第77話 ハンターになりますん!

「私、ハンターになる」


急に、というほどでもない。

やっぱりな、みたいな感じで溜息で返事をしてやる。


「等と意味不明な供述をしており警察は精神鑑定を……」

「意味不明な事ないでしょ!」


また面倒臭い事を言い割って入ってくるメティス。


「なぁ、職業って途中で変えられるもんなの?」

「資質があればできない事はないですよ」


一番最初にギルドに来た時、何の職業の資質があるか検査した時のあれか。ハイノービスしかなくて爆笑されたのは良い思い出。

良い思い出ではないな。


「じゃあなれば?」

「私このパーティ唯一の準支援職だけど良いの?」

「ダメって言えば言う事聞くの?」

「NO!!」

「なんで聞いたんだよ?」

「ズッキーよ、残念ながら純粋なエロス教徒の私にはハンターの資質がないのだよ」

「なぁベリア。じゃあなんでこいつはハンターになるって言ったんだ?」

「私ですか!?」


急に話を振られてびっくりするベリア。今日も可愛い。


「だから〜、ジャジャン!!この子をお迎えしまーす!!」


後ろに控えていたマリアから渡された猫を俺とベリアの前にドヤ顔で見せ付けてくる。


「猫ですね」


ベリアは可愛いものを見た時の独特な女特有のテンションになる事なく、冷静に見たものを口にした。


「拾ってきた場所に返して来い!!」

「いやよ!この子を飼うから!!」

「メティスはハンターですわ!!」

「こいつはペットじゃねーか!?ハンター関係ないだろ!?!?」

「あら?ズッキーは知らないの?ハンターは動物を連れているものなのよ??」


小馬鹿にした風にハンっと笑うメティス。なんでこいつ勝ち誇ってんだ?


「あれはペットじゃねーよ!ここは飲食店なんだから動物を連れ込むな!!」


給仕さんが「別に構わないわよー」と言って通り過ぎていった。

冒険者ギルドの受付とギルドの酒場は繋がっているので、帰ってきたばかりで埃だらけのまま酒場に来る奴もいる。それこそ使役動物を連れている冒険者もいる。異世界の衛生観念にひと言物申したい現代人である。


メティスの胸に抱かれていた猫は飽きたのかイヤイヤと暴れて外へ出て行ってしまった。


「あぁん、やっぱり犬の方が扱いやすいわね」

「餌付けをする作戦もありますわ」

「餌付けすんな!」


初心者の街と言われるブレイドでは、ハンターは基本的に使役動物を連れて歩いてはいない。理由として、ただ単に維持費が高いからだ。

この街で使役動物を連れているハンターはブレイドを卒業間近のハンター。

今までは運良く合わなかったのだが、流れの冒険者チームにハンターがいて、私益動物を連れ、ブレイドに逗留していた。その時に私益動物に、すっかり毒されてしまったのだろう。

