第18話見習い冒険者7
俺の部屋に移動してきた俺とセバンスさんはソファーに腰を下ろす。
ロゼット様は寝室に行き自室から持ってきた洋服に着替え中だ。
「セバンスさん、完全に狙われていました。契約した冒険者の不在による警備の隙、俺がロゼット様から離れた一瞬の隙、そして結界を破壊する魔道具のナイフ。ここまで揃っているとまだ内通者がいると考える方が自然です。」
「そうですね。まさかまだ内通者がいるとは・・・前の三人とはまた別の保険として命令系統を別けていたのかもしれません。」
正直、ここにいること自体が罠に嵌まっているんじゃないかと思うほど、簡単に相手の良いように動かされてしまった。
そして仮面一号はそうでもなかったが仮面二号は恐ろしく強い、逃げてくれたからよかったもののあのまま室内で戦っていたらどうなっていたことか・・・。
ただあと少しだ、夜が明けて明日の昼になれば俺たちの勝ちなはず。
領主邸の襲撃ということで、もうすぐ町として、貴族の館の襲撃として町中の兵士が集まってくるはずだ。
まぁその兵士の中にも怪しいのがいるのだが・・・ただこれから厳重な警備の中で襲ってくるようなことはまずないだろう。
貴族同士のいさかいが発端とはいえ、ここまで事が大きくなったら敵対している貴族も割に合わない・・・。
本当にそうか?確かに俺の勝利条件はロゼット様の護衛で伯爵が帰ってくるまでの約一週間無事に過ごすこと。
ただ伯爵の法案が通るのは今日だ正確に言うと今日の昼過ぎ、だがら今日の昼過ぎまでロゼット様を守り抜けばそれ以上襲ってくることはないと考えられる、法案が出されてしまえばロゼット様を攫ったところで無意味だから。
だが相手の勝利条件は法案を出させないってことだ、それを行うにはどんなことが考えられる?第一にロゼット様を人質に取り法案を出させない。
第二に伯爵を襲い今日の昼まで監禁、もしくは足止め。
ロゼット様の誘拐は失敗、この警備状況で襲ってこれるほど大々的に行うとは思えない。
伯爵に関しては俺にはどうにもできないので無事を祈るしかない。
それで諦めるのか?誘拐してまで脅しをかけようとしてきた奴らが・・・もう一つの可能性は無いのか?
あるじゃないか、やつらのもう一つの勝利条件が・・・。
「セバンスさん。俺とロゼット様は今日の昼過ぎまでここに立てこもります。結界を何重にも掛けておけばすぐに突破されることはありません。」
「では私も一緒に・・・」
「いえ。セバンスさんが一緒に立てこもってしまうと警備のことや伯爵に任された仕事が滞ってしまいます。敵襲があった場合はすぐに俺たちは逃げ出します。昼までは食事も必要ないですし誰も中に入れません。」
「・・・わかりました。ではよろしくお願いします。」
そういうとセバンスさんは部屋を出ていった。
俺は急いで扉に結界を張る、そして一つの窓を除いて結界を張る。
ロゼット様が着替えて寝室から出てくるのを待ち、俺はロゼット様にこう告げる。
「今から言うことをよく聞いてください。今から冒険者ギルドへ行きます。ギルドマスターのところへ行くので絶対に声を出さずについてきてください」
「今からですか?・・・わかりました。」
俺はアイテムボックスから予備の暗殺者の衣を出してロゼット様に渡す。
「フードを被るとお互いの気配が希薄になるので俺を認識出来なくなる可能性があります。なので絶対に離れないでください」
ロゼット様は頷くと俺と手を繋ぐ。
「いきます・・・」
俺は索敵で周囲の気配を探り、部屋を見張っている人がいないのを確認する、よし行ける。
ロゼット様をお姫様抱っこをすると俺は二階の窓から飛び降りる。
「!!!」
ロゼット様がしがみ付いてくるが声は出さないでくれた。
俺は音を立てずに着地しそのまま警備の隙をついて暗がりを通って敷地内から出て行く、索敵を使ってみるが気がついた警備はいない。
だんだん人が集まってきているので少し遠回りをするように屋敷から離れていく。
暗殺者の衣を使っているとはいえ、目視されると気がつかれる事があるのでなるべく暗い道を通って走っていく、誰も追ってきてはいないな。
ロゼット様を抱っこしたまま冒険者ギルドの近くに行くとロゼット様を下ろし、手を繋いだまま待機。
索敵で周囲の状況を探るが、やはりギルドマスターの部屋は見張られている。
ならこのまま堂々と正面から入っていくか。
俺達は暗闇から出ると冒険者ギルドの正面からロゼット様と一緒に入って行く。
夜中なのでほとんど人がいないが隣接する酒場には数人の男女がいる程度だ、音を立てずに冒険者ギルドに入って行ったので受け付けもこっちを全く見ていない。
今のうちに俺たちは階段をゆっくり上がっていき廊下を進む、他とは違うちょっと豪華な扉をそっと開けて入った。
「誰だ?」
ギルドマスターがいた、領主邸襲撃があった直後だからな、いると思った。
