第9話ざわめく森9
今はもう夕方に近い、森の中はこれから一気に暗くなり周りが見えなくなる、早く見つけないと。
「まずは下層前の襲撃されたキャンプ地に行こうと思う。もしかしたらそこにカレンがくるかもしれない。そこを起点として探していきましょう」
「わかりました。アンジェさんは場所がわかりますか?」
俺はそこを見てない予定なので、アンジェさんに尋ねる。
「ナイン君と出会った場所まで戻れば、そこからなら行けるのだけど」
「下層前ってことはちょっと広くなっているところですか?そこならそれほど遠くない場所に心当たりがあるので、俺が先導します」
俺たちは暗殺者の衣のフードを被ると走りだす。
とりあえず今のところは索敵範囲に魔物はいない、ただやはり森の中、夕方といってもかなり薄暗くなっている。
たいしてスピードも出せなかったが、道はわかっているので開けたキャンプ地後にたどり着く。
「ここね。さすが慣れているだけはあるわね。」
俺は正直戸惑っている。
月の雫の採取に必ず通る道ではあったが、暗くなってからは家から出たことがないので昼間とは全く違う風景に見える。
深羅の森をちょっと甘く見ていたな。
「ただ、夜は俺も出歩くことはなかったので、ここからは厳しいことになるかもしれません。早く見つけないとまずいかもしれません」
「わかった。まずは私たちが下層から出てきたところを戻ってみましょう」
正直ちょっと悩むが、人命救助のためには致し方ない、俺は右腕にある封魔の腕輪を外した。
魔素が急激に体に入ってくる感覚と放出されている感覚でちょっとクラクラする。
一つ外した程度でこれか・・・身体に結構負担がかかるな。
「索敵」
感覚が広がっていく、普段は半径百m程でしかないがたぶん五百m程は広がっているだろう。
いくつかの気配が入ってくるがどれだか全然わからない。
近くにいるアンジェさんに似た気配を探す・・・いない。
「アンジェさんの気配に似たものを探してみたけどいませんでした。進んでみましょう」
俺はアンジェさんに先頭を変わると、下層へと入っていく。
そろそろ周りが見えなくなってきた。
「アンジェさん。明かりをつけますね。」
「今回ばかりは仕方ないわね。探知は続けてもらって、魔物が寄ってきたら消してやり過ごすってことにしましょう」
「ライティング」
魔法の明かりをアンジェさんの近くに配置して道を急ぐ、草木を掻き分けなるべく早く高範囲を探せるように速足で歩いて行く。
そこから三十分以上探しても魔物以外の気配が探知に引っかからない・・・これはもしかしたら。
その間に何度か魔物が寄ってくるが明かりを消して道を変えてやり過ごす。
カレンさんの探索は絶望的かと思いかけた時、範囲内に複数の気配が入りこんできた。
その中の一つは他とは気配が違う、そしてその気配たちは激しく動いている。
「アンジェさん、見つけたかもしれません。ここから右上の方に五百m程です。戦闘しているかもしれません」
「わかったわ。先導よろしくね。」
俺たちはルートを外れて一直線に気配の元へ向かうと、近づくにつれて魔法の明かりが見えてくる。
「あそこね!カレンの光魔法かもしれないわ」
そう言うとアンジェさんは俺を追い抜いて光の元に向かう、近づいたことでかなり強力な気配だと感じる。
「アンジェさん気をつけてください!気配がかなり強いです。高ランクの魔物の可能性が高いです。」
「わかったわ。ナイン君は危ないから下がってて。」
アンジェさんはそう言うとスピードを上げて行く。
離れてろと言われてもそうは行かないんだよな、たぶん俺も戦わないと難しいだろう。
「カレン!助けにきたわ!」
「ダメ!逃げてっ!マンティコアよ!」
俺たちがたどり着くと全身傷だらけの女性と、ニヤニヤと笑う人の顔をした魔物がいた。
マンティコア。
人に似た顔を持つ以外はライオンに近い姿をしている魔物だ。
強さはAランク、身体中の細かく短い毛が魔力によって固くなっていて魔法も物理攻撃にも耐性がある。
ネコ科なのかは知らないが強靭な手足と素早い動きが特徴で、性格は残忍で獲物をいたぶって殺す。
Aランクは戦ったことはないが今の俺は腕輪一つの状態だしいけるだろう。
俺は魔力を練り上げる。
カレンさんとマンティコアの間にアンジェさんが割って入る。
「ここまで来て逃げるわけないでしょ!」
アンジェさんがマンティコアを牽制しているうちに不意打ちさせてもらう・・・こんなんばっかだな俺。
五式の指輪を起動させ不意打ちを狙う。
「ヴェリアス・レイ!」
俺の目の前に六色魔法陣が輝き、各属性の魔法がマンティコアに飛んでいく。
これヤバい!腕輪外してるせいで魔力めちゃくちゃ持ってかれる。
無駄に魔力を半分以上持ってかれ、ただ威力もかなり上がってるはずだ。
不意打ちが決まりマンティコアに全弾命中する、マンティコアが吹っ飛び音を立てて転がって行く。
「アンジェさん。今のうちにカレンさんの回復を!」
俺が飛び出してアンジェさんを見ると固まっている、カレンさんも固まってる。
まぁ子供があんな魔法使ったらビビるよな、でも今はそんなこと気にしてる場合じゃない。
俺だってドン引きする自信があるけど。
「早く!」
ピクリとして動き出すアンジェさん。
「えっ、ええ、わかったわ。」
俺は雷鳴の剣を抜いて魔力を通す、今までにないぐらいバチバチしてるぞ、これ壊れないよな?
