第6話 やっぱりお金がありますん!



「あれが噂のクソムシヒデトよ(ヒソヒソ」

「クソムシみたいな顔してるわ(ヒソヒソ」

「一緒にいる女の子のエリクサー売り飛ばして全部飲み代に使ったとか(ヒソヒソ」

「かわいそークソムシだわー(ヒソヒソ」

「杖も服も売り飛ばそうとして女の子大泣きだったらしいぜ(ヒソヒソ」

「ひっでーなクソムシ(ヒソヒソ」

「『今日はこれくらいで勘弁してやるか』って言ってたの聞いた人いるって(ヒソヒソ」

「ひえークソムシ(ヒソヒソ」

「今日『は』って事は日常的にやってるって事?(ヒソヒソ」

「そんなんやりそうなクソムシみてぇな顔してるわー(ヒソヒソ」


視線を感じるのですがなんなんですか?

昨日は初めて酒を飲んで盛り上がった記憶はあるのだがあまり覚えてないので、はっちゃけ過ぎて何かやらかした可能性はある。

メティスは俺の10倍は飲んでゲロゲロ吐いていたのだが、寝て起きたら思いのほか平気そうで昼過ぎには起きて何かやっていたみたいだ。俺は二日酔いが酷く、やっと動ける様になったのが夕方になってからだ。

作戦会議をしようと1Fの酒場に降りてきたのだ。

もう日が暮れている時間なので酒場も賑わっている。


「とりあえず武器と防具が欲しいんだけど金はいくらあるんだ?相場とか全然知らんぞ」

「ないわよ」

「え?」

「だからお金ないわよ」

「あれ?エリクサー売ったのって夢?高値で売れたとかって話じゃなかったっけ?」

「昨日全部使った」


ゼンブツカッタ?えーと、どういう事だ?

この世界の相場は全く知らんが、酒場で、しかも一晩で全部使える量の金額じゃなかったと思うのだが?

数日は寝泊り出来るだけの金はあるから装備を整えてスキルを覚えてからギルドのお仕事を探そうって話してたよな?

はっはーん、そういやエロス様もジョークのセンスがあんまりだったけどメティスの神様ジョークはエロス様よりも面白くないな。

面倒臭い奴だが神様ジョークなら仕方ない。しかしツッコミは愛だ。仮にも愛と性の神の分身様を相手に愛という名のツッコミを疎かにする訳にはいくまいて。

俺は気を取り直してもう一度言う。


「とりあえず装備が欲し……」

「だからないわよ!」

「何に使ったんだよ!」

「昨日他の人たちに奢りだーってばらまいたのズッキーでしょ?」

「ちっげーよ!それはお前だ!」


酒を飲み始めて周りの冒険者達と意気投合し盛り上がっていたのだが、途中でメティスと口論になり俺に論破されて周りを味方に付ける為に大盤振る舞いしてやがった。思い出してきたぞ、どうりで周りの連中が俺を見てヒソヒソ言ってる訳だ。


「お前まじでどうすんだよ!」

「神の分身たるこの私を『ツカエナーイ』とか『アリエナーイ』とか言うから大盤振る舞いして周りの有象無象を味方に付けるしかなかったんでしょ!?」

「『しかなった』じゃねーよ!有象無象とか言ってんじゃねーよ!?」


なんでそんな話になったのか、酒が入ると思っている事がダダ漏れになってしまう。

お酒って怖い。


「もう言い訳は聞かん!金がないならバイトするぞ!」

「働いたら負けかなと思ってる」


フフン、と得意げな顔がムカつくんだよ。


「お前それ言いたいだけだろ!」

「嫌よ!冒険者登録は出来たんでしょ?クエストは受けられるんだからギルドの仕事をするわ!!」

「武器も防具もスキルもねーんだよ!どうやって戦えっていうんだよ!!」

「ちょっと待ってズッキー、その拳はなんの為にあるの?その拳で世界を救うのよ!」

「そうか、この世界を救う為に神様からいただい…てねーよ!」


よくよく考えたら俺はハイノービスだ。拳で戦うモンクじゃない。危うくのせられるところだった。


「そういえば天下無敵のハイノービス様でしたねー、プークスクス」

「よーし!お前の言う世界を救う俺の拳でお前を救済してやる!」


初めて女を殴りたいと思った。


「はっはっは、スキルなら何か教えようか?」


大弓を背負った爽やかイケメンが現れた。俺は知っている、こういう奴は人が困っている心の隙間に入ってカモろうとするハイエナだ。俺は警戒の目を向け、心の中でフーと威嚇する。


