第10話ざわめく森10
コンコンコン
ノックの音で目が覚める、あれ?魔王城?頭に霞がかかったままドアを開ける。
「おはようナイン君。よく寝れた?」
誰だ?ああ、カレンさんだっけ。
「おはようございますカレンさん。」
「朝ごはんを作ったから一緒にどうかな?と言っても勝手に使わせてもらったんだけどね」
ニコリと笑った笑顔が綺麗な人だ。
俺はカレンさんと一緒にリビングに行く、すでに座っていたアンジェさんに挨拶をすると三人で食べ始める。
朝食は薄く切った肉とパンとサラダだ。
俺とアンジェさんの出会いからはもうアンジェさんから聞いたそうなので、こっちが恐縮するぐらい丁寧にお礼を言われた。
カレンさんとアンジェさんは二人組の冒険者だそうだ。
カレンさんは金髪、金目で髪は長い美人さんだ、冒険者のランクもBで意外と高い。
不意打ちとはいえマンティコアを貫いたのは伊達じゃないってことだな。
ここにはとある貴族の依頼で呪いに効くポーションの材料になる薬草を探しにきたと言うことだ。
もう一つのBランクパーティーの三人と計五人で、上層には貴族の私兵五人がキャンプを張っているので総勢十人で深羅の森に来たということだった。
十人で深羅の森、しかも中層以降は五人か・・・俺の感覚からすると人数が少ないと思ってしまうのだが・・・。
私兵の方々は実力不足で中層以降は難しいのでギリギリのところでベースキャンプを張ってもらい、五人で下層までたどり着いたが肝心の薬草が見つからず、一旦上層に戻る途中でハンターウルフの襲撃に遭う。
魔法剣士のカレンさんが殿でハンターウルフを抑えるも仲間と逸れてしまった。
そして一時的にキャンプを作ってそこからカレンさんを探そうとしたがまたハンターウルフの襲撃に遭い、アンジェさん以外は撤退したと言うことだ。
まあ正直運が悪かったよね。
俺だってハンターウルフは厄介だから戦いは避けるし、マンティコアは絶対戦わない。
腕輪外してないとたぶん勝てなさそうな感じがするし、勝てたとしてもかなりの死闘だよな。
「じゃあ後は上層のベースキャンプにたどり着けば良いんですよね?」
「いえ、帰るだけならそれでいいのですが、私達は薬草を手に入れたいんだ。」
「そうだ!ナイン君はここに住んでるし、下層にも行ってるんでしょ?月の雫って言うんだけど知らないかな?」
「月の雫が必要だったんですね。持ってるのであげますよ。それとも採りたての方がいいですか?」
月の雫なら庭に植えたのがあるし、乾燥させたのもある。俺にも必須の薬草だしな。
「本当ですか!?少し譲って貰えると助かります。おいくらで譲って頂けますか?」
身を乗り出して聞いてくるカレンさん。
「え?いや、結構生えてるのでタダで構いませんよ。」
「ナイン君は街に行ったことないでしょ?」
アンジェさんが確信を持って聞いてくる・・・何故わかる?
「何故って顔してるから教えてあげるけど、月の雫って流通がない上に希少なポーションの材料だから、そうだな・・・一房で金貨50枚はするんだよ。高額なんだよ。それをあげるって」
そう言うことか・・・俺は月の雫はエグジットポーションの材料としか見ていなかったからな。
「じゃあ月の雫を町に持っていけば生活には困らない?」
町に行ったら異世界転生テンプレの冒険者にでもなろうと思ってたんだけど、月の雫で儲けられるならそれはそれでありだ。
「ナイン君は街に行きたいの?確かに月の雫があれば生活には困らないだろうけど・・・ナイン君みたいな子供が持っていっても信用してくれるかどうか」
ああ、そうか・・・子供が希少な薬草なんて持っていったら怪しいよな、自分が子供なのたまに忘れるんだよな。
「じゃあ、二人が使ったポーション代と月の雫の料金としてお願いがあるんですがいいですか?」
「うん、命の恩人だし、大抵のことは聞いてあげられるしお金も払うよ」
「私もそれでいいよ。」
「ではこの家の事、俺の事は見なかった、会わなかったことにしてもらえませんか?詳しくは言えませんが、隠蔽結界で隠してるほどの家ですから俺に家を貸してくれてる方は知られたくないと思うんですよ」
そう、ここは魔王様の別荘だから知られるのはまずい・・・と思う。
まあ今更なんだけど今回は人助けだったからセーフ!と思いたい。
ただ広められるのはマジで困る。
「そういうこともあるかなって思ってたけど・・・本当にそれでいいの?」
「はい。俺にとっては一番重要なことなんです。ここの方に俺も恩があるので迷惑はかけたくないんです。」
「わかった。私は問題なし。カレンは?」
「私もそれでいいわ。ただ他にはないの?街に行くならある程度お金は必要よ?」
「じゃあ街に入ることができる程度のお金が欲しいです。」
お金があれば道中で稼ぎながら行かなくてすむしね、まあ最悪気配殺して不法侵入って手もある。
「手持ちは金貨20枚しかないけどこれで良いかな?街に入れるし、ナイン君の強さなら冒険者ギルドも登録できるでしょうし、節約すれば1ヶ月は生活できるわ」
