第36話王都動乱5
馬車にガタゴト揺られて王都の大通りを進んでいく。
王都の大通りを馬車に乗って進んでいくのも中々できることじゃないからな、これはこれでちょっと面白いかもしれない。
俺は馬車の中から、王都の街並みを眺めている。
馬車の中には俺、セリスさん、そして長い黒髪を邪魔にならないように後ろでまとめ、日本人のような顔つきのメイドのキアリスさんの三人で座っている。
ただ二人とも何も喋らないのでちょっと気まずい。
お礼とお詫びだってことなら気を使って話題を振るものじゃないのかね。
とりあえずはナイフを返しちゃった方が良いよな。
「セリスさん。とりあえず売れなかったのでこのナイフはお返ししますね」
俺はアイテムボックスからナイフを取り出して差し出す。
「本当に売ろうとしたのですか!?」
メイドのキアリスさんが呆れたような目で見てくる・・・。
だってしょうがないじゃないか、知らなかったんだもん。
てか、そんな呆れたような顔で見ないでほしい、俺からするとそんな大事なナイフを初対面の人に渡す方がおかしいんだよ。
「キアリス。私が悪いの、私が売っていいって言ったんだもの」
苦笑しながらセリスさんが嗜める、だが一向にナイフを受け取ろうとしない。
「売れないなら俺には必要のない物なのでお返ししようと思うんですが。」
俺がさらにナイフを差し出すがセリスさんは全くナイフに視線を向けない。
「わかりました。ただ、そのお話は屋敷についてから、ゆっくりとしましょう」
にっこり笑って受け取らない、これは返却不可だと言われているようなものだよな。
俺は渋々ナイフを引っ込めてアイテムボックスにしまう。
そんなことをしているうちに貴族門を抜けていく。
すっごい簡単に抜けていったんだが・・・俺どこに連れていかれるんだ?
貴族門の中は平民街とは違い、ほとんど店がなく貴族のお屋敷が占領している、なので貴族街と言われている。
たまにあるお店は平民じゃ気後れして入れないだろうと思われる煌びやかさだ。
その貴族街を馬車がどんどん進んでいく。
歩いているのは警備をしているであろう冒険者や兵士だけ、貴族と思われる人は全く姿を見せず、たまに豪華な馬車とすれ違うのみだ。
しばらくいくと貴族街の端のほうに到着し開けた場所に出る。
開発が進んでいないのか、少し遠くに一軒の小さいお屋敷があるだけでその周辺には土地だけが存在し、建物は立っていない。
建設予定地ってのがイメージしやすいだろうか。
ここまで来たら予想通りというか、その一軒だけ離れて存在する屋敷に向けて馬車が進んでいった。
屋敷に到着すると、セリスさんに手を引かれてお屋敷に入り客間に通される。
客観的に見ると子供同士で手を繋いで微笑ましい光景に見えるだろう、誠に遺憾ながら姉と弟って感じで。
ただ現実は違う、逃さないように手を繋がれているのだ。
さすがにここまで来たら逃げないんだけどな。
だが、貴族街にあるのだから貴族なんだろうと思うが家名を名乗らないし・・・小さくともお屋敷なのだけど、使用人が出てこない。。
いるのはメイドのキアリスさんだけだ。
屋敷の主、もしくはその御令嬢が帰宅したのに使用人が出てこないのに不自然さを感じたけど、他人の家のことだからな。
俺が詮索することじゃない。
客間のソファーに座り、セリスさんと向かい合う。
キアリスさんが紅茶を出し終え一口飲んだ時に、セリスさんが口を開く。
「Eランク冒険者ナイン。強引に連れてきてしまって申し訳ありませんでした。これは私なりの・・・賭けだったのです。」
賭けね、どんな賭けか全然わからんし話についていけないんだけど。
「内容はわかりませんが、それで賭けは勝ったのですか?」
「わかりません。ただナインが来てくれたおかげで、何とかなるかもしれません」
これ確実に何かに巻き込まれたの確定だよな、意味わかんないんだけど。
「何のことだか全くわかりません。俺が関わっている、いや、俺を巻き込んだのなら詳しく話してください。」
彼女は俺の言葉に頷いて、腕を捲る。
そこには封魔の腕輪がはめられていた。
封魔の腕輪、本来は罪人などの抵抗を防ぐための物で、魔法、ある程度のスキルを使えなくするものだ。
普通の人、それも貴族がつけるような物ではない。
しかも流通している劣化版ではなく、俺がつけているものと同じ効果の高い複製できない高額のものだ。
それをつける理由、それは俺みたいに魔力回路と魔力器がぶっ壊れて劣化版では抑えられないような、普通とは違う状態。
彼女にも何かあるというのか?セバンスの顔と人工勇者という言葉が脳内にチラつく。
「それは、封魔の腕輪、ですね。しかも劣化版ではない。」
「そうです。・・・私は、制御できない・・・魔眼をもっているのです。」
セリスさんはは悲しそうな顔を俯かせる。
魔眼持ちか、会うのは初めてだが聞いたことがある。
極稀に発生するスキルで、確認されているのは人種のみだ。