「そんな警戒しないでよ。騙し取ろうにも取れるもんがないんでしょ?昨日ご馳走になったお礼にと思ってね。」


警戒してるのがバレバレだ。いきなり疑ってかかった俺になんて親切な人なんだろう。イケメンだし。惚れてまうやろー。


「お金無くなって揉めてるみたいだったしさ」

「そーうなんすよー全部使っちまってすっからかんなんすよー」


お金ないよ?取るものなんてないのよ?アピールする俺。まだ疑ってんじゃねーか俺。


「ハンターの僕が教えてあげれるのは集中力向上くらいかな?」


ハイノービスは弓の攻撃スキルは使えない。ただでさえ弱職業なのに遠距離攻撃出来なかったら駄目じゃね?


「これは中々良いスキルでね、3分間集中力が物凄く上がるスキル。使えば凄さが解るよ」


集中力が物凄く上がる!それ使って勉強すれば東大も夢じゃないのでは!?

スキルを人に教えるには、教えるつもりで教える対象の目の前でスキルを使うと教えを乞う相手の力量が備わっていれば使える様になるらしい。つまり無理矢理目の前で使わせたり、使っている人を盗み見ても使える様にはならないのである。

無理矢理か無理矢理じゃないかわかんなくね?と聞いたら「神様からお借りする力は魂の契約であり、脅迫だったり薬物などで強要したとしても魂は嘘を吐けない」と言う事なのだが、これは確実に脅迫と薬物で実験した事があるから言える事だよね?


「集中力向上‼︎」

「おお、なんかそれっぽいぞ」


目付きが変わった!どちらかと言うと垂れ目だったのにに目力が加わってなんか強そうだ。ギルドから貰ったカードを見たら「集中力向上」と書き込まれている。


「おーなんかスキルっぽいな」

「それで使える様になってるよ」

「ありがとー、そういや名前は?俺はヒデト」

「僕はアルデだよ、よろしく」


「グッドラック」と言って本当にスキルだけ教えて仲間のテーブルに戻って行ってしまった。

ふふふ、友達出来ちゃった。

アルデが行ってしまったので、話の決着をつけるべく振り返ると、メティスが慌てて懐に何かを隠した。ジョッキが隠れる様に覆いかぶさっている。隠しきれてないぞ?あえて見えてないフリをして距離を詰めながら問いかける。


「お前の事だから実は金を隠し持ってるとかないのか?(ニジリ」

「ないわよ」

「ふーん、今日の寝るところどうしようかー(ニジニジ」

「馬小屋で寝るしかないわね」

「ふーん、お金がないんじゃしょうがないよなー(ニジリヨリ」

「そうね」

「ふーん、じゃあお前なんで今酒飲んでんの?」

「え?奢って貰った」

「ふーん、良いなー…、集中力向上‼︎」


説明しよう!集中する事により相手の動きが良く見える様になり、行動の先読みが出きるようになる!つまり、攻撃を当てやすくなり、避けやすくなるのである!!

メティスの腰に付いているバックパックに手を突っ込んだ。


「まだあるじゃねーか!」

「イヤー!それは私のよ!」

「お前いい加減にしないとマジでぶん殴るぞ!!」


昨日見たときより白っぽい金ピカの高そうなコインではなく金、銀であったり銅であったりのコインがジャラジャラと出てきた。こいつ本当に何考えてんの?


「ちょっと返してよ!返しなさいよ!!」


本気で取り返そうと襲いかかってくる。

喝!と威嚇するのだが止まらない。がっぷり四つに組み合う。本当こいつなんなの?


うりゃ!とウッちゃって軽く放り投げメティスが床にひっくり返る。

店の中だが、この程度の騒ぎは珍しくもないのだろう。周りの冒険者達は笑っているし、店員さんは「机壊したらまた弁償よー」と声をかける程度。


「今日の宿代どうすんだよ!お前だけ部屋借りるつもりだったのか!?」

「お酒が飲めなくなるくらいなら馬小屋で寝る事も辞さないわ!」


なんでこいつドヤ顔なの?馬鹿なのか?


「金の管理は俺がする。お前には二度と触らせない!」

「鬼!悪魔!!バカ!!!ヒデト!!!!」

「バカはお前でヒデトは悪口じゃねーだろ!!」


もう本当にこいつなんなの?

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