第19話見習い冒険者8

 夜が明けると同時に俺たちは動きだす。


 ギルドマスターがロゼット様の領主代行権を認める書類を作成し、それにサインする。


 詰所に使者を送り伯爵邸に突撃する兵士を確保。


 セバンスが元Bランク、そして契約冒険者の失踪について追及するために、ギルドが信頼している手の空いていたCランク冒険者パーティーも連れていく。


 トップは領主代行のロゼット様。


 指揮をとるのがギルドマスターのギルバートということになる。


 罪状はロゼット様の誘拐未遂、領主の館襲撃、そして通信の魔道具の不正利用。


 これがセバンスにかけられた罪状だ。


 俺も冒険者たちと一緒に突撃してセバンスさんの確保に協力したかったのだが、ロゼット様の強い要望と見習い冒険者ってことで後方待機というかロゼット様の傍で待機ってことになった。


 ロゼット様が馬に乗り先頭を行く、後ろには兵士と冒険者だ、ギルバートも馬に乗っていて、俺は横を歩いている。


 馬に乗れと言われたんだけど、見習い冒険者だからと辞退した。


 領主の館につくと困惑する警備の方々。


「ロゼット様?お部屋にいたはずでは?」


「全員おとなしく私の指示に従いなさい。セバンスはどこですか?」


「外に出てはいないのでいると思いますが・・・」


 今の時間なら執務室だろう、まだいるならばって話だが、たぶん俺の予想ではもう逃げてる、もうここに用はないはずだ。


 俺は索敵を発動させると、あれ?執務室辺りに誰かいるんだが?


「ロゼット様。執務室に誰かいますね。」


 俺はこそっとロゼットに教える。


「突入してください。目標はセバンスの確保です。執務室にいるはずです。」


 大勢の兵士や冒険者が突入する、兵士たちは館にいる使用人の確保、Cランク冒険者はセバンスの確保ということになっている。


 館の使用人は次々と外に出てきてみんな不安そうに見ている。


 セバンスが抵抗せず捕まってくれると良いが。


 少しの時間でこの大捕物は終わった、セバンスはもういなかった。


 代わりに執務室にいたのはセバンスから仕事を任されていた第二執事だったのだ。


 今朝になってセバンスは伯爵様からの急用ということで自室に入ったまま、そこから姿をくらませていた。


 第二執事はその代理として仕事をしていたとのことだ。


 そして、地下に閉じ込めていた内通者三人も消えていて、そこにはいくつかの血溜まりだけが残されていた。


 逃げたセバンスはその日のうちに指名手配されたが、行方は全く掴むことができず手掛かりは一つもなかった。


 そして消えた契約冒険者達も足取りがつかめず帰ってくることはなかった。


 それから二日後、伯爵の法案が通ったとツリーベル王国全土に告知があった。


 内容は奴隷の一部解放と改善の法案だ。


 元々奴隷の扱いについては各領土で違いがあった、このコンスタン領を含めほとんどの領は犯罪奴隷しかいない。


 奴隷には通常奴隷と、犯罪行為で奴隷になる犯罪奴隷がある。


 この中の税が払えず奴隷になるというのが非効率であるという結果が出ていたのだ。


 村で税が払えず奴隷になって税を負担している村と税を軽くして働ける環境を整えてやる村だと、当たり前だが後者の方が圧倒的に効率が良くなり村が発展するという結果が出た。


 前者は先細りするだけで下手をすると廃村、そして民が町に流れてきてスラムができ治安の悪化、労働力の損失をまねく。


 なので一部奴隷の解放と今後国として奴隷を減らして行く方針になった。


 これで困ったのが奴隷を無料の労働力としていた貴族達や商人だ。


 村から奴隷を徴収していたのができなくなった上に解放もしなくてはいけない。


 だがそれだけではなかった。


 娘を狙われたグライアン・コンスタン伯爵がブチ切れて反対派の勢力の奴隷売買や違法奴隷、さらには汚職の証拠をバラまいた。


 反対派の貴族達は罰金刑、領主の交代、爵位の剥奪など酷いことになっていた。


 もう誘拐だの脅しだのそんな事をできる状態ではなくなった、なので報復も心配する必要はないということだった。


 伯爵からは事後処理で忙しいので帰ってくるのが遅れると連絡がきた。


 俺の契約は最低一週間、もしくは伯爵が帰ってくるまでということなので、まだ伯爵の所にお世話になっている。


 特にもう護衛を厳しくする必要もないということで、館の壊れた部分の修繕や業務に忙しく動き回る使用人達をボケ〜と眺めつつ、日向ぼっこに勤しんでいる。


 三日もロゼットに付きっきりだったので、その反動で何もしないで一人でボーッとできる時間が何よりも嬉しい!


