第9話 選抜トーナメント初日

 あの後、ラズバーン先生が駆け付け俺を含めた生徒全員が救助された。

なんでも、扉の仕掛けの故障で効果が通常の5倍近くになっていたそうだ。訓練対象者の一番弱い部分に精神攻撃を仕掛ける心の訓練、弱ったところで身体の自由を奪われた状態から始まる対魔物訓練。

選抜トーナメント前の軽い訓練のつもりが軽い事件になってしまった。


 そして、選抜トーナメント初日。

俺は、愛剣と一緒にあのネタ帳を抱えて部屋を出た。


「おはようございます。隊長」


「おはよぉ♡」


 流石のグライドも選抜トーナメントの日まで俺のお守りはしたくないらしい。きっと朝方まで魔術書でも読んで復習していたんだろ、ガリ勉め。


「朝は別の用事がありましたので」


 読心術!? 俺の独白に対して会話しないで、こわいから!


「ふぅん。何?」


「家の者から手紙を受け取っていたんです」


 金持ちめ。執事とかメイドとかたくさんいるんだろうなぁ〜羨ましい。

セバスチャンとかエマとかスーパー召使い的な人がいて、エマちゃんは眼鏡なんだけど眼鏡を取ると美人でヒラヒラのフリルメイド服で「ご主人様♡」とか言ってくれるんだ。


「アルビオが親善試合に参加すると」


「ふぅん…」


 ふぅん、とか知ったか振りをしているが誰だソレ!? でも、グライドの家からわざわざ手紙で報せてくるぐらいだから重要人物に違いない。


「貴方も貴方ですが彼にも困ったものです」


 彼! 彼と言いましたか! じゃあ、性別は男ですねっ残念っ

まあ、名前の感じからして男だと思いましたけどね!!


「あっははは♡」


「笑い事じゃありませんゃ、隊長。

アルビオも参加するとなれば絶対に親善試合メンバーに選ばれなければ。

今日の選抜、優勝しろとまでは言いませんが入賞して下さい。恥ですから」


 恥、会長サマ親衛隊長って大変なのね。

俺ってば初戦であっさり負ける気満々だったんだけど……

あ、はい、すみませんグライドさん。

睨まないで下さい。頑張りますから。


「僕ぅ、頑張るねっ♡」


「当たり前です」


 あーー、辞めてえーー

親衛隊長ちょー辞めてぇーー


※※


 ギリシャのコロシアムみたいに円形に造形された会場は、所々石が掛けて歴史を感じさせる。

場内は、生徒以外のギャラリーも集まり満員御礼だ。中央の試合場に整列した生徒の面々は、観客からの熱気もあり血湧き肉躍るとか叫び出しそうだ。


 そんな空気を破り、パンパカパーン♪と賑やかにラッパ音が鳴り響いた。

普段の制服ではなく正装をした会長が前に進み出て開会の挨拶を読み上げる。(因みに俺が文章を作りました)

その他諸注意の説明が終わると開会式伝統のワイン割り用のグラスが会長に渡された。金色に輝くガラスには赤ワインが注がれている。


「マスニーケー!」


 会長が高らかに声をあげ、グラスを地面に叩きつけた。


「「「マスニーケー!!!!」」


 周りの連中も続いて雄叫びを上げる。

俺も小声でマスニーケーと呟いて、一応「会長ステキ〜♡」も加えておいた。

しっかし盃を割るって出陣前みたいだなぁ…。


 空に大きな魔方陣が展開され、そこに今回のトーナメントの組合せが表示される。


 俺はDリーグ、グライドはBリーグだ。で、えーとダグラスもBリーグだな。あのジェラルドって奴以外は特にては加えていないから、この二人の戦闘スタイルが近いことになる。

つまり、剣中心の体力馬鹿だ。


「隊長、それじゃあ頑張って下さいね。俺はこのままB会場に行きますから」


「うん♡程々に頑張るぅ♡グライドの応援行くからね!」


「……別にいらないです」


 いらないんかーーい! 可愛くない右腕だな!

でも、知ってる。本当は俺に見て欲しいんでしょ?お父さん分かってる。


「……はぁ、まあ来たいならお好きにどうぞ」


「うん!」


※※


 俺の順番は3番目。割と前の方なので、グライドと別れた後すぐに控え室に向かった。

 控え室に入ると愛用の大剣を傍らに置いてストレッチをする。

初戦から負けるわけにはいかない。


「第3戦目、ティグリスとマール!」


「「はい!」」


 名前を呼ばれて、俺と対戦相手のマールは試合会場へと進む。

ヤバイ。緊張してきた。口から心臓出そう。


「ひと、ひと、ひと…」


 人を掌に3回書いてごっくん。

よーし、これで緊張しないぞぉ!


「………ひと、ひと、ひと」


 試合会場に入った後もひたすらに人を飲み続けるが心臓のバクバクが治らない。

対戦相手のマールも俺がずぅっと同じ動作を繰り返しているもんだから、何かの呪文かと警戒した視線を向けている。

 すまん。この世界の人には分からないだろう。これは緊張を解く呪文だ。魔力無しの。


「両者、前へ」


 前に出て握手を交わす。そしてまた離れ、それぞれの得物を構えた。

 俺は身長と同じ位の大剣。マールは、ボウガン。

はっきり言って、間合いを詰めないと俺に勝機はない。しかも、Dリーグという事はコイツも基本的には魔法型。中距離攻撃のボウガンと遠距離の魔法を繰り出してくるはずだ。

てか、最強じゃないか? 無理じゃね?


「始め!!」


 まだ具体的な対策も浮かばないまま、試合開始の声があがってしまった。

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