第13話 面接をやってみますん!


「面接って何するの?」

「普通に職業とか得意技とか、自分の長所と短所に、固定でやってくれるのか、最終的な目標とか聞くんじゃないの?」

「ふーん、別に良いんだけど、選り好みしてて人が来るのかしら?」

「あ、後は一応彼氏がいるかとか?」

「彼氏いるかとか関係なくない?」

「ほら、彼氏が土日休みだから私も土日休みが良い〜みたいな?」

「接客業アルバイトの面接なの?」


「休日彼氏とデートになったんで鈴木さん出勤変わって貰っていいですか?」これを異世界風に言い換えると「休日彼氏とデートになったんでその日のクエスト私キャンセルで」って事になったら困るじゃん?


「けどさー、一応うちらって魔王討伐目指してるんだろ?」

「諦めてると思ってた」

「諦めるほど頑張ってないじゃん」

「その言い方だと諦める選択肢もあるのね」

「そりゃね。初心者の街でこんだけ苦戦してたら考えるわな」


今日はお仕事が休みなので、ギルドの酒場の壁際の隅に2人で特にやる事もなく、酒を飲みつつグダっている。


「やっぱハイノービスじゃダメなのかな?」

「うーん、私(ハイプリースト)がいるからマジシャンとかの初級職はハードル高いのもあるかもね」


こればっかりはしょうがない、出会いは運とタイミングだ。


「じゃあ、面接の練習しましょ!」

「じゃあってなんの流れで『じゃあ』になったんだよ?」

「面接した事ないでしょ?」

「そっちの練習?」

「私は両方ない!」

「んー、じゃあ暇だしやってみる?」

「私面接する方やるー」

「いやいや、面接受けた事もない癖に、いきなり面接するとか。これだから素人は」

「私は常に雇用する側よ!面接を受けるなんて事はありえないわ!」


こういうところだけ無駄にプライド高い。


「じゃあ、受ける方やる」


コホンっと咳払いをしてメティスが始める。


「どうして我が“メティス アンド デンジャラスゴッズ“に入ろうと思ったのかしら?」


チーム名なんかあったの?それとな、最初は名前とか職業とか聞くんだよ?


「生活の為に稼がなくてはいけなくて、1人では依頼を受けるのが厳しい為、応募しました」

「生活の為ならどこでも良かったのかしら?」

「ハイプリーストのいるパーティだったら安心出来ると思いました」


俺は空気の読める子だ。イラっとしたけど無駄に突っ張ったりはしない。


「そうよね、やっぱり私がいるからよねー。私の良いところ言ってみて」


俺は我慢強い子だ。


「面接ですよね?」

「ないの?」

「いえ、…お美しくていらっしゃいます」

「そうね。何を置いてもまずはそこよね、分かるわー」

「ナイスバディだと思います」

「でしょ、良く言われるわ」

「……」

「次!」


俺は我慢強い子。


「えーっと、ハイプリーストなんて凄いです」

「私にかかれば余裕だけどね」

「あー、大変ユニークな方ですね」

「ユニークっていうのは人生を楽しくする為の秘訣よ」

「……」

「早く!」

「面接しろや!!!」


シュタッと手をあげるメティス。


「よーく考えてみたら私、面接って受けた事ないからやり方が分からなかったわ」

「なんで面接やろうと思ったんだよ!?」

「うーん。本当は嫌だけど面接受けてみてあげる」


どこから目線で言ってんだこいつ?

だが、俺は我慢強い。


「まずはお名前と職業をお願いします」

「まずは自分から名乗るべきよね?」


俺は我慢。


「失礼しました、ヒデトと言います、よろしくお願いします」

「メティスよ、神様をやっているわ」

「神様?とはどう言った職業なのでしょうか?」

「神様は神様よ。願いを請うのなら精進して徳を積み、それに見合った施しをするわ」

「え?お前の祈祷って酒一杯に対するそのお返しなの?評判を聞く限りだと、見返り酒一杯の代償に対しては大きくね??」


メティスは冒険者の無事をお祈りする代わりに、一杯の酒を報酬に頂いているのだが、今の話を聞く限りだと、酒を献上する事により徳が積まれ、その徳に見合った施しが返ってきている。という事になる。

この現象が凄く顕著に表れるという事で、例えば、たまたま運よく討伐対象に気付かれず発見する事が出来たり、崖から落ちた先が採取対象の群生地だったり、探すのをやめた時に探している物がみつかったり、恋人が出来たり、大きい事から小さな事まで結構な確率で何かしら良い事が起こるらしいのだ。

「らしいのだ」とは、俺に祈祷をしてもらったところ、俺には恩恵らしい恩恵が起きた事がないのである。




これは余談なのだが、その事についてメティスに聞いてみた事がある。


「お前が一番恩返ししなくちゃいけないのって」

「恩返しじゃなくて施し!」

「どっちでもいいよ。施しをしなくちゃいけないのって俺じゃないの?施しらしいラッキーに出会った事がないんだけど?」

「ああ、愛と性の神エロスよ。メティスという人生を7万回繰り返しても起こるかどうか分からないほどの超絶ラッキーなミラクルに出会えているにも関わらず、厚かましくも卑しくもブサイクも、尚、これ以上の幸運を求めてしまう愚かなるヒデトを許し給え、かしこみかしこみー!かしこみもうすー!」

「ブサイク関係ないだろ……」


なんだか畏れ多い事を聞いた事にされてしまって……。この時の感情を俺は“絶

句“と名付けた。




「そういう事になるわね」

「金塊とかあげたらどんだけでっかい見返りくるんだよ!?」

「金塊はあんまり欲しいと思わないかも」

「お前実はバッコスの分身なんじゃねーの?」


メティスの中では「酒>金塊」なの?バッコスはお酒の神様。


「ちょっと、エロス様に怒られちゃうじゃない!愛も性もお酒もみんな『溺れる』ものだから一緒なのよ」


フフン、とドヤ顔している。

ちょっと上手かったけど、なんかムカつくのであえてスルーだ。


「あなたの性格の長所と短所をお願いします」

「これ聞く意味あるの?」

「俺もそう思ったけどさ、履歴書に「長所と短所」とか「得意な学科」って欄があったんだよ」

「ふーん。長所ね、良いところは言わなくても分かると思うけど、空前絶後で前人未到の美貌かしら。短所は超絶美しいが故にほとんど出会う者の心を奪ってしまうところかしらん。らんらん」


俺は我。

ツッコミを入れるような野暮な真似はしないが、その説明ではお前の事が一切伝わってこないぞ?


「今回応募してくれた動機を、お願いします」

「見るに見かねて?」


俺は。


「ほーう、私共を助けていただけると?」

「そうよ」

「……前衛と後衛、どちらの希望ですか?また、得意技を教えて下さい」

「後ろから応援してあげるわ。得意技は悩殺ポーズから繰り出されるハートスティールよ」


バッキューンっと両手で拳銃を作り俺の心臓を撃ってくる。

俺。


「固定のメンバーを探しているのですが、どれくらいの期間、一緒にいようと考えてくれていますか?」

「しょうがないから固定で助けてあげるけど、私が余りにもセクシーだからって変な事を考えては駄目よ?」



「そうですか、何かこちらに希望する事はありますか?」

「私に惚れんなよ」

「惚れねーわ!」

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