第73話 ギャルの……おーくれすん!
前回のあらすじ メティスが怖い。
部外者が去ったところでやっと本題に入る事にした。
「まず俺たちが今手を繋いでいる訳なんだが……」とフォーチューンソードの説明をベリアとマリアの二人に始める。
持ち主の運を吸いなんでも願いを叶えるというフォーチューンソード。
一度持ち主になってしまうと、運ゲージをMAXにして願いを叶えるか、持ち主が死ぬまで装備を外す事ができない。
フォーチューンソードは、その特性が故に国同士で奪い合いが起こり戦争の火種とされ、神界に返納されたとされる。
なんとも迷惑な伝説の一刀だ。
実際、今日まで神界にあったのでオリジナルのフォーチューンソードは下界に存在しない事になっている訳なのだが、オリジナルのフォーチューンソードに肖り魔術的なアレやソレが込められ運気が上昇するというレプリカのフォーチューンソードが存在している。こちらも十分高価な代物なので「フォーチューンソードがさー」などと大っぴらに話していては強盗に遭うこと間違いなし、なので「運剣」と命名した。
「オリジナルなんですか?」
「みたいだな」
「どちらから手に入れたのですか?」
「さっさと魔王を倒せって渡された?」
「言い方!!もっと違う言い方があるでしょ!?」
「そうでしたか」
ベリアは思いの外あっさり納得する。
「拝見させていただいても?」
メティスに大丈夫なのか?と視線を送ると「大丈夫よ」と頷くのでベリアに渡してやる。マジマジと鞘から刀身から舐め回すように見ている。
「ベリアが刃物マニアだったとは知らなかった」
「伝説級のアイテムを手に取れる事なんてそうそうないですからね」
俺はレア度よりも実用性重視なので、持て余しそうな物は実用性(金)に換金してしまいたい。
「売ったらいくらになるんだ?」
「なんですって?」
メティスに睨まれた。
「実際売らないけどさ、参考に」
「なんの参考よ?」
「んー、国に持っていけば領地とかいただけるんじゃないですかね?」
「そんなに!?」
領地がもらえるって事は貴族になれるという事だ。フォーチューンソードで貴族になったら「スズキ・フォーチューン・ヒデト」何やらおめでたい名前になる。
改めてこんなギルドの酒場でして良いような話ではない気がしてきた。ぶっちゃけ俺の様な弱小冒険者が所持していても持て余す事この上ない。
だがしかし、前言撤回になるが、そこまで凄い(資産価値)レアアイテムと言われると、ありがたみを感じてしまう俺は小市民だ。手放すのが惜しくなる。
いや、手放さないけど。
「今も運を吸われているのですか?」
「神族からは運を吸えないの」と繋いだ手を上げてみせる。「あ、あと魔族からもだったかしら」
「つまりメティスは魔族だったって事だ」
「誰がま、ままま、まま〜ま!」
「イテ、ちょっと待て!やめろ!腕をペチペチするな、お前が神様だって隠した方が良いのかなと思って、ごめんて!いてぇって!!腕を叩くな!」
繋いでいる手の甲をペチペチ叩くメティス。地味に痛い。
「私が魔族だった方が問題でしょ!?」
「あ、確かに。イテ、悪かったって、ごめんなさいって」
「えーとですね。運を貯めて願いを叶えるか持ち主が亡くなるかしないと外すことが出来ないって事ですよね?」
「そういう事ね」
邪推かもしれないけど「だったら一度死ねば良いじゃん」とベリアが言いたそうな顔をしている。
「ただほら、俺の場合、体質がアレだからさ。死んで解放されるのかな?っていうさ」
「そうなんですね」
「それはズッキーが勝手に言ってるだけだから一度試してみるべきよね」
「いやだ!」
黙って聞いていたマリアが、ポンッと柏手を打って言った。
「でしたらワタクシ『アクアベネディクス』で聖水を作ってきますわ」
「ちょっとマリア?これは神器なのよ?悪魔の呪いとは違うのよ?」