メティスのペットブームに乗っかってマリアもペットが欲しいと騒いでいた。




「どうせ飽きたら面倒みなくなるんだから置いてあった場所に返してきなさい!」

「飽きないもん!」

「食費だってかかるんだぞ!」

「私の分けるもん!」

「ワタクシの分も分けますわ!」


その言葉に「本当か?」とマリアに向けて確認を取る。

すると急にマリアは無表情になって目線を合わせてくれなくなった。


「おい」

「スン……」

「おいってば!」

「スンスン……」

「聞こえてんだろ!」

「マリアをいじめんじゃないわよ!!」


「おーよしよし」とマリアを胸に抱き寄せて頭を撫でてやっている。

イラァ(怒)ときた。


「じゃあお前は減酒な?酒代寄越せ」


今度はメティスが無表情になって目線を逸らされてしまった。


「おい」

「スン……」

「シカトすんな!!」

「スンスン……」「スンスン……」

「……お前ら……」




別の日。


「随分腹が出てきたな」

「ちょっと最近お通じが……」

「神様は排泄なんてしないとか何とかアイドルみたいな事言ってなかったか?」

「何言ってんの?セクハラ??訴えるわよ??」


どこかから「にゃー」と小さく聞こえた。


「お腹が減ったの!お腹が鳴った音だから!!」

「誤魔化す気があるならもっとマシな言い訳考えろよ?猫型の獣人族だってお腹が『にゃー』とは鳴らないと思うぞ」

「神様のお腹はにゃーって鳴くの!」




また別の日。


机にうずくまっているメティス。

「はぁ〜」と思わず深いため息が……。


「お前さ、その卵を羽化させるとか言わないだろうな?」

「なんでバレたの!?」

「まさかそれがドラゴンの卵とか言われて買ってきたんじゃないだろうな?」

「どこかで見てたのね?」

「絶対に鶏だから!ひよこが出てくるからやめとけ!!」

「ひよこかわいいじゃない!!」

「騙されてるの分かって買ってきたんかよ!?」

「この卵はドラゴンだけど、ひよこだってかわいいから良いじゃない!!」

「ひよこでもドラゴンでもダメ!!」

「ドラゴンだったら高く売れるわよ?」

「……っ、ダメ!」

「ちょっと考えてんじゃないわよ!売らないわよ!!」

「そこらへんにドラゴンが売ってる訳がないだろ!絶対に鶏だから!!」


「そして献身的に卵を温めて無事に孵化させるメティスさん。出てきたのはトカゲの赤ちゃん。そのトカゲをドラゴンだ!と言い張るメティスさんと、ほら見た事か!と言うヒデトさん。だが成長したそのトカゲはなんと、サラマンダーだったのです!」

「フラグを立てるのは止めるんだ!」


とりあえず忠告はしておいた。


「妄想のところ悪いけど、トカゲじゃあベリアの大好きなYAOI展開にはならないわよ?」

「……サラ×ヒデ……。ムフフフ……」

「何でもありかよ!!」

「あら、ヒデトは知らないんですの?ゴブリンと女騎士、オークとエルフ、そんなのは基本中の基本ですわ。あえてのヒデ×サラですわよね?」

「That’s right‼︎」


マリアがYAOIを受け入れてんじゃねーか!?ベリアは誰に何を仕込んでやがる。




またまた別の日。


「じゃあ聞くけど、何だったら良いの?」

「何でペットを飼う事が前提なんだ?」

「何よ〜、私ペットなんて言ってないのにペットの話だって分かってんじゃないのよ〜?ツンデレ?本当は飼う気満々なんじゃないの〜??」


鬱陶しいテンションで絡んできて脇をツンツンしてくるメティス。


「ワタクシもペット欲しいですわ」

「そうは言うけどな?俺たちの明日だって分からないのに動物の面倒までみてられるか?」


思いの外ちゃんと考えている俺の発言にメティスは一瞬黙ったものの……。


「血、血、血。モンスターと戦ってばかりの毎日」

「心が荒んでしまいますわ」

「だよねー。今夜もこんな時間……。後何時間かしたらまた冒険だよ。明日も冒険忙しいなぁ……冒険休んじゃおうかな……」

「もう頑張らなくても良いですわ!」

「疲れて帰宅する私。そこに猫がおかえりって『にゃー』スリスリーってきたらどうなる?」

「キャワワ〜なんだかすっごく癒されますわ〜、んもうどうでも良いですわー!明日もこの子の為に頑張ろう!ですわ!!」

「高まるわよねー!」


いきなり始まった現代風OLの寸劇に「んまー確かに」と納得しかけてしまった。

負けてたまるか。


「癒しがないと鬱になるなら冒険者なんてやめちまえ!!なぁベリア!お前もそう思うだろ!?」

「私ですか?……私は実験動物として飼育するのでしたら賛成ですね」


俺たち3人がベリアに距離を置いてドン引き。


「い、いや違うんですよ?実験と言っても非人道的な実験ではなくて人道的な実験ですよ?」

「『実験』って言っちゃってるから!人道的な『実験』って、なんのフォローにもなってねーよ!?

「参考までに『人道的な実験』って何なの?」

「それはちゃんと新薬や新しい手術の方法などの新治療法、新しい予防法、診断法、検査法などを開発する場合、動物をもって完全に人間に代用することができない以上、動物実験段階と人体への適応を確立する段階の中間に、人体実験の段階を経なければ……」