「アンジェ、あの子は何?それに他のみんなは?」
「あの子はナイン君で近くに住んでる善意の協力者。他の奴らは逃げたわよ。」
ポーションで回復しながら?を頭に浮かべているカレンさん、でももう話をしてる時間はない。
「来ますよ。気をつけてください」
暗闇で全く見えないが索敵には引っ掛かってる、まだマンティコアは健在だ。
「グウゥガァァー!!!」
憎しみにも聞こえる鳴き声が響き渡る。
俺はライティングでもう一つ光を作ると自分の周りに漂わせた。
鳴き声がなくなり静寂が訪れる。
土煙の中から飛び出したマンティコアが俺目掛けて突っ込んでくる。
さすがネコ科?、スピードが速い!
俺に急速に接近すると万ティコアは右手の爪を縦に振り下ろす。
俺はギリギリで躱すと剣を下から振り上げる。
マンティコアはそれを左爪で弾じいて横に逸れて距離をとる。
弾ききれなかった爪が少し欠けている、この剣なら斬れるけど、雷撃は万ティコアに効果が薄いのか?動きを阻害させたようなものは見えなかった。
今度は俺から向かって行くと剣に脅威を感じているのか大きく避ける、逃さないよ。
さらに追いかけてまた逃げようとする瞬間に
「シールド」
マンティコアの逃げる方向にシールドを張って行動を邪魔する、若干シールドに引っかかり動きが遅くなった瞬間に雷鳴の剣を振り下ろす。
俺の剣はマンティコアの肩を切り裂く、さすがAランクだな、致命傷は避けたし毛が固くて深傷を負わせられない。
俺はそこからどんどん斬撃を放って行く、足が止まってしまえばこっちのものだ。
マンティコアも応戦するが一つ二つと爪を切り飛ばしていく。
不利を悟ったマンティコアは大きく後ろに下がると口を開く。
確か魔法使えるんだっけ?
「ガァァァァ!」
マンティコアの周りに四つの火球が浮かび上がり周囲が一層明るくなる、その全てが俺に向かって飛んでくる。
森の中で火属性とか頭おかしいんじゃないかと思ったけど、焦っているのかな?完全に隙だらけだ。
俺はその全てを雷鳴の剣で叩き斬る。
すっと音を立てず上から暗殺者の衣で気配を消したカレンさんがマンティコアの真上に落ちてくる。
剣が光ってるから魔力剣かな。
カレンさんの剣がマンティコアの首に深々と突き刺さる。
「カッッッ・・・」
マンティコアが声にならない叫びを上げて暴れ回る。
暴れるマンティコアからすぐに剣を引き抜き飛びのいたカレンさんと入れ替わるように突っ込んでいった俺がマンティコアの首を跳ねる。
血飛沫を上げながらマンティコアの首がゴトリと地面に落ち、胴体も首から血を吹きだしながら音を立てて崩れ落ちる・・・討伐終了だ。
「すぐにここを離れましょう。マンティコアはどうしますか?」
「私がアイテムボックに入れて行くわ」
アンジェさんがマンティコアをアイテムボックスにしまい、俺はもう必要ないかと思って腕輪をつけ直す。
それと同時に虚脱感が襲ってきてフラつく、これ付けたり外したりで負担があるんだろうな。
とりあえずアイテムボックスからエグジットポーションを取りだして飲んで回復させる。
「じゃあ俺が先導しますので帰りましょう。魔物を避けつつ最短距離で行きますね」
魔法の明かりを浮かせつつ俺が対応する、暗殺者衣は二つしかないので今はアンジェさんが装備している。
魔物が寄ってくると、どうしてもカレンさんが見つかってしまうので正直かなりしんどい。
一時間以上かけて何とか家に着くととりあえず詳細は明日ってことで、二人を別荘の使っていない部屋に案内する。
「二人はこの部屋を使ってください。快適化の魔法が掛かっているので寒くはないと思いますが、毛布はこれを使ってください。」
「ありがとうナイン君。助かったわ。実際もうダメかと思っていたから」
カレンさんはもう半分は諦めていたそうだ。
まぁ高ランクの魔物が徘徊する夜の森に取り残されたら俺だって心が折れる。
ここが俺の家ではなくて貸してもらっている家だと言うことだけ説明し、他の部屋には行かないと言う約束だけして俺も自分のベッドがある部屋に戻る。
はあぁ〜疲れた、明日になったら街のことを聞いてみよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます