第4話ざわめく森4
リルについて周って魔王城を案内してもらう。
リルはとても良い子で・・・人族の子供と違いがあるようには思えない。
人族の中での魔族は、悪逆非道、殺戮を好み、力こそ全て、魔族以外を受け入れずって感じの勧善懲悪な昔のゲームやアニメの様なイメージがついている。
実際には・・・普通だ、ちょっと力のある普通の女の子だ、種族的に何が得意かって程度の違いにしか俺には見えない。
前の俺は魔族を見たらすぐに殺すように命令されていて、魔族に対する嫌悪感を抱くように教育されていたが実際にリルや魔王様と接して、そして覚醒した影響か嫌悪感などは一切なくなっていた。
まぁだからと言って魔族すべてがいい人だとは言わない、たぶんどの種族もそれは同じなのだろう。
人族でも自分の利益のために他人を貶める人、自分を犠牲にしても他人を助けようとする人、何も考えず他人の言いなりになってしまう人。
どの種族も多様な性格の人がいて、ある程度の種族的な価値観や育った環境による違いはあれど仲良くなれるんだと俺は思った。
それとも俺の考えが異端なのか?日本人としての前世の記憶がそうさせるのかはわからなかったが・・・。
城を見て周った俺たちは最後にリルの部屋で休憩にする。
部屋は・・・この世界の貴族が住むような部屋ではなくところどころ違うところはあるが、広さ以外は日本の女の子の部屋に近かった。
木製のシンプルなベッドがあり色は白とピンク、テーブルと椅子があり、魔導書が置かれている本棚、赤い絨毯に化粧台?と思われる大きな鏡がついた机、ところどころに置かれているぬいぐるみ。
日本に来てしまったのかと錯覚する・・・。
「入って。ここが私の部屋。可愛いでしょ。」
「あ、ああ・・・異世界に行ったような気分だよ。とてもかわいい部屋だね」
戸惑いながら俺が答えると、嬉しいのか顔を赤らめながら手を引かれてイスに座らされる。
すぐにメイドさんが入ってきてお茶を入れて部屋の隅で待機する。
メイドさんは・・・金髪の人族にしか見えなかった。
俺がメイドさんを見ているのにリルが気がついたのか。
「エヴァはね。私が生まれたときから一緒にいてくれるもう一人のお母さんみたいな人なの。」
「ありがとうございますリル様。リル様専属メイド、サキュバスのエヴァです。どうぞよろしくお願いいたします」
ニコリと妖艶な笑顔で挨拶される。
サキュバスですか、異世界ファンタジー定番のちょっとエッチな種族だな!
それにしても見た目は十代後半で可愛い感じの魔族さんだ、胸はでかいしスタイルもいい。
魔王様といい勝負だ。
パッと見、貴族のお嬢様がメイド服を着ているようにしか見えない。
「初めまして。ナインと言います。人族ですがリルと仲良くさせていただいています」
俺もニヤけそうになる顔を必死に取り繕いながら挨拶を返す。
「リル様をよろしくお願いいたします。この城には同年代の子供がいなくて・・・」
「はい。俺がいるうちは一緒に遊ばせてもらいます」
それから俺たちはリルが得意だというチェスをさす。
チェスは英雄召喚された勇者が広めた人族に人気のボードゲームだ、だが俺はチェスをやったことがなかったからボッコボコにされた・・・なんでチェスなんだよ、将棋やオセロならワンチャンあったのに。
「ナインは今日は泊まっていけばいいよ。もっと遊びたいし」
「それはどうかな。魔王様が指輪に機能を追加してくれているはずだけど、すぐ終わるかもしれないし。あまり人族の俺がここにいるのもよく思わない人だっているだろうし。」
「そんなことないよ。ここにいるのは魔族でも幹部ばかりだしこの階には女性しかいないから大丈夫だよ」
何が大丈夫なのかわからないが・・・あれ?でも魔王様は城にとどまれって言ってなかったっけ?
それって泊まってけってことなのか?
「そうだな・・・後で魔王様に聞いてみないとちょっと何とも言えないな」
「大丈夫!私が聞いてきてあげる」
「安心してくださいリル様。魔王様の言いつけですでにナイン様のお部屋はご用意させてもらっています。」
飛び出していこうとするリルを捕まえてエヴァさんが決定事項を口にする。
「さすがエヴァ!」
「おほめに預かり恐縮です。ナイン様も自分の家だと思っておくつろぎください」
にっこり笑ってキャッキャキャッキャとリルと笑い合う。
そっか・・・お泊り確定で、魔王城を自分の家だと思って・・・って、んなことできるか!
