第11話ざわめく森11

 俺は木の上に登り索敵を使って魔物の動きを気配で観察する。


 夜は魔物の時間と言われている、どれぐらい違うのか昼間と比較したくてちょっと集中して気配を探っているのだ。


 俺は目を瞑ってジッと気配を探り続ける・・・どれぐらい観察していただろうか・・・いや飽きた。


 魔物全然動かないんだけど。


 誰だよ、夜は魔物の時間だから行動が活発になる、夜の森は彼らの庭だ、なんて言ってたヤツは・・・確か本に書いてあったんだよな。


 飽きたので目をあけて仮眠の準備をする、とは言っても木から落ちないようにとか、体勢を変えるってだけだけどね。


 木の上なら大丈夫かと思い、使えない認定した魔物避けの結界を発動させてゴロリと横になる。


 この木は大きく枝が太いので横になれるのだ。


 何時間寝たのかはわからないが、目を覚ます、まだあたりは暗くちょっと寒い。


 空を見上げると日本ではお目にかかれないような輝きの星たちがキラキラしている。


 うん、俺は星に詳しくないから日本と同じだとか違うとかぜっぜんわからない、そして月が二つあることもない。


 周りを確認する、魔物避けの結界は安定して起動中、索敵は・・・あいかわらず所々に魔物の気配、ほとんど昼間と変わらない動きしかないな。


 俺は起き上がると、ほし肉を食べながら水を飲んでしばしボ~っとする。


 夜が明けるまでここで待機でもしようかと思ったが、眠気もなくなったし、木の上だと十分身体を伸ばせないので早めに人のいるところに行きたい。


 俺は地図を確認して木を降りると走りだす、方向は合っているはずだ。


 そんなことを続けること二日。


 とうとう俺は森を抜けることができたのであった。


 森を抜けたのはいいが、ここからは本当に何もない平原である。


 昔は徒歩一日程度のところに村があったのだが、深羅の森のスタンピートで全滅したということだ。


 それ以来、近くにあった村は放棄され、スタンピートで広がった魔物が所々に住みついているらしい。


 といっても何十年も昔のことなので森に比べたら圧倒的に数は少ないし、押し出された魔物たちなので一体一体は強くない。


 真っ直ぐに歩いていけば街道にたどり着けるって話は聞いているのでそこに向かって、街道沿いに町に行こう。


 俺は景色を楽しみながらゆっくりと歩いていき、街道にぶつかって町のほうに歩いて行く。


 森から出てからは索敵は使っていない。


 索敵は便利なのだが頼りきってしまうとこうピキーンみたいなニュー○イプ的な能力が鍛えられないからな。


 夜になると街道の少し道幅が広がったところで休憩にする。


 途中で狩ったうさぎの魔物をさばいて火であぶる、アイテムボックスの中に薪を大量に入れておいたのが良かった。


 周りには誰もいないし何もない、こんなところで一人で野営なんてかなりさみしい気分になる。


 盗賊が稀に出没するとカレンさんが言っていたな、だけどこんな何もなく昼間歩いてても誰も通らないところで盗賊が何してるんだろ。


 と思っていると何かしら視線を感じる。


 おいおい、と思いつつ索敵を使うと一つの気配と、範囲ギリギリに五人ほど。


 こりゃ盗賊か?俺に近い一つの気配が斥候、範囲ギリギリにいるのが盗賊本隊ってところか・・・俺が子供一人で金にならないって思ってくれればいいのだが、まあ無理だろうな。


