第7話 試しの扉

 ドギマギしながら部屋に入った俺は、一瞬にして青ざめた。

鬼、鬼が腕組みをして俺を睨んでいる。

静かなる怒りがピリピリと部屋一帯を覆い尽くし、息をすることさえも許されない。

そんな感じだ。


「遅かったですね隊長」


「あ…あっ…うん」


「先程まで誰と話していたんですか?」


「あ……えっ? だ、誰って?♡」


 鬼の形相で問い詰めてくるグライドに俺は明後日の方向を見ながら惚けた。

ダグラスは、我ら会長親衛隊からすれば恋のライバル、宿敵。

そんな彼に会長親衛隊の隊長の俺が、強姦されそうになったのを助けられた上、お姫様抱っこで部屋まで送ってもらったなどと言えない。


「惚けないでください!」


「ひぇっ」


 突然大声を出したグライドに俺はビクリと固まった。


「会話なら聞こえてました!!

ダグラス……ッ……あんの、平民野郎…!」


「……ッ」


「アンタもアンタだ! 副会長から目を付けられているってのに、会長の所から戻る途中でなんでダグラスに会ってんだ!?

セフレだからか!? そんなに我慢出来ねーのかッ」


 怒りで口調変わってます。グライドさん。

てゆーかセフレ? ダグラスは別にセフレなんかじゃ……


「あっ……」


 昼間の会話を思い出し、俺は声を出した。

適当にでっち上げたセフレ君の名前はダグラス、平民君の名前もダグラス。

だから、グライドはあんな反応だったのか!

そりゃそうだよ! 俺でもドン引くわ!


「ごめん」


 とにかく、グライドの誤解を解かなければ。

どこから説明すればいいんだ?


「ダグラスは、その、そういうんじゃなくてっ……今日もたまたま助けて貰ったんだよ。

だから、グライドが想像してるような事はなかったから」


「助けてもらった?」


「うんっ!不良にちょっと絡まれて困ってた所を助けてもらった」


「隊長なら魔法で倒せたでしょ」


 冷静さを取り戻したグライドにほっとしながら、俺は説明を続けた。


「それが魔法が全く効かない奴で」


「魔法が?」


「うん」 


「どこの誰ですか?」


「所属はしらない。名前はジェラルド」


「要注意人物ですね。選抜では別の組みに入れて早々に退場してもらいましょう」


「さすが僕の右腕♡」


 機嫌を取るようにぶりっ子ポーズで俺はグライドに抱き付いた。ズルを普通に言ってのける副隊長最高!


「今夜は寝かせませんよ隊長」


「……やだ♡グライドってば大胆♡」


ドサドサドサーと書類の山が置かれる。


「寝かせません」


「は……はひっ」


※※


チュンチュン…


 あ、朝チュンだぁー。

外がもうこんなに明るいやぁ。身体のあちこちが凄く痛いし、ダルイ。


 油断をするとすぐにでも落ちそうな瞼を擦りながら選抜トーナメントの為の資料の山を見た。束に纏まった山が複数。

ある程度、こちらで資料を分別したので親衛隊メンバーに渡してここから更に詳細に組み分けをしていく。


「ほんとに寝かせてくれないとか…グライドの鬼」


「俺も寝てないですよ、隊長が寝かせてくれませんでしたから」


「……仕事が遅くてすみませんねぇ〜ふぁ」


 あー眠い。もう寝たい。激しく眠い。

あと数時間もしたら授業だとか最悪だ。親衛隊って「きゃー会長サマ♡抱いて〜♡」とか騒いでればいい集団だと思ってたのにっ。


「数時間の仮眠なら取ってもいいですよ。起こしてあげますから」


「授業サボりたい〜〜」


「駄目です。会長の親衛隊長がサボったなんて見栄えが悪すぎます」


 ちぇっケチ。その会長はよくサボってんのに!!会長にもそう言ったらどうだ!

理不尽さにムカついたので、グライドにべぇーっと舌を出す。


「さっさと寝てください!」


 ポカッ


 叩かれた。

もし、選抜トーナメントで対戦する事になったらみてろ! 十倍返しだ!!


※※


「いいかーお前らぁ! 選抜トーナメントまであと1週間だ!! 今日は特別訓練をするぞ」


 あれから選抜トーナメントまで1週間を切った。親衛隊の皆の頑張りのおかげでトーナメントの組み分けを無事会長に提出し、会長から学校に報告がされたのが数日前。

校内魔法掲示板に選抜トーナメントのリーグが今朝発表された。

 掲示板には、自分がどのリーグに組み分けられたかだけ浮かび上がる特殊な魔法が施されていて、対戦相手は当日まで分からない。

対戦相手が事前に分かってしまうとその対策ばかりに偏り、結果総合的な生徒の成長に繋がらないからだという。


「10分毎に中に入ってもらうからな! 順番は授業の最初に引いた紙の番号順だ」


 剣術教師のラズバーン先生の説明を聞きながら、俺は自分の紙の番号を見た。

13番目。なんか不吉な番号だなぁ…。


「なかでは、お前達の最も得意な分野のステータスが1/3になるからな! そのつもりで挑め」


 わぁーお。じゃあ、俺は魔法が下がるわけだ。剣持てるかな?


 黒く禍々しい大きな扉がラズバーン先生の横に用意された。紅い目玉の様な飾りがギョロギョロと蠢いて、俺達生徒を監察している。

あの中に一人で入っていけとか普通の神経じゃないな。


「じゃあ、1番の奴からちゃっちゃと入れ! 死ぬなよー」


 死ぬ危険あるんすかっ。うっわマジか…お腹痛くなってきた。

俺が腹を抑えている間にも次々と生徒達が扉の中に入っていく。なんで皆平気なんだ?

めっちゃコエー、あの目玉恐いよー。


「次、13番!」


「はひっ」


 ついに俺の番が回ってきた。

ラズバーンがさっさと来いと手招きしている。行きたくないが行くしかない。


「13番目はティグリスお前か! 不吉な番号だが気にせず行けよ!!」


 ありがとうよ、ラズバーン先生。おかげですんげー幸先いいわ! 不吉過ぎて嬉しくなるね!


 がばぁっと怪物が口を開けるように扉が開き、紅い目玉がこちらを見下ろす。中は暗闇が続いていて、先が全く見えない。

俺はビクビクとしながら扉を潜った。

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