第5話 冒険者登録ができますん!
「エリクサー」は状態異常、体力・魔力の完全回復、腕が切り落とされたとしても腕をくっつけてエリクサーを飲めばくっ付いてしまうという魔法の薬。滋養強壮と冒険者の切り札と言っても過言ではない最強アイテムだ。この世界の通貨事情など知らないが、金ピカのコインを数枚いただいた後、ギルドの登録料を支払ったらお釣りとして返ってきた銀と銅のコインの量を見るとかなり高額な物だったんだろう。
メティスがお金の管理を自分がすると主張するので価値もわからないし、元々メティスの物を売ったお金なので特に異論はなく全て預けた。
冒険者の登録に身体能力のテストがあるだろうと張り切っていたのだが、書類に必要事項を記入するだけで良いと言う事で拍子抜けだ。冒険者は文字通り命懸けの仕事であり、起こる全ての出来事は生死も含め全て自己責任の個人事業主という事だ。
なのでいちいちテストなどせず「来る物拒まず去る者追わず」スタイルだ。
「メティスさんはもうハイプリーストに就いているということですので、ヒデトさんはこちらに手をかざして下さい。冒険者として職業の特性をお調べする魔道具です」
まどぅーぐ!さすが剣と魔法のファンタジー世界!魔道具!なんて少年心をくすぐられる響きだ!
水晶に魔力を込めて手をかざすと冒険者として就ける職業を教えてくれる物らしい。魔力に馴染みのない俺に受付さんは魔力の扱い方を教えてくれるがどうもうまくいかない。
「お尻の穴にググっと力を込めて手からビームを出すイメージよ!」
「はしたないわよメティスさん!!」
助言をくれるのは有難いが、もうちょっとさ、うまい言い回しはなかったの?大きな声でお尻の穴って、もっとこう、「んあんん」とか「にゃにゃのあにゃに」とか言い方があるでしょ?
「にゃにゃのあにゃにググっと力を込めて!」うん、ギリ分かる。
「良いですよ。そのまま続けて下さい。」
うまくいっちゃったよ。尻の穴に力を入れたらうまくいっちゃったよ。
メティスが親指を立てドヤ顔をむけてくる。なんだかイラッとする、恋かしら?
「珍しい職業ですよ…、1万人に1人と言われている職業です…」
「勇者?勇者なの!?これきたんじゃね?俺の時代きたんじゃね?」
俺はやる時はやる男の子だって思ってたんだよなー、さすが俺!
「普通は一つだけではなく複数の職業が出るのですけど、ヒデトさんの場合は一つだけですね」
「さすが魔王を倒す使命を神様より賜った俺!まるで運命に導かれるている様だ」
受付さんはきっと冗談だと思ってるんだろうが、本当だよ?
ナンバー1よりもオンリー1でありたい。何せ一万人に一人の職業。
「…ハイノービスです」
はて?ハイノービス?こちらのやり取りを聴いてる人が笑っている気がする、気のせいか?
気付けば仕事を終えて戻ってきた冒険者らしい風貌の人々がチラホラいる。
「ハイってついてるって事はハイプリーストみたいな上級職?レアなんでしょ?」
「はい、レアですよ。上級職というか、ハイノービスは上も下も無くてハイノービスしかないんです」
んん?どういう事だってばよ?つまり・・・?
