第24話仄暗い闇の中で3

 防具屋『万々歳』をでた俺はまだ時間があったので露店を冷やかしたり、屋台で串焼きを買ったりして時間を潰した。


 だがおかしいのだ・・・露店の人達がとても優しいのだ、今までこんなことはなかった。


 頑張れって声をかけてくれたりおまけしてくれたりと、どう考えてもこの初心者Aセットフル装備ボーナスとしか思えない。


 恥ずかしいやらありがたいやらで複雑な気持ちを抱えたまま、俺は冒険者ギルドに戻って行った。


 冒険者ギルドに入るとすぐに俺を見つけたエンレンさんが声をかけてきた。


「ナイン君。二階の二号室ね。」


「はい。わかりました。」


 もうすぐ夕方だギルド内は依頼から帰ってきた冒険者で一杯になるだろう、エンレンさんも他の冒険者の相手をしながら声をかけてくれたのだ。


 エンレンさんも忙しそうなので軽く返事をしてギルドの二階に上がっていく。


 二号室には『西の森ゴブリン討伐作戦』と書いてある張り紙があった。


 なんかあれだな、刑事ドラマとかで見る事件名の張り紙が貼ってある本部みたいな感じだな。


 扉を開いて中に入ると、中には二人の冒険者がいた。


 まさかのアンジェさんとカレンさんだ。


 この二人のことはよく覚えている、というか忘れるわけはない、深羅の森で迷子になっているカレンさんをアンジェさんと一緒に探したのだ。


 アンジェさん、黒髪黒目でショートカットの日本人のような容姿で短剣をメイン武器とする斥候職。


 カレンさん、金髪金目で腰ぐらいまである綺麗な髪を持つ長剣使い。


「「ナイン君!?」」


 入ってくる俺を見た二人は驚いた顔をしてこっちに駆けよってくる。


「久しぶりです。アンジェさん、カレンさん。そのうち会うかなと思ってはいたけど、まさかここで会うとは。もしかしてゴブリンの規模を確認したCランクパーティーって二人のことですか?」


「久しぶりね。そうよ。じゃあ調査依頼を受けたFランクってもしかしてナイン君?今回の討伐部隊のリストに名前があったからもしかしたらと思ってたのよ。」


「はい。エンレンさん以外は信用してくれなかったみたいですが」


「それは仕方ないわね。百匹以上のゴブリンの群れが珍しいし、本来はそこまで大きくなる前に発見、討伐されるから」


 そこから俺たちは椅子に座って深羅の森を抜けた後の話をした。


 二人はあの後、一緒に来ていた三人とパーティーを組む予定だったのだがそれを解消して二人でパーティー『蒼月』を組んだそうだ。


 王都での依頼の方は達成して冒険者として住みやすいこのヘプナムの町に今は滞在しているということだ。


 二人と話をしていると続々と討伐依頼を受けた冒険者パーティーが入ってきた。


 数えてみると俺と蒼月の二人を合わせて計十五人。


 俺の感覚だと百匹以上の数に対して十五人って少ない気がするんだけど、この世界では数の優位を上回る個の強さがあるからな、これが普通なんだろう。


 全員が揃ったところで蒼月の二人が話だす。


「全員揃ったな。私はゴブリン討伐依頼の責任者を任されたCランクパーティー蒼月のカレン、Bランクだ。」


「私はアンジェリカ、Cランクよ。」


 ここにいるのは俺と蒼月以外はEとDランクだ。


「今回のゴブリン討伐はここにいるFランク冒険者ナインの調査依頼から派生した緊急依頼だ。なので今回は彼にも参加してもらうことになった、ナイン君」


 カレンさんが俺の方を見て挨拶をするように促す。


「Fランク冒険者のナインです。足を引っ張らないように頑張ります。よろしくお願いします。」


 ここにいる人みんなランク上だし、本来は俺はランクでいうと対象外だからな、挨拶して周知してもらえってことなんだろう。


「ちょっと待ってくれ。これはDランク依頼だぞ。Fランクのガキは参加できないはずだ。ゴブリン自体強くないといってもガキに足引っ張られちゃたまらねぇ。装備も新人冒険者そのままじゃねぇか!」


