第14話 呪いすん!
異世界に送られてき数ヶ月の時間が経ち、生活の基盤みたいなものが出来てきた頃の話だ。
俺は実はあまりエロス様を、いやエロスを良く思っていない。どちらかというと敵だと思っている。
メティス?メティスは一応エロスの分身だと言ってはいるが、それは神視点の話であって、基本的には別物だ。人間視点から言わせてもらえれば、ピッコロ大魔王が口から卵出してマジュニアを産んだじゃん?あの時「父の仇殺す」って言ってたじゃん?多分あんな感じの分身だから、エロスとメティスは別人(別神)?になる訳だ。
明日をも知れぬ身ではあるものの、起きれば「おはよう」を言い合い、食堂に行けば「いただきます」と言う相手がいて、仕事に出発すれば「いってきます」時には見送る事もあり「いってらっしゃい」と声を掛け、帰ってくれば「ただいま」夜になれば「乾杯!」と杯を交わす相手がいる。
人となりも知れて、顔見知りや仲間と呼べる者も出来てくれば当然、余裕が出来てくる訳だ。
そこで、気付いてしまった事がある。
いつか必ずぶち当たる問題であって早いか遅いかの問題である。
最初は、そんな余裕もないし、とにかく疲れていた。だからこんなものだろうと、大して気にする事もなかった。
元いた世界で俺は未成年だった訳だが、ここでの成人は15歳からで、自慢する訳ではないが、誰かの庇護下におかれている訳でもなく、俺は自立した一人の大人だ。
今でこそ言われるが、俺がこの街に来た頃は話掛けられるような雰囲気ではなかったらしい。それはそうだろう?いきなり知らない世界に送り込まれて生活しろって言われたら誰だって余裕なんてなくなるし日々生きる事で精一杯だ。
もう一度言うが「だからこんなもものなのだろう」と大して気にしていなかったんだ。
余裕が出来てくれば周りの連中とも仲良くなってきて、大人の男同士の話だ。理由なんてなんでも良い。元いた俺の世界の歌で言うならば「1月は正月だから」「2月は豆まきだから」「3月はひな祭りだから」「4月は花見で」こんな理由でもなんでも良い。
色街で逝けるぞ!色街へ行けるぞ!
自慢する事ではないのだが、年齢=彼女いない歴であって、勿論、○貞だ。
現代の叡智、スマートフォンによって莫大な知識は得ているものの、実際に披露した事はない。この世界では大人として認識される年齢であり、引きこもる事もなく生活に少し余裕が出来てきた自立した大人の男としては、付き合いというものがある訳で、本当はそこまで行きたいという訳ではないのだが、色街へ繰り出すのは吝かではない。
そこで気付いてしまったのだ。いや、元から気付いていたのかも知れない。気付かないフリをしていたのだ。こちらの世界に来る時に神エロスが「自分の分身に欲情しないように魅了の耐性をつけておく」と言っていたのだ。この魅了の耐性のせいで、いまいちメティスと宿を共にしても何事もなく一緒にいれるんだ、そう思い込もうとしていたんだ。
こちらの世界に来てから数ヶ月、一人で、いたしていない。
疲れているからだと思い込んでいた。だが、色街へ行くと言うのならば話は別だ。己の欲望のリミッターを全解除だ。そんな素振りを見せてはいなかったが、きっとお父さんだって給料日には○俗へ繰り出していたのだろうと今なら分かる。
皆で「どんな女が好みだ」だの「○○を△△して✖️✖️✖️するとすげぇ気持ち良いんだぜ」そんな話をしている時ですら反応のない俺の息子。緊張しているのかな?うちの息子は困った奴だ、HAHAHA!いざ、接客をしていただくところまできても一切合切無反応なのだ。
勃たない。自立しているはずなのに勃たないとは、これいかに?
