第76話 誇大広告じゃありますん!


前回までのフワッとしたあらすじ 魔王討伐の進捗を聞く為にメティスの夢枕に立ったエロスに「ヒデトがヨワヨワプーだからチートが欲しいと言っている」と伝えてみたところ、持ち主の運を吸い取りなんでも願いが叶うという伝説の神器「フォーチューンソード(以下『運剣』)」を賜ったメティス。


運をMAXまで吸わせ願いを叶えるか、死ぬまで装備を解除する事が出来ない迷惑仕様であるこの神器は、その特性が故に古の時代では、奴隷に持たせ、運を吸い、ゲージがMAXに近付けば奴隷を殺し、奪う。そうして王にまで上り詰めた人間がいた。

人々は神器を奪い合い戦争が始まり、人の手には持て余すと神界に返納されていた。そんなとんでも神器をヒデトでは必ず持て余すだろうと考えたメティスは、どうしたものかと考えていたところにヒデトの手に渡ってしまった。


歩けば足を滑らせ、財布を取り出せば小銭をぶちまけ、外へ出れば信号は赤、おみくじを引けば大凶を引きまくる、等々、アンラッキーな災いが……災い……あれ?なんかショボくね?

メティスの記憶が正しければ「持ち主」の運が奪われ、意外とショボい不幸をばら撒く迷惑極まりない神器である事が発覚した。

ヒデトの「生き返る」チート能力が故に、例え死んでも運剣を手放す事が出来ず、幸い90%近い運ゲージが溜まっている。

さっさと願いを叶えて手放す事にした。

関係のない人の運を吸わないように街の外で、ヒデトとメティスのマリアの3人は森に篭って運を吸わせる事にした。


そして3日が経った。




「やっとここまで来たな!」


運ゲージが99%あたりになってからゲージ部分がピンク色に点滅している。


「10%ちょろちょろ貯めるのに何日掛かってるんですの?」

「いやーむしろ早い方なんじゃね?何せ『なんでも願いが叶う』訳だしな!」

「んー、むしろ早すぎる気がするのよね」

「一馬力じゃなくて二馬力じゃん?こんなもんなんじゃねーの?知らんけど」


残り10%ちょろちょろといった所ところで「1週間もあればいけんじゃね?」となんの根拠もなく言っていたのだが、3日で貯まった。


メティスは早過ぎると言うが、そもそもの仕様が「持ち主の運を吸う」ものであって、今回は俺とマリアの二馬力で運ゲージを貯めたものだ。さもなければ、エロスが気を効かせてゲージが早く貯まるように調整してくれたのだろう。


残り1%程度となったところで、願いを叶える時は自分も見たいと言っていたベリアをマリアが呼びに行っているのでメティスと2人、街の近くの森で2人が来るまで待機中となっている。




「さてと……」

「ちょっと?なんで手を離すの?」

「マリアがいないうちに願いを叶えておかないとじゃん?」

「なんで?」

「なんでってあいつらの目の前で『イ○ポを治して下さい!』なんて言う訳いかないだろ?」

「それはそうなのかもしれないけど、マリアにも手伝わせておいてそれもどうなの?」

「それな」

「言いづらくなるの分かっててマリアに手伝わせてたの?どんだけ早くイ○ポを治したいのよ?」

「『うっかり手を離しちゃってさー』」

「『うっかりじゃしょうがないですわねー』とはならないと思うわよ?」

「めっちゃ似てる!」

「ベリアのモノマネも出来るわよーって、ちっがーうっ!!」


これを話している時も手をブンブン振り回しているのだが、ガッチリホールドされていて離してくれそうな気がしない。


「前も言ったかもしれないけど、別に音声入力な訳じゃないから願い事自体はバレないわよ?」

「音声入力はしなくても、何をお願いしたかは聞かれるだろ?」

「それは今やっても聞かれるんじゃないの?」

「そんな言い訳を考えていないとでも思ったか?『すき焼き食おうと思ったら箸が無くってさー』」

「すき焼きじゃしょうがないわよね。ナイフでは食べれないものね」

「つっこめよ!真面目に考えろ!」

「もう良いかなって」

「面倒くさがるなよ!ぶっ飛ばすぞ!全くよう!!ふざけやがって!!バロチクショウ!!!プンスカプンスカ」

「だからどこへ行こうとしているのよ!」

「チッ」


怒った勢いで手を離す作戦は失敗に終わった。


「あ!」

「うん」

「『あ!』って指さされたらそっち見ろよ!」

「はぁ〜」

「ため息で返事をするな!」


もう一度「あ!」と指をさして言うと「チッ」と舌打ちをして睨んでくる始末。

……ツッコミは愛だと常々言っているだろう?一応「愛と性の神」の端くれとして、ツッコまないってのは信仰に対する背信ではなないだろうか?





