第23話仄暗い闇の中で2

 早めにギルドに報告をしたほうがいい。


 俺は多くても二十匹程度の群れを予想していたのだが規模が予想を遥かに上回っていた、あの数のゴブリンがちゃんと武器を持っていると軍隊に匹敵する。


 なぜ今まであんな規模のゴブリンの群れが発見できなかったのか?


 たぶん西の森は初心者でも難しくない狩場だから、冒険者には旨味がなく少し狩って自信をつけて東の森をメインにする人が多いというのが一つの理由としてあげられるだろう。


 俺も西の森に入ったのは今回で三度目だ、一度目は魔法陣の設置、二度目はセバンスの呼び出し。


 その間一人の冒険者にも会っていないし西の森に向かっているのを見たことがない。


 まあだからこそ俺も転移魔法陣の設置場所の候補を遺跡跡に選んだし、セバンスも人目がないのをわかっていて呼び出したのだろう。


 俺は急いで町の門を潜り冒険者ギルドに入ったところで俺は固まった。


 時刻は夜があけて早朝、冒険者ギルド内はものすごい混んでいた。


 十人いる受付嬢のいる受付には行列ができ依頼掲示板の前では怒声が飛び交っている。


 それを仲裁する男性のギルド職員、それに目をくれず依頼を探してる人達。


 殴り合いにならないのが不思議なくらいだ。


 超怖いんですけど・・・。


「入り口に突っ立ってんな!邪魔だガキッ!」


 入り口で呆けていると俺は入ってきた厳ついおっさんに突き飛ばされそうになるが、そこは華麗に回避する。


 ふはははは、いくらなんでもその程度の腕で俺に不意打ちできるとは思うなよ。


 逆に俺を突き飛ばそうとしたおっさんが体勢を崩してタタラを踏む、そのまま俺は壁際によって道を空ける。


 おっさんはいかにもって感じの皮鎧を着た見た目でわかる感じの粗暴な冒険者風だ、わかりやすくいうとモブである。


 俺に華麗に回避されたのがプライドを傷つけたのか顔を真っ赤にして俺を睨み付ける。


 俺も壁によりかかりながらおっさんを睨みつける。


 一触即発の緊張が俺とおっさんに走った時、おっさんのパーティーメンバーだろうか、さらにどこから見てもモブという感じのおっさんが二人入ってくる。


「どうした、ザック?出遅れてるんだから早くしないと依頼がなくなるぞ。ガキにかまってる暇はない。」


「チッ!」


 モブその二が足早に依頼掲示板に向かいながらザックと言われたおっさんに言葉を発すると、ザックとモブ二と一緒に入ってきたモブ三と一緒に舌打ちしながら着いて行く。


 混んでいる時間帯に入口に突っ立ってた俺も悪いが子供相手に大人げないな、ここのギルドにはそこそこいるが子供に突っかかってくる冒険者は初だ。


 突っ立っててもしょうがないので隣接している酒場で座って待つことにした俺は、ギルドプレートを提示して軽めの朝食を頼んでゆっくり食べる。


 ぼんやりと朝のラッシュを眺めていると、日本も異世界も朝が忙しいのは変わらないんだなとしみじみ思う。


 一時間ほどでラッシュが終わり受付が空いてきたのでエンレンさんのところに並ぶ。


 俺みたいな若いというか幼い冒険者は全くいないから珍しいのだろう、前後左右に並んでる冒険者たちにちらちら見られる、とても居心地が悪い。


 見習いは基本的にはこの朝の時間を避けるように言われていて、この時間にいることはほぼないからな。


 俺の番になるとエンレンさんに地図を渡し報告する。


「ゴブリンの巣の報告に来ました。場所は地図に書いておきました。武器は剣、棍棒、弓、長い棒。一部のゴブリンは皮鎧も装備しています。規模は確認できただけでも百匹以上です。」