薄々勘付いていた俺は、共に色街へと繰り出した同志の帰りも待たず、急いで冒険者ギルドへと向かう。
メティスを問い詰める為に。
冒険者ギルドのいつもの酒場のいつもの隅の席に目標を確認。酔っ払っているのもいつも通りだ。顔見知りと談笑しながら酒を飲んでやがる。
「早かったわね?やっぱり早かったの?プークスクス」
「三擦り半でKOと見たね!ハハハ」
「HAHAHAHA‼︎」と、メティスと一緒に飲んでいた女冒険者ロレッタと二人共、訳知り顔でケラケラとイヤらしい顔をして笑っている。
「なんで知ってんだよ!?」
「余程うまくやらないとバレバレよー」
「こっちだって知りたくなかったわよ!プークスクス、ばれてやんの、ブヒャヒャ」
こんな軽口に付き合ってやるほど、今の俺の心中は穏やかではない。
「悪い、ロレッタ。席を外してもらえないか?」
「なーによー?怖い顔しちゃって?緊張しちゃった??」
俺は無表情でロレッタの顔を直視し、首を横に振る。ただならぬ雰囲気を感じ、ロレッタは大人しく席を外してくれた。俺は「悪いな。今度一杯奢らせてくれよ」と一応謝罪を言い、メティスの正面に座る。
「まずは何か頼みなさいよ〜、最近ミードがお気に入りなんだっけ?」
「いや、酔う前にお前に確認したい事があるんだ」
「何よ?あたらまって?」
「改まって」な?ツッコミは『愛』だが、今の俺の『愛メーター』は0を振り切ってマイナスになっている。
「こちらの世界に来る時にな、神様が『魅了に対する耐性をつけておく』って言ってたんだけど、お前それについて何か知ってるか?」
「もろちん知ってるわよ、爛れた生活をされても困るからとかなんとかでしょ〜?」
「そうだ。はっきり言ってお前は俺の好みだ。割合で言うならば90%くらい俺の好みにドンピシャすぎて辛いくらいだ」
「いやん」と満更でもなさそうに頬を染めて照れている“フリ“をしている。残りの10%は年齢だ。もう少し大人の女性が好みなんだ。
「まぁ、そういう風に作られてるからね。ズッキーの年齢に合わせて若くしただけだし。けど、ズッキーがロリコンだったら10歳以下の女児になってたのかもしれないのよ?小さい子が酒瓶片手に吞んだくれる訳にはいかないじゃない?ロリコンじゃなくて良かった〜」
美味そうに酒を飲むメティス。
「最初の頃は二人部屋で同じ部屋に寝泊まりしてたよな?」
旅の支度金もなく放り出された俺達は、金を作る為にメティスが隠していた虎の子の超レアアイテム『エリクサー』を売り捌いて二人部屋を借りていた。
ギルドの出すクエストを碌にこなせないで稼げない事が分かって、すぐに節約の為に二人仲良く馬小屋で雨風を凌いでいた。
今は、メティスも小金を稼いでいるので、一人部屋を借りて寝泊まりしている。俺はというと、諸事情により未だに馬小屋で寝泊まりしている。(過去話『第10話 臥薪嘗胆しますん!』参照)
「そうね。二人共収入がない訳じゃないし、別に二人部屋借りても良いのよ?」
「そういう話じゃねーんだ。あの時な、完全に酔っ払っちまったお前を抱き抱えて『なんでこんな良い匂いすんだよ!』ってクンカクンカしながらベッドに運んだ時も」
「クンカクンカしたの?」
メティスは嫌悪感丸出しの顔だ。
「その運ぶ過程でラッキースケベで初めておっぱいを触ってしまった時も」
「触ったの!?」
自分の胸を覆い隠す。
そういうのエロいからやめろ。思春期のエロ力はなんでもエロに変換できるんだぞ。
「そのままいびきかいて寝てるしおっぱいを揉みしだいた時も」
「揉みしだいたの!?」
自分のおっぱいを揉みしだくな。
「部屋に戻ってくるなり暑い!って服を脱ぎ出してパンイチで布団も掛けずに寝ちゃうもんだから風邪ひかないように布団を俺が、この俺が!!『メティスを魚にもう一杯酒でも飲むか』」
