第12話見習い冒険者

 俺はナイン、転生者十才だ。


 そして絶賛ハブられ中・・・まさかこんな誤算があるとは思わなかった・・・。


 俺は深羅の森を抜け、ここコンスタン領にあるヘプナムの町にいる。


 コンスタン領の中では一番大きな町で、辺境に近いということもあり優秀な冒険者、そして冒険者を育てるシステムがあったのだ。


 わかりやすくいうと、十二才以下はCランク以上の冒険者の推薦と、冒険者ギルドが行うテストを突破しないと冒険者になれない。


 身分証がない俺は、子供料金で町に入り冒険者ギルドにやってきて、冒険者登録をしようとした。


 だが、待っていたのは下級冒険者に絡まれるテンプレイベントではなく、上記の理由から冒険者見習いとして力と知識を蓄えてじっくり成長していきましょうっていう悲しいお知らせだ。


 帝国にはそんなシステムは存在しなかった。


 よくある新人冒険者が無茶な依頼を受けての死亡率が高く、それを改善するためにツリーベル王国で試験的に行なっている制度ということらしい。


 見習い冒険者の待遇自体は悪くない。


 ギルドから武器の貸し出し、大部屋だが無料で寝泊まりできる施設、知識を増やすための授業と訓練。


 運がいいと冒険者パーティーの荷物持ちとして依頼に連れて行って貰えることもあるそうだ。


 初めはそんな面倒なことやってられるかと思ってギルド内の酒場をウロウロして、絡んでくるテンプレイベントを誘発しちょっと実力を示せば何とかなるんじゃないかと思っていたのだが・・・全然誰も絡んでこない・・・。


 それどころか飲み物奢ってくれる良い人までいて、すぐに無理だと悟った。


 そりゃそうだ、異世界物でよくある絡まれイベントってどう見ても物取りや盗賊の類だし無理があるよな。


 子供や新人に絡むとかダサすぎてプライドも何もあったもんじゃないし。


 諦めた俺は見習い冒険者としてスタートするのだが持っている剣がいけなかった・・・俺の見た目は村人Aみたいな感じだが、剣だけは盗賊鬼の牙から貰った片手剣だ。


 この剣そこそこ良い物だったみたいで見習い冒険者の間では目立ってしまったんだよな。


 見習い冒険者は年齢的にも十一才前後が多く、周りはみんなライバル、たぶん見習いの癖に剣だけ良い形から入っている空気読めないやつって感じになってしまったんだと思う。


 見習い登録して五人用の大部屋に案内されて、冒険者見習いの先輩たちに挨拶だけはしてもらえたが、もうその部屋に先にいた四人でパーティーを組むことが決まっていて全員剣士。


 後から来た見た目剣士の剣だけ良いものもっている俺はほとんど相手にされないというかハブられている感じにされた。


 まああれだ、学校で何人かで組んでなんかしろって時にはとりあえず人数的には組んでくれるが、何も役割を指示されないぼっちキャラ状態だ。


 唯一の救いは学校のように授業や訓練を必ずしも出席しないとダメなわけではないってことだ。


 出たければ出れば良いし、出たくなければ町中でのF級依頼なら制限はあるが受けて良いので、それでお金を稼いだり、Dランク以上の信頼がある冒険者の依頼に荷物持ちとして雇ってもらったりだ。


 俺はここに来て約一週間経ったが午前中の授業にはある程度出てる、午前中は座学が多く魔物や薬草、その他冒険者として必要な知識を教えてくれる。


 文字は読めるのでその授業は出てないが、冒険者としての知識は重要なので必ず出るようにしている。


 午後は基本的には体力をつけるための走り込みの訓練に参加だ。


 この走り込み訓練は一定基準をクリアすると冒険者についていけるだけの体力があるとして荷物持ちとして推薦して貰える、ただコネも実績もないので俺を雇ってくれる人はいないみたいだ。


 ちなみに二日目に俺は一定基準はクリアして、荷物持ち候補として登録されているけど一度も話がきていない・・・ちゃんと剣と魔法も使えるってプロフィールに書いてるのに。


 見習いで剣も魔法も使えて荷物も持ってくれるなんてどう考えてもかなりの優良物件だと思うんだが違うのだろうか?


