第2話ざわめく森2

 森の生活二か月目に入ったところで俺は気がついた、今までは何とか生活のためにと考えていて全く思い至らなかった。


「この剣めちゃくちゃ強くね・・・?」


 基本不意打ちで一撃で魔物を倒していたが、そもそもそれがおかしいのだ。


 失敗作といえど人工勇者として肉体の強化はされているしある程度の戦闘経験はある。


 ただ不意打ちとはいえCランクに位置する魔物を一撃で両断できるようなそんな十才の人族なんているのだろうか?


「一か月使って手入れもなしで刃こぼれしない・・・魔力を通してるといってもCランクを一撃・・・これかなり強い魔力剣なんじゃないのかな・・・」


 ちょっとどこまでやれるのか試してみたい。


 やってみるか?下層の魔物に通用するか?まぁダメなら即逃げればいいしな。


 俺は下層にチャレンジすることを決めた。


 別荘を出ると南に向かう、十分ほど歩いたところで風景が少し変化する。


「ここからが下層・・・いつも薬草採取できているけど、戦いに来たと思うとなんだか雰囲気も変わったような気がするな、たぶんいつもと同じなんだろうけど・・・」


 見渡す限りの森の中、暗く濃密な魔素が漂っている気がする。


 いつもは回復薬の材料となる月の雫の採取に下層を歩きまわっているのだ、その時は魔物に会わないように索敵で常に警戒しているので安心して歩けるのだ。


 索敵を使って周囲を探る、気配を探しながらゆっくりと歩いていき一つの気配を感知した、とりあえずこいつで試してみよう。


「上からの不意打ちで斬れなかったら即離脱、判断に迷ったら即離脱」


 自分の中での判断基準を繰り返す、こうやって事前に決めておくことでとっさに迷わないようにする、迷ったら死ぬこともあるからだ。


 気配がゆっくり近づいてきて、距離が二十メートルまで近づいたら慎重に木の上に登る。


 息を殺して気配を探り目視できるまでじっと待機する・・・そして魔物が姿を現す。


「オーガだ・・・」


 この深羅の森にきて初めての人型だ、三メートルほどの巨体に赤黒い肌、頭についている二本の角、右手に棍棒を持っている。


 鬼人と言われるオーガ。


 ある程度の知能を持つが言葉を話すことはできない、何かしらの武器を持っていることがあるBランクの魔物だ。


 大抵は今回のように棍棒などの木製の武器とも言えない物を持っているが、冒険者が落としたり捨てていった武器を持っていることもある。


 基本的に魔物のCランクとBランクには隔絶した差がある。


 Bランクの魔物は身体からたれ流している魔力で装備していると認識した物に魔力を通し強化することができる。


 このオーガの場合は持っている棍棒が武器扱いとなり、魔力剣などの魔力を通せる武器と同等の扱いとなる。


 これができるかできないかでCかBかの基本的な基準となり、Bの場合は武器を持っていると危険度が跳ね上がる。


「やってみるか・・・周辺に他の魔物の気配はないし・・・」


 俺は何かを探すように近くまで歩いて来たオーガに向かって木の上から襲い掛かった。


 人型の魔物だと上から首を狙うのは難しいので肩から一刀両断を狙う。


「ガッ?・・・ガアァァァ!」


 上から斬りかかりあとちょっとで届くって時に直前でオーガに気づかれる、これはまずい、でももう止められない。


 俺はそのまま力を込めて全力でオーガに斬りかかる。


 反応したオーガは棍棒を持っていない左手で俺の一太刀を防御しようとするが、何の防具もない状態じゃさすがに防御しきれない。


「グガァァァァ・・・!」


 鈍い手ごたえとともに俺の不意打ちはオーガの左腕を半分ほど切り裂いて地面に着地、瞬時に斬り上げるて追い撃ちをかける。


 左腕の痛みで動きが鈍ったオーガの左ももを切り裂く、これなら何とかなりそうだ。


 バックステップで離れてオーガを改めて観察する。


 左太ももを斬られて体勢を崩したオーガがガクンと崩れかけるが踏ん張る、足のダメージはそれほどではないがこれで素早い動きは無理だろう、そして左腕は使い物にならない。


