第69話 根になんて持っていますん!
「もう、そういうところよ?ズッキーの器の大きさってばミノムシの心臓くらいしかないのよ」
言われてベリアとナルシスの2人は「ミノムシ……?」と首を捻っている。
「『ノミの心臓』な?……ってか、ノミの心臓って多分滅茶苦茶小さいぞ?
目に見えるの?俺の器は見えてないの?」
「もう〜そういうところよ、細かい事いちいち突っ込んでて疲れないの?『お重の米粒は一粒も残さない』みたいなね」
ナルシスはまたも「お重?」と首を捻っている。
ベリアは「んー……」と少し考えて「『細かい事まで良く気付く』って事ですかね?」と考察した。
多分そういう事が言いたかったのだろう。
「辛うじて原型が……残ってるか?あってるか分からないけどお前が言いたかったのは『重箱の隅をつつく』じゃないのか?米粒どっから出てきた?」
「ほんっとにちっさい男ねー、意味が通じれば良いのよ」
「お米は一粒残さずちゃんと食べた方が良いよな、うん。けどな、重箱の隅は突かなくても良いんだよ。だから意味は全然違うと思うぞ」
「うっわ……」
「『うっわ』ってなんだよ!?………だからそうじゃねーよ。俺の器の小ささをどうにかするって話じゃねーだろ!?……あれ?なんの話ししてたんだっけ??」
「この際だもの。ズッキーの器は作った方が良いと思うのよね」
うんうんと頷く3人。
「ノミさんに心臓はないの?ちっちゃくてもあるって話じゃなかったの?」
んん?頷いているのは3人?
「おい!お前も一緒になって頷いてんじゃねーよ!犯罪者ぁ!!」
「違うぞ?潜在的犯罪者で犯罪者予備軍ではあっても決して犯罪を犯してなどおらんぞ」
「予備軍認めっちゃったよ!どっちでも良いわ!だからなんでここにいるんだよ!さっさとどっか行けよ!!」
「ハッハッハ、まぁそう言うな」と馴れ馴れしいナルシス。
「殴り合った仲ではないか」
「だから殴り合ってねーだろ!」
「おっとそうだったな」
「この件はもういーわ!」等とやり合っていると「はぁ〜、仲良くしなさいよね」とメティスが助け舟を出す。
「良いの?そんな事言って?」
「何がだよ?」
「おぉ、メティスさん言ってやって下さい!」
「ここのお代は誰が持ってくれると思っているの?」
「そーだそーだ!」
ここでメティスが隣に座るナルシスを真っ直ぐに見て「ね!」と首を傾げる。
メティスと目があったナルシスは左右に体を動かしがメティスから完全にロックオンされていてナルシスの動きに合わせてメティスの首も動いている。思わず後ろを向いて誰かいないか確認しているのを見てちょっと笑った。
「ちょっとそっちのナルシス君が『え?』って顔になってるぞ?『え?』って」
そう言うとメティスの顔も「え?」となる。
「お前ら良いから喋れよ」
メティスはコホンッと咳払いをし上目遣いで小首を傾げ「違うの?」と甘ったるい声で言った。
気のせいでなければナルシスから「ズッキューン!」という効果音が聞こえた。
「ここは自分に任せて下さい!好きなだけ飲んだって下さい!!」
まぁ、俺もその昔メティスのこれにやられて命を投げ出した事がある。
取られるのが金ならば可愛いものだ。
「ほらぁ、私達にお酒を奢ってくれるからここにいるに決まってるじゃない?吃驚させないでよズッキー」
「そーだそーだ」
「お前同意してるけど、酒奢らなかったらここに居ちゃ駄目って言われてるようなもんだぞ?」
「え?そんな事ないですよね?」
「はいカンパーイ!」
メティスは食い気味に笑顔でナルシスと杯を交すと「はい、のーんでのーんでのんで♪」と誤魔化すように一気飲みのコールを歌い出す。この歌が聞こえると周りのテーブルの人らも一緒に歌い出すのでコールを向けられた者はとりあえず一気飲みをしなくてはならない鉄の掟がギルドの酒場にはある。しかも給仕さんから酒が継ぎ足されたりする。お店が勝手にやっている事なのだが勿論有料だ。
だがしかし、迂闊にこれをやると「コール返し」がある。だったら「コール」は怖く無いのでは?と思っていると「コール返し返し」で、これまた「コール返し返し返し」もあって、当然の如く「コール返し返し返し返し」が………、と無限ループに入ると周りからブーイングをくらい「コール」を仕掛けた方が一気飲みをするハメになる。なので迂闊にはやらず、メティスとナルシスのような力関係「惚れた弱みにつけ込む」だったり「明確な力関係の差」等の間柄で仕掛けるものだ。
一言で言うと「アルコールハラスメント」である。
ナルシスの扱いが雑なので「メティスも若干面倒臭いと思っているのかもしれない」と思うのはメティス初心者の考えだ。多分メティスは「こう言った方が面白い」と思っただけで別にナルシスを面倒臭いとか消えて欲しいと思っているという事無いだろう。
「ブハー!」とお店からもなみなみに酒を注がれ連続で一気飲みを終え盛大にゲップをし「ありがとうございます!」と何に感謝を捧げているのだか……。意外とノリも良いし悪い奴ではないのかもしれない。
ただ、俺は運剣の話がしたいので部外者であるナルシスにはご退場を願いたい。
運剣こと「フォーチューンソード」は持ち主の運を吸い取りなんでも願いを叶えてくれるという神器の一つだ。
この「なんでも願いを叶える神器」を巡り戦争が起きた事もあるという、そんなとんでも神器を手放す為の相談をメティス達としたいのだが、この神器の存在を隠しておきたいので部外者がいては始められない。
