第81話 相性の問題ですん!

「ヒデトー!」


マリアがギルドの酒場に飛び込んできた。


「ヒデトヒデトヒデトヒトデヒトデ、ヒトデ、ヒトデ野郎!!」

「誰がヒトデ野郎だ?慌てすぎて海洋生物になってんじゃねーか?わざとか?」

「シャルロッテが!シャルロッテがー!!」

「シャルロッテ?なんだお前の新しい殺人メイスか何かの名前か?」

「シャルロッテが居なくなったんですの!!」

「居なくなったの?無くしたんじゃなくて?」

「もしかしたら攫われたかもしれないんですの!!」

「攫われた?盗まれたんじゃなくて??」

「まさか衛兵に?」

「衛兵?衛兵って拾得物の管理なんてしてくれたっけ?」


衛兵は街によって、自警団だったり領主に雇われていたりする主に街の警備をする人達。治安維持や警備をするだけで、拾得物の管理みたいな、そんな警察みたいな事はしないはずだ。


「ですからシャルロッテが居なくなったんですの!!」

「落ち着けよ!慌ててるってレベルじゃねーぞ?」


こんな時でもツッコミを欠かさない。ツッコミは愛。


「なんだって!?シャルロッテちゃんが!!?」

「攫われたって本当か?!」

「なんでお前らがビックリしてんだ?」


なぜか酒場にいる冒険者の数人が「シャルロッテ」が盗まれた事に集まってきた。


「戻ったら居なかったんですの!」

「ちょっと待てって、シャルロッテは多分だけどマリアのコレクションしてる撲殺用のメイスっていうか十字架?ロザリオ?の名前であって……」

「誘拐犯から何か書き置きとかなかったのか?」

「なんにもないですわ!」

「ちゃんと探したのか?」

「ちょっと待てよ、そんなに高価な物なのか?」

「ギルドの周りは散々走り回りましたわ!!」

「いつからいなくなったのかが分からなかったら、どうもこうもならないな」

「だーかーら!誘拐犯じゃなくて泥棒だろ!?」

「「「ヒデトうるさい!」」」

「ヒィ!ごめんなさい!!」


ツッコミを入れていたら怒られた。


「なぁベリア。何で俺、今怒られたんだ?」

「うるさいからじゃないですか?」

「えー……。じゃあベリアはシャルロッテがなんだか知ってんの?」

「私も知りませんよ。何なんでしょうね?」


同じくルーカスにも目線で訴えるが、肩を竦めて首を捻っている。


今度はメティスが飛び込んできた。


「シャーちゃんいた!?」

「どこにもいませんわ!」


当たり前のようにメティスも「シャルロッテ」を探しているらしい。

「シャーちゃんってなんだよ?赤い彗星かよ」と独りで突っ込んで笑っていたら「ズッキーうるさい!」と怒られた。


「今の独り言だよ?」

「また怒られますよ」

「えー……」


解せぬ。




「シャルロッテ?今日の朝はいたぞ」

「朝まで居たって事は、まだ街の中にはいるかもしれないわね」

「シャルロッテを見たって話も出てないみたいだし、騒ぎになる前に見つけ出さないとだな」


シャルロッテを知っている冒険者達はメティスを中心に円陣を組んで小さい声でヒソヒソと話し合っている。聞き耳を立てて聞いてみて、どうにか聞こえる程度。


「隠れてペットでも飼ってたんですかね?」

「あ、そっか。ペットなら話が繋がる。つーかペットはダメってあれほど……」

「そういう所は本当に察しが悪いですよね」

「まぁ、話5分の1だしな」

「うっせぇうっせぇ!!」


こっちはこっちでこんなやり取りをしている間も、誰がどこに探しに行くかをメティスがマリア達に指示を出している。

メティスから「シャルロッテ」の事情調査をしたい所だが、割って入るとまた怒られそうなので、待つ事にした。




「それじゃあ、私はここで待機して何かあったらホーリーライトを飛ばすから戻ってきて!」

「「「おう!」」」

「衛兵よりも先に見つけるのよー!」

「「「おう!!」」」

「見つかるまで戻ってくるんじゃないわよー!」

「「「おう!!!」」」


マリアと冒険者達は去っていった。


「やい、メティス!」

「何?今ズッキーの相手してる場合じゃないのが分からないの?」

「何こいつ?感じ悪くない?」

「良いからちゃんと何が起こっているのか聞いて下さい!」


ベリアに怒られちゃった。もっと怒られたい。


「シャルロッテって何だよ?」

「…………マリアの新しいロザリオよ」

「ほら、やっぱ撲殺メイスだったじゃん」

「いつもはメティスさんの言う事は絶対に一度疑ってかかるのに……」

「確かに。今、変な間があったよな」

「冗談だって。俺の言ってた通りじゃんって思って、あえてメティスに乗っかっただけだって」


後ろから「ッチ」と聞こえた。


「お前今舌打ちした?」


振り返るとメティスが面倒臭そうな顔をして睨んでくる。


「何ギレだよ!?何で怒ってんだよ?っていうか俺?俺が悪いのか!?」

「はいはいそうですー。お察しの通りペットですー」

「なんでこいつ開き直ってんの?怒って誤魔化そうとしてんの?なんなん?」

「今忙しいって言ってるでしょ!?早く見つけないとまずいのよ!!」

「忙しいってお前ここで待機だって言ってたじゃ……」

「ギルド内を探すの!待機って言ったって、ここでボケーっとして待ってる訳ないでしょ?自分から動かないからズッキーはいつまで経ってもDTなのよ」

「ドドドド、DTちゃうわ!!」


何も言わずにニヤニヤするメティス。本当にムカつく。

一応、ティナとやってないけどやった事になっているので、下手な事は言わないで欲しい。

なので「DTはあっちだ!」とルーカスを指差すと「チッチッチ」と人差し指を振り振りし、指を3本立てドヤ顔をした。


「え?お前いつの間に……、って今はそんな話をしてるんじゃねーだろ!」

「おっと、DTが自分だけだって立場が危うくなったからって話を変えるんじゃないわよ」

「元々ペットの話してたんだろ!話を変えてるのはお前だ!!」


「全くもうズッキーはしょうがないわね」と言って背中を向けて去っていこうとするので「待て!こんなんで逃す訳ないだろ」と首根っこを掴む。


「そもそもペットはダメだってあれほど……」

「ヒデトさん、今それを言っても仕方がないので、まずは」

「確かにそうだな。ペットの話してたのになんで俺のどうT…………、じゃなくて衛兵よりも先に見つけないとって騒ぎになっている?見つかるとまずいペットでも飼ってたのか?」

「チッ、変なところで察しが良いのよね……」

「そういや、マリアも衛兵がどーのって言ってなかったか?お前ら一体何を探してるんだ?」

「………ペットだし」

「ペットは分かったけどなんかあんだろ?」

「ペットはペットだし!ペットに以上も以下もないし!!ペットに名前もへったくれもないでしょ!!」

「名前はシャーちゃんだろうが!?なんだよペットに名前もないってよー!?」

「シャルロッテでしょ?何よシャーちゃんって、赤い彗星かよ?」

「シャ、おま、赤、何言ってんだお前!!」


「フンっ」と鼻を鳴らして勝ち誇っているメティス。


驚愕の表情を浮かべるルーカス。


「あー言えばこう言うヒデトが言い負かされている……だと!?」

「メティスさんとは相性が悪いんですよ」


ルーカスは何か恐ろしい物を見る目でメティスの事を見ている。

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