第14話見習い冒険者3
俺は教会に引き返し、水魔法で作った水をぶっかけてリーダーを叩き起こす。
水が口に入ったのか、咽ながらリーダーが目を覚ます。
「今すぐお前らに依頼してきたバカの名前をいえ。無駄なことを話したら殺す。」
剣を突き付け、リーダーを脅す。
口をパクパクしていたが無駄なことを言ったら本当に殺されるとわかっているのか、言いたいことがあるだろう言葉を飲みこみ話し出す。
「依頼してきたのはランスっていうヤツだ。前金で金貨五十枚貰った。成功すればさらに百枚の割のいい仕事だった。」
「割のいい仕事?領主の娘の誘拐が割がいいなんてことはないだろう?」
「本来はな。それが領主の娘の予定をリークしてきたんだ。数日様子を伺っていたが予定通りの行動、予定通りの護衛の人数だ。な?わかるだろ?」
そういうことね、領主の娘の予定、護衛の人数がわかるってことは領主側の人間がこれに絡んでいる可能性が高い。
「ここのことはもう兵士に伝わっている。お前は捕まるだろう。そして・・・この手のお話ってのは牢屋につながれている間にお前は口封じされるパターンだな。」
男が顔色を悪くする。
「た、助けてくれ。何でもする。俺を逃がしてくれ」
「んなことするわけないだろ。死にたくないのなら捕まったらすぐに、牢屋に入る前でもここから連れていかれる途中でもいいから兵士に知っていることを全部話せ。全部話しちまえば口封じする意味が薄れるかもしれない。」
俺はそう言うとリーダーをこの場に残し地下から出る、教会の外に出ると松明を持った兵士で囲まれている。
俺はフードを被り暗殺者の衣の効果を出す、俺は素早く移動して穴の空いている外壁との境目を目指す、よし、ここにまだ兵士がきていない。
俺はすっと柵の間から抜け出すと教会周辺から逃げ出す。
このままギルドに帰ってもいいが、そんな気分にならずに暗殺者の衣を脱いで夜の町をブラブラ歩いていく。
領主の娘の誘拐と、それを依頼する領主側の人間だと思われるランスか。
暗かったとはいえロゼットにもリーダーにも俺は顔を見られている、このまま何も起こらないってことはないだろう。
ゆっくりしたい俺はギルドには戻らず、近くにあった宿をとってその日は眠りについた。
次の日、俺は昼前に宿を出るとギルドに向かった。
そう昨日の誘拐事件ですっかり忘れていたが、俺の目的は転移魔法陣の設置場所を探す事だ、領主がどうとかそんなことは俺には関係ないのだ。
ギルドの図書室で調査が終わっている近場の遺跡を探す、西の森に遺跡跡があるな、初心者しか行かないこともあってここが有力だ。
ほとんどの冒険者が西の森に数回行くと東の森の浅い部分に場所を移してしまう、狩場としては効率が悪いのだ、なので西の森はあまり人が来ない。
西の森の朽ちた遺跡跡、ここが第一候補だな。
俺が図書室から出ると冒険者ギルドには似合わないスーツを着た人がメイドや兵士を連れて受付カウンターで話をしている。
何かの依頼だろうか?
俺も早く高額な討伐依頼を受けれるようになりたいな。
ギルドを出ると目の前に馬車が止まっていた、入り口の前に駐車するとかDQN駐車だろ。
俺の前世だったら写真撮られた挙句、SNSに晒されてナンバーから住所氏名特定されて、下手すりゃ大炎上間違いなしの案件なんだが・・・。
俺はそのまま通り過ぎると町を出る。
西の森には徒歩一時間ぐらいなので、散歩がてら食べられる魔物を探しながら歩いて行く。
途中にホーンラビットがいたので狩っておく。
動きが速いが魔物の中でも簡単に狩れて、食べると美味しいのだ。
西の森は普通の森だった。
魔素が濃いわけでもなく、人型の魔物は確認されていなくて、基本的には猟師さんや新人冒険者さんが来るところなのでこんなものだろう。
森に入ってしばらく歩くと削られた岩のような、加工してあるのがわかる岩が増えてくる、ここら辺から遺跡後かな?
