第8話 アルバイトで生計を立てますん!
「なぁ」
「何よ?」
「悪魔とかアンデットがいる所行こうぜ」
「連れてってよ」
「どこにあるんだよ」
「ここから歩いて2、3日くらいかかる墓地の跡地とか?」
「馬車で行けば1日で行けるんじゃね?」
「帰りはどうするの?」
「帰りかー、これやっぱ積んでんじゃね?」
「知らないわよそんなの」
あれから何度も2人でちょっと強めのモンスターに挑戦したのだが、全くうまくいかない。2人ではダメだ。雑魚ノビとヘッポコプリーストの2人ではダメだ。2人合わせて『ざこぽこ』?『ヘッザ』?まぁどうでもいい。ちゃんと戦える人が1人は必要だ。
「アタッカーの人を募集しなくっちゃか」
「ハイノービスのいるパーティに入ってくれる人なんているのかしら?」
「それな」
「それな、じゃないわよ」
「ヘッポコハイプリーストのいるパーティに入ってくれる人なんているのか?」
「それな」
「それな、じゃねーよ」
冒険者は2~5人の少人数でパーティを組んで戦うので、中途半端で微妙な戦力にしかならないハイノービスは倦厭されるというのだ。いずれはメンバーを増やさなくてはいけないと思っていたのだが、ハイノービスのいるパーティに入ってくれる危篤な方はいらっしゃるのだろうか?
本当はハイノービスでもこんだけやれるぜ!という実績を作ってから募集をかけたかったのだが、しょうがない。
メンバーの募集はギルドの掲示板で張り紙を出しても良いというので、只今絶賛募集中である。
「【求】魔orアタッカー 当方 ハイプリースト ハイノービス 面接あり〼 出来れば固定でおなしゃっす 明るく楽しく皆仲良しなパーティです! 冒険者ギルドの酒場まで 担当 ヒデト」
「魔」は魔法使い系職業の事で「アタッカー」は攻撃職の事。ハイノービスの文字を小さくしておいたしいけるだろ。何せ上級職のハイプリースト様がいらっしゃるパーティだ。ウィザードが来てくれるとありがたいのだが。
エリクサーを売って作った金を無駄遣いできる訳もなく、早々に馬小屋生活をしている。
このヘッポコプリーストは酒を飲ませないと夜泣きが酷く、当然同じ部屋(馬小屋)で他の冒険者と一緒になる事があると「うるせーよ!」と怒られてしまうので一定の酒を飲まさないといけないのである。
挙句に朝から酒場で募集待機をしていると、酒を飲ませろと騒ぐので無収入なのに減っていく一方なのだ。
「安い採取クエストでも受けて酒代くらい自分で稼げ!」
「無理よ!外に出てモンスターに襲われたらどうするの!?私倒せないのよ!!」
「じゃあバイトでもしろよ」
「働いたら負けかなと思ってる」
「だからなんでドヤ顔なんだよ!お前それ、言いたいだけだろ!!」
「そもそもさ、ズッキーは死んでも復活できる訳だから、もっと神風特攻的な?ゾンビアタック的な?ギリギリの戦い方だって出来るのよ?」
「そら出来るんだろうけどさ、痛覚はそのままなんだからいてーんだよ。お前に分かるか?死ぬほどこえーし、死ぬほどいてーんだぞ」
「知らないわよそんなの。死んだ事ないもの」
そもそもこいつ死ぬのか?
「痛覚を麻痺させる様な物はないのか?」
「違法な薬とか使えば良いんじゃないかしら?けど一回死ぬと全部リセットされて体が元に戻るから毎回使わないといけないし、経済的じゃないわね」
「……」
俺にどうしろと?