 こんなところでただの子供が一人で焚火してるってかなり不思議な光景だしな、子供だから捕まると奴隷賞に売られるってのがテンプレか。


 索敵で伺っていると、斥候が一度集団に戻って、みんなでこっちにやってくる。


 戦うしかないのかな、もしかしたらただの冒険者たちで焚火を警戒していただけかもしれない。


 カチャカチャと音が聞こえてくると六人が俺の前に現れた。


 薄汚れた皮鎧に何年風呂入ってないんだって感じの風貌、はい、誰がどう言おうと俺はこの人達を盗賊だと決めました、汚いです、日本人は綺麗好きなんだよ。


 盗賊(仮)は、すでに武器を抜いてこちらにつきつけてきた。


「ガキ!命が惜しけりゃすべて置いてここから立ち去れ!俺たちは大盗賊『鬼の牙』だ!聞いたことがあるだろ?」


 リーダーらしき大剣さんが俺をにらみながら言ってくる。


 『鬼の牙』?全く聞いたことないし、というか盗賊の名前なんて一つも知らない。


 座ったまま訝しげな顔をしている俺に取り巻きの一人が


「リーダー、こいつビビって固まっちまいましたぜ。それもしょうがねえか、精鋭だけが入ることを許される極悪非道の大盗賊『鬼の牙』に子供が出会っちまったんだからな。おっと、ションベン漏らすのだけは勘弁な」


