第15話見習い冒険者4
入ってきた男性に見覚えはなかったが、この人かなり強いみたいだな。
男性は椅子に座ると何かの資料を見始める、俺放置かよ、今のうちに言い訳を考えておこう。
「ああ、悪いな。俺はこの冒険者ギルドのギルドマスターのギルバートだ。お前がナインで合っているか?」
「はい。冒険者見習いのナインです。俺に何か用でしょうか?」
ギルバートさんは大きくうなずく、この人がギルドマスターか。
黒髪黒目の短髪、筋肉ムキムキでデカいが落ち着いていて強キャラ感が出てる、ジャギさんの似非強キャラ感とは違う雰囲気があるな。
「少し前に見習いとして冒険者になる。座学の成績は良好だがほとんど訓練には参加せず、体力作りに勤める。模擬戦で剣術のみとはいえジャギに勝つ。間違いないか?」
「はい。合っていると思います。」
俺の見習い冒険者としての資料か、でも大して情報なんてないよな、特に何もしてないし。
「単刀直入に聞く。教会の事件に関与しているな?詳細を話せ。」
どう答えたものか・・・もう関わってるの確定で話が進んでるし、嘘をついてもバレるよな。
「わかりました・・・と言っても、それほど何かを知っているわけではありません。たまたま町を散歩していて、廃教会に入って行く怪しい男たちを見かけました。それで興味本位でついて行くと、少女が捕まっていたので助けました。」
「お前一人でか?何故助けを呼ばなかった?教会に潜伏していた奴等を全滅させたのはお前一人でか?」
「初めは助けを呼びに行こうと思ったんですが、連中にバレてしまって戦闘になりました。それに一人は生き残っていたはずですが・・・」
「にわかには信じられん・・・。見習い冒険者一人で十人以上を、だと・・・。それに生き残りがいたというのは本当か?報告書には書いていないが?」
「はい。一人だけ右腕を肘から切り落としただけで、止血して闇魔法で眠らせておいたのですが・・・死体は何人分ありましたか?」
生き残りがいなかっただと?逃げた?いや、俺が外に出た時は教会が囲まれていて逃げる隙間などなかったはずだ、別の入り口があったのか?
「死体は十二人分だ。確かに右腕を切り落とされた死体はいるが、胸を突かれて死んでいる」
人数は合っている、これは兵士の中にも誘拐犯の協力者が混ざっているな。
ヤバいぐらいの面倒ごとだ、信じてもらえるかわからないが話しておいたほうがいいだろうか、いや、誰が味方で誰が敵かが全くわからない。
ギルドマスターが味方かどうかなどわからない、ここは流そう。
「そうですか・・・それで俺はどうしたら良いですか?」
「領主様がお礼を言いたいらしくてな。この二日間お前を探していたのだが見つからない。何処にいた?なぜ逃げたんだ?」
「単にロゼット様の名前を知ったのが詰所の近くだったからです。たまたま助けただけでなのでもういいかなと思って。この二日間は、その日は夜が遅かったので近くの宿に泊まりました。次の日は森にホーンラビットを狩に一晩中行っていたって感じです」
完全に信じてくれたわけではないみたいだが、納得はしてくれた。
それからその時の状況を詳しく話していくと、話が終わりかけたその時にそれはやってきた。
トントントン
「入れ」
「失礼します」
扉を入ってやってきたのは、エンレンさんと初老の男性、執事さんみたいだ。
「ギルドマスター。コンスタン伯爵の使いのものが到着しました。」
おいっ!使いのものって、俺がここで話をしているうちに連絡されてしまった。
いろいろ聞いてきたのは時間稼ぎの意味もあったってことか。
「ナイン。伯爵様がお呼びだ。まぁ別に咎められるようなことはない。逆に褒美をもらえると思うから今のうちに考えておけ」
ニヤニヤ笑いながらギルドマスターがいう、このおっさん・・・。
俺は執事さんに連れられて、ギルド前の入り口前にDQN駐車してある馬車に乗りこんだ。
この前のDQN駐車もこの人達だったのだろう、正直行きたくない。
敵味方の区別がつかない状態でお偉いさんに会いに行くなんて、最悪襲撃を受けることだってありえる。
たぶん唯一情報を持っている可能性がある人物が俺だ。
あのリーダーは何かを言ったのだろうか?俺に情報を話したことを言っているなら俺は狙われることがあるかもしれない。
いや、胸を刺されて死んでいたってことだから、その場ですぐさま殺されたのだろう。
