第12話 まどぅーぐすん!後編
「めーっんね!」
手を合わせ腰を折り頭を下げて形だけは謝罪をしているのだが、平身低頭といった風ではなく、なんというか……。
あまり男の容姿をマジマジと見つめたくはないのだけど、身長は俺と同じくらいの170cm前後だろう。面長で整った顔立ちにメガネをかけている。綺麗な栗色の髪をポニーテールに括って長い触覚を2本出している。
ポニテ触覚ヘアーってアレだろ?ブサイクな男がやろうものなら?そのまま懲役2年執行猶予5年くらい喰らうんだろ?
イケメンの理不尽な暴力?に同志(ブサイク)と共に悔し涙を流したものだ。
あ、だからつまりチャラい系イケメンが「月光蝶」の絵が描かれた黒いエプロンをしている。お店の人なのは間違い無いだろう。
店主は女だって言っていたから従業員さん?
「そんな怒んなくても良いじゃーん、え?えー?怒ってる?フフン、勘違いだったんだってばー」
「良いから縄をほどいて下さいませんかね?」
「zzz」
鍵を掛けて店を出たはずなのに、中に人がいるのを発見。一人は腰を低くして、外から見えないように商品を物色している。もう一人はカウンターの内に侵入している。昼間から堂々と泥棒か?と焦った「触覚イケメン」は扉に付いている鐘が鳴らないようにで固定して隙間から手前にいた泥棒を眠り針で眠らせた。もう一人にも眠り針を打ち込んでやろうと機会を窺っていたところ、仲間の異常に気付いた阿呆が無警戒で近付いてきたものだから殴った方が早いだろうと、お店の中に置いてあった何かよくわからない棍棒みたいな物で思い切り頭を殴った。
泥棒の二人を縛って、男の方を起こしてみたところ「鍵が開いていた」「ギルドからクエストを受けてきた」と鞄に入っていた依頼書を確認して、今に至る。
「だから、めーんごっ!」
そしてこの謝り方である。なんか馬鹿にされている気すらする。
やっと釈放?されて縛られた手首をさすってみると擦れて血が滲んでいる。頭からは血こそ出ていないが、とんでもなくでかいたんこぶができている。血がブワっと出るよりも、たんこぶの方がやばいんだっけ?
メティスを起こして治してもらおうか迷ったのだが、縄で縛られた状態のまま、スヤスヤと眠っている。起こして騒がれても面倒臭いし、少し考えて起こさずに放置する事にした。
縄を解かない理由?そっちの方が起きた時のリアクションが面白そうだからだ。
「月光蝶の従業員さんでよろしいんですかね?」
「いえーっす、あーいあむっ!」
親指を立ててポーズを決めている。オーバーリアクションというか、喋り方もだけど、イラっとくる人だ。
「店主は美人でナイスバディで彼氏いないって話だから来たのに……」
「あっれー?確かに店主は世界でいっちばん美人でナイスバッディだけど、恋人はいなーいよ?」
「恋人いなくたって、こんな触覚イケメンと2人でお店やってるって『やーだー、実質夫婦じゃないですかー?』ってやつなんでしょ?」
「んー、確かに2人でお店はやっているけどねー」
「やっぱりだー、そんでお互い意識してるのに『お、俺達そういう関係じゃねーし』『や、やめてよ、ホンットそういうのじゃないからっ』みたいな感じで客の前でイチャイチャするんでしょ?」
なんだかだんだんムカついてきたぞ。受付さんめ、女って言っておけば俺が言う事聞くと思いやがって!
まぁ、話を聞きにくる気にはなった訳だけど……。あれ?俺に至っては「女」って言っておけば効果絶大なのか!?
触覚イケメンは「はっはっは」と笑っている。
うーん、イケメンは笑ってもイケメンなんだな。
カランカラン、と鐘が鳴り扉が開く。
「何やら楽しそうだね?」と中に入ってくる栗色の髪のメガネ美女も“月光蝶“の絵が描かれた黒いエプロンをしている。
身長は俺より少し低く、受付さんが言っていた通りの美人、面長の顔にメガネをかけた知的美人だ。
こちらも触覚ポニテで、ペアルックかよ!?
エプロンでウエストがキュッと縛ってあるのでナイスバディがより際立つ。
「おっかえりー、モーちゃん。鍵かけるの忘れて出て行っちゃったでしょー?」
店員Aの癖に店長に向かって「ちゃん」付けかよ!?100%付き合ってんじゃねーか!?
いや、ワンチャン名前が「モゥ・チャン」さんなのかもしれない。
「は?僕の方が先に出たじゃないか?」
「あっれー?まだ中にモーちゃんいると思って、鍵かけないで出ちゃったかなー?」
メティスが縛られて眠っているのを見たモゥ・チャン(仮)が「ははーん」と頷いた。
「察するに2人でこの子を手込めにするところだったのを僕に邪魔された、と言ったところだね?」
腕を組み、見当違いの推理をドヤ顔で披露する。
「すると、それを邪魔しに入ってしまった僕は、どういった目に合わされてしまうのかな?」
「ぐへへ、バレちゃあしょうがねぇ!お姉ちゃんも一緒に手込めにしてやんよ、ヒャッハー!」
両の掌をいやらしくワシワシしながらモウ・チャン(仮)に迫る。
「ってなるかー!」
ビシッと伝家の宝刀ノリツッコミが炸裂する。
「あっはっは、ローに泥棒と間違えられたとかかな?あっはっは」
「ごっ名答!さっすがでしょー?うちのモーちゃん!」
ローと呼ばれた触覚イケメンが手をピストル型にしてモゥ・チャン(仮)に向けポーズを決める。自分に向けられた訳ではないのだが少しイラっとくる。カルシウム不足かしらん?