 俺の参加にイチャモンつけてくるおっさん冒険者、アホだな、調査依頼をこなしたから参加資格があるの知らんのか、俺も今朝知ったばかりだけどな。


 てかこいつ、どこかで見たことあるおっさんだと思っていたら、俺をギルドの入り口で突き飛ばそうとした・・・ザック?とかそんな感じの名前の人だ。


「さっき言った通り、調査依頼を受けた冒険者には参加資格がある。彼の参加は何も問題ない。そして実力に関しては私が保証しよう。見た目やランクで強さが決まらないというのは冒険者の常識だ。」


 ざわり、カレンさんの言葉で俺を侮ってたであろう冒険者たちの目が変わる、Bランクのお墨付きだからな。


「それでもそいつはソロだぜ!誰と組ませる?」


 アホなおっさんはそれでも食い下がってくる、何がしたいんだこいつは。


「私たちのパーティーに入ってもらうわ。それでいいでしょう?」


 アンジェさんがおっさんを呆れたように見ながら答える。


 うん、二人と組めるならこっちとしても願ったりかなったりだ。


 そこでやっとアホなおっさん俺を睨みながらが折れる。


 その後は淡々と作戦内容が話されていく、冒険者は基本的に集団戦の訓練を受けていないのでパーティーごとに戦うのが基本だ。


 作戦内容としてはとても簡単で入り口で暴れてゴブリンを巣穴から出てこさせる。


 そこをパーティーごとにエリアを決めて殲滅、ある程度ゴブリンを討伐したところで蒼月の二人と俺で巣穴に突入。


 巣の中にいると想定されるゴブリンの上位種を倒して終了ということだ。


 あくまでもゴブリンなのでこの程度の簡単な作戦でいいそうだ、ただ巣穴は狭くなっていることも考えて短剣などのリーチの短い取り回しのいい武器が推奨される。


 確か前に盗賊を倒した時に奪った短剣が何本かアイテムボックスに入っていたはずだ。


 ゴブリンが百匹以上とされているから初心者の短剣が使いものにならなくなったらそれを使おう。


 集合時間は夜明け前に町の門の前だ、明日のために俺達は長居せず各々帰途についた。



 次の日に集合した俺たち十五人はギルドが用意してくれた馬車に乗って西の森を目指す、ギルドからの緊急依頼だとたまに馬車などを手配してくれるそうだ。


 馬車の中は比較的みんな楽勝ムードで各々のパーティーメンバーと談笑している。


 俺と蒼月の二人は巣穴の外での連携や巣穴に突入した後の行動を確認しながら森に向かった。



「私が先行するわ。」


 森に到着すると斥候職のアンジェさんが森に入っていく、それに続いて俺とカレンさん、そして他のメンバーがある程度の距離を保ってついていく。


 途中で何度か魔物に出会うがこっちが大人数だとわかると逃げていく。


 馬車の中では談笑していた冒険者たちも森に入った途端に真剣な顔つきになりだんだんと緊張が高まっていく。


 ゴブリンの巣穴に到着したのは日が昇りきった時間だった。


 巣穴の前には見張りをしている二匹のゴブリンが暇そうに突っ立っている。


 まずはカレンさんの指示で各パーティーが事前に決めていた場所に散開していく。


 配置が終わったとカレンさんがハンドサインを出してきたので俺は一人でゆっくりと、ゴブリンに発見されるようにガサガサ音を立てながら見張りをしているゴブリンに近づいていく。


「グギッグギギッ」


 俺に気がついたゴブリンは一匹が構え、もう一匹が慌てて巣穴に入っていく。


 素早く残ったゴブリンに近づくと俺は一太刀で両断する。


 少し下がってゴブリンが出てくるのを待っていると、巣穴の中から仲間を連れたゴブリンがわらわらと勢いよく出てくる。


 俺はゴブリンを引きつけるように大きく下がり、そこにタイミングよく周囲に展開していた冒険者たちの魔法や矢を使っての攻撃が始まる。


 大量の攻撃に晒されたゴブリンたちは一匹、また一匹と数を減らしていく。


 俺も最初の出番が終わったので下がって適当にストーン・バレットを撃ちまくる。


 何でこの魔法にしたかというとこのストーン・バレットという魔法は三つの礫を飛ばす魔法で、わざと微妙に角度をつけると広がって飛んでいくので適当に角度をつけておくだけで適当に当たってくれるのだ。