俺はそんなことを考えながら馬車は進んでいく、しばらくたつと馬車が止まり、伯爵邸についたみたいだ。
声がかけられ、馬車の扉が開き俺は馬車を降りる。
伯爵邸は大きいのはもちろん、白い材質を使われていてとても綺麗な建物だった。
執事さんに促され俺は客間に通される、メイドさんが紅茶とお菓子を持ってきてくれるが俺は全く手をつけない。
しばらく待っているとドアのノックとともに精悍な顔をしたおじさんと、ロゼットが入ってきた。
俺はソファーから立ち上がり伯爵の着席を待つ。
「座ってくれ。ロゼット、彼で間違いはないかい?」
「はい、お父様。私を助けてくれたのは彼です。」
俺を見ながらロゼットは微笑みかけてくる、俺はゆっくりとソファーに座ると名前を名乗る。
「はじめまして伯爵様。俺は冒険者見習いのナインと言います。」
「私はここの領主グライアン・コンスタンだ。こっちは知っているとは思うがロゼット。私の娘だ」
「改めまして名乗らせていただきます。私はロゼット・コンスタンと申します」
グライアン・コンスタン伯爵。
ロゼット同じ金髪金目、短髪、精悍な顔つきをしている、領民からの信頼が厚い、このコンスタン領の治安がいいのもこの人が領主になってからだと言われている。
「ナイン。先日は娘を助けてくれてありがとう。できる限り詳細を教えてほしい」
「わかりました」
俺はギルドマスターにした話を繰り返す。
それを聞いて考えだすグライアン伯爵。
「そうか・・・一つだけ聞かせてくれ。お前は一人だけ殺していないのだな?」
やはりそこに食いついてきたか・・・報告書と明らかに矛盾する部分だからな。
「はい。俺が殺したのは全部で十一人です。リーダー格と思われる人は死んでいません」
「そいつから何か聞かなかったか?今は少しでも情報が欲しい」
黙っていても状況が好転するわけではないし、結局のところロゼットが狙われ続ける時間が増えるだけだ。
俺は伯爵にリーダー格から聞いたことを話した。
「やはりか・・・誘拐依頼とランスという人物、生かしておいたリーダーが胸を刺されて死んでいた。ここまで状況が悪くなっていたのか・・・なぜギルドマスターにそれを話さなかった?」
「全滅していたと聞いた時に話そうと思ったのですが、誰が敵か味方かの判断ができませんでした。」
「うむ。十才とは思えぬ判断だな。そして強い・・・。ああ、ギルドマスターは大丈夫なはずだ。こちらの状況を理解している。」
しばらく何かを考えている伯爵、時間だけが過ぎていく・・・ロゼットを見ると顔を暗くしているのがわかる。
自分の周りに誘拐犯の仲間がいるってことは理解したのだろう。
「ありがとうナイン。そこで褒美を与えたいのだが望みのものはあるか?」
「いえ、たまたま通りかかっただけですので特に望みはありません」
「それはこっちの面子の問題で渡さないというわけにはいかないのだよ。特に望みがないならお金はどうだ?見習いなら大した稼ぎはできないだろう?」
うん、お金ってのが一番いい落としどころだな、あって困ることもないし。
「はい。それでいいです。ありがとうございます。」
伯爵が手を叩くと執事さんが袋を持ってやってくる。
それを受け取ると俺はお暇させてもらおうと立ち上がるが伯爵に待ったをかけられる。
これ以上俺に何か用でもあるのか?もう帰りたいんだが・・・。
「誘拐の話はこれで終わりだ。だが折り入って君に依頼したいことがあるのだが聞いてもらえないかな?」
嫌な予感しかしないが、俺はまだ見習い冒険者で町中の雑用しか受けることができない。
「お言葉ですが、俺は見習い冒険者です。難しい依頼を受けることはできないです。ギルドマスターが信用できるなら他の高位冒険者に頼んだ方がいいと思いますが・・・」
「安心してくれ。武器を持った誘拐犯十二人を相手に完勝できる君が見習いでいいわけがない。今回のことで君の実績は十分。私のほうから報酬として冒険者資格の推薦書を書こう。君の実力なら試験もクリアできるはずだ。」
マジかよ!伯爵の推薦でも良いなら推薦書はほしい。
「わかりました。とりあえず話だけは聞かせてもらおうと思います」
伯爵の気が変わらないうちに話だけでも聞くことにした、無理そうなら断ればいいしな。
「その気になってくれてうれしいよ。君に依頼したいのは、ロゼットの遊び相手だ。」
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