第37話王都動乱6

 俺は護衛依頼を受けることにした。


 正直な話、乗り気はしなかったのだが護衛内容がそこまで大変ではなかったからだ。


 一日の護衛は基本的に学園内とその行き帰りのみということだった。


 夜はどうするのか?って話になったが、基本的にはキアリスさんが屋敷の警護をするということだった。


 キアリスさんは護衛兼メイドということらしくいくつか制約があって学園内には立ち入りを許可されていないということだ。


 なので俺の仕事は学園内とその行き帰りにセリスさんを守っていればいいということになる。


 それにこれまであった事故死に見せかけるための偽装も、まあそういうのはあるよねってものだった。


 学園の屋上から物が降ってくる、校庭での魔法の実習中にどこからか威力の高い魔法が飛んでくる、徒歩での帰宅中に馬車が突っ込んでくるなど。


 問題はそれが偶然やセリスの思いこみでなければ、学園の中にまで入りこまれているってことかな。


 今まで一度もなかった命の危機がこの数週間で何度も起こればもうそれは偶然ではないのだろう。


 それに人が極端にいない場所ではそういうことは起こらない。


 たぶん事故死であるという複数の証人を必要としていると考えられる、そこはセリスも同意見だ。


 だから学園に入れる俺が昼間の護衛、キアリスさんは念のため夜間の屋敷での護衛ということになっている。


 ということを考えながら現実逃避する。


 俺は、今スーツを着させられている、さっきは貴族服だった。


 学園の護衛用として装備を変えようと言われたのだ、初心者Aセット装備だと舐められかねない。


 普段は別にいいけど護衛というのは見た目で近寄らせないというのも必要だと言われたんだ。


 俺はその時は、確かになって納得したんだが、よくよく考えてみると所詮は十才の子供だ。


 初心者装備なら見習いに見えるから微笑ましい、ちょっと良い物を装備すれば、それはそれで背伸びしちゃってる感が出て微笑ましいのではないだろうか?


 結論としてどっちも変わらない、と俺の中ではなったのだがもう遅かった、セリスが服屋を呼んでしまったので着せ替え人形になっている。


 でもこれ防具じゃなくて普通の服なんだけどな。


 まあ装備を変えようと言われただけで防具を変えようとは言われてないことに着せ替えが始まってから気がついたよ。


 服だって装備の一部なのである程度は納得しているが防具つけられないような服は着る必要性を感じない。


 かれこれ二時間ほど着せ替えを楽しまれたのちに決定したのがスーツだった、それ二番目に着たやつ・・・。


 鏡で自分を見てみるがどう見ても護衛には見えない、黒いスラックスに黒いジャケット、白いワイシャツ、そして赤い蝶ネクタイ。


 俺がこれを見たことあるのは、テレビでやってた子供のピアノの発表会だったか、動画で子供がすごい曲をピアノで弾くヤツだったか、どちらにしてもピアノの前に座っている姿しか想像できない・・・。


「ナインは顔つきがキリッとしているからこれが一番似合うと思うわ」


「そうですねセリス様。いつもの服装だと、ちょっと弱そうに見えてしまいますからね。こちらの方がカッコよく見えます」


 セリスとキアリスさんが俺の姿を見てそう評価しているが・・・初心者装備が弱そうに見えるのはちょっとショックではあるものの、カッコいいと、強そうに見える、が両立してくれないと意味がないんじゃ。


「服を用意してくれたのはありがたいけど、元々、見た目で威圧するってコンセプトだったのにスーツじゃ威圧できないと思うのは俺だけでしょうか?」


「違うわ。確かに見た目で武威を示すことはできないでしょうけど、しっかりした服を着ている人には下手な対応をとれないというのがここの常識よ。皮鎧を着た子供の冒険者見習いっぽいのと、スーツを着た上品な子供、見下されてしまうのはどちらかしら?」


