第11話 まどぅーぐすん!前編


「魔道具の性能テスト 報酬応相談 魔道具屋 月光蝶」

「新薬精製 治験モニター求む 報酬応相談 魔道具屋 月光蝶」


ずーっと掲示板に残っているクエストだ。俺達がこの街の冒険者になった頃からすでに張り出されていた。紙もちょっと煤けている。難しい案件ならば、何か間違って依頼を達成できれば、ギルドの受けが良くなるし貢献ポイントが稼げる。

討伐クエストではないので俺でもなんとかなるのではないか?

治験なんて最悪、俺が死んでもメティスに起こして貰えばいいわけだし、勝率は十分ある。「魔道具の性能テスト」は職業なんかの特性で断られる事もあるだろうけど、同じところから依頼が来ているみたいだし話を聞くだけ聞いてみるか。


「この魔道具屋のクエストなんだけど」

「やってくれますか!?」


受付さんが目を輝かせ、ちょっと食い気味で返事がくる。やはり触れてはいけない案件なのか?


「いや、魔道具って使った事ないし、実はポーションも使った事ない俺が治験とか受けれるのかな?って聞こうかと思っただけなんですけど」


受ける気満々だったけど、受付さんの態度を見て断れるように控え目な聞き方にしておく。


「依頼主様に依頼内容を確認してもらう事になりますので、魔道具の使い方もきっと、懇切丁寧に教えていただけますよ。ヒデトさんでしたら、きっと大歓迎ですよ」


ん?俺だったらってどう言う事?


「これって大分前からあったと思うんですけど、なんで皆受けないんですか?」

「正直に申し上げますが、魔道具は場合によっては爆発の恐れがありますし、治験も最悪……」


首を親指でピッとする受付さん。


「あー…」

「ですが、メティスさんと受けていただければ、どんな怪我も毒もたちどころに治していただけますし」

「うん、治験の依頼なのに毒って言っちゃったね?」

「あら?失礼致しました」

「『薬』て言い直さないんですね?」

「どういうお仕事内容なのかを正確にお伝えする義務がありますので」

「この依頼主はそんなマッドサイエンティストみたいな人なんですか?」


なんとなくだけど、頭頂部が禿げてるのに側頭部と後部に髪が生えてて、事もあろうにその側頭部の毛を伸ばしっぱなしーの、無精髭ものびきっていて、真っ白の不健康に痩せている「ひぃ〜ひっひっひ」って笑うおじいちゃんを思い浮かべる。


「少し前に先代が亡くなられまして、お孫さんが後を継いだので、まだお若い……女性の方ですよ」

「まぁね?僕は依頼人がどのような人であれ?外見で判断は致しませんがね?」


そっかーお若い女性かー美人なのかなー可愛い系かなー巨乳だったら良いなぁー、いや別にそういうので受けるとか受けないとかは決めないよ?


「城門に向かう通りにあるじゃないですか?お店に立ち寄った事はないですか?」

「新人冒険者なので魔道具やらを使う事も買う金もないんですよね。メティスは『自動回復機』みたいなところあるので回復剤も買った事すらないですよ」

「使った事がないって、さらっと言ってますけど凄い事なんですよ?そんな治療のエキスパートのメティスさんだったらなんとか出来るのではないかと」

「はいはい、俺はオマケですからね」

「あ、えっと…、あはは」


「そ、そんな事ないよ」って否定してくれると思ったのに……。


「悪い評判っていうのは大袈裟に回るものじゃないですか?誰も依頼をしてこないのでお断り致します!という訳にもいかないですし……」


爆発するわ、毒盛るわ、だったらそらねぇ?爆発でも毒でも死なない?とはいえ痛みはあるんだよな……。


「けど、ですね」


受付さんが悪戯っぽい顔をする。何か企んでいるな?


「美人ですよ?」


そんな手に乗るバカはいない。


「なんて?」

「スタイル抜群」


だからってねぇ?


「それから?」

「恋人いません」

「ホントにー?」

「確かな筋からの情報です」


そんなんで依頼を受けると思われているという事が誠に遺憾ですな。


「んまー、話を聞くだけでも良いっていうなら行ってみようかな〜」

「よろしくお願いします」


満面の笑みでお願いされては断れない。受付さんの笑顔を守れるくらい強い男になりたい。

俺が冒険者になった時、そう、固く誓ったんだ。なので仕方なく行くんだ。決して依頼主が美人だからとかそういうのではまったくない。




「なぁ、メティス。このクエストなんだけど、話を聞きに行こうと思ってるんだけど」


冒険者が掃けた後、いつもの祈祷バイトを終わらせて一息ついている。

パッと目を通して顔を顰める。


「こんなの一人で受けてきなさいよ」

「お前なぁ」


受付さんが言っていた事を伝え、俺が死んだら生き返らせて欲しい旨を伝える。


「ああ、そういう事なのね。最初に言いなさいよ」


ファ〜、と大きな欠伸をするメティス。


「本当は面倒臭いけど付き合ってあげても良いわよ」

「お前は、快く受ける事はできないのか?」


お前の好感度が心配だよ。


「べ、別にズッキーの為に行くんじゃないんだからねっ!観光鳥が鳴いている魔道具屋さんの為に行くんだからねっ!」

「本当に俺の為じゃないんだな。『ツンデレ』のつもりか知らんけど、お前それだと『ツン』しかないからな?あとな、閑古鳥だから」


鳥さんどこに行っちゃうんだよ?


「それに閑古鳥が鳴いている訳ではないみたいだからな?依頼主さんに失礼な事言うなよ?」


ツッコミが追いつかねーよ!オレでなきゃ見逃しちゃうよ?




「ごめんくださーい」


早速「魔道具屋月光蝶」に到着。通りかかるのでお店の場所は知っていた。回復はメティスで間に合っているし、媒介が必要なスキルを使うほどのクエストを受ける事もない、大量でなければギルドでも販売しているので俺達のような新人冒険者には用がない。

カランカラン、とドアに付いた鐘が鳴り中に入る。なんか良くわからない物が所狭しと置いてある。「閑古鳥が鳴いている訳ではない」と聞いていたのだが、客がいない。ついでに言うと店員もいない。冒険者はもう出発している時間だからこんなものなのかな?


「すいませんーん、誰かいませんかー?」


返事がない。この世界の防犯意識はどうなっているんだ?

メティスは物珍しそうになんだかよくわかんない物を興味津々に見ている。触っても良いけど壊すなよ?

カウンターの奥に扉がある。向こうがお家なのかな?勝手に開けたらまずいとは思うけど誰もいないって事はないよな?もしかしたら強盗?こんな真っ昼間から?腰についているショートソードのグリップを握り、奥の扉に耳を当て様子を探る。人の気配はない。大きな声で呼びかけてしまったので強盗がいたとしたら息を潜めているだろう。

そういえばメティスが大人しい。見回すとメティスが倒れている。周囲を確認する事もなく思わず駆け寄ってしまい迂闊にも不意打ちを喰らってしまう。

「あ、これはまずい」と思うも意識が落ちた。

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