第7話 君の為なら死にますん!
「なぁ」
「何よ?」
「これもう積んでんじゃね?」
「知らないわよそんなの」
「金になる仕事が全っ然できないじゃん」
「それはズッキーが頑張るところなんじゃないの?」
「俺はハイノービスだ。オレ、アタッカー、チガウ」
「だからなんでカタコトなのよ!言ったでしょ!私の力は制限されてるんじゃないの!調整されてるの!」
あれから数日経つのだが、金になるギルドの仕事がこなせないでいる。
今から当たり前の話をする。採取系依頼は危険な場所であればあるほど報酬が高額になるが、お散歩程度の場所にある物では大した金にはならない。
モンスターの素材集めは、討伐依頼等で強敵であればあるほど報酬は上がっていく。
雑魚モンスターで言うと例えばゴブリン等は群れを形成するほど大掛かりなものであれば討伐依頼は来るものの、単体を駆除したところで報酬は勿論でない。
一番現実的なクエストは、ギルドから発行されている「増えすぎたモンスターの討伐」だ。異常繁殖したモンスターを討伐すれば、少額ではあるものの一匹単位で報酬が貰える。だが、仕事になるほどのモンスターなので一匹でも強すぎて俺の手には負えない状況だ。
冒険者ギルドには等級のようなランクなどは特にないらしいのだが、貢献度や経験点、討伐クエストや採取クエスト等の種類があり、護衛等の貴族や商人からの依頼は強くなければ受けられないし、横柄な態度をとるような冒険者では貴族様のお相手は任せられない。例えば「金のプレート」「銀のプレート」等でパッと見で冒険者のランクを区別できてしまうと詐欺が横行するので立ち居振る舞い、物腰とかそういう人となりを常に見られていてギルドからの紹介状がないと仕事を受けらないという以外としっかりシステムが出来上がっているらしい。なので実力を示さなければ実入りの良い仕事は受けられない。
戦闘の経験などある訳のない俺は、まさしくゴブリン一匹相手に苦戦した挙句返り討ちにあってしまった。
需要がそれなりにあってモンスターの弱いクエストと言えば「地下水路の盗蟲駆除」なのだが「下水道」で「蟲」なのだから気付けば良かったと行った後に後悔した。
カサカサと動くその物体は50cmくらいあるゴキ〇リだったのだ。
俺の知っている小さいゴ〇ブリ(以下ヤマダさん)でも大っ嫌いなのに、でっかいヤマダさんを目撃した時は「叫んだ」なんて表現では足りない、絶叫した。絶叫して逃げ出した。なんなら涙も流していたかもしれない。
本当に怖いと「うわぁぁああぁぁ!!」とかではなく「おぉおぉぉぉおおっぉぉおぉぉ!!」とかくぁwせdrftgyふじこlp;@:「」とか変な奇声を発する事が分かった。
後衛として少し後ろに控えていたメティスに目もくれず遁走した訳だが、俺のあまりの悲鳴っぷりに「大草原不可避www」といったご様子で大爆笑しながら俺の後を追ったとか追わないとか……。
昆虫自体は特に好きでも嫌いでもないし、苦手と言うほどでもないのだけどヤマダさんだけは駄目だ。本能が嫌がっているのだ。
メティスは俺のヤマダさん嫌いの話を聞いて「蟲如きで情けない!」と怒るかな?と思ったのだがひとしきり笑った後「じゃあ、二度と下水にはいけないわね」と怒るどころか、あっさりと理解してくれた事になんだか気持ちが悪かった。
報酬の良いクエストを受ける為に、攻撃スキルを覚えたいのだが、某RPGゲームの様にスライムを100万匹倒してレベル99になる様なシステムでは無く、強敵と戦い戦闘の経験を積んでスキルポイント?が増える仕様なので「俺より強い奴に会いに行く」のだが強すぎて倒せない。雑魚雑魚プーの俺がなぜ、そこらへんの雑魚モンスターを倒しても経験点にならないのかというと、原因がメティスにある。
どうやらメティスと俺はペアリングされており同一としてカウントされているのだとか。メティスが強いせいで最弱でレベル1のはずの俺が雑魚モンスターを倒しても経験として判定されない。
逆をいえば、メティスが倒してくれた場合でも経験が俺に蓄積されるという事なので、これは楽勝じゃないか!と、メティスに戦うように相談してみたのだが……。