 セリスが鏡越しにそう答えてくる。


 そっちか・・・スーツを着たセールスマンと、私服のセールスマン、どっちがTPOとして正しいのかって話だな。


「でも蝶ネクタイは、俺の中では子供か芸人さんのイメージがあるのでこれは外しますね。」


 俺は蝶ネクタイを外し、ワイシャツもズボンから出してボタンも上二つは外す。


「そこまで崩してしまうと、ほとんど意味がないですよ」


「何の意味かはわかりませんが、絡んでくるヤツは問答無用でボコボコにするから問題ありません」


 俺は渋るセリスにめんどくさそうに答えると、その状態で皮ベルトを腰に巻いて剣をつけ、アイテムボックスも腰につける。


 それ以外の装備品はセリスが強制的にクリーニングに出してくれた。


 腕につけている指輪と腕輪を隠している肘ぐらいまである指だしグローブ、通称オタクグローブは外すのは頑なに拒否した。


 これらはできるだけ見せたくない。


 ちなみにセリスとは呼び捨てで呼び合うことになった、子供同士だから細かいことは気にせずってことで。


「さて、服も終わったし、ちょっと出かけてきてもいいかな?依頼は明日からですし、屋敷にいるなら特に護衛は必要ないですよね?」


「何か用があるのですか?必要なものならこちらで用意しますが・・・」


「自分の身体に合った剣が欲しくて、作ってもらえるところを探しに行こうかと」


 俺が普段使っている片手剣は、盗賊から奪ったものだ。


 結構良いものだったが、ゴブリンの大量討伐でガタがきて今は他の量産品や短剣を使っている。


 ただ子供用に作られていないのでサイズは合わないし、魔力を通すとボロボロになってすぐダメになる。


 なので今回俺が欲しいものは、自分の身体に合った片手剣かつ魔力を通せるものだ。


 俺がそう説明すると、キアリスさんが一枚の紹介状をくれた。


「普通に訪れても子供では相手にされないでしょう。これがあれば話ぐらいは聞いてもらえるかもしれません。」


「ありがとうございます。とても助かります」


 紹介状をアイテムボックスにしまうと俺は屋敷を出た。


 屋敷を出た俺は周囲を見ながら歩きだす、道はしっかり舗装というか石畳があり馬車で通るのは問題ない。


 ただそれ以外の場所は建設予定地のように広範囲にわたって何もなく普通に土が見えている、どれぐらい放置されているかはわからないが雑草なども生えてきているからかなりの期間手が入っていないのだろう。


 ここの土地は元から開けたスペースで魔眼の力の試験用に使っていた土地だそうだ、なので魔眼で破壊したといっても貴族屋敷などを全て破壊して真っ平らにしたわけではない。


 少し歩くと貴族の屋敷が立ち並ぶ貴族街に入っていく。


 ここまで来ると、大きな屋敷から女性の笑い声や、パーティーでもしているのか馬車が頻繁に行き来を繰り返す屋敷などが出てくる。


 そう思い呑気に歩いていると声をかけられる。


「君、止まってください。ここで君は何をしているのですか?」


 警備をしているのだろう。


 兵士に呼び止められたが、俺がスーツを着崩してさらに剣を持っているのを見て戸惑った顔をしている。


「俺は・・・護衛で雇われた冒険者です。」


 そう言うと俺はギルドプレートと身分証のナイフを兵士に見せる。


「その年でEランク?いやでもこのプレートは本物だ。そしてこのナイフも本物だ・・・」


「俺はEランク冒険者のナインと言います。これからはここを通ることがあると思います。なのでよろしくお願いします」


 俺はペコリと頭を下げる。


「そうか、呼び止めて悪かったな。警備の方にも伝えておくから数日もすれば呼び止められることもなくなるだろう。」


「ありがとうございます。では俺は用があるので失礼します」


 話のわかる兵士さんたちでよかった。


 それからは呼び止められること二回あったが、身分証のナイフと冒険者プレートですんなり回避することができた。


 貴族門もギルドプレートとナイフですんなり通ることができた。


 俺は平民街に出るとキアリスさんにもらった紹介状の住所に向かう、場所は王都の南側にある職人街と言われているところだ。


 そこには店舗ではなく、物づくりの職人や工場が集まっているらしい。


 なぜ俺が王都で剣を作ろうと思ったのか?


 それは帝国が人工勇者を作っているように、王国では聖剣作りをしているからだ。


 勇者に持たせる聖剣。


 聖剣と言っても単に強力な魔力剣であって聖なる力がどうとか、魔族に対して特攻があるというわけではない。


 もちろんその聖剣を作っている人が俺の剣を作ってくれるわけではないが、腕がある職人やそれを専門とするドワーフがこのツリーベル王国に集まってくるので武器を作る技術は各国の中でも抜きんでている。


 普通の魔力剣ならミスリルを使って作ればいいのだが、そこに魔物の魔石を加えることでさらに強力な魔力剣が出来上がる。


 俺は深羅の森で狩ったBランクのオーガの魔石を持っているのでかなり良い剣が期待できるのだ。


 俺はちょっとわくわくしながら紹介してもらった工房を探す。


 職人街は大きな工場や倉庫が多く、一度道を間違うと戻るのにもかなり苦労する。


 軽く迷いながらも何とか裏道を抜けた先にその工房はあった。


 紹介してもらった工房『ワンゴ武器店』だ。


 キアリスさんいわく、ドワーフが経営しており繁盛はしてないが腕は確かだということだ。キアリスさんもここで武器を作ってもらったのだとか。


 俺は店の扉をくぐると、そこには多くの武器が並んでいた。


「いらっしゃい。子供とは珍しいな、子供がくるところじゃないんだが・・・」


 そう言って、俺を見てきたのは、ひげ面のドワーフだった。

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