なので本当に殴られた事だけを根に持ってナルシスを冷たくあしらっている訳ではない事を知っておいていただきたい。
殴られた事と運剣の話がしたい事の比率は「6:4」いや「7:3」くらいだ。
あれだけ殴られて「7」なら実質0みたいなものだろ?殴られた事なんて全然根に持っていない。殴られた事なんて。本当だよ。
「そういやお前見た事無い顔だけど仲間はいないのか?」
「用事があってな、久しぶりにこの街に来たのだが仲間も勿論いるぞ」
「殴りの神官をやってる奴って頭がおかしい奴が多いって聞いた事があるけど、お前もやっぱそれで友達いないのか?」
なんとなくマリアをチラっと見てしまった。
「ズッキー、あなた今……」
「いやいやいやマリアはモンクだし」
「私は別にマリアの名前は出してないけどね」
「ちょ、おま、そういう引っかけは良くないと思うなー」
運よくマリアは話を聞いていなかったようだ。
「話を聞け。仲間は今……」
「はいはい」とナルシスが話し出すのを遮る。
「別にボッチは悪い事ではないし恥じる事でもない。大事なのは、ボッチと、認める、勇気だ」と心の在り方をナルシスに教えてやる。
「だから違うと言って……」
「もういいよ」と喋り出したナルシスをまたも遮り「ボッチは恥じる事ではない」と親指をグッと立て笑顔で答えてやる。
「話を聞けー!」
「冒険者の皆さーん!ボッチのナルシスくんがボッチで可哀想なので誰かパーティーに入れてやって下さーい!ボッチだから!!」
「おい止めろ!」
「えーやだー」
「ボッチになったのか?そりゃ可哀想だな」
「まーたヒデトんとこが騒いでやがんのか?」
「お前んとこ入れてやれや」
「そーだ!自分とこで面倒見ればいいだろー」
「ふむふむ。残念っ!!」
「んー無念!……違うだろ!ボッチではない!残念な事なんて一つもないからな!?」
「うちはパーティー内恋愛禁止なので女性陣にいかがわしい目を向ける人は入れられませーん」
メティスが「どこのアイドルグループよ」と呟き、ナルシスは「そうなのか!?」と吃驚している。
「お前やる気満々かよ!?正直者か!?」
「……そうではなくてだな、男女の比率が3:1で誰も落とせていないのかと……」
「だから恋愛禁止だから!だからそうでもなかったらもう毎晩4Pで盛り上がってるところだから!だからなんだよその目は?俺が本気出したらもうみんな俺の女なんだから!?本当だから!!!」
メティスは「あはっ」と笑い、ベリアは「ウフフ」と挑発的に満面の笑みを浮かべ、マリアは頭に?が出ているものの二人につられて「オホホ」と上品に微笑んでいる。
「おいおい、お前ら俺が本気出したら大変な事になるんだからな?俺が本気出さない事を感謝して欲しいんだぜ?」
「分かった!分かったからとりあえず飲みましょ」
「はーいヒデトさーん、カンパーイ」
杯を持たされ笑いながらカチンっと自分の杯を合わせてくるメティス。今まであまり見せた事のない種類の満面の笑みのベリア。
「いつ本気出すんだ?」
「パーティー内恋愛禁止だから!本気出しちゃ駄目なヤツだから!!」
「そうですね、全部ヒデトさんのおかげです」
ベリアがニヤニヤ満面の笑みのまま挑発?してくるものだから俺は「プッツン」してしまった。
「おっしゃー!じゃあ今後ラブラブオーラ出しまくってベリアの巨乳(キョチチ)をイヤらしい目で見まくってやんぜ!後になって文句言ってくんじゃねーぞ!!」
「マリアさん!」
「フンガーッ!!」
「ヒィ、違、ちょ!?」
マリアが雄叫びを上げたのでなぜかナルシスも「ヒィ」と小さく悲鳴をあげて縮こまった。
俺も俺で逃げ出そうとするのだが、メティスと手を繋いでいてこういう時のメティスは絶対に離してくれないので逃げられない。
「まぁ座んなさいよ」
「ちょ、おま、そんなに力強かったっけ?」
「どっちにしたってアタシから逃げられる訳ねーだろ!」
マリアは俺をアルゼンチンバックブリーカーで締め上げ笑っている。
ナルシスは唖然として「貴様も色々大変なんだな」と呟いていた。
そしてベリアは酒を俺の鼻に流してくる。
「後になんて言いませんよ。今言いますね?私の何をなんですって?」
「ふががが、ちょ、鼻痛い、だってお前からふっかけてき、ふががが、どうせ挑発するならそのでっかいキョチチで悩殺、イダダダダダダダダッ!イダイイダイ!!」
ベリアが事もあろうに俺の鼻の穴に指を突っ込んでグイグイ引っ張る。
「その言い方好きじゃ無いです」
「キョチチ?キョチチがイヤなのイダダダダダッ!!」
「まだ言えるんですね?」
「イダダダダダッ!」
「それにヒデトさん、いつも私の……をイヤらしい目で見てるのバレバレですよ?」
「何々?何をイヤらしい目で見られてるのがバレバレなの?うがあぁぁぁあああああ!!」
「キョチチですよ!」と鼻フックのまま俺の口に酒瓶を突っ込まれる。新しい拷問が誕生した。
まさかギルドの酒場で溺れ死にそうになるとは思いもしなかった。
俺への拷問が悪化した事に俺が何か言ってはいけない事を言ったと察したマリアが「セクハラはいけませんわ!」と締め上げる腕にさらに力を込める。
そんな様を見たナルシスは震え慄いたと言う。
メティスは眉を顰めて「なんでちょっと喜んでんのよ?」と呟いていたのは俺達の耳には届かなかった。
いや、喜んでないよ!?
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