「って事は、俺達悪くない上に原因作った犯人に殴られたって事!?」
「だから、めーんねって謝ってるじゃーん、めーんねっ」
納得はいかないが、一応依頼主だ。…いやこの人は依頼主じゃないのか?
オーバーリアクションがいちいち間に触るが馬鹿にしているという風でもなく、こういう人っぽいからとりあえず許してやる。というか俺はイケメンが好きではないらしい。だからなんとなくムカつくのもあるのかもしれない。
じゃあ許さなくてもいいのか?
モウ。・チャン(仮)に、自分達はギルドから依頼を受けて立ち寄った事を伝えた。
「あっはっは、それは大変な目にあったね」
良く笑う人だ。こっちまでつられて可笑しくなってしまう。
「えーっと、店主さんで良いんですよね?」
「ああ、僕が『月光蝶』の店主、姉のモーガンだ」
「なーに言ってんの、モーちゃん?僕があっに(兄)のローガンだよ」
何言ってんだこいつら?
「今『何言ってんだこいつら?』って思ったね?」
思いっきり顔に出てしまったか?
「僕達は双子なんだ」
「先に出た方が、あっに(兄)なんだぞ」
「いや、奥にいる方が先に作られたはずだ。よって僕が姉だ」
どうでもいいよそんなの。
「今『どうでもいいよそんなの』と思ったね?」
フフン、と得意気な顔だ。美女がこういう表情をすると格好良い。
言われてみれば2人とも面長な顔立ちだ。同じ髪型で色違いで同じ形のメガネをしている。兄妹?姉弟?なので瓜二つとまではいかないまでも、きょうだい風に似ている。
恋人がいる女性はこの場にはいなかったんだ。良かった。
「そちらの子は縛ったままだけど、起こさなくてもいいのかい?」
「なんか幸せそうに眠っているんで寝かしといてやって下さい」
「依頼の内容を聞かなくても良いのかい?」
「やるのはどうせ俺なんで大丈夫です」
「そうかい」とモーガ、ロー…、どっちがどっちだっけか?姉がメティスに膝掛けをかけてくれて、俺に椅子を勧めてくれたのでそこに座る。兄がお茶を淹れてくれたので一口啜る。
「依頼主さんに直接依頼内容を聞いてから受けるか決めてくれって言われたので、とりあえず来ました」
「冒険者ならばうちに買い物にくるはずなのだが、見た事のない顔だね。最近この街へ来たのかい?」
「そうですね、うちのハイプリーストが回復剤みたいなところがあってですね、しかも新人で媒介?とかの魔道具は特に用がなかったもので来た事がないです」
「お名前を聞いても良いかな?」
「あ、すいません。ヒデトと言います、よろしくお願いします」
目を細めて俺の顔をマジマジと見ている。なんなん?
「きっみが最近有名な『クッソムシ』の?」
「そそ、そのクッソムシのヒデトです。……誰がクソムシやねん!」
「あ、めーんね!」
テヘっとするが、イケメンはぶりっ子しても様になる。クソが。
「はっはっは、聞いていた話と違って随分まともそうだなと思ってね。名を語っているのか、一瞬疑ってしまったよ」
「ね、もっと変な人だと思ってたよね?」
グヘってからのノリツッコミだったり、メティスを縛ったまま放置したり、結構おかしな事をしていると思うんだけど?噂の俺はどんだけ酷い奴なんだ?
「いや、実際俺は変な人かもしれないけど、あっに(兄)には言われたくないな」
「ローには言われたくない?確かに君の言う通りだな!はっはっは」
「俺をあっにって呼んで良いのはモーちゃんだけだよ?ローガンって呼んでね」
「そうだな、僕を姉と呼んで良いのはローだけだ」
ああ、そうか♂がローガンか。
つか、このきょうだい仲良しだな?思っていたのと多少違うけど、やっぱりイチャイチャを見せつけられている気分になった。クソが。
「と、言うことはそっちに転がっているのはメティス君か?」
「メティスの事は知っているんですか?」
「面識はないよ」
さすがメティスは有名人。
……あ、俺もか(悪評)?