「やっぱり世界平和だろ!」


ベリアとマリアの二人と合流後、どんな願い事をするか聞かれたので声を大にしてこう答えた。


ポイントとして「世界平和」には具体性がない。

だが、二人が思う「世界平和」は魔族の排除、魔王の討伐であると思われる。

結果的に魔王が倒されなかったとしても「あーあ、きっとフォーチューンソードの力を上回っているから魔王が倒されなかったんだー、あーあ、残念だなー。しかも願いを言ったら1カウントされて願いが叶ってないのにゲージが0になっちゃったぞー。残念無念なりー」とか言っておけば阿呆のベリアとゴリラマリアゴリラの事だから「そうなんですねー/ですわー」と納得する事だろう。

実際、シェン○ンだって地球に来る戦闘民族をなんとかしてくれって頼んだら「それは無理な願いだ。私は神によって生み出された。したがって神の力を超える願いは叶えられん」とか言ってたし、誇大広告が悪いのであって俺は悪くない。

ヘパイストという神の風評被害一つで俺という人間が幸せになるのだ。神様だったらきっと笑って許してくれるだろう。

それに「もしかしたら世界のどこかで誰かの世界が平和になっているかもしれないだろう」とか適当にそれっぽい事を言っておけば「間違いないですわ〜」と納得してくれるだろう。

いつか神界でヘパイストに会う事があれば「あの時はごめん!」と謝っておけば良いだろう。

言い訳に頭をフル回転させて「パーペキ」と自画自賛をしていた。




運剣の運のゲージがMAXになるとゲージの部分がレインボウに輝き出した。


「おおぉー、すげーなんかありがたそうだ!御利益がありそうだー!!」

「これからどうなるんですの?」

「出でよ!フォーチューンソード!!そして願いを叶えたまえ!!」


……


………


……………


返事がない。ただの短剣のようだ。


「何も起きないみたいですが……、これは?」

「って、おい!どうなってんだよ!!幸運の精霊とか出てくるんじゃねーのかよ!?」

「なんでフォーチューンソードにフォーチューンソードを呼び出してるの?普通ここでお呼びだてするならヘパイスト様でしょ?」

「なるほど!出でよ!ヘパイスト!!そして願いを叶えたまえ!!」


……


………


…………


やはり何も起こらない。


「ヘパイスト……様?」

「呼び方の問題な訳ないでしょ?」

「なんだよ!?神様出てこねーのかよ!?!」

「なんでズッキー如きに呼び出されてわざわざヘパイスト様がご降臨されると思ったの?バカなの?自分の馬鹿を食いて自死しなさいよ??」


このクソアマをぶん殴ってやろうと拳を握りしめる。


「ちょ、ちょっと待って、本当は『タッカラプト ポッ○ルンガ プピリット パロ』よ」

「なんだそりゃ?もう一回言ってくれ」

「もう、しょうがないわね」とメティスが紙に書いて渡してくれた。


「タッカラプト ○ッポルンガ プピリット パロ!ってお前これポ○ンガを呼び出す時の呪文じゃねーかよ!?」

「自分だってシェン○ン呼び出そうとしてたじゃない!?」

「こういうの良いからどうするのか教えろよ!」

「私だって立ち会った事がある訳じゃないのよ!知らないけど、普通に願いが叶うはずだったと思うんだけど……」

「お前はいちいちボケないと死んじゃう病気かなんかなのか?」

「ズッキーにだけは言われたくないわね」

「ポルンガを呼び出す呪文なんて『一度は言ってみたいセリフ」』に上がらないくらい使う機会なんてないと思ってたよ!ありがとう!!」

「やっぱりノリノリだったんじゃない?」

「そりゃね」


ガシッとメティスと握手を交わす。


「ちょっと光が弱くなってきてるんじゃないんですか!?」

「早く願いを言った方が良いですわ!」

「まさかの音声入力!?メティス!どういう事だ!?」

「だから分からないわよ!何でも良いから早く!!」

「だから何を早くすれば良いんだよ!」


つまり言い方を考えればいい訳だ……、閃いた!!


