第75話 安くはありますん!


「ん?ここは??」


外で寝ていた?崖?なぜこんなところで寝てるんだ?何をしていたんだったか……?ここは誰?私はどこ?


「ってうぉい!結局殺されてんじゃねーか!!」マリアに避難の目を向ける。

「知らないわよ。自分で飛び降りたんでしょ?」

「止めを刺し損ねましたわ」

「そんな物騒な言葉ある!?」


語尾を「〜ですわ」みたいにすればなんでもお嬢様っぽくなると思うなよ?

リングの上での戦いならばいざ知らず、森や平原であればスキルを逃走や不意打ちに全振りしている俺は相手がマリアであろうと早々に捕まったりはしない。

だがしかし!全力で逃げ回っていた俺はちょっとした崖から真っ逆さまに転落。つまり不幸な事故が起こったらしい。

まぁ、自殺が嫌なだけで死んでしまったのなら仕方がない。

運剣が外せたならばそれはそれで構わないし、外せなかったとしても死ぬほどの運を吸われたのであればそれはそれで構わない。


「……1%も上がってないぞ!?死ぬほど運が吸われたはずなのになぜだ!?!?」

「死ねば解除できるというお話でしたのに、手放す事はできてるんですの?」


マリアに言われ、目を凝らし運剣を凝視すると運剣から紫色のオーラがウヨウヨしている。


「あ、ダメっぽい。なんか見える」


運剣の柄に触れなければ持ち主と認定されないらしいので一応鞘を握っている。


「うーん、やっぱりリザレクションじゃないとダメなんじゃないかしら?」

「それはおいといて、俺死んでんだぞ?全然ゲージが増えてないのはなんでだよ??」

「ズッキーが死んじゃった程度じゃ大した価値もないって事なんじゃない?」

「酒場じゃみんながちょっとひっくり返ったりしただけで結構増えてただろ?俺の命ってそれ以下!?」

「ズッキーはなんていうか……安、軽いのよ」

「今『安い』って言おうとした?軽いのはしょうがないとして安い?え?俺って安いの!?」

「軽くて良いんですの?」

「なんて説明すれば良いんだろ?スーパーで買うのとお肉屋さんで買うのとじゃ同じ部分でも値段が違うでしょ?」

「そりゃ一掴みいくらのどこ産だか分からん物とブランド物じゃ全然違うだろ?」

「そそ、珍しく理解が早いじゃない」

「誰が売れ残り20%引き商品だ!?」

「そんな事言ってないけど?私は例えズッキーが、一掴みいくらのやっすい売れ残りの20%引き程度の値段だったとしても高いとは思うけど」

「安いって言っちゃったようなもんだろ!?俺の運ってそんな軽いの!?」

「だからそう言ってるじゃない!」


悪びれるでもなく酷い事を言うメティス。


「神様は平等なんじゃねーのかよ!?滅茶苦茶、人に価値つーか値段つーか付けてんじゃねーか!?」

「神様がっていうか、徳を積んでないのよ」

「とくぅ?」

「聞いた事ない?『徳を積みなさい』って」

「ああ『徳』か。善行ってやつか?良い事はしてないかもしれないけど悪い事もしてないぞ?」

「崇める神が違えば善行の基準も変わってくんのよ。例えばエロス様だったら、どれだけ人を愛し愛されたかで徳が積まれるのね」

「なんだそりゃ?」

「ズッキーは……あ、ズッキー彼女いない歴=年齢だから愛されてなんてなかったんだった〜しまった〜もしもフォーチューンソードがラブリーソードだったらズッキーじゃお手上げだったわ〜」

「……お前、それ言いたいだけだろ?」


「プギャー」と嬉しそうに喚くメティス。


「分かり易く言うと『アバンダンティア様』だったら資産1兆円持ってる人間と貯金0の人間だったら資産1兆円持ってる人の方が徳を積んでる事になるの。一兆円持ってたら有難い感じするでしょ?」

