第13話見習い冒険者2

 俺は冒険者ギルドへ帰ると周辺の情報を手に入れるために図書室に行く、蔵書は多くないが周辺の魔物の分布や地理がわかる。


 図書室の中には数人の冒険者や見習いが依頼場所の情報収集や勉強をしている。


 俺もこの一週間、時間があるときに来ているので大体どこに何があるかはわかっている。


 俺は地図のある棚に行くとヘプナム周辺の地図と、周辺で発見された遺跡、祠、ダンジョン等が載っている本を手に取る。


 まずは地図、周辺には何があるってわけでもなく、あるとしたら森ぐらいだ。南に行くと深羅の森方向だからそっちはとりあえず除外。


 北は王都に向かう街道があるから、候補としては街道のない東か西だ。


 西の森は魔物が弱く初心者から挑戦できる、東の森は西よりも深いので中心地あたりは高ランクの魔物も生息しているらしい。


 次に周辺で発見された遺跡などが載っている本を見る。


 流し読みしながら候補を探す、一つ気になったページがあったのでそこで止める。


 町の外ではないが、町の周囲を覆う外壁に一体化しているように建っている教会がある。


 町の中心から少し離れたところに使われている教会はあるので、ここに載っている教会は使われていない廃教会なのだろう。


 この世界では聖教国が英雄召喚を行うので教会の影響力はかなり強い。帝国ですら聖教国には戦争を仕掛けることはないほどだ。


 英霊教という宗教が一つあるだけでこの世界の人は全て英霊教の信者ということになっている。


 なので老朽化など様々な理由で廃教会となった建物でも簡単には壊すことはできない、神の怒りに触れるんだそうだ。


 もしかしたらこの廃教会が使えるかもしれないな。


 大抵こういうところはスラムの住人や町の闇組織が根城にしているものだが、この町にはスラムはないし闇組織も英霊教に喧嘩を売るようなことはしないだろう。


 早速俺は本を片づけると町の西側にある廃教会に行ってみることにする、夕暮れまでにはすこし時間があるから十分見て周れるだろう。


 廃教会にはすぐにたどり着いた、昔は使われてたであろう教会だからそこまで道は複雑にはなっていなかった。


 廃教会は鉄の柵で囲われていて、敷地内は管理されていないのか雑草が生い茂っている、建物自体は古くなっているようだがまだ普通に使えそうなんだが・・・。


 俺はアイテムボックスから暗殺者の衣を取りだして纏うとフードを被り気配を殺す、鉄の柵で囲まれた教会の周りを調べて入れる場所を探す。


 どこか入れそうな場所はないものだろうか?