「上級職がないの?上級職しかないの?外れ職とかじゃないですよね?」
「いえ、一概には外れと言う訳ではないんですよ?初級ですがを色々多職のスキルを扱えるのはハイノービスだけですし」
「プー、ハイノービスしか選択肢がないんですってあの子、プークスクス」
この女、生まれてまだ2時間チョロチョロの赤ちゃんとか言ってた癖に酒飲んでやがる。どうりで尻の穴とか言い出す訳だ。
さっき笑われてたのも、やっぱり俺が笑われていたのか。個人情報保護はどうした?天界でだって問題になっているんだぞ?現代人の俺としては、こういうのは個室とかせめて誰だか分からないように仕切りを付けて欲しい。
「おいメティス!魔王倒せる素質があるから異世界に呼ばれたんじゃねーのかよ!なんだよハイノービスって!?」
「んー、エロス様があえて言わなかった事をあえて私が言う事ないかなーって思ってたんだけど、別にズッキーに何か特別な素質を見出した訳じゃないわよ?」
「え?だって魔王を倒せって?」
「そもそも転生者ってズッキーだけじゃないのよ?今、別の転生者がいるのかは知らないけど、ズッキーを送って可能性を0.000000001%でも魔王を倒す確率が上がるならお願いするわよ。だって倒して欲しいんだもん」
0が1、2、3…9!?オーナインシステムなの?エ○ァンゲリオンの稼働する確率と俺が魔王を倒せる確立って一緒なの?俺が魔王を倒す確率ってそんなに低いの?「あら失礼ね、ゼロでは無くってよ」って誰か言ってくれ。
「若さって可能性があるのよ、友情が努力して勝利するとかなんとかエロス様も仰ってたたじゃない?人族にはそれだけの可能性があるの。短い寿命の中で厚かましくも必死に生き急ぐ人族の知恵とか直向きさっていうのかしらね。そこに期待してるのよ」
ウィック、としゃっくりしながらエロス様の御心を語る。確かに言い直してたけど『必死』って言ってた。友情が努力して勝利するってなんだよ?ジャ○プのキャッチコピーかよ。
「まぁ、さしものエロス様もハイノービスになるとは思ってなかったでしょうけどね!プギャー」
ブヒャヒャ、と笑い出すメティス。良い事を言った風だったのに、台無しだなこの野郎。
「あ、けど過去に、クラスチェンジをした人の話もありますし…」
受付さんがフォローを入れてくれる。フラグかな?魔王戦の直前にクラスチェンジして強くなるってフラグなのかな?
「百年以上前の話で本当かどうか定かじゃねえけどなぁ!」
親切な野次馬が周りに聞こえる様に大きな声で教えてくれた。こちらのやりとりを聞いていた連中は大爆笑だ。フラグにもなってなかった。
「気休めにもなりゃしないわね」
「お前はちょっとはフォローとかしろよ!」
メティスもケタケタ笑いながら酒をあおっている。ちょうど良いつまみがあって良かったですね!
さっきからこいつペース早すぎじゃね?日本の法律ではアルコールは成人してからなので20歳から、この世界では15歳で成人だ。こいつ生まれてまだ数時間しか経ってないって言ってたのに、一度に三杯頼んでガブガブ飲んでやがる。さすがに支払いはエリクサーを売った金もあるし大丈夫なのだろうが、あんま無駄遣いすんなよ。
聞けば普通は自分が決めた職業のスキルしか覚えられないのだが「ハイノービス」は、全部ではないし、初級ではあるのだが複数の職業のスキルを覚える事ができる唯一の職業である。だが、いかんせん初級スキルな上にマックスレベルで習得出来る訳ではないので火力が足りない。
支援魔法も覚えられるものの、勿論マックスレベルではないので物凄く中途半端なのだという。
2~5人くらいの少数パーティで行動する冒険者としてはあまり歓迎されないらしい。いや、パーティ行動が基本でお互いの足りないところを補いあう冒険者としては役割分担がはっきりしていた方が立ち回りがうまくいくという事で全く歓迎されないという事だ。
「いや待て、攻撃スキルから支援魔法まで使えるんだろ?だったらソロで冒険するにはうってつけな職業なんじゃないのか?」
「別に純支援でもなければ、どの職業だってソロで冒険は出来ちゃうわよ」
「ハイノービスで有名な人とかいないのか?」
分からなければ先人に学べ。いれば是非ご教授願いたい。
この質問にはメティスではなく、話を聞いていた冒険者が教えてくれた。
「いるぞー、火水風土、全ての属性の魔法を使えるのはハイノービスだけだからな」
「ほらやっぱりいるんじゃん!!」
「ああ、有名な農民がな」
有名な農民?