なるべく広くて平らなところがいいのだけど・・・。
周りを見回していると石畳があった、広さは4m四方はスペースがあるからここでいいかな。
苔や雑草が所々にあるのが気になるが、綺麗にすると何かあるみたいに見えるからそのままにした。
念のため索敵を発動させて周囲を探ってみるが、誰もいない。
俺は五式の指輪を起動させる、『空間転移魔法陣・改』が発動し、石畳の上に魔法陣が描かれていく。
一分ほどで光が収まり、魔法陣の模様が石畳に薄らと残る、森の中だしここにくる人もさほどいないだろうから、まあ大丈夫だろう。
俺は確認のために魔法陣に魔力を流す、一瞬の浮遊感の後、俺は別荘の地下室に立っていた。
転移魔法陣から降り地下から出るとちょっと前まで住んでいた久々の家に気が抜ける。
帰ってきた感があるな、まあ俺の家じゃないんだけどね。
一通り家の中を見回り異常がないことを確認すると俺は外に出る、ここを離れて二週間程だが変わらない風景、変わらない濃密な魔素。
庭に作った花壇に植えておいた月の雫を見るが、根付いてはいるが何か違うな、鑑定を使い確認する。
「鑑定」
月のかけら・・・様々なポーションなどの原材料になる薬草。
素材の名前が変わってる、やはり中層だと月の雫は育たないのか、ただ植え変えて放置していたから悪いのか、よくわからんな。
とりあえず周りの雑草を抜いて、月のかけらの何枚かの葉を採取する、今日はこれの調合をしよう。
月のかけらからを使うポーションは複数ある。
怪我を回復させる一般的に使われるヒールポーション。
魔力の回復速度を上げるマナポーション。
そして呪いや状態異常を回復させるリカバリーポーション。
この三種類があり、月のかけらはそのどれにも使えるようだ。
俺はマナポーション以外を持っている。
魔力関係の回復は俺の症状と相性が悪くて使う気になれない、最悪、腕輪を外せば否応なく勝手に魔素を超吸収するので必要がないしね。
今回作るのはリカバリーポーションとヒールポーションだ。
俺が使っているエグジットポーションはリカバリーポーションの最上位にあたる。
エグジットポーションは治療の役割があるから早々他人に使うことができないからな。
今のところ見習いなのでパーティーを組む必要はないが、何かあった時のために気軽に使えるリカバリーポーションはあったほうがいいと考えた。
月のかけらで作られるポーションは総じて高性能になるらしく、ヒールとリカバリーがあれば困ることはないだろう、金欠になったら売ればいいし。
マナポーションはさほど需要がないってこともある。
この世界では空気中に存在する魔素を身体が吸収して魔力に変える、身体が魔力自体を作っているわけではないので瞬間的に魔力を回復することはできないのだ。
ヒールポーション・・・怪我を回復させる品質B
リカバリーポーション・・・状態異常を回復させる品質B
熟練の調合士が作れば品質Aができるはずだけど、俺だとまだBが限界なのかちょっとわからない。
持っているということが重要なのでこれでいいだろう、町に行って知ったが高品質のポーションはかなり高いんだよな。
高位冒険者にならないと持っていないほど、中級冒険者ぐらいだとパーティーで一、二本持っているもしもの時のお守り程度だという。
俺は両方三本づつ作って今日の作業を終了した、今日はここに泊まっていこうかな。
次の日、午前中は下層に行って月の雫の採取だ、まだまだ余裕はあるがすぐに作れるように採取しておいたほうがいい。
そのうち群生地とか発見できればいいのだけど・・・。
俺は午前中いっぱい使って採取にいそしんだ、採取した月の雫は半分はいつでも調合できるようアイテムボックスの中に、半分は別荘の倉庫に突っ込んでおいた。
昼を過ぎたあたりで俺は町に帰る、地下の転移魔法陣から西の森の遺跡を選択して魔力を流す。
一瞬の浮遊感とともに遺跡跡へと転移する。
やはりここには昼間でもほとんど人が来ないんだな、索敵しても引っかからない。
魔素の薄い森の中をゆっくり歩いて町に帰る、途中でさらにホーンラビットを二匹狩猟する、これで計三匹売ることができる。
町に戻り冒険者ギルドの買い取り専用の受け付けに行く、昼過ぎなら空いてるからね。
ホーンラビット三匹が入ったズタ袋を担いで受け付けに持っていく。
「すいません。ホーンラビットの買い取りお願いします。」
「おお、坊主。ホーンラビットなんかよく狩れたな。」
「運が良かったです。」
おじさんに袋ごと渡して状態を見てもらう、一撃で倒しているので良好のはずだ。
「状態がいいな。毛皮も肉も需要があるし、銅貨三枚ってところだな」
銅貨三枚か・・・約三千円てところだ、まあちょこちょこ稼いでいこう。
俺はお金を受け取りギルドを後にしようとすると、冒険者用窓口のお姉さんに呼び止められた。
「ナイン君。ちょっと待って。」
この人は俺が初めて冒険者ギルドに来た時に対応してくれた受付嬢でエンレンさん。
茶髪で茶目、長い髪を後ろでまとめた美人さん、年齢は知らない。
「何ですか?エンレンさん?」
「念のために聞きたいのだけど・・・ナイン君は二日前から帰ってなかったみたいだけど、何かした?」
「いえ、昨日の昼間は図書室にいきましたよ。部屋には帰っていないけど。」
「あのね。・・・ここの領主様が黒髪、黒目で君と同じぐらいの年齢の子を探していらっしゃるの。なんでも娘のロゼット様の恩人だとか。ナイン君は何か知らないかな?」
ああ、結構派手にやっちゃったからな、まさかあの惨殺現場の罪を問われるとかないよな、恩人ってことだからまあ大丈夫だとは思うが・・・。
誘拐、それも領主の娘だから確か法律では殺しても問題なかったはずだ。
できることなら関わり合いになりたくない、俺はたまたま助けただけで自由気ままに冒険者として生きていきたいのだ。
名乗らず去っていったことを察してほしい。
俺がどう答えようか迷っていると近づいてきたエンレンさんに手をつながれて頭を撫でられた。
「うん。知ってるみたいね。お姉さんにちゃんと話してくれるかな。」
逃げることもできず、そのままギルド内の二階にある豪華な部屋に連れていかれた。
ここって指名依頼や高ランクの依頼を受けるときに使われる部屋だよな?こんなところで何するんだ?
俺がちょっとビビっていると一人の屈強な男性が入ってきた。
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