「何それ!?気持ち悪っ!!!」
「と自問自答したけど結局布団を掛けてやった時も」
「ふんっ、そこはヘタレね」
鼻で笑うメティス。
「また別の日に」
「まだあるの!?」
「朝起きたらお前が全裸で寝ていても、あの時はまだこっちの世界に来てばっかで疲れてたしいっぱいいっぱいだったから、なんもないんだと思ってたんだ!」
「赤裸々に語りすぎてるけど大丈夫!?私を辱めるプレイと見せかけて、実は蔑んだ目で見られたいとかそういうプレイなの?」
「そうだな。今まさにだ『辱めるプレイ』でも『蔑んだ目で見られたいプレイ』でもどっちでも良い」
「どっちもいけるの!?」
「本来ならば超ウキウキのワクワクのイベントなはずなのにだ!」
「気持ち悪っ!?」
「勃たないんだよ!!」
メティスさん、近年稀に見るキョトン顔。その顔が俺の怒りに燃料を注ぎ込む。
「なんだその顔は!貴様まさかとは思うが『ああ、そんな事?』でも言おうものならお前が諦めるまで何度でも命を絶つ覚悟があるぞ!!」
「え、ちょ、そこまで!?」
「当たり前だ!!!!!!!!」ドンッ
周りが何事かと様子を伺ってざわついている。
「あいつの言っていた魅了の耐性ってのはまさか?」
「あいつですって!!」
「シャラーーーーーーップ!!貴様がもしも奴側の人間だとでも言うのならば、俺の命を絶つ前に貴様の命も経たなくてならなくなる。……考えて喋れよ」
俺は殊更冷静にメティスに問いかける。
「奴側っていうか分身だしね?それに私は人間じゃないけどね?」とメティスは小さい声でツッコミを入れるが、俺の心には届かない。何せ『愛メーター』の残量は0を振り切っている。振り切りすぎてマイナス方向に回りっぱなしだ。
「いや、えーっと、オホホホホ」
さすがのメティスも事態が飲み込めてきたようだ。俺は怒っている。
「うん、そうね、初めに言っておくけど私じゃないからね?ちょっと、顔が怖いわよ?私が何かをしたとかそういうのは絶対に本当にエロス様」
ガンッ!フォークを皿に突きつけて貫通し机に刺さる。
「うん、うーん、そうね、そうかもしれないわね?えーっと、酒神バッコス様の名にかけて誓うわね」
メティスはすっかりビビってしまい、違う神様に誓いを立てる始末。
「その上でね、仮にも性と愛の神様が、そんな酷い事はしないと思うのよねー」
確かに奴は「性」と「愛」の神だ。そう言われてみればそうかもしれない。
「魅了の耐性ってのは本来どういうモノなんだ?」
「サキュバスや人魚なんかの種族が異性を虜にして奴隷にしたりするのを回避するスキルよ。ダンサー(職業)なんかも使えるスキルね」
「それはチ○コは勃つんだよな?」
「ん、んんー、そうね、どらかといえば」
「勃起るか勃起らないかどっちかしかねーだろ!」
「……勃つ」
「魅了耐性じゃなくて、不能者にしてんじゃねーか!」
興味がない訳じゃないのが始末が悪いのだ。興味津々すぎて辛いくらいなのに勃たないのだ。
「あ、けど結果的に魅了は防げてると思うわよ?」
「『思うわよ?』って分らんのかい!」
「勃つ物がないからきっと大丈夫よ!」
「魔王を倒せば奴に会えるんだよな?」
○ーム○ーイの魔界塔士SA・○Aでもラスボスを倒したー、と思ったら実は諸悪の根源は神様だった。
「ちょちょ、ちょっと待ちなさいよ!そこまでの事なの!?」
「オマエ、コトバ、キヲツケル、サモナイト、コロス」
「怒りで言葉が片言に!?」
「ヒデト、怒りで言葉が!?」
怒りでどうにかなりそうな俺に、周りで話を聞いていた冒険者のビートが横から入ってくる。俺の怒りの正当性について後押ししてくれる。
「話は聞かせてもらった!メティスちゃん、それはイ○ポの呪いを掛けられたら誰だってこうなるよ」