「確かに、農作業をするのに必要なスキル全部覚えられそうね」
「ちなみにその有名な農民は、複数の職業の中から自ら『ハイノービス』を選んで田舎に帰って畑を継いだって話だぜ」
「私は応援してるわよ、勇者様」
酒場一同大爆笑なのは言うまでもなく…。
その有名な冒険者、否、農民のおかげで「ハイノービスになれるなら田舎で畑を継ぐ方が良い」と言われ、ハイノービスの適正のある者は田舎に帰る者もいるのだとかいないのだとか。なにせ一万人に一人の割合でしか適性がないのだ。夢と希望を持って冒険者になりにきた若者が、ハイノービスに適性があったからといって「よーし、オラ、村さーけぇって畑継ぐどー」とはならないだろう。
最初に大爆笑された時には、こいつらがどんなに困っていても絶対に助けてやるものか!と思っていたのだが、なんやかや親切に教えてくれるものだから、意外とうまくやっていけるのではないか?と思ってたけど前言撤回だ。
お前らの顔は覚えたぞ。仲良くなって人生の分岐点に俺がいたら絶対に裏切ってやる。
「これ積んだんじゃね?」
「今度はズッキーのせいね、ケラケラ」
「この酔っ払いが。俺達の狙いは魔王だぞ?笑い事ですむ話じゃねーだろう?」
「ハイノービスが魔王とか、あっはっはっは、寝言は寝て言えって?あっはっはっは」
笑いすぎじゃね?
嘆いていてもしょうがない。もしもっていうか、ほとんどになるのかな?魔王討伐が駄目だったら農民として重宝されそうだし良いのか?
メティスの手前、魔王を討伐する体でいるけど、折を見て、だな。
例えば、たまたま助けた村娘が村長の娘だったりするじゃん?そしたらその娘は俺に惚れるでしょ?村長だから畑をいっぱい持ってたりするよね?結婚して畑も継ぐ訳じゃん?さすがのメティスも「エロス様には私の方からうまく言っておくわ。ズッキー、村長娘さんとお幸せに」って天界に帰っていくと思うのよ?完璧な作戦だと思うのよ!!
「スキルはその職業のギルドで金を払って教わるか、使える奴に教わる事も出来るんだが、無料で教える奴はそうそういないな」
スキルは神の力を拝借して使うことが出来るものらしく、唱える事で使用出来るものなので特に修練が必要な類のものではないらしい。
格闘技は勿論、喧嘩もした事がないので攻撃スキルを取らない事には始まらない、メティスに相談して決めよう。
「すいまれ~ん、おらわりくらら~い」
「呂律回ってねーじゃねーか!?お前飲み過ぎだろ!どんだけ飲んでんだよ!」
「冗談よ、冗談。お酒って美味しいのよ~、一回飲んでみたかったのよね~」
さっきから凄い勢いで飲んでるぞこいつ。
「装備とか買わなくちゃいけないんだから無駄遣いしてんじゃねーよ」
「わらしのおらねれのむおらけのらにらわるいっれいうのよ~!?」
何言ってるか分からないけど何言ってるか解る。「私のお金で呑むお酒の何が悪いっていうのよ」だろ?うちの親父が同じ事を言っていた。
ていうか本当にさっきの冗談なのか?酔っ払いは自分を酔っ払いと認めない。こんなんじゃ相談もできない。
もうムカついた、そっちがその気ならこっちだって考えがある!
「すいませーん、俺にも同じの下さーい!」
「お~、ズッキーもいけるくちね~」
この世界の成人は15歳だ。なら俺が飲んでも問題はない。
「何に乾杯しましょうかしらね?」
ニヤリ、そんなのは決まっている。
「冒険者に!」
「かんぱーい!」「らんぱーぃ!」
本日の俺の記憶はこここらへんまではあった。
だって初めてお酒飲んだんだよ?そら飲み過ぎちゃうわよ(テヘ
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