第10話 炎の定番といえばファイヤ


「マール君、お手柔らかに~♡」


 マールが案の定俺から距離をとってボウガンを構えた。この世界のボウガンがどんな代物かは知らないが少なくとも一発撃って終了の物ではないだろう。

 俺も大剣を軽くし、いつでも斬り込めるように構える。そして、昔観たアニメの剣士のように魔力を剣に注ぎ込んだ。

斬りつけると同時に魔法が飛び、二重攻撃をすることが出来る。


「僕、アンタが嫌いなんだよね」


「……はい?」


「会長会長っていっつも会長ばかり…ほんと反吐が出る」


「あ~……だってぇ僕ぅ会長サマの親衛隊長だしぃ~」


 マールが俺に狙いを定めながら憎らしげに口を開いた。


 一般の生徒にも嫌われているのか。まあそうだよな、顔はいいけど会長の金魚のフンだもん。

でも、なんかコイツの場合は会長や副会長とはまた違う。嫌いっていうよりはもっと違う何かがあるように思える。

俺のこの口調も癇に障るのだろう。ぎりっと唇を噛み、睨み付けてくる。


「余裕でいられるのも、今だけだからッ!!!」


 くる!

バァンと大きな音が鳴り、マールのボウガンから矢が発射された。

俺は大剣を盾代わりに前に突き出す。下手に避けては、二発目がきた時に逃げ場がない。


「無駄!」


「……うわッ!!?」


 剣に命中した矢は、当たると同時に爆発し俺はその衝撃で後ろに吹き飛んだ。

ただの矢じゃないとは思っていたけど、既に魔法を込めていたみたいだ。

俺は、なんとか転ばずに踏みとどまると剣を振りかぶる。間合いをとっていたらこちらの負けだ。


「させないッ!!」


バシュッ! バシュッ! バシュッ!


 続けざまに三発、俺が斬り込む前にマールが次の矢を放ってくる。

剣を回転させて下から振りかぶる。避けることが出来ないなら、手前で爆発させればいい!

俺が剣に先ほど込めた魔法は「風」の魔法だ。切っ先から鋭い風の刃が矢を斬り落とす。


「あれ?」


 矢が爆発しない。なんでだ?


「ばぁか」


 切れた断面から緑色の米粒大の何かが弾け飛んだ。俺の腕や足に貼り付いたソレを払おうとするが粒から出ている小さな針状のものが服の繊維にくい込んで剥がれない。


「なんだコレ!?」


「種子だよ。僕お手製のね」


「種子!?」


 確かによく見ると植物の種子みたいにも見える。ま、まさか爆破するんじゃ…


「安心していいよ。爆発はしないから。

腕なんか吹き飛ばしたら死んじゃうじゃん。

死んだら僕が負けになっちゃうもん」


「あは♡それなら安心だね」


 腕吹き飛ばしたら、って冗談じゃない。爆発しなかったのはいいが、絶対なんかある。


「でも、ほら、見て」


「え!?」


 マールが指差した種子から僅かだが芽が生え始めている。


「アンタの魔力を栄養にしてどんどん育つよ。

ねぇ、知ってる? 魔力って血液みたいにさ、急激に少なくなると貧血起こして動けなくなるって」


「なっ…! じゃあ、コレって吸血植物だってこと!?」


「正確には吸魔植物。そんなことよりいいの? 次々生えて、どんどん成長するけど」


 身体中の種子から芽が生え花が花が咲き始める。その花が増えれば増えるほど魔力が吸い取られていく感覚が増した。

花が大きくなればなるほど重さで身動きが取れなくなる。


「吸魔植物…!」


「これで、逃げられない。魔力も使えない」


「卑怯じゃん!」


「卑怯? 歴とした戦術だから。降参するなら次の攻撃はやめてあげるけど?」


「冗談!」


「あ、そうですか」


 花に絡めとられている美少年。聞こえは美しいが実際は花をどっさり全身に盛り付けた森の怪人みたいだ。

 と、そんな冗談を言っている場合じゃない。

俺は剣の柄を強く握り締めた。

一見完璧なマールの剣術、それには穴がある。

“魔力が使えない”とマールは思っている。

そこだ。

 きっと普通の奴なら特製吸魔植物に魔力を吸われて魔法を封じられたんだろうが、どうやら俺は違うみたいだ。

 魔力は吸われているのは確か、でも全然減った感覚がしない。説明しにくいが魔力の器が二つあって、予備用の手前の器だけが減ってるそんな感じ。その予備も相当吸われているが剣の軽くする分には十分足りる。だから、奥にある器の魔力を引き出して足して攻撃すれば……俺の勝ちだ。


「僕の勝ちだよ!」


「あ〜れぇ〜? もしかしてぇ、君ったらボウガンで僕にトドメを刺すつもりぃ⁇」


「は?」


「だぁってぇ、もう僕は魔法を使えないないんだよぉ? しかも、身動きが殆ど取れないのにそーんな離れた所から攻撃って……ぷぷっ☆」


「その手には」


「弱虫ぃぃ〜やっだダサァ〜い♡それで騎士になりたいとかぁ〜あんたバカぁ?」


 挑発。ティグリスの最大の武器は、嫌われていること。だから、誰よりもこの挑発は効果がある! どっかのアニメヒロインばりにバカ呼ばわりしてやる!


「はぁッ!?」


「勝負しようよ? 騎士ならさぁ♡」


 俺はわざと重たそうに剣を構える。さあさあ、挑発に乗ってくれよ?


「ね? モブ助ちゃん☆」


「ふっっざけんなよ!? この尻軽!!!」


 頭に血が上ったマールが俺に向かって突進してくる。突き出したボウガンの先にはナイフが埋め込まれていて、対接近戦も考えられた武器のようだ。

あの武器なら、かなり近くまで引き寄せられる!


「……はぁ〜やく、お〜いでっと」


「くらえ、この淫乱!!!!」


 まだ、まだあと少し………今だ!!!!

花も種子も全部焼き尽くす火炎が剣から巻き起こる。驚いたマールは踏み止まろうとするが突撃した勢いはそう簡単には止められない。


「#$¥%☆!!!!」


 俺はこの世界の呪文ではなく、ゲーム定番の炎の呪文を唱えた。

たちまち燃え上がった炎は、激しい轟音とともに吸魔植物を焼き払い赤い渦となってマールに迫る。


「えっ…!? な、なに!? うわぁ!!!!」


「そこまで!!!!」


 炎がマールを取り込み彼を捕まえようとした瞬間。審判の制止の声があがる。

四方から水の魔法が放たれ俺の炎の鎮火に当たった。びしょ濡れになったマールは気絶寸前の表情で茫然と床に尻餅をついている。


「勝者、ティグリス!」


「僕の勝ちぃ? やったぁ♡」


 よっしゃぁぁぁぁ!!!! 楽勝楽勝!

俺の作戦勝ちだな!


「ティグリス…」


「はい?」


 審判のおっちゃんが喜ぶ俺に声をかける。

なんだ、礼儀作法的にまずかったか?


「いや、なんでもない。次も頑張りなさい」


「はぁい♡」


 あ、どもども。ほどほどに頑張ります。


「両者、握手を!」


 審判に促され、ヨロヨロとマールが俺の手を握る。


「…………バケモノ」


「ど〜も♡」


 負け犬の遠吠えお疲れさん。まあ、もっと精進するんだな!


 俺は試合会場を出ると右腕ちゃんの応援に別会場に足を向けた。

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