「ファイアランス」


 体勢を整えた瞬間を狙って初級火属性魔法のファイアランスを使う、炎でできた槍を相手に飛ばす初級魔法の中では殺傷能力の高い魔法だ。


 このタイミングなら避けられることはないはずだ、オーガ相手には与えられるダメージは大きくないが直撃すれば隙になる。


 さらに俺は雷鳴の剣に魔力を通し剣を強化する。


 今までは不意打ちメインだったから切れ味の強化程度の魔力しか使わなかったが今は全力だ。


 剣が光だしバチバチと音を立て剣が雷を纏う、これが雷鳴の剣の真骨頂だ。


 斬りつけた相手に対して斬撃と雷撃を与えるえげつない性能で、斬撃を防いでも雷撃が襲い掛かり相手にダメージを与えることができる。


 ファイアランスを胴体にくらってよろめいたオーガに向かって全力で接近する。


 俺を睨みつけるオーガは、右腕を振り苦し紛れの棍棒が襲いかかってくるが、体勢を崩したオーガの攻撃なんか全く怖くはない。


 横から向かってくる棍棒を多少の衝撃とともに斬り飛ばす、それと同時に雷鳴の剣の雷撃が棍棒を伝わってオーガに襲い掛かる。


 雷撃が身体に回ってビクリと一瞬硬直するオーガの、無防備に隙をさらした懐に入りこむと全力で魔力を込めて雷鳴の剣を薙ぎ払う。


「うおぉぉっ!」


「ガアアアァァァァ!!」


 手からかなりの衝撃を受けるが、オーガの身体を上下に両断する。


 上半身は斬られた勢いで血と内臓をまき散らしながら二メートルほど飛んでいく。


 良い斬れ味だな、こんな簡単にオーガを真っ二つにできるとは思わなかった。


 血を吹きだしながらオーガの下半身が崩れ落ちる、すぐに切り替えて索敵を使うが・・・オーガがさんざん叫んでいたためか周囲に魔物はいない。


「うん。オーガは仕留めた、今の戦闘でよってくる魔物もいない・・・武器持ちBランク相手にここまでできるなら問題無いかな」


 ただ雷鳴の剣はちょっと強すぎるな、魔力を込めたときのバチバチが派手だからいつか町に行ったときに人前で使ってしまうとものすごく目立つし、これを奪いに来る人もいるかもしれない。


 考えるのは後だ、魔物が寄ってこないうちにオーガを回収して別荘に帰ろう。


 アイテムボックスに分断されたオーガを突っ込むと、俺は足早に深羅の森下層を後にした。



 別荘に帰ってきた俺はここで改めて考える、自分の現状についてだ。


 そろそろ町へ行くことも考えていいころだとは思うんだよね。


 まず身体。


 魔王様のおかげで良好、薬物や紋章、度重なる負荷のせいでボロボロになっていた体も絶好調だ。


 たぶん・・・というか確実に覚醒前よりも体が軽くなって身体能力が上がっている気がする。


 次に魔法。


 これに関しては封魔の腕輪の影響で初級魔法しか使えないが、腕輪は外したら負荷が大きすぎて体が耐えきれずボロボロの体に逆戻りだろう。


 もしもの時、今の状態でどうにもできなくなったって時に一つだけ外すってことは考えておいたほうが良いかもしれない。


 まぁBランクのオーガを不意打ちからとはいえ倒せたのだから、それ以上の相手なんてそうそう戦うことはないだろう。


 そして装備。


 雷鳴の剣は規格外に強い。


 人工勇者時代に使っていた魔力剣もかなりの性能だったが、それと比べても性能は圧倒的だ、そもそも属性が付与されている魔力剣なんて聞いたことはあるが持っている人を見たことがない。


 暗殺者の衣は、まあ隠れて何かするときに役に立つ、本当に暗殺者向けの装備だな、潜入ミッションには必須装備だろう・・・まあそんなものはやる予定は全くないが。


 五色の指輪は便利アイテムなので外せない、これがないと詰むレベルだ。


 町に向かうとしたらネックとなるのがエグジットポーションだが、これは今から量産体制に入ろう。


 俺が作ったものでもちゃんと効果があることは確認できたし、一日一本飲むとしてとりあえず二百本ぐらい作ってアイテムボックスに入れておこう、余裕を持ってもっと作っておくか・・・年一、二回ここにきて作れるように。


