第79話 逞しくなりますん!


「お二人はオークに出くわしたりしてないんですか?」


ベリアと二人、ギルドの受付さんにクエスト完了の報告に来ていた。


ベリアは用事が無ければいつも一緒に受付へ報告に来るのだが、メティスは戻り次第、即座にいつもの隅っこの席へ行ってしまう。マリアは最近だと一緒に受付まで来ていたのだが、今日は気付いたらいなくなっていた。


「噂程度で聞いてますけど、オークなんて遭遇したらうちの雌オーク(マリア)が黙ってないんで」

「また、そんな事言ったら怒られますよ?」


「ははは」と笑って気易く返す俺達とは対照的に「そうですか……」と神妙な面持ちの受付さん。


「今のは笑うところですよ?」「何かあったのですか?」と、同時に言うベリアとはやっぱり結婚しなくてはいけないのではないだろうか?


「オークがいるだけでも問題なんですが、オークが出没するようになってから行方不明者が出ていまして……」

「それは大問題ですね」


オークは強いモンスターなので、初心者の街と言われるブレイドにいる冒険者では歯が立たない。それだけでも大問題なのに行方不明者まで発生している。

ちなみに冒険者がいなくなっても「行方不明者」にはならない。この場合は街の人が姿を眩ましているという事だ。


「オークと行方不明者との関連は、まだ確認されてはいないんですが……」

「時期が重なっているのなら、全くの無関係と考える訳にもいかないですね」

「そうなんですよ。しかもそのオークの行動が変?っていうか怪しいっていうかおかしいんですよ」

「どういう事ですか?」

「まずは、冒険者を見かけると一目散に逃げて行ってしまうんだそうです」


オークは獣とは違うので、明らかに多勢に無勢であったり、明らかに不利な条件の相手に突撃してくるような事はしない。


「こちらが一人でもです」


「それは……」と首を捻るベリア。


「おっしゃりたい事は分かります。ですが、目撃されているオークはどうやら一体、二体ではなく複数なんだそうです」

「それはおかしいですね?」


オークは社会性のあるモンスターなので、斥候を出して町や村を襲う事がある。だが、ブレイドは貴族街もあるそこそこ大きな街なので、もしも攻め落とすのであれば、オークの軍隊が動くだろう。そんな大勢のオークが動いていれば気付かない訳もない。

同じく社会性のあるモンスターのゴブリンはあまり賢くはないので、フラッと街まで

現れて暴れる事はあっても、単体〜少数のオークが危険だと分かっている人族の大きな街まで近付くような事はない。なので「変で怪しくておかしい」のだ。


「それと……」

「まだあるのですか?」

「オークの被害にあったと報告してきた冒険者が一人もいないんです」

「一人もですか?」

「勿論、今のところはですし、もしかしたら攫われてしまっていたり、そういう事がないとは言い切れませんが……。冒険者を見かけると脱兎の如く逃げていくそうです」

「……目的が分かりませんね」


二人の話を聞いているだけだったので「くぁ…」と欠伸が出てしまった。ベリアと受付さんの二人に睨まれる。


「ヒデトさんはどう考えますか?」

「んー、中の人が被害に遭ってるなら衛兵が動くんじゃないんですか?だったら俺達がやる事なんてなんもないですよね?あいつら偉そうだから、あんまり関わりたくないんですよね」

「またそんな事言って……」

「街の衛兵が動いているのは勿論なんですが、街の外に出る事件には確証がないと動けないんですよ」

「ああ、なるほど。外の調査は冒険者の管轄って訳ですか?」

「そういう事です」

「これだからお役所は!ね?でっけぇ給料貰ってんだから仕事しやがれっていう、ね?なんの為の税金だっていうね?ね!?」


あいつらお役所勤めで偉そうで非正規の冒険者を見下してるから、あんまり関わりたくない。


「冒険者共が外で見つけたオークを逃すから一向に捜査が進まないんだがなぁ?」


いきなり声を掛けられ振り向くと衛兵の腕章をしたごっついおじさんとピシッとした青年がいた。

今の話聞かれてたかな?