「そんな金の亡者みたいな神様いるの?」

「バカっ!なんて事言うの!このバっ!」


バカって言われた……。「バッ」は多分だけど「この罰当たりが」の「バッ」っぽい。


「何を落ち込んでんのよ?」

「いくら本当の事でも言って良い事と悪い事がありますわ」


マリアが抱きしめて慰めてくれた。デヘヘ。

後で訴えられては敵わないのでこちらから抱き返すようなミスはしない。身長は俺より高くて体重が俺の1.2倍くらいあってももマリアは12歳の少年だ。俺はクソムシではあってもロリコンではないので14歳までの女の子なんて少年扱いだ。

世界が変わればロリコンの定義も変わってくるのかもしれないが、俺は俺の中のイエスロリータノータッチ魂に従う変態紳士だ。


「『富裕さ』の神様よ」


じゃあやっぱり金の亡者的な感じじゃん?と思ったけど、それを言ったら、もっと直接的な言葉でなじられそうだから言葉を飲み込んだ。


「ん?そもそも1兆円の人と0円の人の運が同じ時価になる訳がないだろ?」

「珍しくお利口じゃない?さっきからどうしたの?まさか偽物?」


偽物ってどういう事だよ?


「仮にアバンダンティア様の作ったフォーチューンソードだったらズッキーなんてどんなに運を吸われたって0よ?0は何を掛けても0なのよ?」

「誰が貯金0やねん!」

「貯金あるの?」


懐にしまってある貯蓄用の皮袋を広げてメティスに見せてやる。


「ペッ!貯金が聞いて呆れるわね」

「宵越しの金は持たない主義だ」

「何を満足気な顔をしているの?気持ち悪いわね」


「宵越しの金は持たない」一度言ってみたかったセリフだ。「貯金がありましたら宵越しのお金を持っている?のではないんですの??」とマリアが突っ込みは華麗にスルーだ。


「お前、さも俺の人間性が軽いとか悪いとか言ってさ、だから運が軽いって言ってたよな?」

「そこまでは言ってないけど。そうねズッキーの人間性は、んーんんー♪よね?」

「包むな包むな!鼻歌で誤魔化さないで良いから!」


メティスが目を見開いて口に手を添えた。


「なんでそこで『あ、そうだった』みたいなリアクションするんだよ!?意味わかんねーよ!!」

「んで?ズッキーの人間性がフワッフワッなのがどうしたのよ?」

「たまたま俺は鍛冶の神様の好きそうな事やってなかったから徳が積まれてなかったってだけじゃん?俺の人間性関係なくね?」

「あー、確かに。ラブリーソードだったら詰んでたって事だわね」

「いやいや、結構愛されてるかもしれないじゃん」

「誰に?彼女いた事ないのに?」

「……お、親とか?」


ニコっと困った様な笑顔で取り繕おうとするメティス。


「なんか言えよ!思った事言えよ!!そういう中途半端な気遣いが一番人を傷付けるんだよ!!」

「う、うん。ラブリーソードなんて剣をエロス様はお造りになられていないから大丈夫よ」

「そんな心配してねーんだわ!!」


ていうか、ないのかよ!?