 問題になってくるのがこの深羅の森だ。


 この別荘は中層と下層のちょうど境目に存在している。


 北に行けば中層、上層を通ってツリーベル王国に入れる。


 南に行けばアクイラ帝国に行けるが実験体として使われていたので行きたくない、てか下層からさらに南下すると深羅の森の中心を通らないといけないので絶対に無理だ。


 深羅の森は帝国と王国の中間地点にあり、多くの高ランクモンスターが徘徊していることから不可侵の領域とされている。


 ここに来るのは高位の冒険者ぐらいだ。


 北のツリーベル王国に行くとしてどれぐらいの期間で森を抜けられるのか?


 最低でも夜になる前には危険度が高い中層を抜けて上層に行きたいと思っている。


 そういえば魔王様は人族の街に遊びに行くための別荘としてここを選んだということだったが・・・どうやって行っているのだろうか?


 実は結構簡単に森を抜けられたりするのかな?


 ここに来てから魔王様には一度もあっていないからそろそろ挨拶をしに行ったほうがいいかな、ついでに地理についても教えてもらおう。


 この別荘の地下には魔王城につながっている転移魔法陣がある。


 城の地下に繋がってる転移魔法陣なんて人族が知ったら絶対ここ占拠されて魔王城に攻め込まれるだろ、って俺は思ったんだけど。


 でも大丈夫なんだそうだ。


 転移魔法陣が使えるのは特定の人物とアイテムを持っている人だけで、関係のない人が使うとランダム転移でアース大陸のどこかに飛ばされちゃうらしい・・・どこかってかなり怖いよな。


 俺は五式の指輪を持っているので大丈夫なはずなんだけど・・・根がビビりだから今まで使ったことがなかったんだよね。


 まぁ行く用事も気力もなかったってのが正直なところだけど・・・。


「魔王様に相談しに行くかな・・・てか大丈夫だよな?転移したら魔族さんたちに囲まれてボッコボコにされるとかないよな・・・?」


 行く前からいろいろビビりつつ地下に向かう。


 地下への階段を降りると鉄製の武骨な扉が見えてくる。


 扉を開くとそんなに広くない部屋、だいたい八畳程度だろうか、一段高くなった床に転移魔法陣がかかれている。


「そのうち俺も転移魔法陣書けるようになるかな?異世界ファンタジーの定番だよな」


 いつの時代のものなのかはわからないが今の俺だと全く読むことができない、紋章魔術勉強してるんだけどね・・・。


 魔法陣の中心に上がり魔力を通と魔法陣がうっすらと輝きだし光が強くなっていく。


 目をあけていることができず目をつぶるが光があふれていくのはわかる。


 フッと光が消えて目を開くと、そこには槍を構えた十人の魔族が俺をにらんでいた・・・。


「まぁこうなるとは思ってたけど・・・」


 俺はすぐさま両手を上げた。


「すみません!怪しい者ではないんです!魔王様に用があって来ました。俺・・・いや、私はナインと言います。二か月ほど前に魔王様に拾っていただいて、別荘に住まわさせてもらっています。私を見たことある人は・・・いなさそうですよね?」


「子供・・・?魔王様に拾われた?聞いてないな。だが魔法陣を使える者は限られている。おい!子供の装備を全て外せ。お前は魔王様へ報告だ」


 二人が近寄ってきて俺の装備を外していく、これは抵抗はしないほうが良いヤツだ。


 一人は走って何処かへ向かっていく。


 俺は一切抵抗せず、封魔の腕輪だけ過魔素吸収症であることを説明してそのままにしてもらった。


 元々封魔の腕輪は罪人が抵抗できないように魔力やスキルを封じるためのものなので、怪しげな人物からわざわざ外すようなものではないのだ。


 俺はそのまま後ろ手に縛られて牢屋に連れられて行く。


「魔王様に確認が取れるまでここにいてもらう。逃げようなどとは思わないことだ」


 完全に不審者扱いですね、そりゃそうだよな。


 特定の人物しか使えない転移魔法陣から人間の、しかも子供が出てきたのだから。


 いきなり攻撃されなかっただけマシだけど・・・魔王様が忘れてたらどうしよう・・・。


 そんな不安を抱きながら俺は牢屋の中でボケ~っとたたずんでいた・・・。

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