「呪いってあんた…」
男性冒険者一同「うんうん」と全員一致で賛同してくれる。
「昔な、北の国の話なんだが『近年稀に見る善人』と言われた領主の貴族がいてな、事故にあってチ○コが無くなっちまったらしいんだ。それ以来、人が変わった様に理不尽になっちまった。それがある日、急に元の『近年稀に見る善人』に戻ったんだが、領民に行方不明者が続出したらしいんだ。そう、犯人は領主で性の快楽を得る為に領民を殺す事で満たしていた。性の快楽と殺しの快楽は似ている。そういう悲しい事件があったんだ」
今度は冒険者のヤンセルが俺に哀れみの目を向け、その業はどれだけ罪深い業であるかをメティスに教えてやる。やはり男冒険者一同が「それは仕方ないかもしれないな」等と言い合っている。
「えっと、いや、だって、ええ?」
「どんな事故があったらアレだけなくなっちゃうのよ?」
「それは私も思った」
傍聴している女冒険者に助けを求めようにも、男冒険者の数の方が多い。
「考えようによっては魔王討伐に前向きになった訳だし結果オーライって事になるのかしら?」
「神様だからってやって良い事と悪い事の区別もつかないのかよ!死ぬ事もできないなんてあんまりじゃねーか!オヨヨ」
思わず涙が溢れてきてしまう。大泣きではなく、さめざめと涙が止まらない。釣られてビートとヤンセルの目からも涙が溢れる。俺達3人は抱き合って泣いた。
「……泣くほどの事なの?」
ドン引きするメティスに女性冒険者一同。
「ヒデト、今日は俺達の奢りだ。死ぬまで飲んで忘れちまえ。グス」
「お、おぉおおぉ、皆……」
この日ほど酒を飲んだ事もないし、この日ほど涙を流した事はない。
数日後
「そろそろ落ち着いたと思うから一応伝えておくわね?」
「改まってなんだよ?」
「イ○ポの件あるじゃない?」
ビキビキッ!俺の前でそのワードは禁句だ!!
「最後まで聞いて!一応言っておくけど、エロス様と通信手段がない訳じゃないのよ?」
「え?どういう事なんだ?」
「エロス様を祀る総本山にいければ、こちらからエロス様に嘆願する事が出来るわ」
「え?呪いをなんとかしてもらえるの?」
「んー、本当にエロス様が呪いを掛けたのだとすれば、『魔王討伐のモチベが上がらないんです〜』とか言えば解呪してくれるんじゃないかしら?」
「本当!?てか、お前も解呪って!?呪いって言っちゃってんじゃん!?」
「あんた達がそう言ったんでしょ?お金もないし力もないし行けないから、今はお金と力を付けてエリンポス(街名)を目指しましょう」
「エリンポス?そこに総本山があるんだな?絶対だな?絶対に治るんだな??」
「ズッキーの心だったり体だったりの問題だったら話は別だけど、エロス様の呪い?だったら、きっと治してくれるわよ」
メティスがなんか言っているが、やったーやったーと喜び駆け回る俺。
「ただ、一応言っておくけど戻ったら戻ったで、私のような美女を連れての旅は厳しいと思うわよ?メンバー募集してるけど、どっからどう見ても10代前半に見える低身長で幼い感じのロリ巨乳が入ってきたり、ムッチムチのけしからん体をしたプリーストが入ってきても我慢しなくちゃいけないのよ?……ああ、聞いてないか」
エロスが味方になるか敵になるかは奴の出方次第だ。
こんな事を言って大丈夫かって?こっちの世界に送り出される時に「直接影響が出るような事はできない」と明言していたのできっと大丈夫だ。ダメだったらその時はその時だ。(チ○コが勃たないので)いつでも死ぬ覚悟は出来ている。
俺の名はヒデト。もう、どうしようもないくらい思春期のあなざーゆにばーすとらべらーだ。
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