第10話 臥薪嘗胆しますん!
前回のお話、メティスが良い事をした。
「お前、そんな善行して体は大丈夫なのか?」
「実はあれから右目の視力がほとんど……、誰が邪神よ!!……え?邪神って良い事出来ないの?」
そんな事があってから、メティスはギルドのお抱えハイプリーストみたいになっている。
なぜかって?朝からギルドの酒場で飲んだくれているので、いつでも捕まるからだ。
難しい癒しの依頼があればメティスに話しがくる様になり、難しい仕事が故に無駄に金が良い。分かりやすく言うと俺が週5で7時間働くよりも、週1〜3くらいで実働1~3時間程度しか働かないメティスと収入があまり変わらないのである。
そうなると、どうなるの?それはそうだ。致し方ないのである。俺は悪くない。
今の俺の仕事を紹介したいと思う。「募集待ち」である。つまり酒場に詰めているのだ。
安定収入がある訳ではないので馬小屋生活は続いているものの、今度は俺も酒場のいつもの場所で昼間っから飲んだくれているのである。
勿論、冒険者に祈祷するメティスが一杯奢ってもらえるアルバイト?で貰う酒をチビチビとやりながら……。
誤解のない様に言っておくが、毎日ではないがギルドの仕事はちょいちょいやっている。
アルバイトはどうでも良いのだが、ギルドの信用を得ない事には大口の仕事を回してもらえるようにはならない。なので一応、ギルドの仕事は受けている。
別に俺1人くらいならこんなもんでもギリギリ生きていけるくらいには生活ができてしまうのだ。
だから、決して俺はヒモではない。
分かっている。メティスがギルドと信頼関係ってヤツを築いてくれている。
俺がやっているのは、朝食をゆっくり食べた後、残った依頼の中で、面倒臭そうな、なんとなく誰もやらないんだろうなぁって簡単で安い仕事を選んで受けている。
毎日仕事がある訳ではないので二人で酒場にいる事もあるのだが、メティスは色んな人に話かけられている。
そして俺の方をチラッと見て「ああ、これが例の」みたいな蔑んだ目線を向けられる。
ちょっと待て!これは俺が艱難辛苦の末に、あはーんでうふーんな展開もあったりしてすったもんだあっていんぐりもんぐりして最終的に魔王を討伐してお姫様と結婚してハッピーエンドな物語だよな?
メティスの方が主人公っぽいのは気のせいか?
それからさらに数日が経ち…。
「クソムシじゃなくて寄生虫なんじゃね?(ヒソヒソ」
「置物(ヒソヒソ」
「通称、明日から本気出す男(ヒソヒソ」
「ヒモ野郎(ヒソヒソ」
「あのハイプリーストはハイノービスの面倒を見なくちゃいけないから他のパーティにいけないんだってさ」
「ヒソヒソ言えや!最後の普通に聞こえてんぞ!!」
この扱いだ。
肩身が狭いので、アルバイトの瓦礫運びをまた始める事にした。
そりゃね、仮にも神様の分身が現世に降りてくればさ、すげえよ?なんだかんだ言っても慈悲深いっていうの?基本的にメティスは良い奴だしね。
実際、他の冒険者にスカウトされて、軒並みそれを断っている事は俺の耳にも入ってきている。中にはあからさまに俺の目の前で誘っていく輩もいるくらいだしな。周りが噂している様な理由で断っている訳ではなく、俺から離れられない訳で、俺が負い目を感じる必要はない。断じてない!
だが、周りはそう思ってはくれないので、俺の渾名は「クソムシ」から「寄生虫」にクラスチェンジした。
ちなみにメティスは大分前から宿屋に部屋を借りて寝泊まりしているのだが、俺は未だに馬小屋生活を続けている。
メティスの酒代も掛からなくなって、アルバイトとギルドの仕事の収入だけでも馬小屋を卒業できるくらいには稼いでいるのだが、このまま満足していてはいけない。
「臥薪嘗胆だ!」
「すいません、この子ってば、
たまーにいきなり変な事叫び出すんです」
「誰が情緒不安定だ!!」
臥薪嘗胆。目標を達成まで忘れない様にあえて苦労、苦心を重ねる事。
「現状で満足していては、このまま何もせずに終わってしまう!だからギルドの仕事をちゃんとこなせる様になるまで俺は馬小屋から出る気はない!」
「あーそういう…コホン。そういうの格好良いとは思わないけど、そういう不器用なところ…結構好きだぞっ」
ニコッ、祝福を貰えそうなほど素敵な笑顔をくれるメティス。
「べべ、別にお前の好感度上げる為にそうしてる訳じゃねーしぃ、意地の問題だすー」
あ、噛んだ。
「今の私何点?お金取れんじゃない?滅っっっ茶苦茶可愛かったでしょっ?後ズッキー、ちょっと気持ち悪いわよ」
この女ゼッテー○す。
「お前結構稼いでるんだろ?」
「んーどうだろう、日本円で言うなら3万円くらいかしら?」
「結構稼いでるくね?」
「一回の依頼でね」
「ちょちょっと魔法唱えて、週で3万〜9万!?月計算で……30万!?結構どころかすっげー稼いでね!?」
「正直、お金なんていらないんだけどね。無料でやっちゃうと相場が崩れて教会とかギルドに迷惑かけちゃうから仕方なく受け取ってはいるんだけど」
ね?こいつ良い奴でしょ?っていうか、お金なんていらないって事は俺の稼ぎで食っていく気満々じゃね?別に良いけどさ。
「ちょっと待て、お前その金どうしてんだよ?」
「滞在費と余ったら孤児院に寄付したり?」
「ん!うんんっ!!」
孤児院に寄付してるんじゃ文句言えない。いや、言ってもよくね?
「だからズッキーも普通に宿に泊まれるって言ってるじゃない」
「臥薪嘗胆だ!」
「はいはい、ご自由にどうぞ」
「夏休みの宿題はギリギリまでやらずに一気に終わらせるタイプの俺は、自分を追い込んでいくスタイルが自身に合っているのだ」
「違う!そうじゃない!!なんか違う気がする!!」
フフンっと得意げな俺に処置なしと肩を落とすメティス。
この世界に来て数ヶ月立っている。
冒険者の依頼は冬に激減するのだと言う。なぜかと言うと、この地方では雪が降ってある程度の魔物も外に出なくなるのだとか。いつ死んでしまうか分からないが故に、普段からその日暮らしで宵越しの金を持たない冒険者も、冬に備えて貯蓄するのである。
冬まではまだまだ先であるものの、日本人が染み付いている俺的には節約を信条に生きている。というか、俺は死ねないので確実に冬を越さなくてはならない。
冬になって金がなくて馬小屋にいたらきっと朝には凍死してしまう。つまり、臥薪嘗胆だのなんだの言いつつ、節約するのにも言い訳しないとできないし、メティスにオンブに抱っこで宿屋に泊まるのも格好悪くてできない。
俺の名はヒデト。ただの思春期真っ盛りの男の子だ。
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