 裏手に回り城壁と隣接している部分に少し開いているスペースを発見する。


 木の板を立てかけて塞いでいる感じに見えるが少しズレている。


 ここから入れるな。


 俺はそこから敷地内に入ると、そこから出入りしているであろう雑草が踏みつけられて倒れて通路になっている部分があった。


「これは・・・誰か使ってる。本当に闇組織とかのアジトになってるとかないよな?」


 俺はどうしようかと思いながら索敵を発動。


 教会の中に複数の気配を感知する・・・ため息をつきながら通路もどきをゆっくり進んでいく。


 通路の先は教会裏に続いていて、小さい木の扉があるところにたどり着いた。


 扉を押したり引いたりしてみたが当然閉まっているな、壊して入ることもできないので入れそうな場所は見つからない。


「どうするかな・・・大事にしたくないしってか普通に教会関係の人がいたら普通に捕まるよな」


 ウロウロしているうちにあたりが暗くなってくる。


 ふと教会に向かってくる複数人の気配を感知する。


 すぐに隠れて様子をうかがっていると麻袋を抱えた5人の男が敷地に入ってくる。


「重なっててわかりづらいが・・・麻袋の中から人の気配ね。」


 こりゃ誘拐犯のアジトになっているってことで確定かな。


 男たちは開かなかった扉の前に行くと鍵を持っていたのかあっさりと扉が開き中に入っていく。


「さすがに見ちゃったからには助けたいな。」


 俺は気配が扉から離れるのを待ち、アイテムボックスから雷鳴の剣をとりだす。


「この剣使うのも久しぶりだな。目立つから使いにくいし」


 剣に魔力を通して扉の隙間をゆっくり通していく、一瞬抵抗があったから鍵を切り裂いたはずだ。


 俺は剣を持ったまま扉を静かに開いていく。


 音を立てないように開いた扉から入っていきすぐに閉める。


 ここは炊事場ってところかな?俺は音を立てないようにしながら気配の場所にを探る。


 こりゃ地下室があるな、気配が地下に集まっている。


 教会の地下ってことは偉い人が話をする台の下あたりに隠し通路がって展開がテンプレだ、ちょっとワクワクしながら教会の講堂に向かう。


 そして俺はガッカリした、地下への階段はあるにはあった。


 だけど隠されているわけでもなくそのままむき出しで存在していた、たぶんさっき入って行った集団がそのままにしたのだろう。


「探すのが楽しいのに・・・俺のワクワクを返せ・・・」


 そんなことを考えながら階段を降りていく。


 攫ってきた人を確認しているのか、全て気配が一つの部屋に集まって来ている、全部で十三人・・・ちょっと多いな。


 どうやって逃げられないようにしようかと考えながら、扉のついてない部屋にそのまま堂々と部屋に入っていく。


 部屋には気絶しているのか、縛られて倒れている女の子と十二人の男達。


 暗殺者の衣の効果で奴らは俺に気がついていない。


「・・・後は引き渡して完了だな。簡単な仕事だったぜ。明日の朝一番で出発する、牢屋に入れておけ」


 三人の男が子供を抱えて出て行く。


 索敵で彼らが離れたのを確認すると、気の緩んだ男達に俺は接近し、死角から容赦なく剣を振っていく。


 三人ほど斬ったところで、気がつかれた。


「誰だ!?何しやがる?」


「敵だっ!あいつら後をつけられやがったな」


 その声で我に返ったのか全員が武器を構えて抵抗を見せるが、俺は一言も答えず武器ごと斬り裂いていく、さらに三人ほど斬り伏せた。


「ガキだと!?早く殺せ!」


 人数が三人まで減ったところで一旦落ち着いて、俺は剣を下ろして口を開く。


「こんばんは、誘拐犯さん。武器を一番最初に捨てて、なんでここにいるのか?なんで誘拐なんてしてるのか教えてくれれば一人だけ助けます。」


 俺は交渉?を開始する。


 誘拐犯さん達はお互いかをお見合わせるが無言だ、たぶん真ん中のがリーダー格だろう。


 何も答えない。


 俺が剣を構え直すとリーダーが喋りだす。


「待ってくれ。理由は話す。俺だって死にたくはない」


 両側の二人が「マジか!?裏切りやがった!」みたいな顔をしてリーダーを見るが、隙ありだな。


 俺は一気に距離を詰めるとリーダー以外の二人を一瞬で両断する。


「ちょっ!?待って・・・うぎゃ〜ぁぁ!!!」