それでも指輪が完成するまではいなくちゃいけないからな。
「わかりました。お世話になります。」
その後、エヴァさんに案内された部屋は白が基調のシンプルな部屋だった。
あまり豪華な部屋だと落ち着かないので俺的には一安心だ。
サキュバスのメイドさんをつけてくれるはずだったんだが俺は断った、メイドのいる生活なんて気が休まらないからね。
部屋の中にはメイドさんを呼ぶ用の小さなベルが置いてあったので、ようがあるときはそれを使う用に言われた。
「鑑定」
コール・ベル 特定の人物の魔力を込めることでベルを鳴らすとその人物に音が聞こえる
なんて便利なアイテムなんだ。
魔王の城に来て思う。
人族よりも魔道具の充実度がはるかに高い、魔族の方が魔力自体は人族よりも高くなる傾向はある、というか遥かに高くなるのだが、魔族領カース大陸はほとんどが魔族で他の種族はほとんど住んではいないはずだ。
逆にアース大陸には人族の他にエルフ、ドワーフ、獣人など複数の種族が住んでいる。
ドワーフ、エルフがいるのにここまで日常的に使う魔道具に差があるのはどういうことなのか?
魔王城だけで、他はそんなに変わらないってことも考えられるが、俺は城から出ることを許されていないから確かめるすべもない。
数か月前に侵略戦争仕掛けてきた人族の子供が、魔族領をふらふら歩いてたらボッコボコにされるからな。
戦争なんてせず、みんな仲良くおとなしく生活することはできないのだろうか・・・。
そんな考えが一瞬頭をよぎるが、すぐに否定する。
まぁ無理か、前世の日本でも無意味に突っかかってくる国や、無駄にミサイルぶっ放す国など頭おかしいんじゃないかと思うような人達がトップにいる国はあったからな。
トントントン
「失礼しますナイン様。お食事の用意ができました。」
世界平和と俺、みたいな昔の熱血主人公みたいなことを考えて黄昏ている俺を演じて悦に浸っていると扉が叩かれる。
「すぐに行きます」
メイドさんに連れられて食堂に向かう、このメイドさんも見た目は人間と変わらない。
サキュバスなのかな?サキュバスは角と尻尾などを隠すことができるらしく俺がいるから気を使って隠してくれているらしい。
出してもいいのですよ?
尻尾でないかな~なんてメイドさんのお尻のあたりを見つめながら後ろをちょこちょこついていく。
「ぐっ・・・!!」
突然、前方からの殺気に体が反応する、剣を抜き魔法の準備が整う。
油断した!みんな優しいから何もないと無意識に思っていた。
だが何もない。
殺気が飛んできた方向に意識を向けると、俺たちが歩いている廊下の前の方に黒いフルプレートの人物が立っている。
こいつだ!もう正直この人はヤバい。
冷汗が止まらない、これは・・・勇者や魔王に匹敵するレベルじゃないだろうか。
「おやめくださいロータス様。こちらは魔王様のお客人のナイン様でございます」
メイドさんの言葉で殺気が霧散するが、それでも俺の緊張はとけない。
ロータスがゆっくりと近寄ってくる、メイドさんは壁際により道をあける、俺も警戒したまま何とか身体を動かし同じように壁際による。
俺の目の前で止まると少し顔をこちらに向けて会釈し歩いていった・・・。
顔まで覆うフルプレートなので何も見えなかったが・・・ここまでヤバいのが幹部にいるのか、ロータス一人でも勇者と戦えるんじゃないか?
「ふぅ・・・」
ロータスが廊下の角を曲がって姿が見えなくなると、やっと俺の緊張が解けて、思わずため息をつく。
これメイドさんなしで城内ウロウロして遭遇したら一発アウトなヤツだろ・・・ゲームで言うと最終ダンジョンにいるボスとはまた別のランダムエンカウントで稀に出てくる強キャラみたいな。
でも見たことないんだよな、前の侵略戦争の時にはあんな強烈なヤツはいなかった。
「申し訳ありませんナイン様。ロータス様は人族があまり好きではないようなので」
「大丈夫です・・・それにしても・・・相当強い方なのですよね?幹部の方ですか?」
「はい。詳しくはお答えできませんが、魔王様の側近という立場だと聞いております」
魔王様の側近か、これアース大陸同盟詰んだだろ。
前の戦争での被害は甚大で戦力は激減、勇者は死んだことで士気も低くなっているはずだし、勇者の代わりの人工勇者たちも全滅。
魔王軍には魔王様、前の戦争に出てきて無双してた数人の幹部、そしてロータス、何年かすればリルも魔王級の戦力になるだろうし・・・マジで詰んでる。
よし!ヤバくなったら転移魔法陣でここに逃げてくればいい、俺にはリルがついている。
アース大陸滅亡を妄想しながら俺は食欲のなくなったおなかを撫でつつメイドさんについていった。
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