「仕事の話だったね。新人さんだったら荷が重いのではないかと思ったんだよ。ギルドから勧められて来ている訳だし、お願いしてみようかな」
ローガンが何やら紙に包まれた物を、ゴツッとテーブルに置く。
「僕が今作っているロールガンを使ってみて欲しいんだ。スクロールを使った事はあるかい?」
紙を剥がすと、銃身がやたらとでかい不恰好な拳銃だ。
レールガンではなくロールガン。ロールガンの説明はこうだ。
「スクロール」という、巻物に魔法を込めておくと、開いた時に魔法が発動する。その「スクロール」をトイレットペーパーの芯を半分にしたくらいの「弾」にして、筒丈の銃身にセットし引き金を引いて発射する。攻撃魔法だけではなく、回復や属性付与なんかのスクロールも弾丸に出来る。
「僕はセージを生業にしているのだが、(スク)ロールは近接で使う物だろ?これが完成すれば遠距離でも使用できる訳だ」
「これ、完成したら結構すごい事じゃないですか?」
「そう言ってくれるかい?ロール自体に上級魔法を入れられる訳ではないからね、戦術が広がる程度で決定打にはならないのだがね」
銃身がでかいのでちょっと不恰好、ではなくて無骨な感じの拳銃だ!俺的には超格好良い!?腰の所に着けておきたい。
ちなみに小さい拳銃だったら、メティスの内腿に付けておきたい。
「グリップに魔力を込める訳なんだが、レギュレーターの調整が難しくてね。魔力量が小さいと不発だし、大きいと魔力爆発を起こしてしまう。勿論、今は安全なレギュレーターの開発を勧めているのだけど、とにかく魔力を込めて引き金を引いてくれる人を探しているんだよ」
さすが剣と魔法のファンタジー世界。人体実験は非人道的ではなく、犠牲が実験の成功に繋がるんですね。
「話は分かりました」
「お、やってくれるかい?」
「お断りします」
「だよね」
「なんでやねーん」と来るかな?と思ったけど納得していただけたようだ。
正直俺は死んでもノーリスクで生き返れるから実験が失敗しても良いんだけど、死にそびれると痛いから嫌なんだ。うっかりぽっくり痛みもなく即死してくれるなら受けるのも吝かではないのだが。
メティスの事だから右手が吹っ飛んでのたうち回っている俺に「死んだ方がしっかり元に戻るからトドメ刺しちゃって」とか言いそうだし…。
「一度受けてくれた冒険者がいてね。大怪我を負ってしまってから誰も受けてくれなかったんだ」
「そら誰も受けんわ」
「はっはっは、だよね?はっはっは」
笑い事じゃねーぞ?
「それにロールガンの依頼を出すのは、どちらかと言うとあっちだろ?」
「なぜだい?名前がローガンだからかい?」
「あっはっは」とモーガンは大爆笑している。
「君は本当に面白いなー」
「そんなに面白い事は言ってないと思うんですけど?」
つられて俺とローガンも可笑しくなって笑いだしてしまう。
「じゃあ、今度は俺の話を聞いてもらってもいいかっな?」
「治験でしょ?人体実験したい訳ですよね?」
「だね。けっど安全だよ?」
「安全だったら自分で試すでしょ?」
「はっはー、痛いところを突くねー」
「痛いところも何も普通に考えたらそうなるでしょ」
「いやね、ベっつに良いんだけどねー。モーちゃんの募集を受ける様な人なら受けてくれるかなー?って思って募集してるだけだっからねー」
毒を盛られるって言うのは、多分ロールガンのとばっちりで受けた風評被害っぽいな。
両方とも受けられない訳じゃないけど、痛そうだから辞めとこう。本当に金に困ったら報酬の額次第で受けてやろう。
そんな日が来ない事を祈る。
「なんで私縛られてるの!?」
メティスがやっと起きた。
「あー、今ちょうど話が終わったから帰るぞー」
「なんなの?もう終わっちゃったの?」
後ろ手に縛られたメティスを抱え起こす。
「それじゃ、お金に困ってどーしようもなくなったらまた来ますね」
「はっはっは、だったら報酬をはずまないといけないな」
「こっちはおまけしてねー」
「ちょっと、手ぇ?これどうなってるの?手っ!」
「はいはい、行こうねー」
後ろ手に縛ったままの方が面白そうだったので「あんよが上手、あんよが上手」と手拍子をして誘導してやったら、ヨタヨタと後をついてきたので、そのままギルドの酒場に戻った。
酒場に戻った後も、紐を解かずにつまみを注文して「あーん」とやりながら額にビチャッ、と当ててみたり「はいどーぞ」と酒に刺したストローを鼻の穴に入れてみたりしてひとしきり遊んだ。
「いいから手!取りなさい、手!!」
「メティスを滅茶苦茶にしたい!」
「!?」
「あ、間違えた」
テヘっと昼間のローガンっぽくやってみたのだが、どうやら煽りにしかならなかったようで嫌悪感丸出しの顔をされた。イケメンじゃないとやはり駄目らしい。クソが。
「メティスを滅茶苦茶甘やかしたい!」
「え…、じゃあ…、良いよ?」
ちょっとテレてんじゃねーよ!?満更でもない感じ出してんじゃねーよ!?俺がメティスに惚れたらどうするんだ?
まぁ、本人が良いなら、このままメティスで遊ぶのも吝かではない。
「だめだこいつはやくなんとかしないと」と思わなくもなかったけど、メティスはこのままの方が面白いから、なんとかしなくてもいいや。
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