「アクアベネディクス」は水を聖水に変えるスキルだ。スキルの媒介として使ったり、呪われた装備にかけると浄化させる事ができる。
「違うんですの?」
「違うわよ!」
「ワタクシは使えませんがメティスならディス……」
「それも呪いを解除したりするスキルよね」
「ディスペル」はバフからデバフ、魔術的な状態異常だったりを解除、解呪するスキルだ。
「んー、万能や……」
「神器は猛毒とは違うのよ?」
マリアはどうやら運剣を何かおどろおどろしい物だと思っているらしい。
メティスは神様信仰がとにかく強い。そもそもメティス自体が「神」なのだから仕方ないのだが、その「神」器を何かおどろどおどろしいもののように言われるのに納得がいかないらしい。
なので俺も言ってやる。
「そうか。やはりエリクサーでないと駄目って事か。イテッ!」
「それはなんでも治せる神薬よね?何でさっきから聖なる物で何とかしようとするの?じーんーぎっ!神の恩恵を何だと思っているの?罰が当たり過ぎて死んじゃうわよ?」
メティスはペチペチ俺の腕から手の甲を引っ叩きながらリズムに乗って話し続ける。
「いてーって!罰が当たり過ぎちゃうって、罰が物理攻撃になっちゃったよ」
「そんなツッコミ今はいらないわよ!」
「ていうか、スルーしちゃったけどメティスが神様っていうの完全にスルー?」
「神様っていうか神族ですよね?珍しくはありますが全然いない訳ではありませんし」
「まぁ、私は神様だけどねっ!」と胸を張るメティスに暖かい笑みを浮かべるベリアとマリアの二人。
……あー、そういう事か。メティスが勝手に神族だから神様を名乗っていると思われているという事か。普段から俺に対して「神に向かって」とか言ってるのを聞いているし、そりゃあ神様がそこらへんにいる訳ないからね。
神様は種族ではなくて職業だから?神族だけがなれる職業とか?神エロスも自らを「宮仕え」と言っていたし……、それもどうなの?
「ただこの運剣片っ端から周りにいる人達からも運を吸ってるみたいでさ」
「持ち主だけのはずなのに、ズッキーが持ったら何故か周りからも手当たり次第吸って暴走してるのよね」
「つまりヒデトさんが持ち主になってから、という事ですね?」
「待て待て、その言い方だと俺が悪いみたいに言われている気がするんだけど?そういう仕様だったんだろ?」
「あ、一応言っておくけど、今は私といるから大丈夫よ?」
「シカトすんなよ?ちゃんと言い直せ」
「うっさいわねー、なんの話よ?」
「俺のせいで手当たり次第運を吸いとってるって奴だよ」
「そんな事言ってないでしょ?キモいわね」
「キモくねーよ!!そこは『自意識過剰なんじゃない?』だろ!?」
「自覚はあるのね」
「自意識過剰でもねーしキモくもねーよ!!」
「ッチ、はいはい、ズッキーはキモくないキモくない。大丈夫大丈夫」
「だから大丈夫もクソも俺にキモ要素はねーだろ!?」
「そうねーズッキーはクソねー」
こいつぶっ○してやろうか?
「けどヒデトさんでしたらあり得るのではないですかね」
「何が!?」
「暴走してるって話です」
「そっちか。俺がキモくて自意識過剰だって話かと思った」
「そんなに気にしているんですの?」
デリケートな問題なんだよ。
「転生者は特殊な能力をいただいて転生するって話ですよね?」
「ああ……そう……だな」
「なぜ目を逸らすんですか?」
俺の転生者ボーナスによる特殊な力は「魅了に対する耐性」であってその能力の正体はイ○ポだ。
あ、「復活」もだったか。
「転生者」だから、ある日突然神器を持ってきても驚かないし「転生者」だから連れが神族でも驚かない。この世界は神様が気まぐれに現れる世界なので、俺という特別な?存在?っていうのかな?不思議な事が起こっても「神の気まぐれ」で説明がついてしまうのかな?恐ろしい世界だ。てゆうか、そこらへんにっていうか目の前に神様がいるじゃん!?