「お待たせしてしまって申し訳ありません、直ちに係の者を……」

「いやいや、もう話は終わったので帰る所なんですが、オークの話が聞こえてきたので思わず口が出てしまいましてね」


思いっきり聞かれていたっぽい。いっその事開き直って「オークの話なんてしてねーよ!お前らの話をしてたんだよ給料泥棒!!」と罵ってやろうかと思ったが、心の中で思うだけにとどまった。


「さっさとひっ捕まえてもらいたいモンだなぁ?冒険者?」


関わりたくないので明後日の方向を向いて目線を逸らしているのに俺のすぐ真後ろまで近寄ってきた。完全にロックオンされている。

「チッ」と心の中で舌打ちをして振り向くと、思いっきり笑顔で媚びいるように言ってやる。


「ポンコツな冒険者なんてあてにしなくても、優秀な衛兵さん達がきっと犯人をさっさと、ガッと、ガガッ、ガッと捕まえてくれますよ、ハハハ」


若い衛兵に向かって「ねぇ?」と手のひらを返して人差し指と親指で円を作ると、ペシ!とベリアに手を弾かれた。

気のせいか若い衛兵の目つきがさらに鋭くなった気がする……。ナゼカシラ?

おじさんの方の衛兵は「チッ」と舌打ちをすると「それではよろしく」とギルドのカウンターの方へ声を掛けて出て行ってしまった。若い方の衛兵は最後まで俺を睨んでいた。チンピラかな?


「ヒデトさん!」

「いやだって、絶対聞かれてたし取り繕ったってしょうがないじゃないですか?」

「だからって開き直らないで下さい!」

「だからちゃんと愛想笑いで切り抜けようとは思ったんですよ?」

「もぅ!そういうところですよ?」


ベリアは反抗的な俺に「はぁ〜」とため息を吐いているが「もぅ!」と怒って貰いたい。


「ちょっと気になったんですけど、衛兵のおっさんが『捕まえて』って言ってた気がするんですけど生捕りにするんですか?」

「出来れば生捕りと要請がきています」

「オークがどんだけ凶暴か知らないんですか?」

「存知ております」

「いやいや、衛兵がですよ」

「ですから『出来れば』生捕りをお願いしています」

「いやいや、オーク♀同士のタイマンを見た事ありますけど、あれはちょっと手加減が出来るようなもんでもないと思いますよ?」

「オーク♀同士のタイマン?ですか?」

「マリアとオーク♀のですよ」

「ああ、そういう?……コホン。それはちょっと酷くないですか?」

「あいつ『かかってこいあやぁー』って言って素手でオークと殴り合ったんですよ?もうどっちがマリアでどっちだかオークだって話ですよ。なぁベリア」


ベリアは「オークだって話ですよ、と」と独り言を言いながら、エアペンをエア用紙に今の俺の発言をメモしている。


「ちょ、ベリア?メモなんて取らないでいいからね?懐にしまわないで?」


ベリアは人差し指と親指で円を作って「ん?」とやってくる。


「……飯1回」

「残念です」と懐にエア用紙をしまってしまった。

「……3回」


「ん」満足そうに頷くとエア用紙を懐から取り出してビリビリと破った。破ってくれた。


「『口は災いの元』ですよ」


受付さんからありがたいお言葉を頂いた。

ベリアも中々やるようになった……。


「それでですね。相手がオークとなると受けられるパーティも限られてきますし、外の調査をヒデトさんにお願いしたいんですよ」

「あー……」

「なんですか?」

「衛兵とはさっきのでちょっと気まずいし、自警団は乱暴な奴が多いから好きじゃないんですよね……」


スッっと一枚の紙を机に差し出され俺とベリアは思わず、その用紙に視線を落とす。


「……街からも依頼が出ているので報酬がいいですよ」

「やらせていただきます!」

「ちょ、ベリア?」

「よろしくお願いします」

「はい!」

「……」


ま、良いんだけどね。

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