 俺が報告するとエンレンさんは目を見開く、周りにいた冒険者たちも俺の報告が聞こえていたのかざわつく。


「こんなに・・・本当なの?ナイン君。疑うわけじゃないけど、見間違いってことはない?」


 ちょっと戸惑い顔のエンレンさんが首をかしげて聞いてくる。


「見間違いじゃないです。これは本当です」


「おいガキ!本当にゴブリンが百匹もいたのか?どうやって数えたんだよ?自分を大きく見せようとして数盛ってんだろ。虚偽の報告は罰金ものだぞ。正直に言ってみろ。」


 俺の後ろにいた冒険者が飽きれた顔して茶々を入れてくる。


 ああ、これもよくあるパターンだな、新人冒険者が予想外の成果を上げたり報告をすると何故か誰からも信用されないやつ。


「ゴブリン百匹にこの装備だとレア個体が出ている可能性がある。結構大事だぞ。本当にこれでいいのか?後で間違いでしたで済むことじゃないぞ」


 さらに横で依頼書を出していた冒険者も突っ込んでくる。


 う~ん、誰も信じてくれない・・・仕方がないことなのかな、日本だって子供が何か言っても半信半疑って感じはあるもんな。


 でも、おすすめされた仕事をして信じてもらえないって・・・。


 どう説明しようかと俺が黙っていると。


「わかりました。私はナイン君を信じます。これはギルドマスターに報告しなければいけない事態です。これが本当なら一パーティーではなく複数のパーティーでの討伐依頼が出ることになります。」


 エンレンさんが真面目な顔して周りの冒険者に聞こえるように言ってくれた。


「じゃあこれで依頼達成ということでいいですか?」


「はい。大丈夫だよ、ナイン君、私は信じるしギルドマスターも疑わないんじゃないかな」


 そういうとエンレンさんは俺に笑顔で報酬の入った革袋を渡すと、裏にいる男性ギルド職員に俺が出した報告書を渡す。


 俺はエンレンさんにお礼を言うとすぐに冒険者ギルドを出ていく、他の冒険者の疑うような視線がとても嫌なものだったからだ。


 一応の依頼は達成できた、モヤッとする結果ではあったけど少しすればみんな理解してくれると思うから今はこれでいい。


 新人冒険者の中には依頼をちょっと盛って報告し、目立ちたがる冒険者がいるって事は知っている、ただそれをやって嘘だとバレるとギルドの中での信用度が下がって護衛依頼などが受けられなくなる。


 これは冒険者としては異質な考え方かもしれないが、俺はそこそこの依頼を受けて、そこそこのお金を稼いで、そこそこの生活ができればいいのだ、目立とうとは思っていない。


 夜通し森の中にいて冒険者ギルドでも報告に疑問を持たれて気分が落ちこんでいる俺は、すぐに宿に行って睡眠をとることにした、起きたときには事態は進んでいるだろう。



 たっぷり睡眠をとった翌日、あまり気が乗らないながらも冒険者ギルドに行くとゴブリン討伐の緊急依頼が出ていた。


 依頼のランクはD、受注可能ランクはEランク以上、俺は受けられないので依頼掲示板にいき何かないかと依頼を探す。


 すると俺を発見したエンレンさんが俺のところに走り寄ってくる。


「ちょうどいいところに来てくれたわ、ナイン君。ナイン君が調査したゴブリンの群れの規模が間違いないと確認されたの。」


 何でもFランクの新人の調査なので信憑性が薄いと職員からは思われていたが、調査者が俺だったこともありギルドマスターのギルバートが念のためゴブリンの巣の調査をたまたまいたCランクの冒険者に依頼を出したそうだ。


 そして俺の調査結果が正しいと証明された・・・何という二度手間。


 そこでゴブリンの規模を考慮してゴブリンキング、ホブゴブリンなどの上位種が存在する前提で複数パーティーによる緊急依頼が発令された。


 メインとなるのは調査を行ったCランクパーティー『蒼月』の二人、他の冒険者はレア個体、強個体以外のゴブリンの討伐ということになる。


「それは良かったです。ところで何か良い依頼はありますか?」


「それなんだけど、ナイン君もゴブリン討伐に参加してみない?ランクは足りてないのだけど、調査をした冒険者は複数パーティーで受ける依頼には参加資格があるの。実力的にも大丈夫だろうってギルドマスターも言ってたしね。」