 それにしても数が多いな、どんどん巣穴からゴブリンが出てくる。


 初手の遠距離攻撃のために一人二十本程度矢を持っていたはずだが、矢がなくなってみんな弓を捨てて飛び出して行く。


 当初の予定だとこの時点でゴブリンの数が大幅に減り上位種が出てくる可能性も考えていたが、パッと見たところ上位種らしきゴブリンはいない。


 このまま魔法で攻撃すると誤射して味方に当たる可能性もあるので俺も片手剣を抜き、向かってくるゴブリンを斬っていく。


 包囲網の負担を減らすため数が多いところを狙って重点的に減らしていこうと思ったが、さすがE~Dの冒険者、ゴブリン程度は歯牙にもかけず次々と葬っていく。


 俺も包囲網を崩されないように蒼月の二人と連携しながらゴブリンを処理していくが・・・これ多すぎないか?周囲を見渡すとゴブリンの死体の山が積み重なっていて動きが制限されてきている。


 そしてゴブリン達が無理に攻めるのをやめて、複数で連携を取り始めてくる。


「どういうことだ!?ゴブリンの数が多すぎる!もう百匹以上は倒しているはずだぞ!」


 冒険者の一人から声が上がる、ゴブリンの死体で動きが制限されてイラついているみたいだな。


「それにゴブリンの動きがおかしい。どう見ても連携し出している。何処かに統率してる個体がいるはずだ!」


 確かにそうなのだが、だが俺も周りを見ながらゴブリンを処理していっているのがどこにも上位種の姿は見えないし統率しているようなゴブリンもいないのだ。


 ゴブリンを倒すたびに周囲に死体が増えていき動きが制限された冒険者たちの討伐ペースがだんだん落ちていく。


 これはまずいな、ゴブリンの動きはただ突っ込んでくるんじゃなく隙を見て囲もうとしてくる。


 斬っても斬っても空いた穴を埋めるように動いてくる上にゴブリンの数が減っているようには思えない、これは精神的にきつい。


 そして戦闘開始から一時間、俺達はじわりじわりと後退させられていた、周囲にはゴブリンの死体、巣穴からは無限とも思えるようにゴブリンが出てくる。


 魔法がメインの冒険者は大量のゴブリンの前に魔力は尽きて近接戦を余儀なくされ、近接戦がメインの冒険者も体力、集中力が切れかかっている。


 その時にカレンさんが声をかけてくる。


「ナイン君!まだやれるか?」


「はい。まだまだやれますが何かいい案がありますか?」


「いや、これは異常だ。撤退する。」


 カレンさんが指示を出す。


「撤退だ!魔法が合図だ。一斉に撤退する。できる限りパーティー毎に固まって逃げるんだ。一人になったら囲まれるぞ!合流地点は森の入り口だ!」


 俺達は同時に魔法を唱える。


「「ファイア・ランス」」


「エアロ・ボム」


 俺、カレンさん、アンジェさんが魔法を周囲に放ち、一瞬ゴブリン達の動きを止めると全員で一斉に撤退する。


 俺は最後尾に着くと追いつかれないように魔法を使って牽制する、ゴブリン達は小回りはきくが走るのは早くない、引き離せばそうそう追いつかれることはないはずだ。


 たまに突出してくるゴブリンだけを魔法で撃ち抜く事数回、諦めたのか縄張り外には追うなと命令されているのかそれ以上は追ってこなくなった。


 俺は蒼月の二人と森を抜けるために走っているとアンジェさんが話しかけてきた。


「ナイン君はどう思う?このゴブリンの数は異常よね。」


「確かに異常でした。あの洞窟が何処かに繋がっていてそこから地中に広大な広さの空洞があって、そこで繁殖していたとしか・・・」


「そうね。私も同じ意見だわ。あの異常な数は空洞内で繁殖してたって事じゃないと説明つかない」


 ただ、あれだけのゴブリンが繁殖できる食料が地下になんてあるのか?


 俺はふと、深羅の森の上層で見たゴブリンを思い出した。


 まさかなあそこからここまで五日以上はかかる距離だ、そんなデカい空洞が地下にあるわけない。


 俺達が森を抜けると他のパーティーも一人も掛けることなく全員が森の外に集合していた。


「クソッ!聞いてねえぞ!あんな異常なゴブリンの集団なんて!」


「ああ、ふざけてる!こんなの騎士団が出張って討伐する規模じゃねぇか!!」


 またおっさん達か・・・だが本当に異常だ、百匹程度の規模ですら珍しいと言われているのに、それをはるかに上回る群れで数の予想がつかない。


 俺達は近くで待機していた馬車に乗りこんでヘプナムの町に帰り、状況を大急ぎで冒険者ギルドに報告した。

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