俺は暗殺者の衣のフードを脱ぎながら答える。
「夜分遅くに失礼します。ナインです。相談があってやってきました。」
「ナインだと、何の用できた?お前は護衛依頼を受けてるはずだろ?まさか後ろにいるのはロゼット様じゃないだろうな?」
正解、俺はロゼット様を促すとフードをまくり上げて顔を出してもらう。
「お久しぶりです、ギリバート様。領主の娘ロゼットです」
「ロゼット様。何故こんなところに?ナイン、説明しろ。」
「はい。今日の襲撃は聞いていると思います。内通者なのですが・・・セバンスさんが裏切っている可能性があります」
俺は領主邸で起こった事を事細かにギルドマスターに説明する。
「馬鹿な!セバンスは長年伯爵に使えている忠臣だと聞いている。」
「あくまでも可能性です。ただタイミングが良すぎるんです。それにここには通信の魔道具があるはずです。それを使わせて欲しい。」
そう、領主には各一つ、通信の魔道具が配布されている。と同時に各ギルド支部でも通信の魔道具が配備されている。
魔物の襲撃に対してギルドで連携を取るためだ。
「それはできん。これを使えるのはギルドマスターとその代理権を持つ者、それとAランク以上の高位冒険者のみとなっている。」
「では俺は使わなくてもいいのでギルドマスターから伯爵様に連絡を取る事はできませんか?」
「ギルバート様。私からもお願いいたします。ナイン様のいう通りお父様に連絡をお願いできませんか?」
俺と一緒にロゼット様も頭を下げる。
「わかりました。ロゼット様が言うのなら・・・」
ギルバートは机にしまってあった水晶みたいなものを取り出す。
通信の魔道具だ、一度だけ帝国で見た事がある。
ギルバートは水晶に魔力を通す、少しすると伯爵の声が聞こえてくる。
「ロゼットは見つかったのか!?ギルバート!」
そう早口に捲し立てる伯爵、ギルバートは眉を潜めながらチラリと俺の方を見る。
「伯爵、どういう事でしょうか?ロゼット様ならご無事なはずですが・・・」
「聞いていないのか?セバンスから連絡が行っているはずだぞ!家が襲撃されロゼットが攫われた。」
やはりな、伯爵邸で通信の魔道具を使える権利があるのはセバンスさんのみ。
セバンスさんなら偽情報を伯爵にリアルタイムで送る事ができる。
さっきのタイミングのよすぎる襲撃は失敗しても俺たちに内通者がまだいると思わせ、疑心暗鬼にして俺を引き籠らせるのが目的、成功すればラッキー程度の事だったんだろう。
結局は攫われたという情報さえ伯爵に流してしまえばどちらでも良いわけだ、伯爵が確認するのは忠臣であるセバンスさんのみ、わざわざギルドのギルバートに連絡とることなんてしないだろう。
もう相手は勝ちが決まっていたわけだ。
偽情報で伯爵を封じるってのが第三の手、これがあればどれだけ襲撃に失敗しても全く問題ない。
危なく騙されるところだった。
「伯爵。安心してください。ロゼット様は無事です。ここにナインと共に来ています。」
「本当か!?セバンスから何も連絡はきていないぞ。」
「お父様、ロゼットです。襲撃は失敗し私は無事です。」
「どういう事だ?」
「伯爵様。ナインです。セバンスさんが裏切った可能性があります。」
俺は伯爵に今までの事を事細かに話す。
俺の言葉だけでは信じて貰えなかったが、ロゼット様とギルバートの口添えもあって半信半疑だったが、ロゼット様が無事でいる事実があって信じてもらう事ができた。
長年の信頼ってのは厄介だな。
「まさかセバンスが裏切るなんて・・・だが連絡はセバンスとしかしておらん。そういう事なんだろうな、すまんギルバート。依頼だ、ロゼットを保護してもらえないか?」
「ああ、ロゼット様はギルドマスターの名にかけて冒険者ギルドで保護する。俺が四六時中見ているわけにはいかないが、ナインもついてるし何とかなるだろう。」
「私はこのまま騙されたフリをして法案を通す。そうなればもう襲撃どころじゃないはずだ。私に喧嘩を売ったことを必ず後悔させてやる!ナイン!ロゼットを頼んだぞ」
伯爵怒っているな、まあ当然か、敵対した貴族は酷いことになるらしいし、てか、法案の内容は何なんだろう?
法案は可決されたもの以外は一般的には公表しないので全然わからん。
「わかりました。伯爵様。ロゼット様はお任せください。」
「ロゼット。法案は昼過ぎに議題に上がる。そうなればもう誰にも止めることはできない。そのタイミングで領主代理として兵士を率いセバンスを確保してくれ。セバンスは元Bランクの冒険者だ。中途半端な戦力じゃ太刀打ちできない。」
元冒険者って聞いてはいたけどBかよ、俺じゃちょっと勝てないかもしれん。
まあ元Aのギルドマスターがいるから何とかしてくれるだろう。
そうして俺たちは、ギルドマスターの執務室で仮眠をとった。
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