「セリスの魔眼は特殊でな、『破滅眼』と言われている非常に強力な、魔眼であって魔眼ではないものだ」
破滅眼・・・聞いたことないな、そもそも魔眼持ち自体が稀だし魔眼であって魔眼ではないか・・・。
「わかりやすく言うと、ユニークスキルの魔眼であるということだ」
ユニークスキルの魔眼!魔王様の言いたいことはわかった。
本来魔眼は普通のスキルである、目がどうこうではなくスキルなのだ、目で見たものを破壊、人に使えば精神にダメージを与えるなど持ち主によって効果も強さも違うとされている。
だがユニークスキルの魔眼ともなると話は変わってくる。
例に出すと魔力操作はただの魔力の制御をしやすくなるスキルで制御の難しい魔法の制御を安易にするだけのものだ、だがユニークスキルの魔力操作は根本的に効果が変わる。
相手の魔力制御を奪いとれる、魔法の形を根本から変えるなど完全に別スキルに変貌する。
セリスの魔眼、破滅眼は普通の魔眼とは全く異なる性質を持っているということだろう、それが魔族側には伝わっていて人族側には伝わっていない。
「アース大陸とカース大陸が海で隔てられていることは知っているな?あれは昔の魔王が破滅眼でその中間にあった大陸もろとも消滅させたからだ、なぜ消滅させたかはわからんがな。元は陸続きであったと記録されている、その魔王はそれで力を使いきって亡くなったとされているな、故に破滅眼。」
魔王様は面白くなさそうに、何でもないことのように教えてくれた。
言っている意味がわからない・・・大陸を消滅させるほどの力、使い方を誤ると自滅。
俺は魔王様の言葉をしっかり理解するまでに少しの時間がかかった、だがこれでようやく理解した、セリスが制御できないほどの強力すぎる魔眼、戦争に使われでもしようなら大陸ごと消滅させる危険のある魔眼、そりゃ魔族もセリスを狙ってくるわ。
「セリスにはもう伝えてある。今は必死に制御しようと頑張っておるな」
「はい、やっと理解しました。」
「これをあの時に知っていたらナインはどうした?」
魔王様も嫌な質問してくるな、まあ俺の答えは変わらないけどね。
「知っていてもセリスにつきましたよ。言ったと思いますが、俺の昔いたところでは子供は大事にされるんですよ」
俺はにっこり笑って真剣な目で魔王様を見つめる。
「そうか、ナインはナインということか」
魔王様は目をつぶるとそれで話が終わってしまった、少しの沈黙の後、メイドさんがきて俺は魔王様の私室を後にした。
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