第80話 出来ることがありますん!
いつもの隅の席に行くとメティスとマリアの姿がない。
マリアはともかくメティスもいない。別に珍しいというほどの事でもないのだが、オークの件と重ねてしまい、嫌な予感しかしない。
「メティスさんもどこか行ってしまわれたみたいですね。難しいお顔をしてどうしたんですか?」
「うーん、なんか嫌な予感がするんだよな……」
「何がですか?」
「オークの件とかあるし……」
「それは心配のし過ぎでは?」
「いや、まぁそうなんだけどさ。いつもと違う事が起きている時にいつもと違う行動をしている奴がいる。うーむ」
「き、気持ちは分からないでもないですが、マリアさんとご一緒していれば滅多な事にはならないですよ」
「いや、そういう心配はしていないんだけどさ……」
「?」
こじつけなのは分かっているので歯切れの悪い返事になってしまう。
ふと、独り寂しくカウンター席にいるルーカスを見つけた。
「ルーカス!ちょいこっちおいでー」
気安く声をかけられ「あ〜ん?」と睨み付けるように振り返る柄の悪いルーカス。ベリアの姿を確認して、カウンターに飲み物を注文し、ジョッキを二つ持って嬉しそうに駆け寄ってくる。こちらを見もしない。無いはずの尻尾をフリフリしているのが見えるようだ。大型犬みたい。
俺の隣にベリアが座っていて、反対側にルーカスが座った。ベリアにジョッキを渡し二人で乾杯している。円形の卓なのでベリアの隣に座るという事は、俺の正面にくるはずなのだが、乾杯する時にちゃっかりベリアに席を寄せているので斜め前にルーカスがいる。
「こっちに座れよ。話があるのは俺だ」
「ここだって会話は出来るだろ。ね、ベリアちゃん」
「こっちを見て喋れ。話してるのは俺だ」
ベリアはルーカスの扱いに慣れてきたのか、気にした様子もなく適当に笑顔で返し食事を続けている。
「オークの話ってどこまで聞いてる?」
「なんだ?お前らにも話がきたのか?」
ルーカスのパーティも中堅冒険者枠なので話が来ているのだろう。ルーカスならオークとタイマンで戦う事もできるのかもしれない。
「今ちょうどうちのリーダーが他のパーティーと出てったから、ブレイドの近辺だったらと思って受けたんだけどな。街の周辺を哨戒しているんだが、今んとこ空振ってる」
やっぱりこいつ、一人でオークとやりあえんのか。そりゃあ、俺如きじゃ太刀打ち出来なかった訳だ。
ルーカスは5日前から一人で街の周辺を彷徨いているようだが、未だオークを確認できていないらしい。他のパーティーからも情報を集めているようなのだが、最初の頃よりも目撃証言は少なくなっていて、オークの死体がどこにも出てこない事から、どこか他の地へ流れて行ったと思われた。その矢先に2日前に、オークの目撃証言と行方不明者も同時に起きたのだという。
「ルーカス様ともあろうお方が見回りをしてるってーのに行方不明が出ちゃったんすか?」
「いやそれはお前仕方なくないか?」
「けどそれってさ……」
「なんだよ?」
「その目撃証言ってのは絶対嘘だろ?嘘っていうか、勘違いっていうか、怖い話聞いた後にビビって影を幽霊と間違えたった〜、見たいな?」
「その可能性がないとは言わんが、行方不明はどう説明するんだ?」
「そんなもん全くの別件で偶然って事で良いだろ」
「それならそれで別件だっていう証拠が必要だろ?」
「結局そこなんだよな……。もうさ、冒険者なんてヤ○ザみたいなもんなんだし、証拠なんて必要なくね?」
「冒険者は○クザじゃないだろ?それに、この件に関しては少なくとも行方不明者を見つけないとまずいだろ?」
「ルーカスの癖にまともな事を言いやがって」
「『ルーカスの癖に』って酷くないか?」
「ヒデトさんのこの手の推理は大体外れるので、話五分の一程度で聞いておいた方が良いですよ」
「外れんのかよ。……ベリアちゃん!俺と一緒に外回りしないか?」
「しません!」ベリアよりも先にすかさず、なんなら被せ気味に口を挟んだ。
「お前に聞いてないわ!ほら、俺も今一人だしさ、俺もそっちのパーティに臨時で入れてくれよ」
「やっぱり俺に聞いてんじゃねーか?」
「俺は別に?ベリアちゃんと⤴︎二人きりでも⤴︎良いんだけどね?」
ルーカスはベリアの反応を気にしてチラチラと様子を伺っている。当のベリアは特に気にした様子もなくご飯を食べ続けている。
むしろ俺の方が、マリア部隊とルーカス部隊で二手に分かれて探索が出来て「あり」か「なし」で言えば「あり」なのか?と考えを巡らせてみる。
だがしかし、ルーカスほどの冒険者(笑)がソロとはいえ、5日も周辺を探索をして手掛かりすら出ないのであれば、今更外を回ってみた所で、あまり意味があるとも思えない。
街からの要請という事もあってか、ギルドの方でも聞き込みを行っているみたいだし、俺達で今更何が出来るというのだろう?
うーむ、どうしたものか。
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