「怖い怖い怖い!」

「言葉のチョイスとか発想がサイコパスのそれなのよね」

「何を言っているのかを理解はできませんが、とにかく怖い事を言っているのは理解できますわ」

「え!?」


「ベリアはこれがあるから怖いんだよ(コソコソ」

「自覚がないわね(コソコソ」

「危険ですわ(コソコソ」

「ペットを飼っても絶対にベリアには任せられないわね(コソコソ」

「だから飼わねえっつーの(コソコソ」




そんなある日。


メティスが見慣れない女を連れて酒場に入ってきた。

チューブトップにベストを羽織り、ショートパンツにニーソックス。髪は綺麗な金髪をおさげにまとめ、スナイパーゴーグルを付けた筋肉ムキムキの大女。

見慣れないハンター風の大女に酒場にいた冒険者たちも品定めするように様子を伺っていた。


「新メンバーのハンターを連れてきたわ!」

「オーケー、お前の言いたい事は分かった」

「ペット飼うわよ!良いわよね!?」

「だからあれはペットじゃねーよ!つか、新メンバーってマリアのコスプレが変わっただけじゃねーか!!」

「一瞬でバレましたわ!?」

「こんな筋肉モリモリなハンターいるわきゃねーだろ!」


普段は露出部分の全くない修道服を着ているので、中身を知らない人が見ると小太りに見えてしまう。巨乳の人が着るワンピースみたいな?胸からストンと落ちてしまうので太って見えてしまうのだ。

マリアの場合、筋肉質であるものの露出が多ければ背がある事もあり、ボンッキュッボンッのセクシーダイナマイトに見えない事もない。

頭なんて髪をすっぽり覆うシスターベールをいつもは被っている。辛うじて眉の色が金なので髪の色が分からない事もないが、長い金髪をおさげにされてスナイパーゴーグルで目元が隠れているので一瞬どころか言われるまで誰も気付きはしないだろう。


「今までだってプリーストで通ってたんだもの、これならハンターで通るわよ!」

「ハンターで通ったってハンターのスキルが使える訳じゃねーだろ!あれはペットじゃなくて狩猟用の使役動物!何度言えば分かるんだよ!!」

「動物をまるで物あつか……、そんな人だと思わなかったですわっ!!」

「そういう話してるんじゃねーんだわ!!つか、そんな事言ってないだろ!!」

「生き物をなんだと思っているの!?そんな子に育てた覚えはないわ!!」

「そもそもお前に育てられた覚えがねーよ!!」

「んまーなんて恩知らず!!」

「露出の多いマリアは目のやり場に困るんだよ!」


急にでた俺の失言にマリアはでっかい?マークが頭の上に浮かぶ。


「ズッキー、心の声が漏れちゃってるわよ?」

「しまったーーーーー!?」


意外と筋肉もいける。新しい自分を発見した。


「お前らが欲しいのは愛玩動物なんじゃないのか?」

「どちらでも構わないですわ!」

「構え!」

「仮に愛玩用でも一緒に戦うわ!」

「愛玩用なんだから戦わせんな!!」

「じゃあ使役動物って事でいいわよ!」

「『じゃあ』で済む問題じゃねーだろ!?何だよ『じゃあ』って!!」

「だって、どっからどう見てもマリアは完璧なハンターよ!」

「ハンターだから動物を飼うとかそういう話じゃねーんだよ!!」


「ムゥ〜」と唸るメティス。


「最終手段よ!マリア、やっちゃいなさい!!」


力ずくで来るか?マリアって言えば俺がビビると思いやがって。

今までの俺だと思うなよ!1分は耐えてやる!!と覚悟を決めてマリアの出方を待った。

マリアはチューブトップの胸をこれでもか!と寄せてポージングを決め、片目を瞑って投げキッスをかましてくる。


ジャシジャシ!

つうこんの いちげき!

ヒデトは 500のダメージをうけた!


そうきたか!?思わず落ちそうになってしまったが気力で立ち上がる。

うーん、これでまだ1○歳。


「そこでとどめよ!」


マリアはエア弓を引いて「ばーんっ!」と俺のハートを撃ち抜いた。

ひでとは しんでしまった!


「(俺のハートを撃ち抜いた)じゃねーよ!撃ち抜かれてどうすんだよ、しっかりしろ俺!!」

「どうしたんんですの?」

「どうやらマリアが勝ったみたいね」

「やったー!ペットを飼っても良いって事ですの!?」

「ダメダメダメー!!」


メティスが「チッ」と舌打ちをする。


「マリアに何やらせてんだよ!!」

「嬉しかった癖に」

「ありがとうございましたっ」


深々と頭を下げてメティスにお礼を言うと、ベリアが何か言いたそうにジト目を向けていた。

いや、これはしょうがなくない?男の子なみんなやられちゃうよ??


ていうか、メティスもベリアもマリアに何を仕込んでるんだ?

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