第66話 口ほどにもありますん!
「いつまでその、こ、こここっ」
「コケッコッコー?」
「こ、恋人繋ぎをしているつもりだ!」
「この手を離すとお前多分だけど大変な事になるぞ?」
「頭は大丈夫?」
「なんでお前にツッコミ入れられてるの?」
「頭は大丈夫か?」
「それはもうメティスが言った!」
お前ら仲良しかよ?
「んで?表に出てきたけどどうすんだ?こんな街中で殺し合いをする訳にもいかないだろ?」
人気のない空き地とは言ってもここは街の中だ。貧民街でもあるまいし、殺し合いなんてしていたら通報されてしまって衛兵がすっ飛んで……すっ飛んで来るかどうかはおいておいて、殺人事件として捜査はされるだろう。
……って負けるの前提でしかも殺されちゃうのかよ!?
「そうだな。だがメティスさんに二度と近付かないように貴様を説得する事は出来るぞ」
「パシッ」と拳を掌に打ち付けやる気満々だ。
「俺が二度と近付かなっかったらメティスをどうするつもりだこのHENTAIめ!」
「ななな、誰が変態だ!?貴様がエロス様を軽んじているから分からせてやろうと言っているんだ!」
「そういえばそんな話だったな。俺とエロスがどういう関係かも知らない癖に一方的に文句を言われる筋合いはないんだけどな」
「エロス様と『関係』だと?やはり貴様には分からせてやらなくてはならないらしいな」
「そんなん言われてもなぁ。お前には分からないかもしれないけど色々あるんだよ、なぁメティス?」
「それにしてもズッキーは頭が高いわよね。誰に向かって口を聞いていると思っているの?人間風情が馬鹿なの?」
「お前はどっちの味方だよ?」
「私はエロス様の僕」
「自分にお任せ下さい。この愚か者に身の程ってヤツを分からせてやらやりますよ」
「本性を表したな!エロスにかっこつけてメティスをナンパしたいだけの奴じゃねーか。このHENTAI神官」
「変態変態って、まだ何もしてないわっ!」
「『まだ』ってやる気満々じゃねーか!?」
「『まだ』何もしてないっていうのは『まだ』お互い出会ったばかりな訳で今後何かあるかもしれないからの『まだ』であって……、今後どうなるかはエロス様のみぞ知る事だ!」
「やっぱり一発狙ってんじゃねーかこのHENTAI野郎」
「い、これだけお美しいお方が目の前にいるんだぞ!一発狙わない方が失礼だろうが!?」
「こいつ堂々と認めやがったぞ……」
「私の為に喧嘩をやめて!あいたっ」
手を繋ぐ距離にいるものだから思わずツッコミのノリでメティスの頭をひっぱだいてしまった。
メティスの頭をひっぱだくなんてのはいつもの事なのだが、メティスマンセーのHENTAI神官の目の前でメティスが引っ叩かれれば黙っていられる訳がない。
「貴様!何をした!?」
「いやだってツッコミは愛だし?」
「貴様ぁぁああ!!」
「メティスの為に喧嘩は嫌だけど、かかってこいやぁぁあぁあ!」
「ああ、どうして私の為に二人の男が争わなくてはならないの?ぴえん」
とりあえずメティスは後でもう一発ぶっ叩く。
ナルシスは腰を低くして間合いを一気に詰めてくる。
「かかってこいやぁ!」と両拳を握ってしまった為、なんとなくファイティングポーズをとって迎え撃つ。
ナルシスが間合いに入りお互いが拳を出せば当たる距離、一瞬肩が動いたように見えた。ここまできてナルシスは神官でも「殴り神官」と言われる前衛タイプの神官なのだと気付く。
え?殴りプリースト??
俺はナルシスの強烈な右フック?だと思う、を貰って吹っ飛んだ。
「ハラヒレホロハレー」とワンパンKOされる俺。
「んん?」と困惑しているナルシス。
メティスがトコトコと近寄って来て「プークスクス、ヒール。プッププー」と傷を癒して去っていく。
何笑ってんだ、コラ?