「物理的に離れれば良いのでしたら単純にそこらへんに埋めて遠くへ行ってしまえばよろしいのではなくて?」
「……多分それはうまくいかないと思う」
「神器には神の調整が入るわよ」
「調整?」
メティスは基本的に物理攻撃ができない仕様になっている。「基本的には」なので厳密にはできない訳ではない。自分の身に危険が迫った時などはその限りではないのだが、自分から殴りかかろうとすると足が滑ったり、ならばと投擲を試みるも突発的で局地的な突風が起きて目標から逸れたりする。だが「身の危険」が、どの程度の危険を指すのかはメティス自身も分かっていないらしい。魔法であれば攻撃ができるらしいのだが、そもそも物理系の魔法を覚えていない。
現世では無駄に影響を与えないようにとガバガバな調整が施されているらしい。
フォーチューンソードも神の物ならばなんらかの調整が施されているだろうというのが俺とメティスの見解だ。でもなければ昔の人たちだって持ち主を分からなくして逃亡しちゃえば、ただの切れ味の良い短剣でしかない。
でもなければわざわざ神界に変換なんてされなかっただろうと思う。
「そもそも何故、持ち主になったんですの?」
「私が説明する前にズッキーが触っちゃったの」
「お前が隠すからだろ?」
「触っちゃダメって言ったのに無理矢理……」
「だからお前言い方気をつけろ?」
「そこはダメ!って言ったのに興奮したズッキーが恍惚な顔で私の聳え立つ巨塔を……早くツッコミなさいよ?」
「………」
「突っ込むのはメティスさんの聳え立つアームストロング砲をヒデトさんのやお……」
「ベリアが喜んじゃうから言い方に気をつけろ!!」
ベリアの額にペシっとツッコミを入れてやると「アウチッ!」と悲鳴をあげ正気を取り戻した。
「ではやっぱりヒデトには一度死んで……」
「やだ!死ぬのはしょうがないけど自殺はいやだ!!」
「でしたらワタクシが……」
「撲殺は痛そうだから嫌だ!!」
「絞殺でも頸動脈を、ぴっとすれば割と気持ち良く……」
「殺し方の問題じゃねー!!」
マリアが特別サイコパスな訳ではない。そういう事が必要ならばやるというだけの話。かといって俺が特別甘ちゃんな訳ではないという事はご理解いただきたい。死ぬ事で確実に運剣が手放せるのならば一度くらい死んでも良いかな?と思えるかもしれないが、手当たり次第運を吸って暴走しているし、エロスが何か仕様を変更して渡してきたのかもしれないし確実に手放せる確証がないのに殺されるのは嫌だ。
「待てよ。何でも願いを叶えてくれるっていう事は運剣に魔王を倒してもらっちゃえば色々解決されるんじゃね!?あれ?俺って天才!?」
「あのねズッキー。そういえばちゃんと説明してなかったけど、その願いっていうのは『ギャルのパンティおーくれ!!』みたいに音声入力で実行されるものではないの。持ち主の本当にその時、心から願っている事が叶うの」
運剣を7本集めたら神の龍が現れるところだった。
「だから俺が魔王を滅ぼしてーって願えば良い訳だろ?」
まさか運剣が「それは無理な願いだ」なんて言わないだろうな?
「ちょっと違うのよね。持ち主がその時に一番願っている事。例えば『イケメンになりたい人生だった』と思っていたらイケメンになれるし『不老不死になれればなんでもできるのにな』って思っていたら不老不死になっちゃうし『エッチで美人でムチムチな性奴隷が欲しい』だったらエッチで美人でムチムチな性奴隷が現れるし『DTを捨てたい』と思えばAV顔負けなハプニングが起こるわ」
「凄いじゃん。だから俺も……待てよ?ってぇ事は俺の(イ○ポ)も運剣で治る??」
「はいそこ!何を置いてもそれを願っているわよね?」
「そーんーな訳なー……、ごめんなさい!!世界平和なんて俺の願いに比べたらクソっ喰らえだと思いました!!」
「……前言撤回するの早いのよ」
「世界平和なんてどーーっでも良いです!」
「ちょ、バ、こんなところで手を離すんじゃないわよ!」
「もう少しでゲージ貯まるじゃん!パーっと吸ってマーックスになっちゃえば手放せるし俺の呪いも解けるし一石二鳥でみんなハッピーじゃねーか!!」
「パーなのはズッキーの頭でしょ!?手を振り回すなー!それにハッピーになるのはズッキーだけよ!?ペチペチするなー!!」
俺の名はヒデト。他人よりも自分の事が可愛い、二つ名はクソムシだ。
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