 さらにリーダーの武器を持ってる右手の肘から先を切断、武器捨てろって言ったのに。


 腕を押さえて蹲るリーダー。


「治療するから動かないで。」


 俺は低級ポーションを取り出すと切断したリーダーの腕に振りかける、せっかく生かしたのだから情報はほしいよな。


 まだ他にも女の子を連れて行った誘拐犯たちがいるから、リーダーはここでちょっと寝ててもらおうかな。


 腕の血が止まっても痛みはあるのか顔をしかめているリーダーに近寄ると、俺は鳩尾辺りに腹パンをし、リーダーの意識を狩・・・とれなかった・・・。


 殴られたリーダーは痛みと気持ち悪さでゲロを吐き出す、涙目だ。


 うんうん、俺そんなのやった事なかったな。


 その場の勢いと流れでできるんじゃないかって錯覚してた、というかそこは気絶するのがお約束だろうに。


「スリープ・ブレス」


 闇魔法で眠らせる。


 普通の状態だと大抵は効果がないが、心が折れてたりすると簡単に効く。


 どちゃっとゲロに頭から突っ込んだリーダーはいびきをかいて寝はじめる。


 リーダーの悲鳴を聞きつけたのか部屋から出て行った三人が戻ってくるのを索敵で感じ取る。


 彼らが近づいたところで俺は飛び出し一気に切り伏せる。


「リーダー以外の殲滅は完了。とっとと助けちゃいますか・・・」


 俺は廊下を進んでいくと鉄製の鍵のかかった扉があった、これ牢屋だよな?


 鍵を手に入れるの忘れたし、もう使ってない教会の牢屋なんて不要だろうと思った俺は、鉄の扉をスパッと斬ってぶっ壊す。


 中には金髪の、俺と同じ歳ぐらいの身なりのいい少女が寝ていた・・・あ、これめんどくさいヤツだ。


 助けないって選択肢がないので俺は彼女を揺すって起こす。


 体に痛みがあるのか目を覚ました彼女は体を抱えて蹲る。


「ポーションです。これを飲んでください。痛みが引くと思います」


 俺は自分が作ったポーションの一番いいやつを彼女に渡す。


 ポーションを飲んで痛みが引いたのか、彼女はマジマジと俺の顔を観察する。


「ここはどこ!?あなたは誰ですか?」


「俺は、たまたま君がここに連れて行かれるのを見て、助けに来た。ここは教会の地下だ。自分がなぜここにいるのか覚えてないの?」


 少女は俯いて考えだし、どんどん顔色が変わっていく。


「私は・・・みんなで買い物してて、いきなり知らない男の人に捕まって・・・気がついたらここに。」


 どんどん涙目になって行く彼女に焦る俺。


「も、もう大丈夫!誘拐犯は全て倒したよ。後はここから出て家に帰るだけだから。」


 キョトンとした顔で俺を見ながら


「あなたが?まだ子供なのに?」


「子供だけど冒険者だ。そこそこ戦えるんだよ・・・見習いだけど。あの程度なら余裕、余裕」


 少しでも安心させようと笑顔で笑いかけると、彼女も笑ってくれた、可愛い子だな。


「じゃあここから出よう。おうちの人も心配してるだろうしね。交番・・・じゃなくて兵士さんがいるところまで連れていくよ」


 俺が歩きだすと彼女が袖をつかんできた。どうしたんだろう?


「大丈夫だよ。悪い奴はもういないし。」


「あの・・・手をつないでもらえませんか?大丈夫と言われても怖くて・・・」


 そういうことか、俺は手をつなぐと彼女と一緒に歩きだす。


 あ~殺戮現場はどうしようかな・・・リーダーはまだ寝てるし・・・。


 とりあえず殺戮現場は目をつぶってもらってやり過ごした。


 臭いも気持ち悪そうにしてたけどこればっかりはしょうがない。


 二人そろって教会を出るともう辺りは真っ暗だった。


 手を繋いで大通りまで出るとすぐそこに詰め所があるここまでくれば平気だろう。


「じゃあ俺はここまでだね。後は大丈夫でしょ?」


「はい。でも助けてくれたお礼をしなくては・・・申し遅れました。私はロゼット。ロゼット・コンスタンと申します。」


 は?・・・コンスタンて領主の苗字だよな?あいつら領主の娘を誘拐して、確か引き渡すとか言ってたし何やってんだ?


 領主とかめんどいな、とっとと逃げよう。


「あっ!急用を思いだした!それじゃまた!」


 俺はそう言うと止める言葉を聞かずに走りだす、フードを被りなおして廃教会に向かう。


 まだリーダーが寝ているはずだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る