「よーし、仕切り直しだ」
「おい!口ほどにもないとは貴様の事だな!?」
「お前こそ神官の格好をしといて実は殴り神官だったとは騙されたわ!」
「別に騙しているつもりはないのだが?支援(神官)だと思っていたから強気だったのか!?……貴様最低のクズだな?」
「私は分かっていたわよ。ズッキーってそういうところあるからね」
「『聖職者を名乗りながら騙し討ちで実は前衛でした!』なんて本当に赤い血が流れているのか疑わしいくらい卑劣な手を使った腐れ外道に最低のクズ呼ばわりされたくないわ!」
「待て!そんなにか?そこまで言われる事か?」
「白状したな!『騙しているつもりはない』とか言っておいて騙す気まんま満々まーんだったんじゃねーかっ!!」
「違うぞ!そうではなくてだな、普通自分の情報を喧嘩相手に懇切丁寧に教える奴なんているのか?」
「でたでた、正論みたいな事を言って、さも自分の主張が正しいと思わせる手口、詐欺師の常套手段じゃねーか!?」
「どの口が言ってんのよ……」とメティスが言っているような気がしたのはきっと気のせいだ。
「自分がどれだけ罪深い事をやったのか悔いて反省しろ!」
「貴様が勝手に勘違いしただけだろ……」
「はい、出ました。『勝手に勘違いしただけだろ』説明義務はございません!ってか?そうやって何人を犠牲にしてきたんだ!?」
「騙してはいない!決して騙した覚えはないが、何人?っと聞かれるなら……、貴様だけだな」
「そうかお前の犠牲者第一号が俺という訳だな?じゃあもうお前の犠牲者は出ないという事だな!」
「なんでちょっと格好良く言おうとしてんのよ?」とメティス様でも呆れ顔。
「だからそこまで言われるような事なのか!?」
「自分の罪を恥じて詫びろ!正義は我にあり!ジャスティスパンチを喰らえ!!説明しよう!『ジャスティスパンチ』とは、当たった者は痛い!!」
「普通のパンチね」
俺の口撃によって罪悪感に打ちひしがれたHENTAI神官は大人しくジャスティスパンチを喰らい改心するだろう。
「喰らいやがれ!ジャスティスパーンチ!!ぎゃふんっ」
「ヒール。フラグ回収早いわよズッキー」
「避けたな!大人しく断罪されろ!!」
「だから貴様が勝手に勘違いしただけだろう!?」
「くっそー、お前が出来る奴ならそれなりにやるだけだ!かかってこいや!!」
軽くステップを踏んでジャブを繰り出し威嚇する。
「良いんですか?」
ナルシスは何故かメティスに確認をとる。
「ズッキーも来いって言ってるし、やっちゃって良いわよ」
ナルシスは大きくため息を吐くと今度は両手を下げゆっくり大股で歩いて間合いを詰めてくる。
無遠慮に近付いてきたナルシスにマルティナ直伝の左ジャブを二発放つ。ナルシスは何事もないように歩き続け、二発目のジャブに打ち下ろしの右を合わされ地面へ「ベチャ」と突っ伏しKOされた。
メティスがどこからともなく現れて「ヒール」と唱え去っていった。
「よーし、あったまってきたぞー」
ナルシスが俺を指差し「どうしましょ?」とメティスに目線で訴えるが黙って首を横に振る。
何だよ?お前ら仲良しかよ??
「ウラララララ!」と殴りかかってはぶっ飛ばされ、「ドラァ!」と右ストレートを放てばカウンターを喰らい何度も返り討ちに会って確信した。このままで絶対に勝てない。
「だって俺ノービスよ?そんなん無理やん?支援職とだって互角にやり合う自信あるっつーの!攻撃職とやったって勝てる訳ないじゃん?」
「あのー……、これどうしましょう?」
「『口ほどにもない』という言葉の体現者ね」
「そんなん言うならお前がやってみろよ!ステゴロで勝てる訳ねーだろ!!」
「そうはいうけどさ、ズッキー。触れられもしてないじゃない?」
「だから攻撃職に勝てる訳ねーだろ!実力差を埋める為に武器ってもんがあるんだぞ!ここは街中なんだぞ!!ダンピラ振り回して喧嘩なんて出来ないだろ!!俺なんかおかしな事言ってるか?俺が悪いのか?」
「何ギレ?」
「二人とも少し落ち着いてっ」
何故かナルシスがオロオロしている。
「そもそもお前が悪いんだぞ!なんでもかんでも暴力で済まそうとしやがって!!」
「貴様が『かかってこい』と言ったのだろう?」
「かかってこいって言われたら誰にでもかかっていくのか?文明人にあるまじき野蛮さ!あーやだやだ、こうやって力無きものは淘汰されていくのか!」
メティスはナルシスに「ごめん」と拝手をしている。ナルシスは苦笑いだ。
だからお前ら仲良しかよ!?
「……やっぱりお前が悪い!実は殴り神官なのに何全身使って殴りに来てんだよ!俺ノービスだぞ?手加減くらいしろ!
「ノービスなのか?」
「そうだよ!ハンデ寄越せ!!」
「ハ、ハンデ?」
「お前は左手しか使っちゃダメ!その他を使ったらお前の負け!!」
「右手一本であしらわれてたわよ?」
「うっせー!左手は苦手かもしれないだろ!」
「『ハンデをくれてやろう』は聞いた事あるが『ハンデを寄越せ』と言うのを聞いたのは初めてだぞ……」
「うっせー!そんでお前はそっから動くな!!」
「さっきから動いてないわよ」「さっきから動いてないが」
「うっせうっせうっせー!!いくぞ!!うぉおぉぉぉぉぉおお!!!」
メティスがトコトコと現れ俺のそばにしゃがみ込んだ。
「くっそー!……もうちょっとだと思うのに。グスン」
「泣くほど悔しがる前に諦めなさいよ。もうあちらさんも怒ってないわよ?」
「ほっといてくれ!」
「なんだかズッキー心が折れちゃったみたい」
「……なんというか申し訳ない」
「大丈夫よ。変な事に付き合わせちゃってごめんねー」
「いえ、こちらこそ」
お前らなんで喧嘩してるか原因忘れてるだろ?エロスに対する態度がなんちゃらって話だったじゃねーか?そんな話全然出てきてないぞ?
そんなツッコミをする気力もないくらい返り討ちに会い、仰向けに倒れた俺は夕暮れの赤い空を眺めていた。
「おい!てめー!!何してやがんだ!!!」
そこに正義の味方(?)が現れた。
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