「まぁつまり、運剣を作った神様の好きそうな事をしろって事だろ?」

「そうね。けど手当たり次第運を吸っていたりするし、私の知っている仕様と少し変わっている所を考えるとエロス様の手も少し入っているかもだし、なんとも言えないわね」

「おいおい、取扱説明書くらい付けとけよ?返品するぞ?」

「返品!」

「え?返品できんの?ってか返品よりも説明書の方がありがたいんだけど?」

「返品できるかも?」

「待て待て、イ○ポを治すまでは返品しないぞ?」

「どうしたいのよ……」


仕方がない。死ねば多少なりとも運が貯まるなら死にまくればワンチャン……。


「一応断っておくけど、あくまで運を吸われなくちゃいけないから自○じゃゲージは動かないわよ」


そうだった。


「そういう事でしたらワタクシも一緒に運を吸わせる為に残りますわ」

「あー、そっか。そっちの方が早いわね」

「え?大丈夫なのか?一生の運の量が決まってるとかそういうのないの?大丈夫?」

「運って結構気安いものなのよ。そこらへんに浮いてるから」

「浮いてんの?」

「無くなっても時間が経てば勝手に溜まっていくものだから大丈夫よ」

「運、気安いな」


さっきの小さな不幸(足が滑ったり、石が飛んできたり)が起こりながらもモンスターと戦っていた時のマリアを見る限り、一緒にいても死ぬ事はないだろう。だったら一緒にいてくれた方が効率が良い。


「吊り橋を歩いたりロシアンルーレットしたりFXやったりしなければ死ぬような事には多分ならないわよ」

「本当に大丈夫かよ?」

「何ビビってんのよ?」

「ロシアンルーレットとFXはしないと思うけど吊り橋は歩くかもしれないよ?結構危険じゃね?いや吊り橋も避けるけども?てゆうか俺さっき死んでるし」

「なぜかズッキーにはやたらと厳しいと思うのよね」と首を捻っている。どういう事なの?


「呪いのアイテムでもあるまいし大丈夫よ」

「完全に呪いのアイテムだろ?なんだったら呪いのアイテムの方が聖水で解呪ができる分、大分良心的だろ?」

「あー……」

「否定しねぇのかよ!」


運剣は「鍛冶の神へパイスト」がお造りになられた神器であって、エロスがお造りになった物ではない。なのでフォーチューンソードを呪いのアイテム扱いされても別にメティスが思うところは特にはないらしい。

これが仮にエロスの造った物ならば滅茶苦茶怒られる。下手するとぶたれる。


「『ヘパイスト』が好きな事ってなんだ?」

「好きな事って?もっと言い方あるでしょ?」


無宗教の俺にはピンとこない。


「『教義』とか『信仰』とか」

「『鍛冶の神』の教義って何?どんな信仰?腹筋とかしとけば良いのか?」

「なぜゆえ腹筋なんですの?」

「なんかパンイチでトンカチ持って鉄の板叩いて汗だくになってはっちゃけてるってイメージじゃん?」

「そのイメージは高炉が熱いからでしょ?パンイチって変態じゃないんだからね?むしろ服着てないと火傷するわよ?」

「そっか、炉が熱いからか」

「確かに筋骨隆々ってイメージはありますわね」


「なんだろ?俺も剣でも造ってみるか?」「剣を鍛えるのも体を鍛えるのも変わらないですわよ」「腹筋しろって?」「ワタクシも一緒にやりますわ」なんてマリアと話しているとメティスがなぜかニヤニヤイヤラしい顔をして俺を見ている。


「フォーチューンソードで良かったわね」

「何が?」

「ラブリーソードだったらセッ○スしなくちゃいけないところだったから、絶望的に相手がいないズッキーじゃ完全に詰んでたじゃん?ね?」

「あー、はいはい。良かった良かった本当に良かったー」


笑顔で答えるとメティスもドヤっと笑顔だ。俺はメティスの握った手を引き寄せると思いっきりしっぺを叩き込んでやった。


「イッターイ!ちょ、痛いってば!!イタイイタイ!!」


一発二発などと言わずベシベシベシベシベシと連続で叩き込む。


「ふん、女で良かったな。お前が男だったら顔面にグーパン入れてるところだぞ」

「顔にグーパンは入れられても変な穴に変な棒は入れられないもんね?ね?」


「イシシシシ」とイヤラしく笑うメティスの頭をガシッと掴んで脳天に思いっきり頭突きをくれてやった。

倒れたメティスを踏みつけて「ウィナー!」とガッツポーズで勝ち名乗りを挙げる俺の背中にポンと手を置かれたので振り向くと「次はワタクシと決勝戦ですわね!」と額を指差しニッコニコのマリアがいた。

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