 一度でも連れてってもらえれば絶対に後悔はさせないんだけどな・・・。


 そして今の俺は何故か同部屋の俺をハブっていた四人に誘われて、訓練場で一人模擬剣で素振りをしている。


 剣術の訓練をするから一緒にやろう、と言われてやっと仲間に入れてもらえるのかと思っていたのだが、まあ人数は五人だ。


 四人で二人組になり、俺は一人で模擬剣をブンブン振ることになった、余った俺は放置だ、ハブられてる。


 これは完全にいじめ、精神的ダメージがハンパない・・・わざわざ誘ってハブとか、陰湿極まりない。


 俺は悲しくなりながらも、どうせ俺の訓練にはならないから素振りした方が良いし、同時に魔力操作の練習だってすれば一石二鳥だからこれが一番効率がいい!と思い込むようにする。


「なあ、一人なら俺と模擬戦でもしないか?相手がいなくて暇なんだ」


 俺が悲しみの素振りをしてると声がかかる。


 素振りをやめてちらりと横を見る・・・コイツは、確か見習いの中では文武両道カースト最上位、ジャギさんじゃないか。


「俺で良いの?こっちとしてはお願いしたいぐらいだけど・・・」


「ああ、最近見習いになった人だろ?振りを見てればある程度戦えそうなのはわかる。」


 振りを見てればわかるって強キャラ感が凄いんだが、でも彼に勝てば見てた冒険者さんに荷物持ちで雇ってもらえるかもしれない。


 荷物持ちって小さい目標にガッカリ感はあるがコツコツ行こう。


 俺は目立ちたくないとか言いつつ、高ランクの魔物を空気も読めずアイテムボッスから取りだしてカウンターにぶちまけたり、試験で建物破壊するレベルの魔法をぶっ放しなどはしないのだ。


「じゃあよろしく。俺はナインだ。」


「ジャギだ。ルールは剣のみ。魔法なしってことでどうだ?ハンデは必要か?」


 ハンデくれるのか?相当腕に自信があるんだろうな、この人そう言えば見習いがくると大抵は模擬戦するって誰か言ってたな。


「ルールはそれで。ハンデは俺にはちょっと判断できないから、必要だと思ったらつけてくれると助かる」


 これで見習い冒険者がどれぐらいの強さなのかの判断はつくな。


 俺達は空いてるスペースに行くと剣を構える、十秒ぐらいお互い動かない。


「どうしたナイン?先手を譲るぞ。遠慮なくこい」


 やっぱそうなるか、大抵は格上が待ちで格下が攻撃ってそんな感じだもんな、知らんけど。


 ただ正直どれぐらいのスピードで切り込んで良いのかわからない、仲間に入れてもらえなかったからいまいち感覚が掴めてないのだ。


「ちょっと緊張しちゃってね。お言葉に甘えて遠慮なくいかせてもらう」


 俺は話しつつチラチラ周りの模擬戦を観察する・・・うんうん、この程度か。


 俺はゆっくりと腰を沈め、一気にゆっくり斬りかかる。


 ギンッ!


 俺の一撃はジャギさんに防がれたが少し後退させた、やり過ぎたかな、剣で押し合う形で固定する。


「クッッ!・・・やるじゃないか。中々良い一撃だった・・・だが八十%だっ!」


 えっ?何が?何が八十%なの?


 ジャギさんが何言っているのか全くわからない俺、どこかに何か数値を出すようなシステムがあるのか?


 お互い剣を押し合ってその反動で距離をとる。


「ある程度の実力はわかった。新人見習いで俺に八十%まで力を引き出させたのはお前が初めてだ!」


 あぁそういうことね。


 あるある、小学生ぐらいってそういう言葉使いたがるよね!知り合いの子供とかアニメのセリフまんま使ってきて困惑したことがあるよ。


「えっと、じゃあここからは本気ってことで・・・」


 俺は後ろに離れるともう一度斬りかかる。


 ジャギはそれを躱すと横なぎに剣を振る、それをさらに俺が躱して下から斬りあげる。


 そこからはお互いが躱して受けての繰り返し。


 俺からするとぬる過ぎて約束組み手をゆっくりやっているようにしか感じない。


 これどうしたものかな?


 ルールは剣のみってことだったし、剣だけだと思ってたところに俺が蹴り入れてその差で勝った的なのは卑怯かな?