「エロスの呪いを解いてくれ!!」

「あ、あ、光がまた弱く!!」

「呪い?何の話ですの??」

「くっそぉ!(イ○ポを治して下さい!)お願いします!お願いします!お願いします!!」


小さい声で耳打ちするように運剣にお願いを伝えてみた。


「光が消えちゃいますよ!」

「いん?なんて言ったんですの?」


光が消えてしまった。


「おい、メティス」と声をかけるが、メティスは空を見上げて何かを目で追っている。

メティスの視線を追ってみるも俺には何も見えない。


ドドドドッ!


「んーなんかどっか飛んで行っちゃったみたい」

「え?って事はもう治ってんの??」

「呪いってなんの話なんですか?」

「いん?なんて言ったんですの?」


マリアはどんだけ地獄耳なんだ?耳にまで筋トレでもしてんのか?


ドドドドドッ!!


「しまったー!実は音声入力だったら世界平和って言っておけば俺、魔王倒して実はもう神界戻れたんじゃねーの!?」

「呪いってなんの話なんですか?神界に戻ってしまうんですか?」

「いんってなんて言ったんですのー?ねーねー」


ドドドドドドドドドドッ!!!


「何かだんだん近付いてきてないか?」

「誤魔化さないで下さい!呪いってなんですか?神界に帰ってしまうんですか!?」

「いんって……、ヒデっ、ベリア!!」


マリアに突き飛ばされると巨大な肉の塊が木を薙ぎ倒して飛び出してきた。

俺は気付いていたが、ベリアとマリアがこの振動に気付かないなんて事ある?ってくらいの巨大な猪が飛び出してきた。


「クソ!油断した、こんな近くまできて気付かなかったんか!!?」

「ちょっと待て!街のこんな近くに!?」


マリアがドデカロザリオを取り出し構える。


「いくら自慢のロザリーちゃんでもあれはちょっときついんじゃないのか?」

「それでも折角のMVP級だ。とりあえずやってみないと嘘ってもんだろ?これはロザリーちゃんじゃなくって一番でっかいエリザベスちゃんだ」


うっわ、かっけー。マリアまじ男前。俺が女だったら絶対惚れている。いやいや、マリアは女で俺は男だから惚れても良いのか?いつも通りマリアに惚れ直していても、いつでもマリアのフォローに入れるように立ち位置をマリアの右後方に下がる。突き飛ばされた立ち位置上ベリアは反対側の少し離れたところで爆弾を構えた。何故かメティスが見当たらない。巨大猪に轢き殺されていなければ良いのだが……。


「おっしゃ来いやあぁああぁぁ!!!!」


木々を薙ぎ倒しながら巨大な猪が事もあろうか俺に向かって突進してくる。

マリアが全力で巨大猪の横っ腹にエリザベスちゃんを、ドゴンッと叩き込みバランスを崩すも構わず俺を目掛けて突進してくる。


「なんでこっちくるんだよ!!!」


目を逸らさずスキル『バックステップ』で逃げる逃げる逃げる。

あんなでっかい質量は掠っただけで全身がバラバラになる自信がある。

だが流石のMVP級モンスター、俺の『バックステップ』では引き離す事が難しい。それほど4速歩行の巨大猪は早かった。一か八か地面を泥のように変えて足止めをするスキル『クァグマイア』を発動。一瞬だけ足を取られたが、そもそも俺のスキルの継続時間は本職に比べて中途半端で『クァグマイア』に至っては3秒だ。一瞬だが勢いは殺したものの、首を振り回した巨大猪の鼻先にかち上げられ、俺は上空に吹っ飛ばされた。

これは地面に直撃したらベチョっと即死だな。メティスの姿が見えないけど俺、大丈夫かな?


「ちくしょー!足掻いてやる!!クァグマイア!クァグマイア!!クァグマイア!!!」


一応地面を泥のようにして足を取らせる土魔法なのでちょっとしたクッションになってくれれば御の字だ。どっちが地面か分からないが運が良ければ即死とはならんだろう。即死でなければマリアのヒールでなんとかなる。




今考えれば、これは全てフォーチューンソードの、否!ヘパイスト『様』のお導きだったのだろう。




前が見えない。生きているという事は作戦通り地面をクッションに変える事には成功したらしい。

だが未だに『クァグマイア』が解けていない。絶体絶命の状況に置かれた事によって隠された力に目覚め『クァグマイア』の持続時間が伸びたのだろうか?

って嫌だわ!主に足止めスキルの持続時間を伸ばすことが俺の覚醒した力とか(笑)どんなハズレスキルだっつーの!?