 ちなみに反対派の貴族にお金で雇われていたチンピラや兵士、使用人は全て捕まった。


 仮面一号は他領で暗躍していた暗殺ギルドの一員で、今回の事でスポンサーだった貴族が捕縛されたことにより情報が漏れて組織は崩壊。


 逃げた数人が指名手配されているが、仮面二号は見つかっていない。


 俺の予想では仮面二号はセバンスなんじゃないかと思っている。


 登場タイミングがおかしいし、撃退後のセバンスが来たのも遅すぎる、窓から出て隣の窓から部屋に入って着替えたのだろう。


 俺はというと今回の活躍により、特例として冒険者資格を手に入れることになった。


 F~Sランクまである冒険者の一番下のFランクだ。


 元から伯爵の推薦はもらっていたが、ギルドマスターも推薦してくれて冒険者テストを受けなくてよくなった。


 ギルドマスター曰くお前には必要ないだろうとのことだ。


 あくまでも見習いの制度は初心者の未熟な無茶を防ぐためのもので、年齢によって強さや経験を無視するものではないからだそうだ。


 実際にFランク冒険者の資格を手に入れるのはこの護衛依頼が終わってからだけどね。


 そんなこんなで退屈な日々を送ること二週間、やっと伯爵が帰ってきた。


 法改正と同時に空白になった領地の再分配などでものすごく揉めたらしい。


 本当はもうちょっと後で、法案を通した後に混乱にならないように配慮しながら腐りきった貴族を少しづつ排除していく予定だったみたいだ。


 俺は伯爵に呼ばれて執務室へ行く、仕事をする伯爵は疲れ切っているように見えるな。


 いろいろな心労や仕事が重なってあまり寝ていないのだろう。


「座ってくれナイン。今回の依頼は大変だったがよくこなしてくれた。ありがとう。」


「ありがとうございます。正直、たまたま気がついただけでギリギリでした。」


「いや、予想以上の働きだった。君が気付かなければこの状況はなかった。法改正が数年、いや数十年は先になっていただろう。」


 それから俺はここで起こったことを改めて詳しく伯爵に話す。


 初日の睡眠薬の混入、二日目の契約していた冒険者が失踪して仮面一号が現れて、すぐさま二号が出てきた話をする。


 俺は気になっていたセバンスの話を聞いてみる。


「セバンスとは何者なのですか?襲撃の時の仮面二号が俺はセバンスじゃないかと思っているんですが。元Bランク冒険者と聞きましたが、相当な強さでした。」


「セバンスか。彼は十年ぐらい前に私の父、先代の領主が魔物の討伐を依頼した冒険者でね。この町の冒険者というわけではなかったし、どこの貴族とのつながりもなかった、拠点を転々と変える流れの冒険者だった。何度か依頼を任せるうちにうちで雇うことになったんだ。初めは護衛として雇ったんだが教養があってね。それで仕事を手伝ってもらっているうちに執事として使うことになったんだ」


 セバンスの話になると伯爵は顔を歪める。


 先代からのつながりで十年の付き合いがある執事に裏切られたのはショックだろうな。


「正直なところ、セバンスが裏切るような理由が思い浮かばない。元Bランク冒険者で金には困っていないはずだし、こちらでも相応の賃金は出していた。金使いが荒いなどの噂も聞いたことがないし、使用人からの評判も良かった。」


「セバンスに指示を出していた貴族はわからないのですか?」


「ああ、複数の貴族が絡んでいてね。命令系統が複雑化していて単独で動いたいたものもいれば、協力していたところもある。全員にダメージを与えることはできたが、軽いダメージのものも多い。判明するとしても時間がかかるか、わからずじまいってところだろう。期待はできないな。」


 この件にセバンスがこれ以上何かしてくるとは俺は思わないが・・・実際のところセバンスが何かしようと思えば俺の介入前にどうにかできたのではないだろうか?


 なぜギリギリになるまでセバンス自身は動かなかったんだろう・・・セバンスの目的がわからない。


「わかりました。・・・これで俺の報告は以上です」


「うん。ではこれで依頼完了としよう。」


 俺は伯爵から依頼完了の書類をもらって執務室を出た。


 ちょっとすっきりしない終わり方だったけど世の中ってのはそんなものだろう。


 この書類を冒険者ギルドに持っていけばこの依頼は終わる。


 これから何をしようか?そんなことを考えていると


「ナイン様!」


 ロゼット様が廊下の前にいた。


「ロゼット様。お疲れ様でした。これで護衛依頼は終了です。お世話になりました。」


「行ってしまわれるのですね・・・もしよければこのまま私の護衛としてここに残ってもらうことはできませんか?お父様には私からお願いしてみます!」


 不安なのかな・・・十才の女の子が攫われたり襲われたりしたんだもんな。


 一緒にいた俺を頼ってしまう気持ちはわからなくはないけど・・・。


「申し訳ありませんロゼット様。俺は冒険者としていろいろやりたいことがあるのです。やっと冒険者になれたところなので、ここに留まることはできません」


「そうですか・・・ではまた。」


「はい。また、冒険者ナインをよろしくお願いします」


 俺はそう言うとロゼットの隣を通り抜ける。


 通り抜ける直前、俯いたロゼットが泣いているような気がしたが、俺はそのまま通りすぎた。



 伯爵邸から出た俺は冒険者ギルドへ向かって歩き出す。


 ちょっと複雑な気持ちになりながらも振り返ることはしない、大通りには多くの人がいて、伯爵邸襲撃のショックももうなかったみたいだ。


 平和な町を歩きながら、とりあえず一旦魔王城へ行ってリルにお土産を持っていこうと思う。


 何がいいかな。


 考えながら歩いているうちに冒険者ギルドへ到着した。

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