第17話見習い冒険者6
ロゼットが眠りにつくと、俺は索敵で邸内を探る。
今夜にでもまだ襲撃があるはずだ、相手にダースが捕縛された事はもう伝わっていると思って間違いない。
たぶん眠ったロゼット様を伯爵邸内から運び出すグループがいるはずなんだよな。
ロゼット様は寝てしまったが、屋敷の使用人たちはまだ動き回ってる人が多く、行動に不信がありそうな気配をつかみきれない。
どうしたものかと悩んでいると扉を叩く音が聞こえ、セバンスさんが入ってくる。
「ナイン様。内通者がわかりました。警備を行なっている私兵の中に一人。メイドに一人です。その者たちはすでに確保して地下牢に監禁しております」
「ありがとうございます。俺はこのまま警戒しながらここで待機しています。」
「ナイン様は睡眠をとらなくて大丈夫ですか?私が変わりますが・・・」
「問題ありません。まだ何があるかわかりませんので。」
「では何かありましたら遠慮なくお呼びください。私は隣の部屋で待機しております。」
そういうとセバンスさんは去って行く、とりあえずこのニ日間はまともに寝れないと思った方がいいだろう。
その日は警戒をするもそれ以上は何事もなく朝になった、何故だ?睡眠薬で眠らせて連れ去る予定なら近くに数人は来ていたはずだ。
連れ去る人員というだけで戦力がないのか、睡眠薬の失敗で一旦引き揚げたのか。
領主様が言うには法案に反対する派閥ってことだからもちろん貴族だ、金にものを言わせればそれなり以上の者を雇うことだってできるはず。
法案を発表されてしまえば襲撃自体が無意味になってしまうのに。
残るは二日目の今日と明日の午前中だ。午後には王都で法案の発表があるからそれまで耐えれば俺たちの勝利。
今日の昼頃には領主様が王都に着くからそこでセバンスさんと魔道具で連絡が取れるようになる。
俺は悶々としながら何か見落としていないかを考える・・・いや、最悪でもロゼット様さえ攫われなければ良いはずだ。
考えていると、ロゼット様がベッドで目を覚ます。
「おはようございます。ナイン様。ずっと起きていたのですか?」
「はい。いつ襲撃があってもおかしくはないですから。では少し席を外します。」
着替えるだろうと俺は一旦ロゼットの部屋を出て行く。
子供の体で寝てないからなのかどうしても考えがまとまらない、後で少し寝させてもらおう。
今日は午後からロゼット様は勉強のはずだ、午前中は時間が空いているので少し寝させてもらえれば十分仮眠にはなる。
着替えが終わったロゼット様と俺はメイドさんが持ってきてくれた朝食を取りながら今日の予定を確認する。
「ロゼット様の今日の予定は午後から勉強ですよね?」
「はい。でも昨日のこともありますし、どうしようかと思っています。」
やはりショックはまだ抜けてないみたいだ。
「わかりました。俺は午前中は少し仮眠をとらせてもらってもよろしいですか?午後はもし良ければ庭で俺と遊びましょう」
「本当ですか?他にも魔法を見せて欲しいと思っていたの。では今日の予定を切り上げて午後はナイン様とお勉強ですね」
嬉しそうに笑うロゼット、何とか笑顔にさせる事ができた。
俺が仮眠から目が覚めると、ロゼット様が俺の顔をじっと見つめていた・・・何だこれは?
ヨダレとかないよな?と思いつつ口元を拭う・・・うん大丈夫!