 調査依頼を受けて成功した冒険者は、調査の規模によって優先的に参加資格、受注資格が発生する。


 緊急依頼が一パーティーならFランクの俺には参加資格はないが、今回は複数のパーティーが参加するのでその一人として参加できるそうだ。


 メインとなるCランクパーティーは俺の調査結果を調べたパーティーなので優先的に参加が決まっているそうだ。


「ゴブリンなら何とかなりそうなので、俺も参加でお願いします。」


 緊急依頼ならギルドへの貢献度高いしな、せっかく自分で調査したところだしここでさらに結果も出しておきたい。


「決まりね。夕方に作戦会議というか顔合わせがあるから、それまでにギルドに来てくれればいいわ。作戦決行は明日ね」


 エンレンさんはニコニコしながら俺の手を引いて受付まで行くと参加受付書を出してきた。


 俺は受付書の一番下に名前を書くと冒険者ギルドを後にする。


 冒険者ギルドを出た俺は防具屋に向かった。


 今さらながら思ったのだが俺は防具を持っていない、今着ているのは魔王様から貰った普通の服、普通と言っても人族領で売られているそこらの服よりは丈夫で長持ちするものだ。


 領主館襲撃の時は見習い冒険者ってことで、ちゃんとした防具はまだいらないかなって思ってた矢先に発生した突発的な依頼だったため準備期間がなかった。


 その時の服もセバンスとの戦いで暗殺者の衣ともどもボロボロにされてしまって魔王城に置いてきた、今アイテムボックスに入っているのは予備の物だ。


 なので現在の俺の装備は村人の服、盗賊から貰った剣、ということになる。


 さすがにFランクとはいえ冒険者になったのだからちゃんとした防具を着けていないと舐められるのではないか、逆に冒険者舐めてるんじゃないかと思われるかもしれない。


 なので今の俺には防具を買うことは急務である、お金は盗賊からもらったものがあるので困っていないしな。


 それに、ゴブリンの中には弓を持っているやつがいた、ほぼ当たらないとは思うが油断は禁物だ。


 冒険者ギルドから少し歩いたところにある防具屋『万々歳』


 新人冒険者はだいたいここで装備を購入するらしく見習い卒業したての子供用サイズも扱っているということだ。


 俺は店内に入ると皮鎧が置いてあるコーナーを探す。


「いらっしゃい。見習い冒険者さんかね?初心者セットがあるから一度それを見てみるといいよ」


 俺に声をかけてきたのは老人だ、白い髪、白い髭を生やしていてちょっと腰が曲がっている、なんか駄菓子屋さんにいそうな感じだなって思った。


「初心者セットですか・・・じゃあそれを見てみますね」


 場所を教えてくれるだけでよかったのだがお爺さんは案内してくれた、とは言ってもそこまで広い店内じゃないけど。


 そこには二種類の防具が飾られていた。


 Aセット・・・革鎧、武器、外套、インナー、小盾


 スタンダードな冒険者装備、冒険者になったらまずはこれ、見習いにもおすすめ。


 Bセット・・・金属鎧、武器、インナー


 騎士を目指す少年少女が最初に使う金属鎧、軽めの素材で身体が小さい君におすすめ。


 この二セットだ、Bセットは金属鎧が値が張るのだろう内容控えめになっている、どちらも武器は自分に合ったものを選べるらしい。


 え?これどうしよう。


 ファーストフード店のセットメニューみたいにいらないのがついてる・・・俺はセットメニューで野菜系はいらない派の人なのだ。


「えっと、革鎧だけ欲しいんですが・・・」


「ダメダメ!そういうのはもっとベテランになってからじゃないと。高位の冒険者に憧れる気持ちはわかるけど、そういう人たちもみ〜んな最初は初心者!死なないようにしっかりと備えて、経験を積んでから自分に合ったスタイルを探すもんだ。」


 お爺さんかと思って油断していたらかなりの剣幕で注意された・・・。


 もう面倒だからAセットでいいかな、皮鎧があるなら何でもいいか。


「じゃあAセットください。武器は・・・剣は持ってるので短剣で」


「あいよ。武器はそこの棚から選んでくれ。サイズを測るからこっちにおいで」


 お爺さんは俺の体形を測っていくと、初心者Aセットが入っている箱をいくつか取り出すとその中で俺のサイズに合うものを各パーツ毎に出してくれる。


 外套も茶色っぽいいかにも旅人みたいなフード付きのもの盾は丸い小さなものを選んだ、武器を両手で持った時に邪魔にならないように。


 最後に短剣を右腰に差してピッカピカの新人冒険者の完成だ。


 これ完全に量産型だな、モブって感じがして案外嫌いじゃない。


「うむ。中々様になっているな。頑張っていい冒険者になるんだぞ」


 お爺さんは満足そうにうんうん頷いて俺を眺めている。


「ありがとうございます。ではこれで」


 俺はお金を払うと防具屋『万々歳』を後にした。

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