それにしても柔らかい。柔らかい。柔らかい。……えっと?俺はこの柔らかいモノを手にした事がある。これはあの時の……。ハニー、マル……マルティ……うっ頭が。


「ズッキ、いやヒデト……」

「この声はメティス?姿が見えなかったけど無事だったんか?」

「はい……」

「んん?名前呼びだし、なんで敬語??」

「いつまでも目を閉じてないで開けてみた方がいいんじゃないですか?」


目を開いた。まずクッションの正体はベリアだった。正直ベリアだったかは置いておいて、何かがクッションになったっていうのは察しがついていたし、柔らかいモノの感触がおっぱいに近しい存在である事もなんとなくだが想像はついていた。

うん、ぶっちゃけてベリアだったかもしれないとは思っていた。

ベリアはいつも革の胸当てを装着しているのだが、今日は街から近所の森に来るだけだったので着けてこなかったのだろう。おっぱいかもしれないと思ったのに顔を上げなかったのは、揉みしだいている物がおっぱいであった場合、揉まれている者の顔を見てしまうと、小心者の俺は鷲掴みにしている物を揉みしだく事ができなくなってしまう。なので俺は目を閉じ「これは違う、これは違う」と自己暗示をかけていた。


「ベリアだって理解しても手を離さない。スズキさんマジぱねぇっす」

「苗字!?久々に聞いたわ!?しかもさん付け!!?」

「まさか逃げ惑っているベリアにスキルで足止めして上空から襲って頭部を強打して意識を失ったベリアの乳を揉みしだく事がスズキさんの本当の願いだったとはエロス様でも思わないでしょうね。鈴木さんお見逸れしました」

「え?マジで??俺そんな事したの?」


つか、スズキさんの発音が鈴木さんになった気がするのだけれど?気のせい?


「調整の仕業か急に動けなくなったと思ったら猪ドカーン!クソムシバーン!!ベリアにドーン!!」

「え?これってヘパイスト様の恩恵なの?」

「さっきまで敬称なんて付けてなかったのに!?変わり身の早さ……」

「どういう事だ?ヘパイスト様による神の調整でメティスが急に動けなくなって……。つまりこの状況はメティスに見られてるけど神の調整で密告られる事はないって事なんですね、ヘパイスト様!?しかもマリアは猪追っかけてどっか行ってるからこの状況を見られる事はないんですね、ヘパイスト様!?完全犯罪なんですね、ヘパイスト様!!」

「完全犯罪って……。そんな算段を付けるときだけ頭の回転が早いんですね……。鈴木秀人さんまじどん引きですわ」

「いつものように『クソムシ』って呼んでもらって構わないんですよ、メティスさん!?」

「『ベリアのおっぱいを揉みしだく>イ○ポ>>>超えられない壁>>>>世界平和』が鈴木・クソムシ・秀人さんの本心からの願いなんですか?」

「クソムシになったけど!?何故か親しみの念が全く感じられない!?俺の目を見みて言ってよ!!」

「それでもまだ乳から手を離さないんだな、お前は」

「態度わるっ!メティスが『お前』って言うの初めて聞いたよ!?俺の肩らへんを見てんのバレバレだぞ!?目を見て!?!!?!」


嫌悪感丸出しで睨んでくるメティス。


「つまりあれか?ベリアのせいで俺の願いは上書きされたって事なのか!?」

「ベリアの『せい』って……、ベリアは何も悪くないでしょ……」

「ふざけんな!イ○ポの方が重要に決まってんだろ!!」

「そこは嘘でも世界平和って言わないといけないところなんじゃないの?」

「こんな一瞬の快楽の為だけに『なんでも叶う願い』を使う訳ねーだろ!」

「私が密告れない事が分かってから、また揉みしだいてるから『一瞬の快楽』でもないけどね」

「けど、誰にもバレずにベリアの乳を揉みしだけるなんて空前絶後のチャンスなんて今後一切未来永劫二度と絶対n何があろうと再びこないのは間違いないし……、これなら誰も傷付かない、まさにデリシャスでパーフェクトなゴッドプラン!!ビバ!ヘパイスト様!!」