「な、なんでも神頼みじゃ強くなられないだわよ、せせ、戦闘は経験だもの、とにかく戦わなくては駄目なのだわよ」
「そういうもんかー?」
「そういうものだわよ!」
だわよ?歯切れが悪いなと思ったけど、この子、基本的にお脳の方が弱い子だし言ってる事は正論である。スライムのバッタもんのようなゼリー状のモンスター雑魚モンスターと戦ってみて経験を積んで、再度、ちょっと強いモンスターとやり合うと太刀打ちできない。
メティスの作戦通りに動いた事もあった。
「ズッキーは死んでも生き返れるんだから、文字通り死ぬ気で突っ込みなさい!相打ち覚悟で喉元掻っ捌いてやればぶっ○せるわ!」
「おっしゃーやってやんよ!!!……コワイケド」
「その意気よ!やってやんなさい!サッサトイキナサイ」
「うおおぉおぉぉぉぉぉぉおおぉぉおお」
……
「あれ?俺寝てた?なんでこんな所で寝てんだ?」
「おはよー。急に走り出すから足引っ掛けてー、すっ転んじゃったのよー」
「それはそれは、お恥ずかしいところを…」
「良いのよ良いのよー、掻っ捌いていくわよー」
意識が戻って少しして自分がなぜ眠っていたのかを思い出した。
モンスターの喉元を掻っ捌く前に心臓を一突きされて即死していたのだ。
「なんで嘘付くんだよ!カウンター喰らって即死してんじゃねーか!」
「っち、思い出したか」
「今舌打ちした?ねぇ今、舌打ったよね?」
「もう一回やらせようと思ったんだけど覚えてたら絶対やらないでしょ!?だから黙っててあげたんじゃない!」
これである。
「もう無理だ!サポートはしてやるからお前が戦え!」
「嫌よ!サポートって言うけどズッキー如きに何が出来るっていうのよ!?」
「お前な、ハイノービス如きって言うならスルーしてやるけど名指しで来るなら戦争だぞ!?」
「私はハイプリーストよ!!悪魔やアンデットならいざ知らず、魔物となんて戦えないわ!」
なぜこんなに戦いたがらないのか?理由を言わせるのに、やいのやいのと揉めた挙句、やっと白状させた。戦いたくないのではななく、戦えなかったのだ。
このヘッポコハイプリースト、悪魔やアンデットには攻撃ができるというのだが、基本的に武器で叩くとか素殴りが出来ない仕様になっているらしい。どういう事かというと、殴ろうとすると足が滑ってずっこける。物を投げると局地的な突風が起こり逸れる。
魔法ならば当てる事はできると言うのだが、そもそも対魔対不死攻撃魔法しか使えないし、物理系の魔法は覚える事も出来ないという。いっそ呪いと言った方が正確ではないか?という有様である。
なるほど、制限ではなく調整。神様の調整って適当すぎやしませんか?
「そんな大事な事をなんで隠してんだよ!?」
「舐められると思って…」
そんな拗ねられてもさ、ちょっと可愛いじゃねーか。
「そもそも攻撃スキルがあれば同士討ち作戦でうまくいったのよ!」
「集中力向上が無かったら俺が何回死んでると思ってんだ!近ずく事すら出来てねーわ!」
素ゴブリンならばさすがにタイマンなら余裕で倒せるようになった頃、手負いのホブゴブリンが現れた。こちらの存在は気付かれていない。
ホブゴブリンは通常のゴブリンよりも大きく、俺の1.5倍くらいでかい。手に丸太のようなでかいこん棒を片手で持っている。それに目力と殺気が違う。絶対人を殺した事がある人(ゴブリン)の目をしている
「よし、相打ち作戦よ(ヒソヒソ」
「よし、じゃねーよ!あんなもんに相討ちもクソもあるかよ!(ヒソヒソ」
「傷だらけだし大丈夫よ(ヒソヒソ」
「傷だらけなのにあんなでっかい棍棒持ってるんだぞ?元気いっぱいじゃねーか(ヒソヒソ」
俺はショートソードと呼ばれる短めの剣を持っているのだが、長剣ですら重すぎて振り回せない。
「あんまりこの手は使いたく無かったのだけど」
コホン、と軽く咳払いをして、ちょっと俯きがちになり、上目遣いで恥ずかしそうにメティスが言う。
「私の為に………死んで🖤」
「うおおおぉおぉぉぉおお、やってやろうじゃねぇかよぉぉぉぉおおぉぉ!!」
ホブゴブリンの大棍棒一発で叩き潰されました。
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