 そんな事をしているうちに周囲を見回すとギャラリーが集まってきた、周りの見習い達がジャギさんが模擬戦しているってことで見に来たのだ。


「すげぇ!ジャギさんと互角に撃ち合ってる!」


「ちげーよ。さっきジャギさんは八十%って言ってたぞ」


「くそっ、俺の時は五十%だったぞ」


 なにそれ、ジャギさんの数値に出すヤツは有名なのか?平均値が知りたい。


 その間にも俺たちは斬りむすぶ。


 結構ざわざわしてるな、十分程斬り合っただろうか?ジャギさんは息が切れてきたのか、だんだん剣速が鈍ってきている。


 何かきっかけがあれば終わらせられるんだけど、最後まで付き合うしかないのか。


 そこから俺は猛攻をかける、と言ってもジャギが受けられる程度に。


 俺の猛攻にジャギさんはついてくるが、少しずつジャギさんのガードのタイミングが遅れていくのがわかる。


 ここらが潮時だな。


 息つく暇もなくジャギのガードが甘くなったところで、俺はジャギの剣を弾き上げ、仰け反ったジャギに剣を突きつける。


「俺の勝ちですね。」


「はぁはぁ・・・そう・・・だな。剣の勝負はほぼ互角・・・体力で差がついたか・・・」


 いや、最後の方は防戦一方だったじゃん、剣では俺、体力でも俺だろう。


「おい、ジャギさんが負けたぞ!」


「いやいや、これは剣だけの勝負だ。スキルも魔法もなしのな。」


「ならしょうがないか・・・いや?剣だけでもジャギさんに勝てるやつなんて他にいるのか?」


 よし、いい感じに剣ではジャギさんよりちょっと上、本気を出したジャギさんは魔法も使うらしいからそれだとジャギさん有利みたいな感じに納まったな。


「ナイン。予想外にいい訓練になった。今度はスキルや魔法を使った全力の勝負をしよう」


「そうだね。時間があればお願いするよ」


 俺達は握手して、ジャギさんは訓練場を離れて行った、ちょっと注目集め過ぎたみたいだな、見ているのはほとんど見習いで冒険者はあまりいない。


 口コミでナインが強いって広まってくれればいいけど・・・。


 そういえばギャラリーの中には同室の四人組はいなくなっていたな、呼んでおいてそれってどうなんだよ。


 俺はそこから少し離れ、訓練場を見回せる椅子に座って誰か誘ってこないかと周りを見回してみるが・・・誰も来ない・・・。


 仕方ないか、あくまでも見習いのジャギさんに剣の勝負で勝った程度だ、それでホイホイ荷物持ちに雇ってもらえるほど甘くないってことか。


 汗をかいたので俺は冒険者ギルドを出て、町にある共同浴場に向かう。


 この町には風呂があり、見習い冒険者はちょっと安く入れるのだ、さすが勇者の作った国!


 一般市民はあまり入りには来ないが、冒険者には風呂は大人気だ。


 まあ冒険者の怖い顔した人が多いから行きにくいかもしれないだけかもしれないが。


 俺は体を洗い湯船に浸かって考える。


 同年代の強さは大体わかった、冒険者のC・Bランクはアンジェさんクリスさんがいるからなんとなく把握しているが、下の方のランクはどうなんだろう?


 俺の強さは低く見積もっても大体C~Bランク、腕輪を一つ外せばAってところだろう、だが腕輪一つ外したぐらいじゃ身体能力は上がるが、どうしても魔法は初級どまりだからA-ってところかな。


 冒険者のランクはF~Sだ、見習いを卒業するとFランクからのスタートだから、今の俺なら強さは問題ない、後はしっかり知識をつけたいな。


 そしてすっかり見習い冒険者生活で忘れていたがどこかに転移魔法陣を設置したい、せっかく魔王様がいつでも来れるようにと作ってくれたのだ。


 転移するとき魔法陣が光るから町の中に設置するのは難しい、一軒家でも買うなら話は別だが・・・となると候補としては町の外。


 見習い冒険者は町の外に出てはいけないってことはないから、外で食べられる弱い魔物を狩ってそのついでに魔法陣の設置をしてこようかな。


 冒険者ギルドに帰ったら周辺の人があまり行かない場所とか調べてみよう。


 ポーションはまだまだ余裕があるけど、できることは早めにやっておかないと落ち着かないんだよね。


 まぁ今まで忘れていたんだけど。

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