「心の声がうっさいのよー」

「だがしかし!ベリアは大切な仲間!!例え神様の意思が働いていたとしても俺は邪な目で仲間を見ないし見れないし見るわけにはいかない!!!」

「確かに見てなはないわね。なるべくベリアを見ないように乳を揉みしだいているものね。それとね、神様のせいにしないでね?自分の意思でしょ?」

「だからお前も止めろよ!なんでさっきから俺を放っておくんだよ!!」

「止めて怒られるなら分かるけど、放置して怒られるなんてある?」

「馬鹿野郎!!お前、この状況で自らを律し手を離せる奴なんていると思うか?いないぞ!いる訳がないだろ!!」

「気持ちは分からないでもないけど、今の絵面は相当やばいわよ?マジでやばい」

「だから早く引き剥がしてくれ!!頼む!!俺の右手が!左手が!!暴走する前に!!!」

「暴走しっぱなしー、もう手遅れよー。それに私は神の調整があるから今の状況でも多分邪魔なんてできないわよ?」

「なんだってー!諦めんなよ!!試してから諦めろよ!!」

「無茶苦茶言ってんじゃないわよ……」

「じゃあ俺が自らなんとかしなくちゃいけないのか!?」

「このままじゃベリアが起きちゃうかもしれないわよ?」

「なんだってー!?じゃあ離すぞ!俺は乳から手を離すぞー!!メティスー!!良いかー!いくぞー!!」

「さっさと離しなさいよ」

「いくぞーいーちにーのさーん!で離すぞー、さーんの『ん』と同時に離すからなー『さー』からは離さんからなー」

「良いから早くしなさいよ」

「いーち……、にーい、にーてんごー、にーてんろくー、にーてん……グオッ!?」


「とぅ!」と後ろからメティスのミサイルキックが飛んできて俺は見事に吹っ飛んだ。


「あれ?蹴れた??」

「何をするだぁーッ!!!!」

「止めろって言ったのは鈴木さんでしょ?」


あれ?なんか良い感じに掛け合いをしていたと思ったのに心の距離は遠いいまま?


「ほら良いんだよ?いつも通りあだ名で呼んでくれればさ」とメティスに近付くが、近付いた分だけメティスが後退する。


「はっはっは、ちょ、まーてーよー。もうそんな冗談はいいんだって」

「………」

「なんだよ!逃げんな!!」

「………」


メティスは俺からの問いかけに答えず、顔を見ようともせずに逃げ回る。


「ん……、んん……」

「あらベリア、おはよ」

「ここは……?」

「お、おう、ベリア、大丈夫か?」

「私は一体……。確か……、猪!!あれって多分エリュマントスの猪とかカリュドンの猪とかの類ですよね!?マリアさんは!?!?!」

「エリュ?カリュ?」

「MVP級のモンスターよ」

「なんでそんなのがこんなところにいるんだ?」

「言っても良いの?」

「俺のせいみたいに言うのやめてー?俺のせいじゃないだろー?」

「えっとねー……」


ちょっと待てよ?(乳を揉みしだく)俺を止める事が出来たって事は、神の調整はここまで干渉しない?もしかしたらベリアに粗相を働いた事を密告れるのかもしれない!?止めなければ!!!!(ここまでの思考0.2秒)


メティスに背を向けてバックステップ、一瞬でメティスの背後に回りスリーパーホールドを決めた。(ここまでの動作0.3秒)


「メティスさーん、ちょーっと僕から説明するから黙ってようねー」

「ムギギギギッ!!」

「ちょ、どうしたんですか、ヒデトさん!?」

「かっ、は、ぐっ、ぐぐぐぐ、ブクブクブクブク」

「メティスさん!?なんですか?何か言いたい事があるんですか!?ちょっとヒデトさん!!!!」


メティスは顔を真っ青にして泡を吹いて落ちた。危いところだった。


「ちょっと何してるんですか!?ヒデトさん!!」

「いや、メティスがちょっと混乱してたんだよ。カリュだかエミュだか猪のスキルかなぁー?」

「そんなスキルがあったんですか?どちらかといえば、混乱しているのはヒデトさんの方なのでは……?それよりもメティスさんが地面に……、ち……ち??」


ジタバタするメティスは落とされる前に足で『ち・ち』乳と書いていた。

それを見たベリアは自分の胸の周りの衣服が乱れて谷間が丸出しになっている事に気付いた。ササッと胸元の衣服をなおしている。


「そうそう、メティスを絞め落としてベリアの乱れた胸元がバレないようにね?首をキュッとねー」

「ヒデトさんは本当にクソムシですね……」


あれ?これはどちらにせよ、しくじったか?

まぁ、この程度のしくじりなぞ致命傷にはならないだろう。乳を揉みしだいた事に比べたら、この程度ならいつもやっている事と大して変わらない。


「ハッハハハ」

「何を笑っているんですか?」

「………」




こうして「なんでも願いを叶える幸運の剣」フォーチューンソードは誇大広告ではなく、むしろ、持ち主のご都合的に、ほぼ完璧に近い形で願いを叶える神器である事が証明された。

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