 みんなして何が面白いのかゲラゲラ笑う、夜は静かにしろって言われたことないのかな。


 貧乏時代にボロアパートに住んでいたのだが、下に住んでる学生が夜中友達呼んで騒いで、とても迷惑だったことを思いだしてイラッとする。


 俺は立ち上がると彼らに交渉を持ちかける。


「交渉しませんか?武器防具を全ておいていけ。それで命は助けるよ」


 俺が何言っているのか理解できなかったのだろう。


 少しの間沈黙する・・・言葉を理解できてきたのだろう、どんどん盗賊たちの顔が変わっていく。


「ガキがっ!そんな挑発で俺らがビビるとでも思ってんのかっ!?おい!こいつ殺して身ぐるみ剥いじまえ!」


 二人がドヤ顔で前に出てくる、余裕そうだな。


 もうこれ以上話す気はないので俺は剣を抜くと一人の懐に素早く入る。


 横なぎに一線して胴体が真っ二つになり血が噴き出る、一つ。


 隣の男に向きを変えると下から両手で斬り上げて股間から左右に真っ二つにする、二つ。


 何が起こっているのかわからずに動けなくなっているリーダーに近づくと首をはねる、三つ。


 三つの死体が血しぶきと内臓をまき散らしながら崩れ落ちる。


 これ以上は逃げられる可能性があるので素早く残りの三人に近づいて、足を浅く斬りつけ動けないようにする。


「うぎゃぁぁ~足が!足がぁ!」


「あんぎゃ~!」


「ぶごぶおぶご~!」


 弱すぎる・・・脂汗と血を流しながら盗賊の残党ABCがゴロゴロしている。


 一人は足が千切れちゃってる。


 彼らを放置したまま死んだ三人の武器を漁る。


 大剣、片手剣、短剣、ナイフ、弓。


 とりあえずアイテムボックスに武器をしまい、転がってる盗賊ABCをみる、どうしよう・・・。


「死にたくなければ質問に答えろ。ここから一番近い村は?」


「こ、ここからだいたい、い、一日程度の距離ですっ・・・」


「よし、治療してやるから動くな、抵抗するな」


 武器を手放して完全に抵抗の意思を無くしたABCにポーションを使って治療してやる、素直に答えてくれたので高いポーションを使って千切れていた足もくっつけてあげる。


 武器防具はすべて回収して、完全に戦意を失っていたのでおとなしくロープで縛られて転がっている。


 今は夜だが、ここで盗賊の死体やら、盗賊ABCがいる状態ではゆっくり休むこともできない。


 しょうがない歩くか・・・


 盗賊ABCを立たせると先に歩かせて俺は後からついていく、まずは彼らのアジトに案内させる。


 少し街道から離れた所にそれとわからないような一見何もない小さな林がある、向こう側が見えそうな感じで何があるとも思えない。


 ABCは林に入ると周囲を確認して開けた場所でしゃがみ込む。


「ここが俺達のアジトでさぁ。」


 盗賊Aがドヤ顔で言ってくる、暗いのでかなりわかりにくいが地面を見ると確かに扉がある。


 たぶんここは昔は村だったのだろう。


 家などは朽ちて何も残っていないが、丈夫な地下室だけが残っていてそれをアジトとして使っていたそうだ。


 三人を近くの木に縛りつけると、魔法の明かりを先行させて注意しながら俺は地下室に降りていく。


 狭い・・・まぁ村の地下室だから仕方はないが、盗賊六人でなら何とか生活できる広さだ。


 一つだけある扉を潜ると倉庫になっていた。


 倉庫の武器防具、食料、何かしらの道具などを片っ端からアイテムボックスにしまっていく。


 この世界には一つのルールがある、それは『盗賊の物は俺の物』だ。


 全ての物資をアイテムボックスにしまい地下室から出ると、盗賊ABCはいなかった・・・逃げられたのだ。


 索敵を使うと走って移動する気配が範囲から出て行く、一瞬どうしようか迷ったがどこかの村に連れていくのもめんどくさかったのでどうでもいいか。


 ただここのアジトは使えないようにしておかないとな。


 少し離れて魔法を放つ。


「ヴェリアス・レイ」


 六色の魔法が階段を通って地下で爆発、もう一発使うと地面が陥没する。


 これでここはもう使うことはできないな。


 まだ夜になったばかりで日の出にはまだ時間がある、今から寝るのも何だしこのまま街道を進んでいこう。


 街道を歩いていると日が出て少ししたあたりで村が見えてきた、木の柵で覆われていて俺が想像していた村よりもかなりしっかりしている。


 盗賊のお陰で普通の武器も手に入ったし、特に村に行く必要はないが夜通し歩いてきたのでそろそろベッドで寝たい。


「止まれ。子供一人でこの村に何のようだ?」


 木の門の近くにいた兵士さんが警戒しながら近づいてくる。


「こんにちは。冒険者になるために町まで行く途中に立ち寄らせてもらいました。一晩休ませて貰えると助かるんですが」


「子供一人でか?君みたいな子供の見習いは多くいるらしいが、この村には宿はないが、まっすぐ行くと村長の家があるのでそこで相談してみなさい」


 そう言うと中に入れてくれた、特に身分証などは必要ないみたいだな、持ってないけど。


 俺は歩きながら村を見渡す、良い村みたいだ、異世界の村っていうと税金に苦しんで常に飢えてよそ者に冷たいってイメージがあった。


 ここは俺より小さい子供達が走り回って遊んでいる、子供が働かなくてもなんとかなるぐらいは生活が豊かなのだろう。


 村長さんらしき人の家に着くと扉を叩く。


「こんにちは。村長さんはいらっしゃいますか?」


 少し待っていると初老の男性が出てきた。


「こんにちは。君は誰かな?この村の子ではないよね?剣を持っているから冒険者見習いの子かな?」


 俺は村長さんに町で冒険者になるための道中で立ち寄ったことを説明した。


 ちなみに今の俺は、盗賊から奪った村人の服に外套、普通の片手剣という初心者装備だ。


 魔王様に貰った雷鳴の剣と暗殺者の衣はアイテムボックスにしまっている。


「わかった。空き家があるからそこを使ってくれ。少し前に冒険者達が使っていたから大丈夫だろう。何かあったら言ってきなさい。力になろう」


 高待遇で受け入れてくれたな。


 村長さん曰く冒険者がくると金を落としていってくれるので今はかなり景気がいいみたいだ。


 聞いた限りだとたぶんアンジェさん達だろう。


 帰りも寄ったそうで、だが人数は減っていたということだ、森の中の死体もその中の一人だった可能性が高い。


 空き家に入ると、掃除はされたようで比較的綺麗で安心する。


 俺は桶に魔法で水を入れると、盗賊から奪った武器などを綺麗に手入れをする。


 これは町で売れば良いだろう。


 お金がないわけではないが、あって困るものではないからな、盗賊がどれだけいるかわからないが、見つけたら狩りに行こう。


 俺は一晩この村で過ごすと、町に向かって街道を歩き出す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る