別に目が特殊なわけじゃない。
スキルの影響で目で見たものに対して物理的、精神的な何かをあたえると言われている。
破壊であったり、やる気を萎えさせたりと・・・ただ極稀に発生するスキルであり、その全容は解明されていない。
なぜか?魔眼は恐れられるからだ。
目で見ただけで何かができるスキル、顔を合わせるだけで怖いと思うのは当然だろう。
なので魔眼持ちはそれを隠すと言われている。
ただ使わなければいいだけだから、隠すのはものすごく簡単で、誰にも知られずに生きていくことができる。
だが、制御ができないというのは問題だ。
見る物全て、自分の意思に関わらず破壊しつくす。
だから封魔の腕輪で完全に封印しているのだろう。
「五歳の時に魔眼が発現し、初めは何も問題ありませんでした。ただ年々力が強くなっていき制御が難しくなり、私の力は危険視されるようになってきました。そして、この家の周りを見たでしょう?私の魔眼が暴走して、一帯を破壊しました。幸いなことに、人的被害はありませんでしたが、それから私はここで封魔の腕輪をはめて生活しているのです」
それで生活ができているなら問題ないのではないかな。
封魔の腕輪をつけていれば、大丈夫なわけだし、魔力を使って何かできないのがちょっと不便てだけだ。
「ただ、先ほどもいったように私の力は危険視されています。今までは何とかなったのですが、先の貴族の粛清でそれが怪しくなってきました。」
貴族の粛清ね、ヘプナムの町の領主であるグライアン伯爵が行った奴隷の一部開放政策からの余波だな。
「私は、王の温情で生かされています。そして王城内の権力争いが激化しています、それに乗じて私を危険視する者たちが私を排除しようと動きだしました。ただ殺すのではなく、事故死を偽装して。」
王の判断で生かしている人間を、殺害なんてしたら大変なことになるもんな。
国家反逆罪にでもなるのかな、事故死ならしかたないと。
「貴族の粛清で現在王城内は各種派閥が入り乱れ、混沌としています。私の見立てではそれが納まるまで約一か月。その間の護衛としてナインを雇いたいのです。権力争いが収まれば、後は自分で何とかできると考えています」
「それなら俺じゃなくても、もっといい冒険者がいるはずですが・・・馬車の時の鉄壁の剣は?」
「私は王国内では有名な魔眼持ち、その護衛なんて誰も受けてはくれませんでした。先日、ナインと会ったのも別の町に護衛を探しに行ったのです。彼らも町の移動だけならということで何とか依頼を受けてくれたのです」
そういうことか。
魔眼持ち、しかも貴族派閥から命を狙われている、普通の冒険者が引き受けるにはリスクが高すぎる。
「そしてあなたに出会いました。Eランク冒険者で、一人で盗賊のアジトに乗りこもうとするような人なんていませんから。ここからが賭けでした。このナイフを渡して、無事に戻ってこれたら、王都に来てくれたら、ナイフを売ろうとすると私に連絡がくるようにしていたのです」
ああ、だから冒険者ギルドに来たのか、まんまとのせられたって感じだな。
確かに賭けだよな、俺が王都に行くのかもわからないし、盗賊のアジトで死ぬかもしれない。
王都に来ても事情を知っていれば断る可能性も高い、彼女にとっては自分の命を賭けた賭け。
「少しだけ考えさせてくれないか?正直、俺の手に余る気がする。」
「わかりました。それでは今日はこの屋敷にお泊まりください。部屋を用意させます。今から宿を取るのも大変でしょうから。」
そこで話を一旦終わりにする。
セリスさんが使用人を呼び出すためのベルを鳴らすと、メイドさんがやってくる。
見かけなかったけど、いるにはいるんだな。
俺はそのメイドさんに案内されて用意された部屋へと連れて行かれる。
部屋に入った俺はゴロッとベッドに横になる。
一度整理して考えよう。
セリスさんは魔眼の暴走で、貴族街の一角を破壊したが王の温情で生かされている。
だが貴族の粛清から権力争いが起こり、その隙をついてセリスさんを事故死に見せかけて殺害しようとする者たちがいる。
護衛を雇いたいが暴走魔眼持ちの彼女、しかも貴族から狙われている可能性が高い。
王都では護衛が見つからず、別の町まで護衛を探しに行った帰りに俺と出会う。
気になることはいくつかある。
貴族街に住んでて家名を名乗らない、いや、名乗れないこと。
そんなことあるものだろうか?たぶん貴族の子供なんだろうけど、家名は名乗れないが、貴族街に屋敷を与えられ、そこに住んでいる。
よくある妾の子供を離れに住まわすって事なのかな?
魔眼が危険視されて、本当に離れたところに住まわせてるだけとか。
それに制御できない魔眼が危険視されるのはわかるが、事故死を装って殺害しようとするほどの何かがあるのだろうか?
わからないことだらけで、俺はそこで目を閉じた。
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