最初はすぐ来るだろうと酒場で2人、募集待機をしていたのだが来る気配がない。
なので、俺はギルドの信用を得る事から始めようと、簡単なクエストを受ける様になった。良い依頼がない時はアルバイトに行っている。街の改修やら増設やら補修やらで、瓦礫の撤収や資材の運搬といった肉体労働には事欠かないのである。
メティスは「働いたら死んでしまう病」という不治の病に罹っている上に、労働は神の沽券に関わる事だからと絶対に働かない宣言をしている。募集に応募があった場合の連絡は受付さんにお願いする事もできるのだが、自分の家もなく、馬小屋に1日中篭っている訳にもいかないので、募集待ちという名目で酒場に詰めて昼間っから酒を飲んでは酔っ払っている。
最初こそ俺の名前で勝手にツケにして飲んでいたのだが、強いモンスターの討伐依頼を受けたパーティが、朝から飲んだくれているハイプリーストに「一杯奢るから無事に戻ってこれる様に祈ってくれ」と言われ、嬉々として祈祷をしたところ、すんなり倒して無事に帰還する事が出来たそうだ。それ以来、出発前にはゲン担ぎに祈祷をお願いされるようになり、他のパーティも噂を聞いて利用するようになった。最初聞いた時は「絶対ナンパ目的だろ?美人って奴ぁ得で良いな」ぐらいにしか思っていなかったのだが、意外と評判が良いのだ。
よくよく考えてみれば、分身とはいえメティスは神様的な何かな訳で祈祷されれば、なんかしらのご利益が発生していてもおかしくはない。
メティスにそのあたりの事を尋ねてみた。
「なるほど。……当たり前じゃない、私を誰だと思ってるの?」と、自信満々に言っていた。
神様になると面白い言葉の使い方をするのだなと思ったりもしたが、ともかく酒代が大分浮くようになったので助かっている。
そんなある日、アルバイトを終えて酒場に戻り、いつもメティスが居座っているのですっかり定位置となった壁際の隅の席に行くと、机いっぱいに豪華な食事が並んでおり、ドヤ顔で俺の帰りを待っていた。
「待ったわよ、ズッ」「無駄遣いしてんじゃねーよ!」
「違うわよ!なんなの、いきなり怒らないでよ!お礼にってご馳走してもらったんじゃない!」
「冒険者の無事をちょろっと祈っただけで貰える様なレベルのお礼じゃねーぞ!?」
いつもよりも大きい6人掛けの円卓のテーブルに所狭しと料理が並んでいる。いくら育ち盛りの俺だってこんなに食えねーよ!!何したらこんな……ッハ!
そこで俺は察してしまった。俺がもっと馬鹿だったら「わーい、良かったねー」とか言って一緒にはしゃぐのだろうが、無駄に察しが良く頭の良いイケメンな自分を呪いたい。
「よし、一緒に警察行こう。保釈金は払えないけど、初犯だし自首すればきっと執行猶予くらいつくさ。えっと…、初犯だよな?」
「面倒かけてすまないねぇ…って、ちっがうわよ!なんで前科を気にしてるの!?」
「イツカヤルトオモッタンデスヨー」
「裏声で言うんじゃないわよ!お礼にご馳走してもらったって言ってるじゃない!!」
「お前みたいな邪神が出来る善行なんてある訳ないだろ?どうせ酔っ払って人様の物に手を出したんだろ?」
「邪神!?確かに神様だけど、言うに事欠いて邪神!?」
「邪神じゃなければ…、なんだろ酒樽?」
「この、ボンッキュッボンからの美しい脚線美があなたに分からない様ね?」
オホホホっと優雅に微笑み、悩ましいポーズで言うメティス。確かにエロス様に比べれば多少ボリュームが落ちたとはいえ、ナイスバディなのは変わらない。
……ナイスバディ。そうか。そういう事だったのか……。察しの良い自分がホトホト憎い。
「そうかそうか、俺の稼ぎが少なかったばっかりに……。今日はちゃんと宿を借りよう。分かってる!何も聞かないから!!しっかりと体を洗ってゆっくりと眠るんだ」
グッ、と上を向いていないと涙が溢れてしまいそうだ。
「そうなの。このお仕事ならあなたを何不自由なく養う事が出来ると思って。これからは私が頑張ってお金を稼ぐから、気にしないでズッキーは魔王討伐の為に時間を使ってくれて良いのよ」
こんな事を言いながら優しく微笑むメティス。なんて健気な……、ホレチマウジャネーカ。
「って、ちっがうわよ!なんで彼氏の夢の為に時間を作ってあげたいから風俗に身を落として養う献身的で超美人で素敵な彼女、みたいになってるのよ!!」
「ご自分で仰られるようにー、大層な美貌をお持ちですのでー、残念美人だって知られなければー、それこそ大層なお礼をいただけるお仕事に就けるのではないだろうかと思ったのですがー?」
「『素敵』な残念美人よ!!って誰が残念美人だってーのよ!!??」
「自分が残念じゃない美人だと思っている事にびっくりだぜ!?素敵っつーかもう不敵じゃねーか?じゃあなんだっていうんだ?だってお前、善行を行うと死ぬんだろ?」
「邪神か!?!?」
「魔王の申し子みたいなところあるじゃん?」
「ちょっとさっきから邪神だの魔王だのどっちよ!?」
「気にするのそこ!?」
「かーみーさーまー!!」
「あぁん?」
「神様だって言ってるでしょ!」
「じゃあ働けよ」
「働いたら負けかなと思ってる」
「ドヤ顔やめろ!お前それ言いたいだけだろ!!」
今日、俺が仕事に行っている間に何が起こったのか。
とてもじゃないが二人で食べ切れる様な量ではないので、これを少しづつ頼めば何食分の金が浮いたと思ってんだ?っと思っていたら「お金のない馬小屋冒険者仲間」を呼んで「好きなだけ食べなさい!」とドヤっている。
全くそういうところはちゃんと神様的な何かをしているのが逆にモヤっとくる。
だがしかし、俺は見ていた。ちゃっかり保存の聞くパンや干し肉なんかは別にして懐に隠しているのを。
ほんと、そういうところだぞ。
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