「おはようございます。ロゼット様。何かありましたか?」
ニッコリ笑うロゼット様。
「いいえ。あまりにも寝顔が可愛いのでずっと見てしまっていました。」
小学生ぐらいの女の子に可愛いと言われる俺って・・・ちょっと落ち込んでると何事もなかったように昼飯が運ばれてくる。
ちょうどお昼か、本当に何もなかったみたいだな。
「ロゼット様。領主様と連絡はとれたのですか?」
「はい。お父様も無事に王都に到着致しました。ナイン様にも引き続きお願いする、と仰っていました。」
「伯爵様の方は襲撃などはなかったのですか?」
「はい。何事もなくついたとのことです。」
何事もなくか・・・そう、もう一つのケースとして領主様を王都に行かせないって事もあるかと思っていたが無事に着いたか。
という事は必ず今日の夜に襲撃があるってことか、ちょっとあからさま過ぎやしないか?
俺が心配症という可能性はあるけど、確実に今日の夜は防衛が固いと襲撃者もわかるはず、ヤバいレベルの総力戦?町中の領主館でそんな事ありえるのか?
昼食を食べ終わると俺はロゼット様との約束通り魔法を見せるためにロゼット様と庭に出る。
「俺は初級しか使えないんですが、ロゼット様は?」
「私は初級を一つだけ、ファイア・ランス」
ロゼット様から小さい炎の槍が飛んでいく、炎の槍は壁にぶつかると消える。
ロゼット様は魔力の制御があまり得意じゃないみたいだな。
「じゃあ今度は俺ですね。ファイア・ランス」
ロゼットよりも二倍以上の大きさの炎の槍が飛んでいき、壁にぶつかり炎をまき散らす。
「すごい!学校の先生より威力が高いような気がします!どうやっているんですか?」
「魔力の制御ですね。魔力を動かす訓練をしていけば威力を出せるようになりますよ。魔力操作のスキルを覚えられればさらに応用がききます」
今の俺だと魔力操作のスキルが封印状態であるためそれほどではないが、普段から剣に魔力を流したりしているので多少の威力のコントロールはできる。
そうやって俺は魔法を教えながら警戒をしていたが、夕飯に呼ばれるまで何も動きはなかった・・・。
夕飯をおえると俺はセバンスさんから執務室に呼び出された。
なぜこのタイミング?と思ったが今夜の警備に関して話がしたいそうだ。
ちょうどロゼットが自室の風呂に入るというので誰も入れないように風呂の扉、部屋の窓、部屋の扉にリジェクト・ケージをかける。
俺は執務室に向かう、伯爵様がいないのでセバンスさんが今はここを使って伯爵様の代理として仕事をしている。
コンコンコン
「どうぞ」
「失礼します。」
俺は執務室に入るとセバンスさんと向かい合う。
「来ていただいてありがとうございます。」
「いえ、ただ早めにお願いします」
セバンスさんはコホン!と咳払いをすると
「まずいことになりました。契約していた今日の警備の冒険者が数名来ていないのです。冒険者ギルドに問い合わせましたが今日は一日見ていないと」
「そんなことがあるのですか?確かDランク冒険者が十名でしたよね?何人来ていないのですか?」
「二パーティーで六人です。」
「なら代わりの冒険者を臨時で雇うことはできないのですか?」
「いま報酬倍額で募集していますが、来てくれるかはわかりません。時間が時間ですから・・・」
まずいな、夜間警備の冒険者が四人しかいない、夜間警備の私兵は何人かいるがDランク冒険者とは戦力的には比べるまでもなく低い。
それなら昼間の警備をしていた私兵にも来てもらって今日だけ追加で警備をしてもらうしかないだろう、質が集められないのなら数で補うしかない。
「なら人を使って昼間働いてた私兵を・・・」
その時、ロゼット様の部屋のどこかのリジェレクト・ケージが破壊される感覚がある。
これは襲撃が始まったか!?俺は一目散に執務室を飛び出すとロゼットの部屋に走っていく。
「索敵」
人数は一人、まだ風呂の扉は壊されていが部屋の内部に侵入されている。
壊されたのは窓、ただこの魔法は初級とはいえかなりの強度を持っている、簡単に壊されるようなものではないのだが・・・。
しかし狙ったようなタイミングだ、やはりまだ内通者が存在するのか、それともどこからか見ていたのか。
まずい・・・風呂場の結界が破壊される。
俺が部屋の前に到着し、扉の結界を解除すると部屋に飛びこむ。
ほぼ同時に風呂場から裸のロゼット様を抱えて出てくる黒ずくめの仮面を被った人物、このロリコン野郎が!
