第11話 グライド初戦

 おー、結構こっちの会場は暑苦しいんだなぁ。

汗くせえ。


「グライドー! 応援に来たヨ〜♡」


 筋肉隆々の汗臭い奴等のなかを潜り抜け、俺は両手を振った。今の俺は160㎝、1下手したら180㎝超えだらけのなかで見つけて貰うのは至難の技だ。飛び跳ねながら大声でグライドの名前を呼ぶ。


「グライド〜〜⁇」


 あっれ、まだ準備中かな? そろそろ試合のはずなんだけど。


「グライドーーー!!!!」


 やっぱ姿が見えないのがまずいのか。

これ以上高くジャンプ出来ないので、俺は上着を脱いでそれをブンブン振り回した。


「グライ……っ」


「隊長、何をしてるんですか?」


「あ! グライド!!」


 後ろからグライドの呆れた声が聞こえた。

なんだ、後ろにいたのかよ。


「馬鹿ですか。なに脱いでるんですか」


「え〜ほら! こうやって」


「とにかく服を着てください」


「はぁい」


 説明しようとしたのにグライドのヤツが無理矢理服を着せようとするので、渋々服を羽織る。


「もうすぐグライドの番だよね! 応援しに来たよ!!」


「……はぁ。で、隊長は勝ちました?」


「もっちろん!」


「そうですか」


「………」


 て、それだけ!? おめでとうくらい言ってくれよ! まあ、たかだか初戦かもしれないけど。


「それだけぇ?」


 ちぇっと俺は拗ね気味にグライドを睨んだ。

でも、グライドは気にした様子もないから余計にムカツク。


「花が」


「花?………ぁ」


 グライドの指がふいに俺の耳裏を掠めた。ひんやりとした指先が耳朶に触れて変な声が出る。


「何処かで遊んできたんですか?」


 グライドが髪の隙間に少し残っていた花びらを指先で掴んでぴらぴらと見せた。

顔が熱くなる。


「ち、違うって! 対戦相手が植物で攻撃してきたからその残り!」


「そうですか」


 なんだよ、その笑い顔は!

そうだよ、俺は試合が長引いたからシャワーも浴びずにここに来たんだからな!? 別にお前の試合を見なくてもよかったけど、やっぱ俺の右腕なんだから応援してやろうっていう優しさだぞ!


「頭までお花畑になったかと思いました」


き、きぃーーー!


「グライドぉ〜」


「あ、俺もうすぐなんで。隊長は席で応援してくださいね。すぐ終わりますから」


 き、きぃぃぃーーーー!!

余裕そうですね! でもその余裕もいつまで持つか見物だこと! 対戦相手が筋肉ゴリラでも泣きベソかくなよッ


 俺は自信満々の余裕綽々なグライドと別れ、応援席に向かった。席は殆ど満員で半数以上はグライドの応援だ。

 会長の親衛隊副隊長なんかしてはいるが、グライドはグライドでかなり人気がある。俺の隣の席の奴なんて「ラブ♡グライド様」って書かれたうちわをブンブン振っている。


「始め!!!」


 て、うわー相手強そう。グライド大丈夫か?

対戦相手は、グライドも顔負けの筋肉マッチョ。身長も体格もグライドより大きくて、剣なんか二刀流だ。ただでさえ力負けしそうなのに対するグライドは、細身の剣をフェンシングみたいに片手を突き出す独特な構えをとる。

両手で握らないと剣が弾かれちまうじゃねーか!


「うぉりゃああああ!」


 先に対戦相手が一撃、いや二連撃を放つ。地面を削りとるくらいスレスレから突き上げるような鋭い斬り込み。


 げっ! あいつスピードも速い!!

グライドっ! わっ馬鹿っ! あ、避けた!

ひやひやするなぁもう、って今だ! あっなんで斬らないんだよ!?

わぁーーまた二連撃がくるぞ! 馬鹿ッ


「ぜぃぜぃ……なんで俺の方が息切れしてるんだよ、もうッ」


「きゃあーーグライド様ーー危ないぃぃ!」


 ギリギリで相手の太刀を避けるグライドに周りの女子も悲鳴をあげる。

……ん? いや、女子……じゃねーな。男だ。

しかもさっきよりギャラリー増えてるし。


「グライド様ーーーッ」


「グライド様頑張ってぇ〜〜」


 グライドが何かする度に黄色い声援があがる。人気なのは分かるが同じ男として、なんだか気に入らない。いや、相手も同じ男なんだけど…なんかモヤッとする、なんだこれ。

てか、グライドの奴圧されてるんじゃないか??勝つとか自信満々だったくせに!


 俺は周りの声援に負けじと大きく息を吸い込み、腹の底から大声を出した。


「グ、グライドーーー僕の右腕がこんなところで負けるなぁーーーッ!!」


 俺の声援に気付いたグライドと一瞬目が合う。

次の瞬間ーーー


「はぁッッッ!!!!」


 グライドの鋭い一撃が相手をとらえ、吹き飛ばした。


「そこまで! 勝者グライド!」


「やったぁ! グライドッ」


「きゃあああ! グライド様〜〜♡」


 俺は思わずガッツポーズをして、グライドに手を振った。

前髪を搔き上げながらグライドがこちらを見て、面倒臭そうに軽く片手をあげる。

余裕だったと言いたいらしい。


「かわいくない奴」


 でも、ちょっとだけカッコイイなんて思ったのは内緒だ。俺だけに合図を送られた事に僅かな優越感を感じつつ、グライドファンの波を潜り抜けて控室へ下りた。


「余裕でした」


「うっそ、凄い汗だし」


「……汗っかきなんです」


「ふぅん?……取り敢えず、おめでと♪

僕の為にも次も頑張るように!」


「勿論ですよ」


「……そ、そうッ……あー次はダグラスかな?」


 てっきり否定されるか馬鹿にされるかと思っていたのに真面目な顔で肯定されて、声が裏返ってしまった。

 俺は誤魔化すようにダグラスの話題を振る。

ダグラスも同じリーグだ。ダグラスが順調に勝てばいずれグライドとも闘うことになる。

彼の戦闘スタイルは見ていた方がいい。


「応援するんですか?」


「へっ? いや? 別に敵情視察だよ」


 俺の答えにグライドがあからさまに安堵した顔をする。


「そうですか。会長親衛隊の貴方が平民を応援なんてことしないで下さいね」


「分かってるってば!」


 でもなぁ…言われてみれば、応援かぁ。

もともとダグラスの事は嫌いじゃなかったし、助けられた恩もあるからな。大声で応援は出来ないけど、心んなかで応援くらいはいいだろう。


「そろそろ、観客席に行きましょうか」


「うんっ」


 ダグラスはどんな闘い方をするんだろう?

単純にそっちにも興味が湧き、俺はウキウキとグライドの後を追った。

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