「これだけあれば十分です。ありがとうございます。カレンさん、アンジェさん」
これだけあれば街に行って、夜は転移で帰ってきてみたいなことして節約できる。
街に行ったらリルにお土産買って持って行こう。
「これで契約成立ってことですね、ちょっと待っててくださいね。月の雫をとってきます」
それからアンジェさんとカレンさんは月の雫を受け取ると帰っていった。
二人は王都に行くそうで一緒にこないか誘われたけどそれは断った、二人だけならいいけど、ベースキャンプの人達と合うのは避けたい。
できる限りこの家のことや、俺が森に住んでいることを詮索されたり、不審に思われたくない。
王都に王都に来た時は冒険者ギルドに伝言を残してくれれば会えるから、必ず連絡するようにと言われた。
さて索敵の使えないアンジェさんたちでベースキャンプへは大体二日の距離ってことだから、索敵できる俺なら警戒する必要はないのでもっと早く着けるはず。
約一日で中層を超えると考えればかなり安心できる、上層にたどり着けば魔物避けの結界と暗殺者の衣で夜はどうとでもなるだろう。
この森を抜ける情報をもらえたのはよかったな。
すぐにでも出発したいところだが、今出発すると二人に会う可能性がありとても気まずい、お別れしたばかりだしな、なので数日あとに出発しよう。
俺は深羅の森を中心とした地図を広げる。
俺が向かうのは帝国と接していない国、真逆にあるツリーベル王国だ。
大昔の勇者が作ったと言われている国で深羅の森の北側に位置する。
この国絶対に鈴木さんとかそんな苗字の人が作っただろ!って思わないでもない。
知り合いにいたんだよ、苗字を英語に直してそれを語呂がいいようにしてアカウント名で使ってる人。
それはさておき国土自体は周りの国に比べて小さいが、治安が比較的良く魔王様にもお勧めされる国である。
俺が向かうはツリーベル王国コンスタン領だ。
数日後、まだ暗いうちに俺は北に向かって走りだす、とうとう俺の深羅の森脱出作戦が始まるのだ。
この時間から移動すれば日が暮れる前に上層に行けるだろう、索敵を使いつつ魔物の気配があれば少しズレてすり抜ける。
休憩は念のため木の上に登ってだ、食料はほし肉と水を大量にアイテムボックスに入れてきた。
休憩をはさまずに素早く駆け抜けるってのも森を出ることに関してはありかもしれない、ただ早く中層を抜けたいが焦っては何かあるかわからない。
ある程度余裕を残していこうと思っている。
数時間か走ると風景が変わってくるように感じる、何が変わったかというとハッキリとは言えないのだが、たぶん魔素の濃度が変わってきているのだと思う。
もう少しすれば上層に抜けることができるかもしれない。
スピードを落とさず、気を抜かず走る・・・ふと何かが目につく。
俺は止まると目についた物を見つめる・・・死体だ。
嫌な予感を感じながら、ドキドキしながら近くに行く、臭いがきつい。
「ふぅ・・・違った・・・」
安心したっていうのは不謹慎かもしれない、ただあの二人の冒険者ではなかった。
魔物に食われて腐敗して生前の人物なんて全くわからないが、着ている皮鎧に見覚えがない。
胸のあたりに膨らみがないものなのでたぶん男性冒険者だろう。
もしかしたらあの時先にキャンプに帰ったパーティーの一人かもしれない、俺が声をかけておけばこうはならなかった可能性もある。
一歩間違えば俺も同じようになる、ということを実感する。
俺はまた走りだす、思うところはあるが・・・あそこで時間をかけてはいられない。
空気が変わったような気がした、たぶんここからが上層だろう。
もう少し行けばベースキャンプの跡地があるかもしれない。
索敵に集団が引っかかる、森の中にこんな集団がいるのか・・・。
十人以上の数がいるので彼女たちではないだろう、見つからないようにゆっくり忍び寄る。
少し開けたベースキャンプを作るのに最適な場所にゴブリンの群れがいた。
焚火の後や誰かが使っていた跡地をゴブリンが使っているのだろうか?
ゴブリンがいるならここは上層だ、索敵に人らしき気配はないので安心する、アンジェさんやカレンさんならゴブリン程度に負けるはずはないしな。
上層に来たので、ここで休憩をとりたいところだがゴブリンがいたんじゃ落ち着かない。
見つからないようにゴブリンの群れを迂回してまた走りだす、もうすぐ日が落ちて夜になる。
索敵を行うが中層以降と違って上層は魔物の密度が高い気がする、常に索敵範囲に何かしら引っかかっている。
弱い魔物がどんどん中心部から外に押し出されているのだろうか?
さすがにこれだけ密度が高いとちょっと魔物避けの結界を使っても怖いな。
この魔物避けの結界はCランクのランクの高い魔物の魔石使ってるんだけど完全に作り損なんじゃないだろうか・・・。
魔物避けの結界の役に立たなさに地面に叩きつけたくなるのを堪えて木に登る。
そしてあたりは暗くなり魔物が活発になる時間だ。
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