第72話 男は狼ですん!


前回のあらすじ ナルシスがイチャイチャしだしたから空気をぶち壊してやった


「んで?お前はいつまでそこにいるつもりなんだ?」

「永遠に」

「一生酒代に困らないわね」

「いっしょう……プロポーズと受け取って構わないんですよね?」


こんな事を震え声で言うナルシス。メティスもメティスで首を傾げ笑顔で返している。明確な返答はしていない。頷きすらしていないのは流石だ。


基本的に愛と性の女神は来るものを拒むような事はしないらしい。

曰く「良いも悪いも一回試してからでしょ」と言っていたのだが、俺はDTなので何を試すのかはよく分からない。今度ベリアに聞いてみようと思う。


「馬鹿な事言ってないで明日は早いんだから行くよ」とシルバーメイルの女はナルシスの首根っこを掴んで引っ張って行こうとするが「ムググ」と机にしがみついて動こうとしない。

ある意味敬虔なエロス信者であるが故のメティスへの執着だとするのならば大したものだと思うのだが、このシルバーメイルの女の言い振りから考えると旅先で出会った美女に片っ端からアプローチしてるだけっぽいのでただのヤリ○ン野郎だろう。


「……しょうがない。明日は本当に早いからなるべく早く戻ってきなさいよ」

「騒がしてごめんねー」とナルシスを置いて去っていってしまった。


「そんな事言わずに連れて行け」と催促をしなかったのには理由がある。どうしてもナルシスに一言、言わなくてはいけない事が出来たからだ。


「お前あんな美女が仲間にいるんじゃねーか?殺すぞ」

「そこまで怒る事なんですの?」

「当たり前だ。美女を連れてるのに別パーティの美女にちょっかいかけるなんざ悪魔の所業だ。殺されても文句言われる筋合いはないだろ?」

「でしたらヒデトは3回殺されても文句はないって事ですわね?」

「ですね」と同意するベリア。


「待て待て、俺は別に他のパーティの美女にちょっかいかけたりしてないだろ?」

「……自覚がないんですね?」


ベリアとマリアは顔を見合わせて呆れている。


「それに自分のパーティの美女と夜な夜なお淫ら三昧してるのに、他のパーティの美女にまでお淫ら三昧しようとしてるとかうらや、ゲフンゲフンッ!なんだ?色々と失礼だと思わないのか!!」

「色々ツッコミどころはありますけど、夜な夜なお淫ら三昧しているのは確定事項なんですか?」

「当たり前だ!」

「あたりまえだ!?」


あまりにも当然に言い切る俺にベリアが吃驚しているのか呆れているのか……。


「ズッキーは男女でパーティ組んでるのは、お淫三昧が目的だと信じて疑ってないからね」

「ははは、何言ってんだよメティス。当たり前だろ?」

「言ってる事はゲスいのになんて澄み切った目をしているんですか……」


ベリアが若干引いている。俺の何に引いているのかいまいち分からないが、もっとベリアを引かせたい。引いている顔をずっと見ていたい。


「それはヒデトもそういうのが目的でパーティを組んでいるという事ですの?」

「何を言っているだいマリアや?我は紳士ぞ?我ほどの紳士になればそのような邪な気持ちなどはありますまいぞよ?」

「あやしいですわね」

「目があやしいんですよね」

「マリアはまだ若い。だから分からないのかもしれないけど、俺の国の言葉なんだがな。んーゴホンッ『男はお〜おかみ〜♪生きてる限りおおかみ〜ぃ♪』気を付けろよ」

「……どういう事ですの?」


ゲフンゲフンッとナルシスがわざとらしく咳払いをした。


「あ、お前まだいたの?」と嫌味を言ってみたものの、別に気にした風もなく「ん、んー」と喉を鳴らしている。


「あー……、一応断っておくが自分達のパーティに女性はいないぞ」

「臨時のパーティメンバーって事か?尚悪いわッ!!」

「何が尚悪いの?」

「よく分からないけど、彼女ってのは同校(同じ学校)よりも放課後にどこかで待ち合わせするくらいの距離感の方が長続きするって言ってた」

「誰が言ってたのよ?」

「タカシ」

「タカシって誰ですか!?普通こういう場合は実体験を語るものではないんですか?」

「シー、駄目よベリア!ズッキーは『彼女いない歴=年齢』なんだから、男女のお付き合いなんて実体験がないのよ!!」

「お前ぶっ飛ばすぞ!?」

「てゆうかヒデトさんは、もう『ナルシスさんに文句言いたいだけの人』になってますよ?」


ナルシスは俺達のやりとりを聞いているのかいないのか「いや、そういう事でもないのだが……」「まぁ明日は早いし」と何やらゴニョゴニョと言っていたが、俺達は俺達でギャイギャイ騒いでいたのでナルシスの呟きなんて届いていなかった。


ナルシスはメティスをチラッと見る。


「また一緒に飲んでくれますか?」と聞くナルシスに「エロス様に誓って」と笑顔で答えるも手のひらを上に向けて差し出す。「何の手だ?」と思っていると、ナルシスは自分の懐から皮袋を出しコインを数枚取り出すとメティスの手のひらに袋の方を乗せた。


「そっちかよ!?」「そっちですか!?」

「では、また」

「ええ」


名残惜しそうに去っていくナルシスを笑顔で手を振り見送るメティス。


「お前は鬼か!?」

「?なんの話??」

「受け取るの逆だろ!?なんで当たり前の顔して財布の方を受け取ってんだよ!!」

「受け取る時に躊躇がなかったですよ!?」

「やぁねぇ、次会った時にちゃんと返すわよ?」

「ああ、そういう?次会う為の約束的な?」

「そんな話一切してませんよね?」

「それな」

「財布を返すのよ」

「!!?」「!!?」


ナルシスから受け取った財布を指差してメティスは言った。それは明らかに財布の側を指していた。中身はいただくつもりらしい。

ウィンクをして自分の懐にナルシスの財布をしまうメティス。

メティス、恐ろしい子。

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