「離してっ!」
抱えられて暴れているロゼット様。
俺は雷鳴の剣を抜き放ち部屋に入った勢いのままに突っ込んでいく。
仮面は俺に気がついた瞬間にロゼット様を前に抱えて盾にしようとする、こいつどんだけ卑怯なんだよ。
俺はロゼット様にぶつかる寸前、勢いを落とし三人まとめて結界に閉じ込める。
「リジェクト・ケージ」
これで簡単には逃げられないし強制的に接近戦だ、ロゼット様を抱えたままこの距離で俺に勝てると思うなよ。
仮面はロゼットを盾にしたまま左手で短剣を突き出してくる、俺は紙一重で躱すと突き出した左手を掴み引っ張る。
前につんのめるように体制を崩した仮面の横腹に剣を突き刺す。
そのまま横に振るい背骨を断ち切って皮一枚で上半身と下半身が繋がっている状態で仮面は絶命する。
血を背中側から吹き出し折りたたまれるようにロゼット様ごと倒れる仮面の上半身に蹴りを入れてロゼット様を奪い取って終了・・・じゃない!
殺気が飛んでくる。
間に合うか!?俺は裸のロゼットを抱えたまま魔法を唱える。
「シールド」
振り向きながら魔法を唱えた瞬間に三人を覆っていたリジェクト・ケージが破壊されシールドに何かが当たって逸れていく・・・あれは投げナイフ?
部屋の入り口には二人目の黒づくめの仮面がいた。
あ、危なかった・・・周りの警戒を疎かにしたつもりはなかったが直前まで気がつかなかった。
完全に仮面一号を倒す隙を狙ってきた、それに一撃でリジェクト・ケージを破壊するナイフなんて・・・。
時間を稼ぎたかったが仮面二号は待ってくれなかった、ナイフが逸らされたのを確認すると短剣を持ち突っ込んでくる。
後ろは壁で逃げられない、ロゼット様を離すと俺は剣で受け止める。
「グッ・・・」
早い、斬りつけるんじゃなくて最短距離で突いてくる、何度も受けるうちにじわじわ下がり、背中が壁に当たる。
何とか左右に逃げたくても的確に逃げ道を塞いでくる。
もうちょっと時間さえ稼げばセバンスさんがきてくれるはずだ。
俺は雷鳴の剣に何とか魔力を込める。
バチバチし始めた瞬間に仮面が攻撃をやめて一旦下がる、これで仕切り直しだ。
廊下から足音が聞こえてくると仮面二号は踵を返して結界が破られている窓から飛び出した。
「逃すか!」
急いで窓に駆け寄るが誰もいない。
索敵を使ってみるが屋敷から離れていくような気配が感知できない、どこに行った?
俺は諦めてロゼット様に近づくとアイテムボックスにしまっている初心者用のローブをかける、まだ裸のままだったのだ。
「遅れてごめん。まさか狙ったようなタイミングで来るとは思わなかった。俺のミスだ。」
「ううん。ナイン様がいたから私は無事です。ありがとう。」
俺とロゼットが話していると警備の人達が入ってくる。
「ロゼット様無事ですか?賊は?」
警備の人達の後ろからメイドさんとセバンスさんが入ってくる。
セバンスさん何やってたんだよ!?元冒険者だって言ってただろ、戦力として期待してたのに・・・。
「ナイン様のおかげで何とか助かりました。賊は窓から逃げていきました。」
窓が割れてこの部屋は使えないので、片付けはメイドさんに任せて隣の俺用として用意されていた客間に俺とロゼット様とセバンスさんは移動する。
そう言えばこの部屋全く使っていなかったな。
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